古典中の古典である長編小説『源氏物語』とは
『源氏物語』は平安時代中期の1008年頃に成立した長編小説。20ヶ国以上の言語に翻訳され、世界的にも高い評価を受けています。
作者は女性歌人で作家の紫式部で、『源氏物語』は彼女が遺した唯一の物語作品です。
およそ70年間におよぶ時代を描き、文字数はおよそ100万、タイトルのみの「雲隠」を含めて全54帖(巻)から成っています。(巻数については諸説あり)
登場人物は500人ほどで、彼らの心情に即した795首の和歌が詠まれており、全帖が紫式部による執筆ではないのではないかという説もあります。
これも諸説ありますが、3部構成と考えるのが一般的です。
- 第1部:「桐壺」から「藤裏葉」まで。主人公光源氏の誕生と栄光を描いている。
- 第2部:「若菜」から「幻」まで。光源氏の苦悩と老いを描いている。
- 「雲隠」:タイトルのみで本文は無し。光源氏の死を示唆している。
- 第3部:「匂兵部卿」から「夢浮橋」まで。光源氏の死後を描いている。
第3部の最後の10帖は宇治を舞台としており、「宇治十帖」とも呼ばれています。各帖は1帖完結の構成で、その集合体として長大な物語ができあがっているのです。
光源氏と女性の愛の物語を中心に、紫式部から見た貴族社会に関わる女性の苦労話、藤原時代の摂関政治などが描かれています。
平安時代の公家文化の遺産とも言うべきこの物語は、多くの現代語訳がされています。明治から大正時代にかけては与謝野晶子、昭和に入ってからは谷崎潤一郎など、著名な文豪も手がけました。
また現代語訳以外にも、現代風に書きかえられた小説やコミックなど、手に取りやすいものが増え、気軽に平安時代の貴族社会に触れることができますよ。
『源氏物語』のあらすじ
第1部は主人公光源氏の愛の物語です。桐壺帝の子である光源氏は、幼い時に亡くした母に似ている後宮である藤壺、すなわち父の後妻に恋焦がれ、愛してしまいます。
源氏と藤壺の間には子どもが生まれるのですが、その子は桐壺帝の子として育てられました。さらに彼は、年上の葵の上との結婚、空蝉(うつせみ)、夕顔、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)と恋をし、まさに愛の遍歴のストーリーとなっているのです。
源氏は自分の政敵であった右大臣の娘、朧月夜(おぼろづきよ)と関係を持ったことから京を追われ、須磨での生活を余儀なくされましたが、そこで明石の君と出会います。
しかし右大臣が死んだ後は京に戻り、藤壺との子どもが冷泉帝となったことで勢いを盛り返し、六条院で栄華ある生活を送ります。
第2部では一転、源氏の苦悩の世界です。時の朱雀院が娘の女三宮を源氏に預けたため、源氏の本妻の立場にあった紫の上が病に伏してしまいます。
さらに女三宮は青年貴族の柏木と恋仲になって子どもを産み、そのことを知ってしまった源氏は老いていく自分の、過去の過ちへの反省心にさいなまれることになるのです。病気だった最愛の紫の上が死ぬに至り、ついに彼は出家することを決心しました。
第3部は源氏の死後の話で、最後の10帖の舞台は宇治へと移ります。ここでは源氏の孫たちと、大君中君の姉妹など、彼らを取り巻く女性との関係と苦悩が、光源氏よろしく再び展開されます。
長編ゆえに、数多くの人物が登場するのが『源氏物語』の特色です。多くの本には人間関係図が付いているので、それを利用しながら読み進めていくと分かりやすいでしょう。
『源氏物語』の作者、紫式部について
平安時代中期の物語作者、歌人であり、『源氏物語』のほかに『紫式部日記』も代表作にあげられます。漢学者の藤原為時の娘として生まれ、父の知人で役人の藤原宣孝と結婚しますが、早くに死別。自らの寂しさをなぐさめるために『源氏物語』を書きはじめたと言われています。
その才能が認められて一条天皇の中宮(皇后と同格の后)である藤原彰子に仕えますが、女房(宮中の部屋に住む高身分の女官)の生活になじめなかったことが自身の書いた物語にも反映されており、その苦労をうかがい知ることができるでしょう。
彰子の父である藤原道長にも厚遇され、女房名を「藤(とう)式部」と名乗りました。後世に、登場人物のひとり「紫の上」にちなんで「紫式部」と呼ばれるようになったと考えられています。
一条天皇や中宮彰子、そして藤原道長も読んだとされる『源氏物語』。当時の天皇や貴族にまで人気があったのは、ストーリー性に富み、現実の人間関係に近いリアリズムとしての物語を描いた彼女の作家としての実力と言ってもいいでしょう。