日本はもちろん、
世界的に
定番化したSUV。
今ではセダンやステーションワゴンにとって
代わり、
多くの
人々が
常識的にSUVを
選択している。
使い
勝手の
良さや
広い
居住性、
目線の
高いアイポイントによる
視界の
確保など、
運転に
対するストレスも
大幅に
軽減されるが、それもこれもSUVが
一昔前とは
違って、クルマとしての
基本性能が
大幅に
向上したことが
最大の
理由だろう。
重心が
高く
見えるものの、
今ラインナップされるほとんどのSUVは
安定性が
高く、
安心感すら
覚えるから
自ずと
定着してしまったというのが
実情だと
筆者は
見ている。
そんな
最中、
マツダは
思い
切った
戦略に
打って
出た。それが『CX-60』。
何しろ、FRプラットフォームに、マイルドハイブリッド
式の
直列6
気筒ディーゼルエンジン、さらにトルクコンバーターレス8
速ATを
開発し、このCX-60を
皮切りに
今後車種展開を
進めていくというのだ。
もっとも
新世代になれば、どこのメーカーも
似たようのアプローチは
見られるが、マツダは
基本に
立ち
戻って
走行性能というものを
再定義し「“
走る
歓び”のど
真ん
中へ」と
謳い
開発に
着手、その
第一弾がこのCX-60だという。しかもプレミアム
戦略も
含まれ、
世界の
名だたるラグジュアリーSUVをも
相手にしようというから
挑戦的だ。
正直“ニッポンのマツダ”を
侮っていたと
深く
反省
CX-60のボディサイズは、
全長4740×
全幅1890×
全高1685mm、ホイールベースは2870mmと、
分かりやすく
言えばミドルクラスに
属するSUV。
派手さは
控えめながらも
立派な
車格に
映るが、
何よりも
感心したのはノーズの
長さ。
昨今、メルセデスやBMWなどのSUVの
一部のグレードに
直6エンジンを
搭載するモデルはあるものの、CX-60ほどノーズは
長く
感じられない。もし、これが
横置きエンジンを
前提に
開発されていたならば、ここまでスタイリッシュにはならないはず。さらに
先読みしてしまえば、
今後デビューするであろう、
同じプラットフォームをもつFRのセダンやスポーツモデルなどにも
相当期待できそうな
予感がしてくる。
インテリアは、プレミアム
路線を
狙うだけあり、
失礼ながら
思っていた
以上の
仕上がりで、
輸入車中心にこの
仕事を
進めてきた
筆者にとっては、
正直“ニッポンのマツダ”を
侮っていたと
深く
反省させられるほどの
出来栄えだ。プレミアムスポーツとプレミアムモダンと
呼ばれる2つのグレードに
試乗したが、いずれも
質感が
高く、
特にナッパレザーのシートは
輸入車と
比較しても
引けを
取らないほど。ダッシュボードのデザインや
操作性に
関してもよく
考えられており、
最近の
他車と
比べて
機能的にも
意図して
物理スイッチを
残すなど、
好感がもてる
部分が
多い。
これだけ
長いノーズをもつから
多少はデザイン
重視だろうと
当初はたかをくくっていたが、
実のところ
居住スペースは
極めて
効率的で、180cm
弱の
筆者が
後部座席に
座っても
窮屈な
思いは
一切しなかった。それに
新開発されたトルコンレス8
速ATが
幅狭に
作られていることもあって、
前席はこのクラスとしては
広すぎるくらい。それに、
意のままに
操る
楽しさを
実現するべく、
理想的なドライビングポジションに
仕上げたとマツダの
開発陣が
豪語するだけあり、“
人馬一体”
感が
得らそうな
予感が、このポジションによって
試乗前から
思わせてくれたのも
確かだ。
CX-60はスポーツSUVではない
しかし、
実際に
試乗をはじめると、マツダが
提唱する
文言とは
異なる
印象をもってしまった。「“
走る
歓び”のど
真ん
中へ」「
人馬一体」「
自分で
運転する
愉しさ」「
安心して
楽しめる、
意のままの
加速」と、
試乗前のプレゼンで
聞いた
台詞に
対して「?」という
疑問ばかりが
残ることに。だが、この
一連の
台詞が
誤解を
招いていると、
後に
判明することとなった。
即ち、これは
宣伝文句のようなもので、そのまま
鵜呑みにすると「?」だが、
本来マツダが
基本として
謳っているのは「ごく
自然」というワード。それに「
人間中心」というこの2つのワードこそ、このCX-60を
語るうえでもっとも
大切なのだと
思う。
つまり、
先の
台詞の
数々はすべてスポーツ
性を
匂わせるものばかり。だからCX-60はスポーツSUVなのだと
勘違いしてしまったのだ。というのも
昨今、ほとんどSUVはキャラクターをややスポーツ
志向にして、“SUVでもスポーツカーみたいでしょ”
的な
方向で
売りに
出しているから。だからCX-60に
対しても、なんの
疑問もなく、すんなりとそう
受け
止めてしまったが、その
乗り
味は
後半のワードこそ
相応しいもので、とにかくごく
自然な
動きを
常に
示し、
走行性に
関して
過剰な
演出がないことこそ
評価すべきだろう、と
筆者は
思う。
中でも
特にそう
思わせるのは、3.3リットル
直6ディーゼルターボエンジン。
今回、
試乗したグレード「XD HYBRID」の
最高出力は254ps、
最大トルク550Nmを
出力するが、スタート
時からトルク
不足に
感じられ、ディーゼルターボとしてはやや
劣るという
印象。これをエンジニアに
指摘したところ「
最近のSUVよりも
意図的にトルクを
抑えることで
環境性能と
燃費性能を
優先しております」とのことだった。
疑い
深い
人なら“
