最初さいしょに小ちいさなひっかかりがあった。

２話わの最後さいご、「今日きょう、正人まさとくんどうしたの」という質問しつもんに「お父とうさんが見みててくれるから大丈夫だいじょうぶ」と答こたえた犬島いぬじま渚なぎさ（仲なか里依りえ紗しゃ）の言葉ことば。

渚なぎさの親おやの世代せだいで、一人ひとりで乳幼児にゅうようじをきちんと預あずかることが出来できる老父ろうふは珍めずらしいんじゃないかと思おもった。

その小ちいさなひっかかりの答こたえを、今回こんかい知しることになった。

１９８６年ねんに生いきる小川おがわ市郎いちろう（阿部あべサダヲ）は、生徒せいとに『地獄じごくのオガワ』とあだ名なされる中学ちゅうがくの体育たいいく教師きょうし。あだ名なの通とおりハートは熱あついがガサツ。ジェンダー、パワハラ配慮はいりょなし。

そんな小川おがわ市郎いちろうが、令れい和わの現代げんだいにタイムスリップしてしまう。

令れい和わの世よにはあり得えない雑ざつな言動げんどうで騒さわぎを引ひき起おこすものの、その破天荒はてんこうさがうけてしまい、テレビ局てれびきょくでアドバイザーを務つとめることに。

小川おがわはテレビ局てれびきょくで働はたらくシングルマザーの渚なぎさと意気投合いきとうごうし、いい雰囲気ふんいきになりかけるが、小川おがわの娘むすめ・純子じゅんこ（河合かわい優ゆう実み）の名前なまえから、渚なぎさは小川おがわの孫まごだと判明はんめいする。

しかし渚なぎさが会あってほしいと連つれてきたのは、渚なぎさの父親ちちおやで『ゆずる』と名乗なのる男おとこ（令れい和わ・古田ふるた新太あらた　昭和しょうわ・錦戸にしきど亮あきら）だけだった。

二人ふたりの話はなしによると純子じゅんこは離婚りこんして海外かいがいに行いったというが、どうも様子ようすが怪あやしい。

そして小川おがわと逆ぎゃくに、令れい和わから昭和しょうわへタイムスリップしている向坂さきさかサカエ（吉田よしだ羊ひつじ）と息子むすこのキヨシ（坂元さかもと愛あい登とう）は、不ふ登校とうこうでまだ出会であったことのない同級生どうきゅうせいの存在そんざいを知しる。

クドカンドラマの中なかに潜ひそむのは…

ドラマ全体ぜんたいの折おり返かえしに、宮藤くどう官かん九きゅう郎ろうがアクセルを踏ふみ込こんできた。

怒濤どとうの笑わらいと胸むねにせまる悲かなしみがごちゃ混まぜになって、それをエピソードとしてまとめあげる。その腕うでは宮藤くどう官かん九きゅう郎ろうならではだ。

そもそも古田ふるた新太あらたの若わかい頃ころが錦戸にしきど亮あきらという無理むり筋すじを、前半ぜんはんは『覇者はしゃ』『肩かたパッド』『許ゆるしを請こうダンス』で大笑おおわらいさせておいて、それでも最後さいごには見みる者ものを思おもわず泣なかせてしまうのである。

クドカンの頭あたまの中なかでは、笑わらいと哀かなしみの境界きょうかい線せんでどんな化学かがく変化へんかが起おきているのかと改あらためて不思議ふしぎに思おもう。

軽薄けいはくに見みえて実じつは誠実せいじつで愛情あいじょう深ふかかった婿むこが、最初さいしょに作つくりたいと願ねがったのが義父ぎふの背広せびろなのも、純子じゅんこが父ちちを東京とうきょうまで迎むかえに行いったのも、採寸さいすんが上手うまくいかなかったのも、飲食いんしょく店てんで朝あさまで語かたり明あかしたのも、何なにもかもそれぞれの愛情あいじょうゆえだった。

その互たがいの愛情あいじょうのベクトルが父ちちと娘むすめをこの世よから連つれて行いってしまう残酷ざんこくさに、ただただ胸むねが詰つまる。

『あまちゃん』（NHK）『いだてん』（NHK）『俺おれの家いえの話はなし』（TBS系けい）そして今いま作さく。クドカンが描えがくドラマには、ありふれた愛あいおしい日々ひびの中なかに影かげのように災害さいがいや死しの不条理ふじょうりが潜ひそんでいる。

だがその理不尽りふじんと同おなじくらい、そこから日常にちじょうに立たち戻もどる人々ひとびとの営いとなみも丁寧ていねいに描えがかれる。

真実しんじつを告つげ、深々ふかぶかと詫わびて頭あたまを下さげたゆずるに、小川おがわが「で？背広せびろは？」と力強ちからづよく促うながした言葉ことばは、それでもきっとお前まえはあの背広せびろを縫ぬい上あげただろう、絶望ぜつぼうの中なかで仕事しごとを全まっとうしただろうという確信かくしんあってのものだった。

そして、最後さいごに背広せびろ姿すがたの小川おがわを見みて、渚なぎさが誇ほこらしげに「当あたり前まえだよ！父とうさんが仕立したてたんだから！」と言いったその言葉ことば一ひとつで、父ちちと娘むすめで寄より添そって生いきた年月としつきが分わかって胸むねが熱あつくなる。

ゆずるが縫ぬい上あげたそれは、まさしく『父ちちの背広せびろ』であった。スーツでもジャケットでもなく背広せびろ。裏地うらじに漢字かんじで名前なまえが縫ぬわれた背広せびろ。

背広せびろを着きてタバコを取とり出だし、火ひをつける小川おがわ市郎いちろうは実じつに格好かっこうよかった。タフな昭和しょうわのお父とうさんの格好かっこうよさだった。

そして、それは令れい和わの今いまは通用つうようしない失うしなわれた格好かっこうよさであるからこそ、尚更なおさら素敵すてきに見みえた。

ちなみに宮藤くどう官かん九郎くろうは、その作品さくひんの中なかで美形びけいを美形びけいに見みせなくする名人めいじんである。

数すう多おおくの時代じだいをときめくイケメンたちがクドカンの手てにかかると「残念ざんねんな愛あいすべきポンコツ」になってしまうのである。

錦戸にしきど亮あきらは、そんなクドカンの魔力まりょくで大おおいに輝かがやく俳優はいゆうである。

今回こんかいも顔かおは良よいのに何なにだかなあ、な男おとこに見事みごとにハマっていた。

やっぱりクドカン作品さくひんの錦戸にしきど亮あきらは、とてもいい。

今回こんかいは切せつない令れい和わパートではあったが、昭和しょうわではキヨシが見知みしらぬ不ふ登校とうこうの同級生どうきゅうせいと繋つながろうとするエピソードが始はじまった。

このドラマの中なかで、マスメディアの主流しゅりゅうとして描えがかれるテレビとは対照たいしょう的てきな魅力みりょくを持もつメディアとして、ラジオがピックアップされようとしている。

そして、仮かりに自分じぶん自身じしんの天命てんめいを受うけ入いれたとしても、果はたして小川おがわは愛娘まなむすめの死しを黙認もくにんできるのだろうか。

少すこしでも光ひかりがさす展開てんかいになるといいなと思おもう。

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[文ぶん・構成こうせい／grape編集へんしゅう部ぶ]