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お笑い芸人・パンサー向井がラジオにかける思い。38歳、今の自分に喋れることって何だろう?(向井 慧) | 群像 | 講談社
2024.04.26
# エッセイ

わら芸人げいにん・パンサー向井むかいがラジオにかけるおもい。38さいいま自分じぶんしゃべれることってなにだろう?

わら芸人げいにん「パンサー」のメンバーで、ラジオパーソナリティとしてもだい活躍かつやくちゅう向井むかいとしさん。学生がくせい時代じだいからあいしてやまない「ラジオ」をめぐって、さまざまなおもいをつづったエッセイ「チューニング。」(群像ぐんぞう」2024ねん5がつごう掲載けいさい)を特別とくべつにおとどけします。(※ウェブ転載てんさいにあたり、さい編集へんしゅうしています。)

ラジオは「噓をつけないメディア」

ぼく現在げんざい、ラジオのレギュラーを4ほんやっている。そのうちの1ほん月曜げつようから木曜もくようまでのおび番組ばんぐみなので合計ごうけいするとしゅうに13あいだはんしゃべっている。冷静れいせいになるとなかなか異常いじょうなことをしているなとおもう。なんでこんなことになったのだろう。

学生がくせい時代じだいにラジオをはじめ、吉本興業よしもとこうぎょうはいって1ねんときつくったプロフィールの趣味しゅみらんには「ラジオをくこと」といた。

何気なにげない先輩せんぱいとの会話かいわなかで、ラジオをくことがきだとはなすと、「ラジオきってうことでかげ部分ぶぶんってますアピールするんだ」とわれておどろいた。ラジオきっていうのはそういうアピールにられるんだ。

芸人げいにん世界せかいとくに「びる」ということに敏感びんかんひとおおがする。ぼくは"パンサー"というトリオをんでいるが、2013ねんごろ劇場げきじょうわかおんなから人気にんきはじめて、ちとわれる劇場げきじょうそとってくれているファンのほうおおいということで話題わだいになった。

そのとき先輩せんぱいからなんか「おまえおんなびてる」とわれた。それをったひといまでもしっかりとおぼえているのが自分じぶんでもおそろしいとおもうが、その芸人げいにんさんは「自分じぶんたちおとこわらわすことができる」とむねっていた。それっておとこびてるんじゃないのかと不思議ふしぎおもった。

そんなこともあり、あまりラジオをきだとわない時期じきがあった。だけど結局けっきょくきな気持きもちはにじてしまうもので、ラジオの仕事しごとがちょくちょくはいってくるようになった。

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東京とうきょうでいくつかのラジオ番組ばんぐみをやるチャンスをいただいたが、正直しょうじきどれもしっくりこなかった。勿論もちろんすべ全力ぜんりょくでやったし、そのときしゃべれることを全部ぜんぶしゃべったつもりだったが、いまかえってみると自分じぶん学生がくせい時代じだいからきだったラジオに近付ちかづけようとすればするほどしゃべっていることが自分じぶん言葉ことばからはなれていってしまっていたがする。

自分じぶんにとってラジオは、やるものじゃなくくものだとおもはじめたとき地元じもと名古屋なごやのラジオきょくから期間きかん限定げんてい番組ばんぐみのオファーをいただいた。ローカルきょくということもあって、いままでひょうすことがなかった、くやしかったことやはらったことをなんねんなぐってきたノートをもとにしゃべったら、はじめて自分じぶん言葉ことば一致いっちした感覚かんかくがあった。

ラジオは噓をつけないメディアとひとがいるが、そのとおりだとおもう。くやしかったこと、はらったこと、人間にんげん関係かんけいむずかしかったことをしゃべっていたら、おなじような体験たいけん人達ひとたちすこしずつリスナーとしてえていった。

