千葉県野田市の小学4年生栗原心愛(みあ)さんの虐待死亡事件。すでに逮捕されている父親とともに、母親も逮捕された。
捜査関係者によると、母親が直接、暴行を加えた形跡はないが、県警は栗原容疑者の暴行を知りながら止めなかった責任は重大とみている。
県警は、母親が容疑者である父親からドメスティックバイオレンス(DV)を受けていた可能性があるとの情報を把握しており、関与の度合いを慎重に調べる方針だ。
母親の逮捕は、日本で取られてきた虐待根絶施策に関して欠けている視点を示す。
最も安心して暴力行為を行なえる時期
DVや虐待事案に関わっている筆者も含めた関係者は、今回の虐待事件のポイントは明らかだと言うだろう。「母親支援」だ。
「心愛さんは父親と母親との実子で長女。2009年9月、母子で糸満市へ転入(父親と別居か)。その後、父親と母親は2011年10月に離婚したが、父親は時に恫喝しながら、心愛さんとの面会交流を求め、母親は抗うことができなかった。そのうちに第二子を妊娠。2017年2月に再婚し同居、次女を出産した」
報道ベースで伝えられるこの家族のプロファイルをみれば、ある意味典型的なハイリスク例だとも言える。
暴力から逃れるために、別居。しかし、シングルマザーで子育てすることは難しい。経済的困窮から逃れるために再婚したり、前夫に養育費の交渉や面会交流をしているうちに、そこに暴力があると知りながらも「今度こそは」と淡い期待をいだいて再婚。もしくは暴力の恐怖により拒絶できないままに妊娠、そして出産——。
妊娠から乳幼児を育てている間は母親は身体の自由がきかない。思うようには働けない。出産は女性を肉体的にも経済的にも拘束できるため、DV加害者にとっては最も安心して暴力行為を行なえる時期だとも言える。
実際、2017年7月には市の窓口に母親の親族から「母親へのDVと女児へのどう喝がある」と相談が寄せられ、市が女児の通う小学校に連絡。学校は女児の様子を観察し、担任が7月下旬の終業式に女児と父親を交え、3者面談している。
そして、その後一家は東京へと転居する。もちろん、面倒な行政の目から逃れるためであろう。
DVの支援は一筋縄では行かない。被害当事者である母親自体にようやくマインドコントロールが解けたと思っても、また戻ってしまうということは多々あるのだ。
非常に難しいことではあるが、当然ながら支援を行なう行政の側にもそれ相応に知見が積み重なっていていいはずだが、実はそこが手薄なのだ。児童虐待を防ぐためには「母親支援」が肝なのにもかかわらず。