誤魔化しだ!”と
思われそうだが、CX-60のXD HYBRIDの
燃費はWLTCモードで21.0~21.1km/リットル。2トン
近い
車重であることを
考えれば、
同じようなクラスのSUVと
比較して
悪くないどころか
優秀と
評価していいだろう。
では、
加速に
満足できないという
部分に
関して
避けるわけにはいかないから
筆者の
結論を
言わせてもらうと、ひと
言で
済む。
本来「これで
十分」ということ。
決して
遅くはない。
他のSUVが
意図的にスロットルを
早めに
開けるなど
初動の
演出をしすぎているだけだろうと、
逆に
気付かされる
結果になっただけである。
マツダの
狙いが「ごく
自然」と
思えば
とはいえ、「
一体感」がないわけでもない。それがトルコンレス8
速AT。オートマチックとDCTのいいとこ
取りを
目指して
自社で
開発したというこれは、マツダの
狙い
通り、トルコンATのように
思わせながらもダイレクト
感があるのは
確か。
逆に1~2
速は
強いくらいの“
変速感”があり、エンジンがディーゼルでなければ(そういう
意味では
残念だが)、なかなか
良い
感触を
示しそうだし、パドル
操作による
反応も
従来のATよりは
早い。ただ、マニュアル
固定モードがモニター
内の
車両設定画面の
中にしかないのが
問題。シフトレバーを
倒して
固定したり、
別途物理スイッチを
設けているわけでもないから、
設定画面を
操作しない
限り、すぐにATモードに
戻ってしまう。
“ごく
自然”を
目指したSUVだから、そんなマニュアル
操作など
不要というわけにはいかない。
今回はワインディングでの
試乗も
適ったから、
当然のようにパドル
操作してしまうし、ディーゼルだから
下りでは
尚さら
使いたくなる。というのも、シャシーの
仕上がりが
良いから
指摘もしたくなるのだ。
社内でラージプラットフォームと
呼ばれるこれは、
冒頭でも
触れたように、
今後様々な
車種に
発展していく
予定で、そのスタートがCX-60にあたり、このプラットフォームの
中ではもっともコンパクトなクラスになるというが、さすがスポーツカーを
思わせる
台詞を
揃えるだけあり、フロントにダブルウイッシュボーン、リアにマルチリンク
式を
採用するなど、これまでよりもワンランク
上の
造り
込んだ
足まわりを
与えている。これが
功を
奏し、そこそこのペースで
攻めてみたところ、
実に
良い
姿勢で
旋回した。しかも
乗り
心地は
悪くなく、
安定感も
褒めるに
値するほどだ(
若干、タイヤとのマッチングが
気にはなったが)。
だが、
走行モードをスポーツに
入れても、
快適性を
優先しているためか、
加速性やアクセルの
反応、
足まわりの
設定も
変化は
見られるものの、その
幅が
控えめで、やや
刺激には
欠けるのも
事実。しかし、マツダの
狙いが「ごく
自然」と
思えば、これはこれで
正解。
他が
過剰すぎるのだと、
再び
筆者は
思い
知った。つまり、CX-60はスポーツSUVではなく、SUV
本来の
姿を
具現化したものであり、キャラクター
設定に
惑わされない、
秀逸なところを
狙っているのは
確かである。
「あなたはSUVで、
頻繁にスポーツモードを
使用しますか?」
ただ、
慈善事業でクルマを
製造販売しているわけではないから
多くを
売りたいのであれば、マツダの
開発陣に“スポーツ・プラスモード”を
設定しては?とアドバイスしたい。アクセル
開度を
早めに
開け、
足まわりをちょっと
硬く
設定すれば、
他社からの
乗り
換えも
積極的に
考えるようになる
可能性は
十分にありえる。
高速道路などでは
中立付近が
甘く
感じられるものの、しかしふらつくようなこともないという、
直進安定性は
優れているのに
本質的かつ
絶妙なところを
狙いすぎて、クルマのキャラクターが
見えにくくなっているところなど、わかりやすさがない、というのが
要因だろう。
その
他、
予防安全技術やセーフティ
性能、さらにドライバー・パーソナライゼーション・システムなども
含めて
技術的なトピックはてんこ
盛り。とても
紹介しきれないが、
正直に
言えば、まだまだ
煮詰めが
必要なところがあるという
印象だし、この
完成度におそらく(というかすでに)
賛否両論あるだろうが、それでも
筆者はCX-60の
方向性が
間違っているとは
思えない。
そして、
最後にひとつ
考えて
頂きたいのは、「あなたはSUVで、
頻繁にスポーツモードを
使用しますか?」ということ。もし、ほとんど
使ったことがない、あるいは
必要ない、という
回答であれば、CX-60は
最良の
選択になる
可能性があるだろう。
今の
交通環境と
自身の
乗り
方を
再考すれば、
自ずと
答えは
出てくると
思うのだが……。
■5つ
星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/
居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
おすすめ
度:★★★★
野口 優|モータージャーナリスト
1967
年 東京都生まれ。1993
年に
某輸入車専門誌の
編集者としてキャリアをスタート。
後に
三栄書房に
転職、GENROQ
編集部に
勤務し、2008
年から
同誌の
編集長に
就任。2018
年にはGENROQ Webを
立ち
上げた。その
後、2020
年に
独立。25
年以上にも
渡る
経験を
活かしてモータージャーナリスト
及びプロデューサーとして
活動中。