レクサスUX　開発かいはつ責任せきにん者しゃに聞きく　～チーフエンジニア編へん～

1997年ねんにデビューするや、高級こうきゅうクロスオーバーSUVというカテゴリーを切きり開ひらいたレクサスRX。LXやNXも加くわわりラインアップが充実じゅうじつしてきたいま、最もっともコンパクトなモデルとして登場とうじょうしたのがUXである。「Creative Urban Explorer」をコンセプトに掲かかげ、新あらたなライフスタイルを探求たんきゅうするきっかけ“CUE（キュー）”となることを目指めざした都会とかい派はクロスオーバー。その開発かいはつにかける思おもいを、加古かこチーフエンジニアに聞きいた。

クロスオーバーというジャンルにはいろいろなものがありますが、その中なかで新あたらしいものを作つくりたかったんです。見みた目めはSUV然しかとした力強ちからづよさがあって、ステアリングを握にぎったなら、ハッチバックのように運転うんてんを楽たのしめるクルマ。普通ふつうは、車くるま高だかが高たかいとロールが大おおきめになって、キビキビ走はしるというテイストにはならないと思おもわれるでしょう。でも、UXでは両方りょうほうとも欲張よくばって、本来ほんらい相反あいはんすると思おもわれるものを両立りょうりつさせたいと思おもったんですね。それがレクサスの二に律りつ双そう生なまです。

このクルマ、外そとからの見みた目めと乗のり込こんだ時ときの印象いんしょうが違ちがうと思おもいます。車くるま高だかは高たかめなのですが、ドライビングポジションはアップライトな姿勢しせいではなくて、まるでクーペやセダンのよう。そこには「えっ？」という驚おどろきがある。座すわるとすぐ、「SUVっぽくない」と感かんじるわけです。それはいい意味いみでのギャップ、意外いがい性せいでしょうね。

同おなじ“X”が付つくので、UXはRXやNXとはジャンルが同おなじだと思おもわれていますが、私わたしとしてはお兄にいちゃんたちに負まけていないと思おもっています（笑）。「ちっこいだけだぞ」と。レクサスってまだ台数だいすうも限かぎられていますし、全ぜん方位ほういでそれぞれのサイズを作つくるというのは難むずかしい。このサイズ感かんで何なにができるか、何なにが欲ほしいかを考かんがえて、個性こせい豊ゆたかに作つくろうと考かんがえました。皆みなさまにそれを実感じっかんしていただけたなら成功せいこうなんです。

「背せが高たかいクルマに乗のると、視点してんが高たかくて運転うんてんしやすい」と言いう女性じょせいが多おおいですよね。女性じょせいがクロスオーバーに乗のるメリットのひとつは見晴みはらしのよさにあります。このクルマは見下みおろす感かんじではないけれど、水平すいへい方向ほうこうの見晴みはらしのよさや開放かいほう感かんにはこだわっています。「右みぎ左折させつの際さいに顔かおを大おおきく動うごかさなきゃいけないようなクルマだけは絶対ぜったいイヤだ！」と思おもって、開発かいはつチームのみんなに視界しかいの確保かくほということは特とくに強つよくお願ねがいしたんです。

そうした車両しゃりょう開発かいはつの方針ほうしんをチームのメンバーの間あいだで共有きょうゆうするのは難むずかしいことではありませんでした。こうしたクルマのよさは見晴みはらしのよさであるということを否定ひていする人ひとはいませんよね。思おもいが共有きょうゆうできれば、どうすべきかはそれぞれのメンバーが考かんがえてくれるわけです。

具体ぐたい的てきには、Aピラーを構造こうぞう的てきに細ほそくしました。そして感覚かんかく的てきにも細ほそく見みせる。死角しかくがなくなるようにアウターミラーを配置はいちする。そして、インパネの上面うわつらをできるだけ低ひくくして、その上うえにあるディスプレイのポジションも下さげたんです。小柄こがらな私わたしのドライビングポジションでも、ディスプレイで前方ぜんぽうの視界しかいがさえぎられるということがないんですね。

インパネの上面うわつらを下さげるために、通常つうじょうはセンタークラスターの前面ぜんめんにあるオーディオのスイッチをアームレストの前方ぜんぽうに移うつしました。さらにアームレストを前方ぜんぽうに向むかって長ながくできれば、私わたしのように前まえのほうに座すわるドライバーでもヒジがかからないというようなことにはなりません。

私わたしはもともと内装ないそうや外装がいそうに使つかわれるプラスチックなどを開発かいはつする部署ぶしょにいましたから、どんな素材そざいを使つかうとどんな仕上しあがりになるかはだいたい想像そうぞうはできます。でも、ダッシュボードのオーナメントに和紙わしをモチーフにした素材そざいを使つかって、触感しょっかんがここまで繊細せんさいに再現さいげんできたのは想定そうてい以上いじょうでした。和紙わしのようだけど和紙わしじゃないよね、どうやって作つくっているんだろう？　と思おもってもらえたらうれしいですね。それも、UXに興味きょうみを持もっていただくひとつのポイントになると思おもいます。

