5年に一度の壮大な「お祭り」
先週末の4月19日から、インドで世界最大規模の総選挙(下院議員選挙)が始まった。インドの人口は14億人を超え、国連の統計でちょうど1年前、ついに中国の人口を上回って世界一となった。今回の総選挙の有権者数は、約9億6800万人! ニューデリーの首都圏(NCT)と、7つの連邦直轄領(UT)、28州を、543ヵ所の選挙区に分けて、それぞれ小選挙区で議席を争う。大統領の任命者が2人いるので、総議席数は545議席だ。
投票は、4月19日、26日、5月7日、13日、20日、25日、6月1日の7回に分けて各地域で順次行い、6月4日に一斉開票する。1ヵ月半をかけた、5年に一度の壮大な「お祭り」だ。
選挙前の議席は、ナレンドラ・モディ首相率いるインド人民党(BJP)が303議席、最大野党の国民会議派(INC)が52議席。以下、ドラ―ヴィダ進歩党24議席、全インド草の根会議22議席、青年労働者農民会議党22議席、シブ・セーナー18議席、ジャナタ・ダル16議席、ビジュ・ジャナタ・ダル12議席、大衆社会党10議席、大衆社会党10議席、その他の28政党が64議席となっている。
すなわち、38もの政党が国会の議席を分け合っているのである。これは、それぞれ地方独特の政党があったり、カースト制度が絡んでいたりして、かなり複雑だ。
普段、共産党しか存在しない中国を見ている私としては、これだけで恐れ入ってしまう。ちなみに中国にも「8つの野党」が存在するが、それらは極めて形式的な政党群で、常に中国共産党に傅(かしず)いている。
今回のインド総選挙の最大の争点は、世界最大規模の国民が、発足して10年が経つモディ政権を信任するかどうかである。第18代首相のモディ氏は、73歳を迎えたが、まだまだヤル気十分だ。
モディ政権が10年前の5月26日に発足した時、日本の安倍晋三政権と中国の習近平政権が、モディ新首相を奪い合うかのように自国に招待しあった。
先にやって来たのは日本の方で、同年8月30日に来日。安倍首相がわざわざ京都まで行って、モディ首相を案内した。その後、モディ首相は新幹線に乗って東京へ来て、9月2日にホテルオータニで講演会を行った。私は前列で傍聴したが、土色の民族服に身を包み、初めから終わりまでヒンディ語でまくしたてた。
「私にとって今回は3度目の来日だが、日本を見たら、もう他の国へ行く必要がないくらい素晴らしい。同様にインドも日本企業にとって、一度投資してビジネスを始めたら、もう他国へ行きたくなくなるほど、魅力あふれる国なのだ。
私は日本が50年かけて達成した経済成長を、いまから数年のうちに成し遂げたいのだ。神はインドに恵みを与えてくれた。12億5000万人の巨大市場、人口の65%が35歳以下という若くて優秀な労働力、そして民主主義。まさに3拍子揃った21世紀唯一の楽園が、わがインドなのだ!」
こんな調子である。再び中国にたとえるなら、1980年代の中国の政治家を見ているような気がした。大らかで大雑把でマイペースで、おまけに周囲を圧倒する存在感。かつ日本企業を手招きする様子まで似ていた。
壇上で横に座っていたスズキ自動車の鈴木修会長が、しきりにモディ新首相を持ち上げ、モディ首相からは「わが友」と呼ばれていた。インドと言えばスズキ自動車、スズキ自動車と言えばインドである。
ちなみに、「ライバル」安倍首相に先を越された習近平主席は、モディ首相の誕生日を共に過ごすため、同年9月17日、モディ首相の故郷であるインド北部クジャラート州のアーメダバードに降り立った。当時、中印貿易額は日印貿易額の約4倍もあったため、大いに歓迎された。
その時、モディ首相は、「インチ」(inch)という言葉を強調していた。長さを表す単位だが、「India+China」という意味の造語だそうで、「印中間の心情的な距離は1インチ(2.54cm)にも満たない」と言っていた。そうした「中印蜜月時代」も、すっかり今は昔となってしまったが。
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