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学問が役に立つとはどういうことだろうか? 川添愛×川原繁人×三木那由他(川添 愛,川原 繁人,三木 那由他) | 群像 | 講談社
2024.05.23
# 言語げんごがく # カルチャー # 哲学てつがく思想しそう

学問がくもんやくつとはどういうことだろうか? 川添かわぞえあい×川原かわはら繁人しげと×三木みき那由なゆほか

「ことば」と「哲学てつがく」と研究けんきゅうをめぐる鼎談ていだん後編こうへん
言語げんご学者がくしゃとして、作家さっかとして活躍かつやくする川添かわぞえあいさん。音声おんせいがく音韻おんいんがく専門せんもん知識ちしきをいかしてジャンルをえた活動かつどうつづける川原かわはら繁人しげとさん。言語げんご哲学てつがく知見ちけんをテーマとしたエッセイが支持しじあつめる三木みき那由なゆさん。それぞれの立場たちばから「ことば」をめぐってだい一線いっせん活動かつどうつづけている3にん鼎談ていだんイベントが、先日せんじつ、ブックファースト新宿しんじゅくてんおこなわれました。その内容ないようさい編集へんしゅうして2かいにわたっておとどけします。後編こうへんは、研究けんきゅうしゃになったきっかけのはなしから。(前編ぜんぺん】ChatGPTの背後はいご人間にんげんはいるか?はこちらから)

このみちすすんだ理由りゆう

川原かわはら 三木みきさんはなぜ哲学てつがくまなぶようになったのですか? 

三木みき 哲学てつがく興味きょうみったのは高校生こうこうせいのときです。わたしは、中学ちゅうがく高校こうこうとほぼ登校とうこうで、たまに学校がっこうくと図書としょしつほんんでいました。中学ちゅうがくころおも小説しょうせつんでいたのですが、高校こうこうはいってちょっと背伸せのびして小説しょうせつ以外いがいんでみようかとったのが西田にしだ幾太郎いくたろうとデカルトだったんです。

川原かわはら 高校生こうこうせいでデカルトをにしたってすごいですね。

三木みき でも『方法ほうほう序説じょせつ』は100ページぐらいのうすほんでそこまでむずかしくないんですよ。西田にしだ幾太郎いくたろう全然ぜんぜんわからなくて、『方法ほうほう序説じょせつ』もそこまできつけられなかったのですが、そのながれでニーチェなどもむようになって、哲学てつがくという学問がくもんがあるんだとおもいました。文学部ぶんがくぶ哲学てつがく専攻せんこうすすんだのは、当時とうじ社会しゃかいたいする疎外そがいかんみたいなものがあって、できるだけなかやくにたないとおもえるものをえらんだからというとネガティブないいかたになってしまいますが、そういうめんもありました。でも、大学だいがくねんのとき講義こうぎでトマス・アクィナスのはなしいて、哲学てつがくがすごく面白おもしろくなったというのもあるんですよ。おふたりが言語げんごがくまなはじめたのは、どんなきっかけだったのですか? 

川添かわぞえ わたしは、大学だいがく文学部ぶんがくぶすすんだものの、なに勉強べんきょうするかはめていなかったんですね。オリエンテーションでおこなった言語げんごがく研究けんきゅうしつで、先生せんせいなんでも質問しつもんしていいよとわれて、「お天気てんきくだざかっていますけど、のぼざかってわないのはなぜですか?」といったことをいたんです。そうしたら「そんなことがになるのは言語げんご学者がくしゃいている」とほめられてうれしくなってはいったというかんじです。もともとのつけどころにはすこ自信じしんがあって、中学ちゅうがく高校こうこう時代じだいも、おわら芸人げいにんのもの真似まねひとがやらない側面そくめんからやってすごくウケたりして、自分じぶんのそういうところをいかせることはないかな、とかんがえていたりしていたところがあって(笑)かっこわらい。それで言語げんごがく世界せかいはいったのがうんきだったというか(笑)かっこわらい

