【アルピーヌ A110 GT 新型しんがた試乗しじょう】1000km走はしってわかったエブリデイ・スポーツカーとしての実力じつりょくとは…南陽なんよう一浩かずひろ

ようやくタイミングが合あって、1週間しゅうかんほど1000km近ちかく走はしらせることができた。今夏こんかよりマイナーチェンジ版ばんに切きり替かわっていた、アルピーヌ『A110 GT』だ。

既報きほうの通とおり、A110のパワートレインは1.8リットルターボは共通きょうつうで、従来じゅうらいの320Nm・252ps（ピュア、リネージ用よう）と320Nm・292ps（S用よう）という2本立ほんだて・3モデルだった。ところがマイナーチェンジを機きに、後者こうしゃのハイパフォーマンス版ばんが340Nm・300psへと高たかめられ、トルクも出力しゅつりょくも向上こうじょうしたこのパワーユニットはクローズドコースでのパフォーマンスに焦点しょうてんを合あわせた「A110S」のみならず、シャシー・アルピーヌと呼よばれるよりソフトなシャシーで前後ぜんご7J＆8Jホイール履はき、かつレザートリム内装ないそうを備そなえた「A110 GT（旧きゅうリネージに相当そうとうする）」にも組くみ合あわせられた。いわばマイチェン派生はせいとはいえ、実質じっしつ的てきなニューモデルといえるのがA110 GTというわけだ。

余談よだんだが、最高さいこう出力しゅつりょく300psは『メガーヌR.S.』に肩かたを並ならべたものの、あちらは420Nm仕様しようなので、FF×4コントロール（4輪りん操舵そうだ）がどれだけ高こう効率こうりつ＆ハイパフォーマーなホットハッチであり、300ps化かしたとはいえA110がバランス重視じゅうしのミッドシップスポーツであるかが、窺うかがえるだろう。

フランスらしい地味じみハデ仕立したてて
まずA110 GTの外観がいかんだが、深ふかいネイビーのメタリックとなるブルーアビスという外装がいそう色しょくは以前いぜん、30台だい限定げんていで投入とうにゅうされていたので、お初はつにあらず。だが細ほそいスポークのホイールの向むこうに透すけて見みえるゴールドの4ポッドキャリパーは、ごく控ひかえめに全体ぜんたいのダークトーンを引ひき立たてて、じつにフランスらしい地味じみハデ仕立したててといえる。

ちなみにこの18インチホイール、「アトリエ・アルピーヌ」というパーソナライズ・プログラムで選えらべる「GTレース」というホイールとも微妙びみょうに異ことなっていて、平ひらたくいえばパッと見みにカタログモデルには見みえづらい外観がいかんですらある。「マイナーチェンジ＝フェイスリフトではない。マイチェン時じにフェイスを変かえないことが、むしろ目標もくひょう」と、アルピーヌのチーフデザイナーであるアントニー・ヴィランは言いい切きっていたが、それは容易よういに陳腐ちんぷ化かしないデザインであるという自信じしんの表あらわれでもあっただろう。

マイチェン・モデルだとひと目め見みて区別くべつできる細部さいぶは、リアデッキ後ご端はしのALPINEロゴの下したに車くるま名めいロゴ、つまり撮影さつえい車しゃの場合ばあいは「A110 GT」と入はいるようになったことだ。ピュアの場合ばあいはA110とだけ、Sの場合ばあいはブラックレターでA110Sとなる。

ほとんど変かわらないようで、かなり異ことなるインテリア
インテリアはほとんど変かわらないようで、かなり異ことなる。いわゆるアップホルスタリーの部分ぶぶん、ダッシュボードやセンターコンソールを覆おおうレザー、そしてサベルトのリクライニング機能きのうかつシートヒーター付つきシートは、前期ぜんきモデルのリネージから受うけ継つがれたブラウンレザーに青あおいステッチラインだが、チョコレートブラウンのニュアンスがより明あかるくなったような気きがした。まぁ、レザーの鞣なめしで多少たしょうの色合いろあいの差さが生しょうじるのはありうべくことなので、むしろレザーシートのクオリティを下さげてこなかったことに安堵あんどした。乗降じょうこうで擦すれやすいサイドサポートのみ、型かた押おしグレインレザーを用もちいるディティールも、そのままだ。

