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第45回野間文芸新人賞受賞!朝比奈秋『あなたの燃える左手で』&九段理江「しをかくうま」(群像編集部) | 群像 | 講談社

だい45かい野間のま文芸ぶんげい新人しんじんしょう受賞じゅしょう朝比奈あさひなあき『あなたのえる左手ひだりてで』&きゅうだん理江りえ「しをかくうま」

だい45かい野間のま文芸ぶんげい新人しんじんしょうは、選考せんこう委員いいん小川おがわ洋子ようこ川上かわかみ弘美ひろみ高橋たかはし源一郎げんいちろう長嶋ながしまゆう保坂ほさか和志かずしの5によって、朝比奈あさひなしゅうさん『あなたのえる左手ひだりてで』河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ)ときゅうだん理江りえさん「しをかくうま」(『文學ぶんがくかい』2023ねん6がつごう掲載けいさい文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう)に決定けっていしました。朝比奈あさひなさん、きゅうだんさんの「受賞じゅしょうのことば」を群像ぐんぞう』2024ねん1がつごうよりおとどけします!(※WEB転載てんさいにあたり、改行かいぎょうげなどを調整ちょうせいしています。)
『群像』2024年1月号群像ぐんぞう』2024ねん1がつごう

受賞じゅしょうのことば(朝比奈あさひなあき

9ねんまえまで、わたしはウクライナやロシア、ハンガリーとなんの繫がりもありませんでした。おとずれたことはなく、いはおらず、地理ちり関係かんけいすらさだかではありませんでした。

それでも、理由りゆうはわかりませんが、2014ねんのクリミア併合へいごうわたしたしかな影響えいきょうあたえました。当時とうじわたしには自覚じかくできないほどかすかでしずかなものでしたが、それ以来いらいきこまれつづけることになったので、それは無音むおんの、しかし、ふか衝撃しょうげきだったのかもしれません。いつからかわたしなかにそれようのスペースができ、そこになにかがってきましたが、そのとき小説しょうせつもまだいておらず、ただもっていく一方いっぽうでした。

それからすうねんなん因果いんがか、わたしくことによって自分じぶんなかからいろんなものをりだすようになりました。小説しょうせつきだして2ねんくらいに、この物語ものがたりかれはじめました。そして、紆余曲折うよきょくせつのなかでやく6ねん年月としつきて、ようやくわりをむかえることになりました。今回こんかい受賞じゅしょうしたことによって正当せいとうされるものはひとつとしてないですが、なに安堵あんどするものもあって、受賞じゅしょうをありがたくおもっています。

いまだにウクライナやロシア、ハンガリーをおとずれることはできておらず、いもできていません。しかし、この小説しょうせつくことでなにかがつうじました。小説しょうせつわったのちでは、その通路つうろちがうことに使つかわれています。

おおくの場所ばしょでかつての日常にちじょうがいちはやもどるように、ふかくおいのもうげます。

朝比奈秋『あなたの燃える左手で』朝比奈あさひなあき『あなたのえる左手ひだりてで』

受賞じゅしょうのことば(きゅうだん理江りえ

ネアンデルタールじん学名がくめい:ホモ・ネアンデルターレンシス)についてかんがはじめた時分じぶんにはまだ、かれらは生存せいぞん競争きょうそうやぶれた、とうに絶滅ぜつめつしたしゅであると、教科書きょうかしょにはかれていた。

ネアンデルだに発見はっけんされたほねぬしたちが、そのがくおくなにかんがえ、どのような言葉ことばはなしていたのか。なぜかれらがえ、なぜ我々われわれのこったのか。永遠えいえんにわからないかもしれないなぞおもいをめぐらせる時間じかんはわたしをたのしませた。同時どうじに、永遠えいえんこたわせができないかんが、わたしをひどく不愉快ふゆかいにもした。

しかし2010ねん遺伝いでん学者がくしゃスヴァンテ・ペーボらによる革新かくしんてき論文ろんぶん発表はっぴょうされて以降いこうながしんじられてきた物語ものがたりおおきくえられることとなった。よんまんねんまえのネアンデルタールじんのDNAを増幅ぞうふくする技術ぎじゅつによって、日本人にっぽんじんふくむすべてのホモ・サピエンスがかれらとDNAを共有きょうゆうしていることが証明しょうめいされたのだ。ネアンデルタールじん我々われわれ交配こうはいし、かれらのDNAは現在げんざい我々われわれなかきているのだ。

とうに絶滅ぜつめつしたとされているもの、すでうしなわれ、もう二度にど存在そんざいしないかのようにおもわれたものが、想像そうぞうもしない場所ばしょから我々われわれなにかをかたりかけている可能かのうせいがある。

わたしはどのような言葉ことばのがしたくはなかった。それがテレビアナウンサーの言葉ことばであれ、詩人しじん言葉ことばであれ、うま言葉ことばであれ、言葉ことばわすれようとする人間にんげん言葉ことばであれ、いまこの瞬間しゅんかんおもいつくかぎりの言葉ことばためしながら、あらゆる可能かのうせいたいして返事へんじをしたいとおもった。

いつか絶滅ぜつめつするたねのひとつとして、いつかくらたにそこで、ふたた発見はっけんされるたねのひとつとして。

九段理江「しをかくうま」『文學界』2023年6月号きゅうだん理江りえ「しをかくうま」『文學ぶんがくかい』2023ねん6がつごう
野間のま文芸ぶんげい新人しんじんしょう
一般いっぱん財団ざいだん法人ほうじん野間のま文化ぶんか財団ざいだんは、昭和しょうわ16ねん野間のま文芸ぶんげいしょうとともに新人しんじん創作そうさく活動かつどう顕彰けんしょうする野間のま文芸ぶんげい奨励しょうれいしょう創設そうせつしました。戦後せんごいち中断ちゅうだん昭和しょうわ54ねんに、野間のま文芸ぶんげい新人しんじんしょう名称めいしょうあらためて復活ふっかつ今日きょういたります。

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