川原かわはら わたしはもともと英語えいご勉強べんきょうしたくて、交換こうかん留学りゅうがく制度せいど充実じゅうじつしている国際基督教大学こくさいきりすときょうだいがくはいったんですね。高校生こうこうせいのときには、まわりに心配しんぱいされるぐらい英語えいごしか勉強べんきょうしていなかったのですが、あるとき「あれ⁉ 日本語にほんご面白おもしろい!」とおもうようになった。大学だいがく年生ねんせいの3学期がっき日本語にほんご教育きょういく言語げんごがく両方りょうほう研究けんきゅうしている先生せんせい講義こうぎけていたんですが、そのレポートで「自分じぶん会話かいわを5分間ふんかん録音ろくおんしなさい。そのなかから面白おもしろいとおもわれる現象げんしょう分析ぶんせきしなさい」という課題かだいされたんです。それで「が」や「に」のような助詞じょし全部ぜんぶして、それぞれの助詞じょしのさまざまな使つかかた分析ぶんせきをしたんですね。そうしたら、「日本語にほんごってなに複雑ふくざつなんだ!」というおどろきがあって。

川添かわぞえ それは面白おもしろいですね。

川原かわはら 3年生ねんせいになって交換こうかん留学りゅうがくでアメリカの大学だいがくきました。そこで言語げんごがくなかでも、くちなかがどういう仕組しくみになっていて、それが言語げんごのパターンにどう影響えいきょうするのかなどを研究けんきゅうする音韻おんいんろんという分野ぶんや面白おもしろさに出会であってしまいました。そこで、もともと理系りけい少年しょうねんだった自分じぶん言語げんご興味きょうみっている自分じぶん融合ゆうごうして、「これしかない!」っておもった瞬間しゅんかんがあったというかんじです。じつは、父親ちちおや物理ぶつり学者がくしゃで、わたし数学すうがくもそれなりにできていたし生物せいぶつきだったので、理系りけい進学しんがくしてほしかったようなのですね。父親ちちおや人生じんせいめられたくなくて言語げんごがくという反対はんたいがわすすんだところもあるのですが、くやしいことに親父おやじ呪縛じゅばくからのがれられませんでしたね(わらい)

川添かわぞえ ある意味いみ運命うんめいというか(笑)かっこわらい、そういうジャンルに出会であったのは素晴すばらしいですね。

「どんなやくつの?」とかれたら

川原かわはら ところで、言語げんごがく哲学てつがくってどんなやくつの?とかれたとき、どのようにこたえていますか?

三木みき 川添かわぞえさんは『ふだん使づかいの言語げんごがくの「まえがき」でもそのことについてれていますよね。

川添かわぞえ はい、いていますけれども、むずかしいいですよね。言語げんごがくまなばなかったらいま文章ぶんしょう仕事しごとをしていなかったとおもうし、そういう個人こじん経験けいけんからのはなしはするのですが、最近さいきんはもっとんでかたってもいいかなとおもうようになりました。みなさん、言語げんごがく興味きょうみってはくださるんですが、雑学ざつがくとしてとらえているひとおおいとおもうんです。言語げんごがくやくつとストレートにえるのは、ひとつは教育きょういくですよね。たとえば日本語にほんご教育きょういくでは、日本語にほんご外国がいこくとしてまなんでいるひとたいして、日本語にほんごではこうなっている、ということを、体系たいけいてて理解りかいしていないとおしえられない。そんなことを、もっとっていってもいいかなとおもっています。

川添愛『ふだん使いの言語学』川添かわぞえあい『ふだん使づかいの言語げんごがく

川添かわぞえ やくつ、といういいかたとはすこちがうかもしれないけれども、三木みきさんのエッセイは、言葉ことばのコミュニケーションになやんでモヤモヤをかかえたひと気持きもちをすっきりさせてくれるとおもいます。川原かわはらさんも、声優せいゆうのボイストレーニングにどういう根拠こんきょがあるのかといったことについて、専門せんもんとしてかれたりしていますよね。