前期ぜんきモデルから明あきらかに省はぶかれたディティールは、左右さゆうシートの間あいだでエンジン隔壁かくへき手前てまえにあった三さん角錐かくすい状じょうの蓋ぶた付つきの小物こものケース。代かわって深ふかめのプラスチック製せいトレイが大おおきくなっていた。じつはシート背後はいごは反対はんたい側がわシートから手てを伸のばすと、A110には貴重きちょうな、熱あつくなりづらいがふとした小物こものを置おけるスペースなので、そのアクセス性せいがよくなったといえなくもない。

もうひとつ些細ささいなことだが、助手じょしゅ席せき側がわのフットレストがパーフォレーションでなくツルンと穴あなのない仕様しようとなった。運転うんてん席せき側がわのフットレストは穴あなあき仕様しようのままなので、見みた目めの統一とういつ感かんとしてはビミョーな気きがしたが、穴あなの裏うらに土どや小石こいしが入はいらず掃除そうじしやすくなったと思おもえば、悪わるくないのだろうか。

得えたものと失うしなったもの
それより大おおきな変化へんかは、7インチマルチファンクションタッチスクリーンにある。新あたらしいマイナーチェンジ版ばんではAndroid AutoとApple CarPlay、いずれにも対応たいおうするようになった。ようはナビゲーションをはじめ、スマホの機能きのうあれこれが車内しゃないのスクリーンで扱あつかわれるようになった訳わけだが、失うしなわれたものがある。前期ぜんき型がたモデルにはあった、テレメトリー機能きのうが省はぶかれてしまったのだ。

それがためにひとつ困こまったことは、筆者ひっしゃが借かり出だした1週間しゅうかんはおそらく、この夏なつもっとも暑あつかった時期じきなのだが、ドライブモードをノーマルで走行そうこう中ちゅう、水温すいおん計けいが正面しょうめんのインストルメンタルパネル内ないにはないので、テレメトリーに切きり替かえようとしたらテレメトリー機能きのう自体じたいが無なくなっていることに気きづいた。そのため水温すいおんが上あがり過すぎていないか心配しんぱいになると、ステアリングホイール上じょうのスイッチでスポーツモードに切きり替かえては確認かくにんする、というマニュアル動作どうさが必要ひつようになった。

もっとも前期ぜんき型がたA110でも、走行そうこうモードがノーマル設定せっていの間あいだは水温すいおん計けいは目めの前まえのインストルメンタルパネルに出でてこないので、表示ひょうじさせるにはスポーツかトラックにする必要ひつようがあり、油あぶら温ゆたかやクラッチ温度おんどといったさらに周辺しゅうへん的てきな情報じょうほうを含ふくめ、テレメトリー画面がめんで詳くわしく見みることができた。だから昔むかしながらの3連れんアナログメーターとは異ことなる、液晶えきしょう表示ひょうじならではのメリットを感かんじたものだが、日常にちじょう的てきな利便りべん性せいとしては今いまやテレメトリーの走行そうこう情報じょうほうよりもスマホのミラーリング、という優先ゆうせん順位じゅんいなのだろう。

いずれスポーツやトラックモードであれば水温すいおんの確認かくにんに難なんはないので、週末しゅうまつの走行そうこう会かいでサーキットに足あし繁しげく通かようような用途ようとなら元もとよりA110S向むきだが、問題もんだいはないのだろう。テレメトリーがどうしても必要ひつようなら近頃ちかごろはデータロガーもかなり安価あんかになったので、公道こうどうツアラーたるGTなら、むしろスマホ連携れんけいの方ほうが必要ひつようという判断はんだんといえる。

気温きおん35度どオーバーの炎天下えんてんかで都内とないの渋滞じゅうたいにハマってみた
それでも暑あつさゆえ、よりハイチューンが施ほどこされたターボエンジンをミドに積つむA110 GTが、どのように冷却れいきゃくシステムを機能きのうさせているかは、公道こうどうを走はしる限かぎりでも水温すいおんともども気きになる。というのもA110の欧州おうしゅうでの競技きょうぎ仕様しよう、より負荷ふかの高たかい走行そうこう環境かんきょうを前提ぜんていとするカップカーやGT4のような仕様しようでは、ラジエーターはノーマルの仰向あおむけチルトではなく、上端じょうたんが前まえのめりの被かぶせチルトにして、熱風ねっぷうを安全あんぜんタンク手前てまえからボンネット上じょうのルーバーより抜ぬいている。しかしフロントに荷に室しつのあるノーマル仕様しようはそうはいかない。ちなみにバンパー内ないの両りょう脇わき、ヘッドライト前ぜん端はしあたりにA110は2基きのインタークーラーも備そなえているが、その熱ねつ抜ぬきとなるホイールハウス内ないのルーバーは、GTもSと同様どうようの形状けいじょうになっているようだ。

