『クルマはトモダチ』「N-BOX スロープ」を知しって欲ほしい！…山田やまだ弘樹ひろき連載れんさいコラム

2023.12.06 06:45

みなさん、ゴキゲンよう！

今回こんかいみなさんにご紹介しょうかいするのは、「ホンダ N-BOX スロープ」です。
いつもこのコラムでは、走はしりが楽たのしいクルマたちを中心ちゅうしんに取とり上あげています。しかし今回こんかい私わたしは、どうしてもこの「N-BOX スロープ」という名前なまえを、みなさんに覚おぼえてもらいたいのです。
そのレポートはモーターファンjpでも寄稿きこうさせて頂いただいたのですが、このコラムでもぜひお話はなしさせてください。

N-BOX スロープは、いわゆる「福祉ふくし車両しゃりょう」です。
トランクルームに設置せっちされたスロープを使つかうことで被ひ介護かいご者しゃは、車くるまいすに乗のったまま、クルマに乗のり込こめるようになります。
車くるまいすをウインチで引ひっ張ぱることで、介護かいご者しゃの負担ふたんも大幅おおはばに減へらすことができます。

「福祉ふくし車両しゃりょうなら、知しってるよ」
「そういうクルマ、大切たいせつだよね」
そう思おもってくださる人ひとは、きっと沢山たくさんいらっしゃるでしょう。
でもほとんどの方ほうが、「自分じぶんにはまだ関係かんけいないな」と、考かんがえているはずです。

N-BOXスロープは福祉ふくし車両しゃりょうとして消費しょうひ税ぜいが免除めんじょとなるため、車両しゃりょう価格かかくはFWD車しゃで184万まん4000円えん。スロープを装着そうちゃくしても、なんと標準ひょうじゅん車しゃの19万まん5100円えん高だかで購入こうにゅう可能かのうだ。また4WD車しゃ（196万まん5000円えん）やカスタム仕様しよう（FWD：206万まん7000円えん/4WD：218万まん8000円えん）を選えらぶこともできる。筆者ひっしゃとしては、より質感しつかんの高たかいターボが選えらべないのは残念ざんねん。だが認知にんち度どが上あがってニーズが高たかまれば、それも実現じつげんできるかもしれない。

実際じっさいこうした福祉ふくし車両しゃりょうは、驚おどろくほどに普及ふきゅうしていません。
ホンダが提供ていきょうしてくれたデータでは、2020年ねん時点じてんで被ひ介護かいご人口じんこうが約やく681.9万まん人にんもいます。これって、東京とうきょう23区くの人口じんこうの7割わりを超こえた人数にんずうです。そしてこの数かずは、年々ねんねん増加ぞうか傾向けいこうにあります。
対たいして同おなじ2020年ねんに販売はんばいされた福祉ふくし車両しゃりょうの台数だいすうは、国内こくない自動車じどうしゃメーカー合計ごうけいで、たったの3万まん2378台だい。約やく4.8％でしかないんです。

その中なかでもN-BOXスロープは一番いちばん売うれている福祉ふくし車両しゃりょうなのですが、年間ねんかん販売はんばい台数だいすうは4000台だいを下回したまわります。ご存ぞんじの通とおりN-BOXはいま日本にっぽんで一番いちばん売うれているクルマで、シリーズ合計ごうけいではあるけれど、同おなじ2020年ねんに販売はんばいされた台数だいすうは19万まん5984台だいにも登のぼります。
しかしそのうちN-BOX スロープの販売はんばい台数だいすうは、たったの2％でしかないんです。

私わたしはこうした数字すうじを知しって、愕然がくぜんとしました。
つまりそれは多おおくの自宅じたくにいる、車くるまいすが必要ひつような方ほうたちが、デイサービス等とう以外いがいでの「外出がいしゅつの喜よろこび」を、手てにしていないということだとも解釈かいしゃくできるんです。
被ひ介護かいご者しゃの方ほうはご自分じぶんで運転うんてんできないから、「移動いどうの自由じゆう」とは言いいません。でも「どこかに行いきたいな」とか「あの風景ふうけいが見みたいな」と思おもっても、なかなかそれが簡単かんたんではないわけです。

