若わかい頃ころに知しりたかった、「勉強べんきょうできる人ひと」と「勉強べんきょうできない人ひと」の決定的けっていてきな違ちがい

わたしたちはいつまで金銭きんせんや時間じかんなど限かぎりある「価値かち」を奪うばい合あうのか。ベストセラー『世界せかいは経営けいえいでできている』では、気鋭きえいの経営けいえい学者がくしゃが人生じんせいにころがる「経営けいえいの失敗しっぱい」をユーモラスに語かたります。

※本ほん記事きじは岩尾いわお俊しゅん兵へい『世界せかいは経営けいえいでできている』から抜粋ばっすい・編集へんしゅうしたものです。

勉強べんきょうは経営けいえいでできている

図書館としょかんや喫茶店きっさてんなどにおいて一心不乱いっしんふらんに教科書きょうかしょや参考さんこう書しょを蛍光けいこうペンでカラフルに塗ぬりたくっている人ひとに出でくわすことがある。

みるみるうちに三さん、四よん、五ご本ほんと次々つぎつぎに新あたらしい蛍光けいこうペンが登場とうじょうして彩いろどりが足たされていく。ときどき「ああっ、ピンクがもうないじゃん」などと愚痴ぐちをこぼしている。どうしようもなくなって、充血じゅうけつさせた目めをひん剥むいて「だめだ、ピンクがなきゃ」と、インクが切きれた蛍光けいこうペンを買かいにダッと駆かけ出だすことも珍めずらしくない。

こうしてようやく出来上できあがった充血じゅうけつと腱鞘炎けんしょうえんの結晶けっしょうの「作品さくひん」は確たしかに美うつくしい。だが果はたしてその人ひとは本当ほんとうに色彩しきさい豊ゆたかな現代げんだいアートを作つくりたかったのだろうか。それとも本当ほんとうは「勉強べんきょう」をしたかったのだろうか……。

きっとカラフルな教科書きょうかしょ・参考さんこう書しょを作つくっている最中さいちゅうの脳波のうはを測定そくていしてみれば、記憶きおくをつかさどる海馬かいばよりも視覚しかくをつかさどる後のち頭あたま葉はが活性かっせい化かしているだろう。

誰だれがために紙かみを貼はる：注意ちゅうい喚起かんきにおけるグレシャムの法則ほうそく

もちろん教科書きょうかしょ等とうの重要じゅうよう箇所かしょを蛍光けいこうペンで強調きょうちょうすること自体じたいは意味いみがある行為こういだろう。しかし「強調きょうちょうされていない箇所かしょを見みつけるのが難むずかしいほどに」強調きょうちょう箇所かしょが多おおくなればもはや何なにも強調きょうちょうしていないのと同おなじである。

注意ちゅういを向むけるべき場所ばしょが多おおくなりすぎれば、注意ちゅういの総量そうりょうは変かわらないのだからひとつひとつに対たいする注意ちゅういの量りょうは減へり、かえって注意ちゅうい散漫さんまんになって暗記あんきは難むずかしくなる。

これを傍証ぼうしょうする例れいとして実在じつざいする温泉おんせん浴場よくじょうの例れいがある。脱衣だつい所しょから洗あらい場ばにつづく戸とには「すべります！　転倒てんとう注意ちゅうい」という古ふるい張はり紙がみがしてある。その温泉おんせんの泉いずみ質しつには特有とくゆうのヌメリがあり過去かこに転ころんで大たいけがした人ひとが何人なんにんもいるそうだ（何なにを隠かくそう私わたしもその中なかの一人ひとりだ）。

いざ洗あらい場ばに入はいってみると、ボイラー機器ききのところには「高温こうおんのためタオルを置おかないでください！」。湯船ゆぶねのところには「段差だんさがあります！」。挙句あげくの果はてには「洗面せんめん器きはゆずりあって使つかいましょう！」とか「サウナ内ないでの大おおきな声こえでの会話かいわはお控ひかえください！」といった、あまり重要じゅうよう性せいがないものまで同どうじ大おおきさの張はり紙がみがしてあることに気きが付つく。

張はり紙がみの古ふるさから推測すいそくするに最初さいしょは本当ほんとうに重要じゅうような転倒てんとう注意ちゅういの張はり紙がみだけだったのだろう。しかし、張はり紙がみの効果こうかによって転倒てんとう事故じこがなくなってくると、より軽微けいびな問題もんだいが目めにつくようになる。そこで次つぎにそうした軽微けいびな問題もんだいに対処たいしょするための張はり紙がみが増ふえ、段々だんだんとほとんど意味いみのない張はり紙がみであふれていく。

ただし、それぞれの張はり紙がみに配分はいぶんされる注意ちゅういの量りょうは変かわらない。そのため「どうでもいい問題もんだいへの注意ちゅういが重要じゅうような問題もんだいへの注意ちゅういを締しめ出だす」という、注意ちゅういにおける「グレシャムの法則ほうそく（悪貨あっかは良貨りょうかを駆逐くちくする）」というべき状況じょうきょうが生うまれる。こうして大だい事故じこは繰くり返かえされるわけだ（何なにを隠かくそう私わたしもそうして頭あたまにたんこぶをもらった一人ひとりだ）。