いずれにせよ試乗しじょう中ちゅう、気温きおん35度どオーバーの日にち中ちゅうの炎天下えんてんかで都内とないの渋滞じゅうたいにハマってみた。最近さいきんの直ちょく噴エンジンは燃焼ねんしょう効率こうりつのためにわりと高たかめの水温すいおん管理かんりを志向しこうすることは知しられているが、表示ひょうじされた中なかでもっとも高たかかった水温すいおん値ちは105度どだった。停止ていし状態じょうたいでこのぐらい水温すいおんが上あがるとエアコンの効ききがわずかに緩ゆるまる感触かんしょくもあったが、真夏まなつの炎天下えんてんかでミッドシップでこのぐらいの水温すいおん上昇じょうしょうなら、許容きょよう範囲はんいといえるのではないか。当然とうぜん、少すこし渋滞じゅうたいが動うごいて風ふうが当あたり始はじめれば、水温すいおんはすぐさま98度ど前後ぜんこうに落おち着ついた。

リアトランクの裏うらから3本ほんのバタフライスクリューを外はずすとリアハッチが開ひらいて、意外いがいと頼たのもしい電動でんどうファン×2基きをルーバーのすぐ下かに確認かくにんできる。エンジンカバーはA110Sにはクイックリリースのスクリューが採用さいようされているが、GTはピュア同様どうようのマイナススクリューである点てんは前期ぜんき型がたと変かわりない。

それにしても、フロントに100リットル、間口まぐちこそ狭せまいがリアに90リットルのトランク容量ようりょうは、ミッドシップスポーツとしては望外ぼうがいの使つかい勝手がってよさだ。もちろんリアトランクはエンジンの熱ねつを受うけて暖あたたまるが、車くるま検証けんしょう入いれやパンク修理しゅうりキット、三角さんかく表示ひょうじ板ばんといった必要ひつような車載しゃさい道具どうぐはマジックテープで転ころがらないようになっている。フロントトランクもラジエーターの上うえにあるため、ほんのり暖あたたまりはするが、奥行おくゆき20cm強きょうで機内きない持込もちこめサイズのスーツケースなら楽々らくらく積つめる。「GT」の名なはそれこそ、ダテではないのだ。

軽かるさの正義せいぎを見みせつけた＋20Nm
そして気きになる走はしりに関かんしてだが、トルクが＋20Nmと聞きいて乗のる前まえは控ひかえめなトップアップと感かんじていたが、そこはさすが1100kg台だい、軽かるさの正義せいぎを見みせつけてくれた。4.2mの全長ぜんちょうで並なみ程度ていどに1400kg前後ぜんこうある車くるまとは、＋20Nmの効果こうかの増幅ぞうふくされっぷりが、物理ぶつり的てきなスケール感かんごと違ちがってくるのだ。320Nmの前期ぜんき型がたでも遅おそい雰囲気ふんいきは一切いっさいなかったが、出足であしで交通こうつうの流ながれを軽々かるがるリードする余裕よゆう、踏ふみ込こんだ際さいの力強ちからづよさまで、マイチェン後ごの340Nm版ばんエンジンの方ほうが低てい回転かいてん域いきが2ランクほど分厚ぶあつくなったようなフィールだ。下したからの加速かそくも早はやければ上うえまでの伸のびも長ながいから、当然とうぜんワインディングで次つぎのコーナーまでにのせられる速度そくど域いきが、ワンランク上あがってくる。

するとSのリジッドな方ほうではない、柔やわらかい方ほうのシャシー・アルピーヌでバランスはどうよ？という話はなしだが、確たしかに252ps時代じだいより速度そくど域いきが上あがって動うごきは大おおきくなってきても、ロールモーメントのつき方かたが自然しぜんで、動うごかしているマスの小ちいささが手元てもとのステアリングにしっかり伝つたわってくる。つまり、まったくコントローラブルな範囲はんいで、楽たのしめる領域りょういきだけが拡ひろがったような。スポーツモードにすれば、エンジンの吹ふけ上あがりやシフトアップのタイミングといったパワートレインのスケジュールや、ステアリング中立ちゅうりつ付近ふきんの手応てごたえが、一段いちだんとキレ味あじ方向ほうこうに締しまってくる。