日常にちじょうでどれだけいやなことがあってもラジオで消化しょうかできるという無敵むてき状態じょうたいはいった。そこからラジオの仕事しごとえていき、気付きづけばレギュラーが4ほんになっていた。リスナーがえていくと「リスナーが共感きょうかんすることをしゃべらなければ」という気持きもちがまれ、無理矢理むりやりおこってみたこともあったが、そのときにはまた自分じぶん言葉ことば気持きもちがはなれているのがはっきりかった。やっぱり自分じぶん気持きもちをにせわってしゃべることはできない。

そんなにせわれないメディアだからこそ、年齢ねんれいかさねてポジションがわるにつれ、しゃべれることもわっていく。

38さいいま自分じぶんしゃべれること

むかしぼくらがおんな人気にんきたかいとわれているときに、ある番組ばんぐみのスタッフさんから「向井むかいさんはナルシストキャラでやってください」とおねがいされ、「いや、そんなキャラじゃないんで」とうと、「でもそれをやらなかったら多分たぶんどころないですよ」とわれた。

何故なぜそちらがデザインしたキャラクターでないといけないのか。そのままのあなたじゃなにもできないとわれているようではらった。当時とうじ、そのはなしをラジオでしゃべったところ、リスナーの反応はんのうかった。

じゃあ38さいいま自分じぶんがこのはなしおな熱量ねつりょうでできるのかとうとそうはいかない。それはすくなからずテレビの世界せかいり、番組ばんぐみつくひと気持きもちが想像そうぞうできるようになったからだ。

あのスタッフさんには「まだ使つかかたからないテレビにたての芸人げいにん目立めだところつくってあげたい」という気持きもちが根底こんていにあったのだろうとおもうと、もうあのころのようにおこることはできない。あのころつめたいなとかんじていたMCも、ロケバスが一緒いっしょときにツンとしていた女性じょせいタレントにも、おそらくあんな理由りゆうがあったんだろうなぁという想像そうぞうができてしまう。

想像そうぞうができるようになったのはけっしてわるいことではないのだが、もうあのころ熱量ねつりょうしゃべることができない。

社会しゃかいきている問題もんだいについてもそうだ。ある政治せいじ失言しつげんをしているニュースをた。テレビにているコメンテーターは熱量ねつりょうっておこっていた。SNSをのぞくとおおくのひとがそのコメンテーターの意見いけんおな熱量ねつりょうって賛同さんどうしていた。

勿論もちろん、その政治せいじ失言しつげんゆるされるものではなかったが、自分じぶん生放送なまほうそうのラジオでしゃべっているなかおもってもいない言葉ことば使つかかたをしてしまい、あせればこげほどどんどんちがうニュアンスでつたわってしまった経験けいけんがあるので、もしかしたらそこまで悪気わるぎはなかったんじゃないだろうかと想像そうぞうしてしまった。その結果けっか、そのけんかんしてラジオでしゃべったときに、なにっていないのとおなじようなどちらにもれていないコメントをしてしまった。

できることならまだ無責任むせきにんおこっていたかったし、無責任むせきにん嫉妬しっとしていたかった。

ぼくいま熱量ねつりょうってしゃべれることはなになのだろう。まだ明確めいかくつかっていないが、糸口いとぐちがあるとするならまさにこの葛藤かっとうしゃべることなんじゃないかとおもっている。いかりや嫉妬しっとのエネルギーをなにべつのエネルギーで塡しなければいけないという葛藤かっとうこそがいま自分じぶんなか渦巻うずまいているエネルギーだ。

あのころ一瞬いっしゅんがるような熱量ねつりょうのラジオではないが、いまのジリジリとおのれかれていくような熱量ねつりょうのラジオも面白おもしろいのかもしれない。

『群像』2024年5月号群像ぐんぞう』2024ねん5がつごう
向井むかいとし(むかい・さとし)
1985ねん愛知あいちけんまれ。おわらいトリオ「パンサー」のツッコミ担当たんとう。「パンサー向井むかいの#ふらっと」「#むかいのしゃべかた」など、ラジオパーソナリティとしても活躍かつやく

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