女性じょせいは「パパ活かつ」をするべきではないのか？ その疑問ぎもんへの「一ひとつの答こたえ」

「オタ活かつ」や「推おし活かつ」といった現代げんだいを象徴しょうちょうする営いとなみを描えがいた小説しょうせつ『コレクターズ・ハイ』が刊行かんこうされました。本書ほんしょには「パパ活かつ」めいた行動こうどうも出でてきます。ここでは、同書どうしょの記述きじゅつをもとに「パパ活かつ」について考かんがえます。

パパ活かつをめぐる論争ろんそう

「パパ活かつ」という言葉ことばが知しられるようになって、ずいぶんと時間じかんが経たちました。国会図書館こっかいとしょかんの検索けんさくツールを使つかって調しらべてみると、どうやら2017年ねん前後ぜんこうからこの言葉ことばは使つかわれているようで、「パパ活かつ」が人々ひとびとの口くちにのぼるようになってすでに5年ねん以上いじょうが経たっているらしいのです。

「パパ活かつ」の大雑把おおざっぱな意味いみを確認かくにんしておけば、女性じょせいが年上としうえの男性だんせいとデートや交際こうさい（のふり）をする見返みかえりとして金銭きんせんを受うけ取とる……という感かんじでしょうか。食事しょくじやカラオケといった「浅あさい関係かんけい」のパパ活かつもあれば、肉体にくたい関係かんけいも含ふくむ「深ふかい関係かんけい」のパパ活かつもあるようです。

この営いとなみについては、さまざまな立場たちばから意見いけんが表明ひょうめいされています。たとえば、「交際こうさいを換金かんきんするなんて不純ふじゅんである」「食事しょくじくらいならよいが、肉体にくたい関係かんけいになるとどうか」「女性じょせいばかりがそんなふうに稼かせげてズルい」「女性じょせい側がわが金銭きんせんを得えるために自発じはつ的てきにやっているならいいのではないか」……などなど。

とりわけ注目ちゅうもくを集あつめやすいのが、「女性じょせいが金銭きんせんを得えるために『自発じはつ的てき』にやっているなら、べつにかまわないじゃないか」という意見いけんと、「本人ほんにんが選えらんだこととはいえ、じつはそうした営いとなみが、ひそかに女性じょせいを傷きずつけているのではないか」という意見いけんの交錯こうさくです。

たしかに、最初さいしょは傷きずついていないと思おもっていても、のちのち振ふり返かえって「なんであんな傷きずつくようなことをしたのだろうか」という気持きもちになり、パパ活かつをしたことを後悔こうかいする女性じょせいもいるかもしれません。しかし一方いっぽうで、「だからパパ活かつなんてやめろ」というのは、女性じょせいの主体性しゅたいせいがないがしろにされている気きもする……。

「髪かみを撫なでられる」は「身みを削けずる」ことか？

この問題もんだいを考かんがえるにあたって、作家さっか・村雲むらくも菜月なつきさんによる小説しょうせつ『コレクターズ・ハイ』は一ひとつの視点してんを与あたえてくれそうです。

本書ほんしょには、とある男性だんせいにクレーンゲームでお気きに入いりのグッズを獲えってもらうかわりに、自分じぶんの髪かみを撫なでさせてあげるという女性じょせいが出でてきます。この行為こういは、ハッキリとしたパパ活かつではありませんが、「自分じぶんの肉体にくたいの一部いちぶを自由じゆうに使つかわせるのと引ひき換かえに、欲ほしいものを得えている」という点てんでは、パパ活かつにつうじるところがあるかもしれません。

先さきほどもふれたように、パパ活かつについてはしばしば、「女性じょせい側がわが後悔こうかいしなければいい」と言いわれます。これは、い換いかえると「『自分じぶんが壊こわれない程度ていど』をきちんと測はかっておくことが重要じゅうようである」ということでしょう。「女性じょせいはパパ活かつをするべきでないのか？」という疑問ぎもんに対たいする「自分じぶんが壊こわれない程度ていど、身みを削けずらない程度ていどならいいんじゃないか」という、一ひとつの答こたえです。

この「自分じぶんが壊こわれない程度ていど」というのは、いっけんシンプルに見みえて、意外いがいと奥深おくふかいのではないか――『コレクターズ・ハイ』を読よんでいると、そのように思おもわされるのです。

なぜなら、頭あたまを撫なでるという行為こういは、文脈ぶんみゃくを無視むししてそれだけ取とり出だすと、それほどいやらしくない。でも、人ひとによってはそうとう気持きもち悪わるく感かんじられることも想像そうぞうできます。……なにが「身みを削けずる」行為こういで、なにがそうではない行為こういなのかというのは、じつはなかなか一筋縄ひとすじなわではいかないということを、本書ほんしょは突つきつけてくるのです。それは、一人ひとりの人間にんげんのなかでも、日々ひび変動へんどうしうるものかもしれません。