しなかやかな4輪りん接地せっちの変化へんかを、骨盤こつばんや背中せなか、手元てもとで捉とらえながら、解像度かいぞうどは素晴すばらしく高たかいのに、上下動じょうげどうの柔やわらかなコントロール＆ライドの感覚かんかくは、A110 GTの真骨頂しんこっちょうといえる。加速かそくの非ひ日常にちじょう感かんとか横よこ方向ほうこうのクイックさみたいな、スポーツカーよりはジェットコースターに求もとめるべきエンタメ要素ようそは一切いっさいないにもかかわらず、公道こうどうで楽たのしむ分ぶんには欠かけるところが一切いっさい無ない。旧きゅうリネージがそうだったように、GTは相変あいかわらずSより扱あつかいやすく快適かいてきなまま、パワートレインの柔軟じゅうなんさをも増ましてきたのだ。

しかも驚おどろくべきは、パワートレイン全体ぜんたいのマナーがエレガントであることだ。7速そくEDCは微ほろ低速ていそく域いきでも神経質しんけいしつさを感かんじさせない一方いっぽう、292ps版ばんの頃ころはノーマルモードでもポンポンと景気けいきよくバックファイアを鳴ならしていたエンジンが、ノーマルモードでは必要ひつよう欠かかざるだけの大人おとなしさを身みにつけてきた。トラックモードはESPオフでもあるので、基本きほん的てきにはクローズド専用せんよう、公道こうどうでは遠慮えんりょがちに使つかうモードだと考かんがえた方ほうがいい。

エブリデイ・スポーツカーとして底上そこあげされた進化しんか
いわばGTに込こめられ表現ひょうげんされた進化しんかとは、グランドツアラーとして快適かいてきさをレベルアップしたと同時どうじに、エブリデイ・スポーツカーとしての底上そこあげでもある。前期ぜんき型がたからそうだったが、A110 GTは乗車じょうしゃ定員ていいんはさておき、日常にちじょうをギリギリ1台だいでこなせるコンパクトカーのようなところすらある。サイズ感かんや素直すなおなドライバビリティはじつは老若男女ろうにゃくなんにょ問とわず絶対ぜったい的てきに運転うんてんしやすいし、ホットハッチ卒業生そつぎょうせいには延長線えんちょうせん上じょうの感覚かんかくでいけるところすらある。高速こうそく道路どうろでは燃費ねんぴが15km/リットル近ちかくにまで伸のびたところにも、舌したを巻まいた。

もうひとつ驚おどろいたのは、ボディセンターまで深々ふかぶかと入はいるディフューザー形状けいじょうなのに、コインパーキングで小ちいさめの輪わ止とめならギリギリ当あたらない程度ていどに、地上ちじょう最低さいてい高だかが確保かくほされていることだった。

意外いがいと早はやいタイミングでBEVコンセプトも発表はっぴょうされてしまったことだし、マイチェン後ごの後期こうき型がたは納車のうしゃ待まちこそ長ながそうだが、限かぎりなく後悔こうかいさせづらい成熟せいじゅくぶりといえる。

■5つ星ほし評価ひょうか
パッケージング：★★★★★
インテリア/居住きょじゅう性せい：★★★★★
パワーソース：★★★★
フットワーク：★★★★★
おすすめ度ど：★★★★★

南陽なんよう一浩かずひろ｜モータージャーナリスト
1971年ねん生うまれ、静岡しずおか県けん出身しゅっしん。大学だいがく卒業そつぎょう後ご、出版しゅっぱん社しゃ勤務きんむを経へて、フリーランスのライターに。2001年ねんより渡わたり仏ぼとけし、パリを拠点きょてんに自動車じどうしゃ・時計とけい・服飾ふくしょく等とうの分野ぶんやで日にち仏ふつの男性だんせい誌しや専門せんもん誌しへ寄稿きこう。現在げんざいは活動かつどうの場ばを日本にっぽんに移うつし、一般いっぱん誌しから自動車じどうしゃ専門せんもん誌し、ウェブサイトなどで活躍かつやくしている。