2基き掛かけのウインチはリモコンで操作そうさ可能かのう。巻まき上あげ時じに左右さゆうの長ながさが揃そろうように制御せいぎょされているので、車くるまいすの向むきが真まっ直すぐになっていなくてもこれを自動じどうで補正ほせいしてくれる。またその速度そくども二に段階だんかい選えらべ、固定こていする位置いちに来くると減速げんそくしてくれる。出演しゅつえんは押おす人ひとが福祉ふくし事業じぎょう課かアシスタントチーフエンジニアの井上いのうえ秀しげる剛つよしさん、車くるまいす役やくは福祉ふくし事業じぎょう課かチーフの田口たぐち健けん人じんさん。このふたりが、とても熱あつい。情熱じょうねつを持もって、福祉ふくし車両しゃりょうの普及ふきゅうに努つとめています。

かくいう私わたしも母ははが90歳さいまで生いきたので、介護かいごの苦労くろうは経験けいけんしています。専用せんようの福祉ふくし車両しゃりょうを購入こうにゅうするなんて間違まちがいなく家計かけいの負担ふたんになるし、普段ふだん車くるまいすを使つかっていない場合ばあいは、その必要ひつよう性せいから目めをそらしがちです。
そもそも介護かいごサービスを頼たのめば、施設しせつの介護かいご車両しゃりょうが迎むかえに来きてくれます。

かくいう私わたしの場合ばあいは、年老としおいた母ははをなんと911の助手じょしゅ席せきに乗のせて、食事しょくじへ行いったり通院つういんしていました。それは外そとから見みればお洒落しゃれな親孝行おやこうこうかもしれませんが、今いま考かんがえれば着座ちゃくざ位置いちが低ひくいクルマに老人ろうじんが座すわるのは、楽らくじゃなかったと思おもいます。おふくろ、悪わるかったね。

敢あえてウインチなしで車くるまいすを押おしてみた。開発かいはつチームの井上いのうえさんは大柄おおがらだったから特とくにだが、スロープを登のぼるのにまず結構けっこうな力ちからが必要ひつよう。また重おもさに対たいし車くるまいすのハンドル部ぶがたわんで、力ちからが伝つたわりにくく、まっすぐ押おしづらい。ウインチがあれば、介護かいごする側がわの負担ふたんは大おおきく減へらせることを実感じっかんできた。

さてここからが本題ほんだいなんですが、ではどうやったらこの「福祉ふくし車両しゃりょう」が普及ふきゅうするのでしょうか？
そもそもこれだけ高齢こうれい化か社会しゃかいが叫さけばれるなかで、なぜこれほどまでに、福祉ふくし車両しゃりょうが普及ふきゅうしないのでしょう？

それは冒頭ぼうとうの通とおり、多おおくの人々ひとびとが「自分じぶんには（まだ）関係かんけいない」と思おもっているからでしょう。「福祉ふくし車両しゃりょう」という名前なまえが付つくだけで、遠とおく離はなれた専門せんもん的てきなクルマのように思おもえてしまうからだと思おもいます。
そして私わたしのように「あったら便利べんりだな」とは思おもっても、特別とくべつなクルマを購入こうにゅうするのに躊躇ちゅうちょしたり、経済けいざい的てきな余裕よゆうがない場合ばあいもあります。

そこで福祉ふくし車両しゃりょうの開発かいはつ陣じんは、考かんがえたわけです。
だったら、「関係かんけいあるクルマにしちゃえばいいじゃないか！」と。

だから彼かれらはまずN-BOXの試乗しじょう会かいで、車くるまいす以外いがいのスロープの使つかい方かたを提案ていあんしました。具体ぐたい的てきにはキャンプ道具どうぐを積つんだキャリアカーを、電動でんどうウインチで引ひっ張ぱる実演じつえんをしたわけですね。
ちなみにこの電動でんどうウインチは、スライドドア用ようのモーターを2機き掛かけしています。最大さいだい牽引けんいん重量じゅうりょうも120kgと力強ちからづよく、スロープは200kgまで重おもさに耐たえられます。

スロープ仕様しようのリアハッチは車体しゃたい底部ていぶまで大おおきく開ひらく構造こうぞうとなっているが、閉とじるとダミーバンパーがデザインされており、見みた目めは普通ふつう車しゃと同おなじになる。「介護かいご車両しゃりょうに乗のっている」という特別とくべつ感かんをなくして、より多おおくの人ひとたちに選えらんでもらうのが狙ねらいだ。黄色きいろい車両しゃりょうは通常つうじょうのN BOXで、下方かほうの間口まぐちがやや丸まるまっている。傍かたわらで撮影さつえいしているのは吉田よしだ由美ゆみちゃん。