「なんだ、そんなことでいいんですか」

その複雑ふくざつさがよくあらわれている部分ぶぶんを、同書どうしょから引用いんようします。男性だんせい（＝森本もりもとさん）が、「私わたし」のためにクレーンゲームでグッズをとってあげるかわりに、「私わたし」の頭あたまを撫なでることを提案ていあんするシーンです。

〈「じゃあ、あの、頭あたまを、撫なでたりとか」

その時とき、私わたしは森本もりもとさんではなく森本もりもとさんの向むこう側がわ、私わたしたちと同おなじようにゲームセンターの前まえで誰だれかを待まっているらしい女おんなと目めが合あった。女おんなは一人ひとりでスマホを眺ながめていたのだが、突然とつぜんこちらへ顔かおを向むけたので、思おもわず私わたしも見返みかえしてしまったのだ。

女おんなは口くちをぽかんと開あけたまま、声こえの主あるじを盗ぬすみ見みるような鋭するどい目めつきをしていた。その顔かおが私わたしと同おなじような表情ひょうじょうをしている気きがして、それがあまりにも驚嘆きょうたんを帯おびていたので、そのぶん私わたしは少すこし冷静れいせいになることができた。固かたまっていた口角こうかくを上あげ直なおし、どちらかというと森本もりもとさんではなく、女おんなに宣言せんげんするように口くちを開ひらいた。

「なんだ、そんなことでいいんですか」

今いままでそんな提案ていあんをされたことがなかったから少すこし戸惑とまどってしまっただけで、別べつに胸むねや尻しりを揉もみたいと言いっているわけではないし、頭あたまなんて無断むだんで叩たたかれたり、手てを置おかれたり、髪かみをぐしゃぐしゃにされたりすることもある場所ばしょなのだから、そんなに特別とくべつなことではないだろう。頭あたまを撫なでさせるくらいでなにゅなにゅの景品けいひんが手てに入はいるのならば、むしろかなり安やすいのではないかと思おもった。

少すくなくとも、何なん十じゅう分ふんもクレーンゲームと格闘かくとうし続つづけるよりは遥はるかに時間じかんもお金かねもかからない、簡単かんたんなことだった。そうだ、こういう時ときのために私わたしは美容びよう室しつで縮毛ちぢれげ矯正きょうせいをしていたのかもしれなかった。せっかく高たかいお金かねを払はらっているのだから、この髪かみも何なにかの役やくに立たつべきではないか、それが他たでもないなにゅなにゅのためだと思おもえば、こちらからお願ねがいしたほうがいいくらいではないか。

森本もりもとさんは自みずから提案ていあんしておきながら、二ふたつ返事へんじで了承りょうしょうした私わたしに動揺どうようして、本当ほんとうにいいのか、やっぱりやめておいたほうがいいのではないかと何なん度ども訊たずねたが、私わたしは大丈夫だいじょうぶですよ、と笑顔えがおを崩くずさないように気きをつけた。〉

「身みを削けずる」とはなんなのか

頭あたまを撫なでられるというのは、パパ活かつに比くらべたら全然ぜんぜん身みを削けずっていないように見みえます。にもかかわらず、この描写びょうしゃを読よんでひどく気持きもち悪わるいと感かんじる人ひともいるでしょう。

ひるがえって現実げんじつを見みてみると、頭あたまを撫なでるどころではなく、もっと自分じぶんの肉体にくたいを使つかっている人ひとがいる。だけど、それが一般いっぱん的てきだと思おもわれていたりもする……。

なにが「身みを削けずること」で、なにが「そうでもないこと」なのかは、じつはきわめて難むずかしい。「自分じぶんが壊こわれない程度ていど」を考かんがえるさいには、そのことを重々じゅうじゅう念頭ねんとうに置おいておく必要ひつようがありそうです。

もちろん、パパ活かつを論ろんじるときには、そもそも女性じょせいのほうが一般いっぱん的てきに低てい賃金ちんぎんを押おし付つけられている……といった点てんも勘案かんあんする必要ひつようがありますが、「自分じぶんが壊こわれない」「身みを削けずる」とはどういうことなのかをあらためて考かんがえるのも、たいせつなことかもしれません。

【特別とくべつ公開こうかい】「オタ活かつ女子じょし」の仁義じんぎなき戦たたかい

（つづきは本書ほんしょでお楽たのしみください）