三木みき 川原かわはらさんは、ALSの患者かんじゃさんを対象たいしょうにしたコミュニケーション支援しえんのシステムのお手伝てつだいもされているんですよね。

川原かわはら ALSは神経しんけいせい難病なんびょうで、病状びょうじょう進行しんこうするとだんだん発声はっせいむずかしくなっていくのですが、患者かんじゃさんご自身じしんこえ音素おんそベースでとりためておいて、それを使つかってパソコンに入力にゅうりょくした文章ぶんしょう自分じぶん自身じしんこえ再生さいせいできるマイボイスというソフトウェアがあります。2013ねんからそのプロジェクトのお手伝てつだいをしているんですね。テレビのドキュメンタリー番組ばんぐみたのがきっかけで、主宰しゅさいされている作業さぎょう療法りょうほう先生せんせい手紙てがみいて、一緒いっしょにやらせていただくようになりました。もともとわたしは、言語げんごがくなにやくつのか、ということについてガチになやんでしまうタイプだったので、このプロジェクトには非常ひじょうすくわれました。

三木みき そういうことをきちんとかんがえる研究けんきゅうしゃはいいなとおもいます。

川原かわはら いまおもかえせば、「もっと自分じぶんのやっている学問がくもん自信じしんって堂々どうどうとしろよ」って、過去かこ自分じぶんたいしておもったりもしますけどね。

本当ほんとうなやまなくなったのは、絵本えほん うたうからだのふしぎ』共著きょうちょすことになったゴスペラーズの北山きたやま陽一よういちさんと出会であってからです。3ねんまえはじめておいしたときからずっと、「川原かわはら先生せんせいうたうたひとにとって音声おんせい仕組しくみをっておくことがいかにやくつかわかってますか!?」って、すごい熱量ねつりょうつづけてくださっているんですね(笑)。かれのおかげで、「やくにたない」というなやみはなくなったかもしれません。

作:川原繁人・北山陽一、まんが:牧村久美『絵本 うたうからだのふしぎ』さく川原かわはら繁人しげと北山きたやま陽一よういち、まんが:牧村まきむら久美くみ絵本えほん うたうからだのふしぎ』

川原かわはら 三木みきさんは「哲学てつがくはどんなやくつのか」とかれることはありますか?

三木みき そうですね。大学院だいがくいん時代じだいには「哲学てつがくなんかやくにたないだろう」とわれたりしましたが、最近さいきんはそういうことは以前いぜんよりりました。ぎゃくに「哲学てつがくってやくちますよね」とわれることがやけにえているようにかんじて戸惑とまどうことがあります。学生がくせいにも「哲学てつがくはやっぱり必要ひつようですよね」とか「あらゆる科学かがく基礎きそになりますよね」とわれることがあります。

川原かわはら その変化へんか原因げんいんをどうおもわれますか?

三木みき わたし理由りゆうはよくわからないんです。「哲学てつがくやくつんですよね?」とあまりつよわれると、むしろ「哲学てつがく」が学問がくもんくらべて特権とっけんてきであるとか、まなんだらよい人間にんげんになれるといったことはない、とはなしています。ほかの分野ぶんやにも敬意けいい関心かんしんってほしいし、「哲学てつがくまねべばそれでよし」ともおもってほしくないので。

でもやくつ、たないよりもいちばんよくかれるのはなんといっても「哲学てつがくってなにをするの?」ですね。それには、哲学てつがくとは、わたしたちが世界せかい認識にんしきするときに使つか概念がいねん研究けんきゅうする学問がくもんで、概念がいねんそのものを分析ぶんせきしてその正体しょうたい見極みきわめようとするひともいれば、その概念がいねんちやその概念がいねんをめぐるこれまでの議論ぎろんについて歴史れきしてき研究けんきゅうするひともいる、といった説明せつめいをします。そのうえで、そのような過程かてい哲学てつがくしゃたちはあたらしい理論りろん概念がいねんつくってきた、だから哲学てつがくまなぶことによって、世界せかいるフレームワークのレパートリーをやすことはできる、とはなしています。疑問ぎもんなやみをバシッと解消かいしょうしてくれるわけではないけど、ちが解像度かいぞうど色合いろあいで世界せかいることができるようになるのでは、とおもうのですよね。

前編ぜんぺん】ChatGPTの背後はいご人間にんげんはいるのか? 川添かわぞえあい×川原かわはら繁人しげと×三木みき那由なゆほか

三木那由他『言葉の展望台』三木みき那由なゆ言葉ことば展望てんぼうだい
 

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