刑事罰を問えるかどうか
民主主義の根幹といえる「選挙の自由」を脅かした――。
警視庁捜査2課はそう判断して政治団体「つばさの党」の黒川敦彦代表(45)、根本良輔幹事長(29)、杉田勇人幹部(39)の3人を公職選挙法違反(選挙の自由妨害)容疑で、5月17日に逮捕した。
4月28日に投開票された衆院東京15区補選での選挙妨害の様子は、マスメディアやSNSなどで何度も放映され、「やり過ぎ」と感じた国民は少なくない。逮捕容疑のJR亀戸駅前での乙武洋匡候補の演説妨害は、電話ボックスの上に座り込み、拡声器を使って大音量で演説に割り込み、激しく罵倒した。
「事件化も当然」と思わせる映像だが、刑事罰を問えるかどうかは別問題である。
「表現の自由」は憲法に保証され、選挙演説へのヤジは過去の判例でも認められている。まして公選法の「選挙の自由妨害」は、候補者に対する威嚇や妨害を想定したもの。他陣営候補者の演説を対象に、逮捕にまで至るのは極めて異例だ。公判で有罪に持ち込み、判例を得るために警視庁は詰めの捜査を慎重に行うし、逮捕事案を幾つも積み重ねて悪質性を立証しなければならない。
事件対応のために捜査2課は18年ぶりに特別捜査本部を立ち上げた。検察との摺り合わせを行なった国策捜査ではあるが、裁判所の判断は別である。「表現の自由」に配慮しなければならず、対立候補を萎縮させる判例を安易に出せないという“縛り”もある。