想定そうていユーザーということでは、ターゲットを狭せまく限定げんていするつもりはないのですが、開発かいはつの過程かていでミレニアル世代せだいのテックサビーと呼よばれる人ひとたちのことは意識いしきしました。つまり、デジタルネイティブで情報じょうほう収集しゅうしゅう能力のうりょくにたけていて、選択せんたく眼めが自然しぜんに備そなわっている方々かたがた。高級こうきゅう品ひんを買かうより家具かぐでも何なんでも自作じさくすることを意識いしきし、自分じぶんにとって何なにが大切たいせつかを考かんがえて日々ひび楽たのしく暮くらしている。そういう人ひとたちに選えらんでもらえる、ワクワクするようなクルマを作つくりたいという思おもいがあったのです。

「女性じょせい視点してんで作つくったのですか？」と聞きかれることが多おおいのですが、男性だんせいのチーフエンジニアに男性だんせいならではの視点してんがどうかなんて聞ききませんよね（笑）。ただ、女性じょせいが乗のって気きに入いってもらえるとは思おもいますよ。私わたしはフラッグシップクーペのレクサスLCが好すきなんですが、自分じぶんが乗のるとかなりシートを上あげて前まえに出だすことになり、外そとから見みるとカッコ悪わるくなってしまうんです。女性じょせいでラグジュアリーカーに乗のろうとする人ひとはアップライトな姿勢しせいを嫌きらいますから、UXでは普通ふつうにドライビングポジションをとった際さいに不自然ふしぜんにはならないよう配慮はいりょしています。

自分じぶん自身じしんは、開発かいはつの場ばで女性じょせいであることをあまり意識いしきしていませんが、男性だんせいのエンジニアに「僕ぼくだったらそこにはコストかけないな」と言いわれたことはあります（笑）。何なににプライオリティを置おくかはチーフエンジニアによって違ちがいます。女性じょせいだからなのかどうかは自分じぶんではわかりませんが、プライオリティを置おいたところがほかのクルマとは違ちがうのであれば、それが「私わたしのやった印しるし」ということなのかもしれませんね。

クルマ作づくりの現場げんばは圧倒的あっとうてきに男性だんせいが多おおくて、女性じょせいのチーフエンジニアはまだ私わたしだけです。トヨタでそのポジションは苦労くろうするでしょとよく聞きかれるんですが、むしろ珍めずらしがられて覚おぼえてもらえます。トヨタには志こころざしが共有きょうゆうできれば助たすけてくれる風土ふうどがあるので、本当ほんとうにみんなに助たすけてもらってこのクルマができたと思おもっていますよ。女性じょせいということよりも材料ざいりょうのエンジニアがチーフエンジニアをやっているということのほうがよっぽどタフ。普通ふつうはシャシー設計せっけい、ボディ設計せっけい、エンジン開発かいはつのエンジニアですから……。

機械きかい工学こうがくを勉強べんきょうしている人ひとは、その分野ぶんやに関かんして深ふかさとか幅はばが私わたしより広ひろい。設計せっけいの専門せんもん家かは設計せっけいという軸じくで深ふかく理解りかいできるかもしれない。ただ、どの分野ぶんやの専門せんもん家かでもクルマのすべてをわかるわけではないから、条件じょうけんは同おなじですね。走はしりに関かんしては、体感たいかんとして理解りかいできるように、サーキットをまわってトレーニングを受うけました。クルマ全体ぜんたいを広ひろく浅あさく理解りかいできるように勉強べんきょうするんですが、その上うえでわからないことはわからないと言いうわけです。

意地いじを張はらずに「わからない」と言いえることは、女性じょせいであることのアドバンテージかもしれませんね。UXの開発かいはつの過程かていで、私わたしは「質量しつりょうを落おとすためにバランスシャフトを外はずしたい」と言いったことがあります。2リットルのエンジンってバランスシャフトを付つけるかどうかの境界きょうかい線せんなので、軽量けいりょう化かのために取とっちゃいたいと。でも、「ハイブリッドは静粛せいしゅく性せいが高たかいので、そうすると後あとで遮音しゃおんをしなければならなくなる。バランスシャフトは取とらずに踏ふん張ばってくれれば、違ちがうところで軽量けいりょう化かのアイデアを出だすよ」と言いわれました。

インテリアだと、最初さいしょにレイアウトを決きめるためのフレームを作つくります。ステアリングとシートとセンターコンソールなどをやぐらの上うえに載のせて、レイアウトを検討けんとうして、使つかいにくいと思おもえばミリ単位たんいで動うごかす。例たとえば、カップホルダーを使つかう時ときにシフトノブに当あたらないか、スイッチに引ひっかからないか、を実際じっさいにテストする。そういうことを成なりたせるためにインテリアのデザイナー、人間にんげん工学こうがくの専門せんもん家か、インパネやスイッチの設計せっけい者しゃ……それぞれのメンバーが徹底的てっていてきに検討けんとうして作つくり上あげてくれたんです。

みんながアイデアを出だしてくれますから、それを信頼しんらいすればいい。本音ほんねで言いってくれる人ひとを信頼しんらいして、助たすけてもらえたから、こうしていいクルマができたのだと思おもっています。

[ガズー編集へんしゅう部ぶ]