フロントシート下かにはウインチ用ようのモーターが2機き。リアシートに座すわったとき、つま先さきが入はいるスペースは塞ふさがれてしまうが、身長しんちょう171cmの筆者ひっしゃでも膝ひざ周まわりには余裕よゆうがあり、普通ふつうに座すわることができた。ベルトをスムーズに引ひっ張ぱれるように、リアシートバックにスチールバーが装着そうちゃくされているのも細こまかい配慮はいりょ。

でもそれだけじゃ、まだまだ説得せっとく力りょくが足たりません。
自分じぶんだったら何なにに使つかいますか？みんなも考かんがえてみて。

スロープを立たてかけて格納かくのうしたときの荷に室長しつちょうは1270～1510mmだから、サイズによっては自転車じてんしゃも搭載とうさい可能かのうです。塾じゅく帰がえりのお子こさんの自転車じてんしゃを持もち上あげながら積つんでいる方ほうも多おおいと思おもいますが、スロープがあれば便利べんりかもしれないですよね。
ミニバイクを積つむには、少すこし長ながさが足たりないかな？そんな場合ばあいは、スロープ仕様しようの「フリード＋（プラス）」もありますよ。

もしこのスロープ仕様しようが介護かいごのため“だけ”のクルマじゃなくなって、生活せいかつに役やくだったり、趣味しゅみを広ひろげてくれるクルマとしてみんなに認知にんちされたら、その数かずはもっと増ふえそうです。
スロープでできることのひとつが介護かいごであれば、「それはあってもいいよね」と、思おもってくれるんじゃないでしょうか。

折おりたたんだスロープは寝ねかせればラゲッジボードとしても使つかえる。重おもたいものや泥どろんこグッズも躊躇ちゅうちょなく積つめるし、スロープを出だせば拭ふき掃除そうじも簡単かんたんにできそう。またボード下かも収納しゅうのうスペースとして活用かつようできる。タフギアとしての使つかい道みちはかなりあるだろう。

だから開発かいはつ陣じんはその名前なまえを「N-BOX 福祉ふくし車両しゃりょう」ではなく、先代せんだいモデルから「N-BOX スロープ」にしました。
まだまだWebでは、これを純然じゅんぜんたる福祉ふくし車両しゃりょうとして紹介しょうかいしています。カタログでも名前なまえこそ「N-BOX スロープ」としていますが、小ちいさなスペースにはやはり車くるまいすとセットの写真しゃしんが載のせられています。

それでも開発かいはつ陣じんは、まずその名前なまえを変かえることで小ちいさな一いち歩ほを踏ふみ出だしました。このN-BOX スロープをひとつのバリエーションとして普通ふつうに選えらんでくれるようになれば、自然しぜんと福祉ふくし車両しゃりょうの数かずも増ふえるからです。

だから私わたしはみなさんに、まずはこの「N-BOX スロープ」という名前なまえを覚おぼえて欲ほしい。そして今後こんごはその試乗しじょうも含ふくめて、積極せっきょく的てきに福祉ふくし車両しゃりょうをインプレッションして行いきたいと思おもいます。

リアシートは折おりたたみ式しきとなるためクッションを肉薄にくはく化かしているが、乗のり心地ごこちを保たもつためにクッションの素材そざいを厳選げんせん。またリアサスペンションもN-BOX スロープ専用せんようにチューニングした。今回こんかいは走はしらせることができなかったが、座すわり心地ごこちはまずまず。いずれきちんと試乗しじょうして、その使つかい勝手がってと共ともにインプレッションしたい。

山田やまだ弘樹ひろき

自動車じどうしゃ雑誌ざっしの編集へんしゅうに携たずさわり、2007年ねんよりフリーランスに転身てんしん。LOTUS CUPや、スーパー耐久たいきゅうにもスポット参戦さんせんするなど、走はしれるモータージャーナリスト。自称じしょう「プロのクルマ好すき」として、普段ふだんの原稿げんこうで書かけない本音ほんねを綴つづるコラム。