小説『南総里見八犬伝』の内容がざっくりわかる!簡単なあらすじと特徴
内容は冒険ファンタジー!
室町時代、妖女・玉梓の呪いにより、安房国の武将である里見家の娘・伏姫は、飼犬・八房の妻となります。伏姫が死ぬ時に飛び散った8つの数珠の玉には仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字がありました。これにより、関八州に生まれた八剣士が織りなす長い物語が始まります。
上田秋成の『雨月物語』などと並んで江戸時代の戯作文芸、つまり通俗娯楽小説の代表作です。『雨月物語』が怪異を美しい情緒とともに描いたのに対して、本作は冒険ファンタジーとなっています。
- 著者
- 曲亭馬琴
- 出版日
- 2003-02-05
『水滸伝』と中国古典の影響
本作が『水滸伝』の影響を受けていることは有名で、神秘的な因縁で結び付いた英雄たちが集結するという設定はよく似ています。また合戦の描写も『水滸伝』や『三国志演義』を下敷きにしたものです。
作者の滝沢馬琴は、自ら『水滸伝』を翻訳するほど中国古典に詳しい教養人で、このほかにも『捜神記(そうしんき)』や中国の説話、歴史書などの影響が見られます。
モデルとなった地域と史実
この作品自体はフィクションですが、モデルになった地域や史実もあり、聖地と呼ばれる場所も各地に存在します。たとえば、里見家は南房総を拠点とした実在の武将で、戦国時代には千葉県の久留里城の城主でした。また館山城の築上を命じたのも彼らといわれます。
江戸時代に入ると、彼らは幕府によって現在の鳥取県倉吉市に移され、その地で大名家としては断絶しました。その際、8人の側近が殉死し、彼らが八犬士のモデルであるとする説もあります。
八犬士のうちの2人、犬塚信乃と犬飼見八が互いの因縁を知らずに対決する芳流閣の決闘は屈指の名場面の1つとされますが、舞台となる芳流閣は、現在の茨城県古河市にあった古河城がモデルとされています。
現代に続く本作の影響
後の文化に与えた影響は絶大で、現代に至るまで数知れぬエンターテインメント作品に影響を及ぼしている本作。浮世絵でも繰り返し題材にされ、歌川国芳や月岡芳年などの人気絵師も競って描きました。歌舞伎では刊行中からすでに演目として成立し、上演されたほどです。
また、現代でもさまざまな作品の原作となっています。深作健太演出による舞台『里見八犬伝』は2012年に初演され、2014年と2017年に山崎賢人主演で再演されています。
映画化も繰り返しなされましたが、1959年、内出好吉監督の『里見八犬伝』『里見八犬伝:妖怪の乱舞』『里見八犬伝:八剣士の凱歌』の3部作が代表的なものでしょう。また1983年の深作欣二監督、薬師丸ひろ子、真田広之らが出演した作品も有名です。
テレビドラマでは1960年代に、フジテレビと当時のNETで制作されています。1973~1975年にNHKで放送された人形劇『新八犬伝』は辻村ジュサブローによる人形美術が大人気でした。
『南総里見八犬伝』の登場人物を紹介!
主人公の八犬士たちを紹介する前に、物語の発端に関るキャラクターを紹介しましょう。
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玉梓
安房滝田城主・神余光弘の妾でしたが、家来の山下定包と密通しており、神余の死後は山下の正妻となりました。山下は計略で神余を殺した男ですから、夫の仇と結婚したわけです。序盤最大の悪役で、里見義実に捕えられ、1度は許すといわれたにも関わらず処刑されたのが原因で、里見家を呪います。
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伏姫
八犬士の霊的な母親です。彼女が死ぬ時に飛び散った8つの玉が、八犬士を生み出します。死後は「伏姫神」となって登場し、彼らを守ります。
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丶大法師(ちゅだいほうし)
元里見家家臣。伏姫の死後は出家して、飛び散った玉の行方を捜します。
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蜑崎照文
丶大と一緒に八犬士探索を行います。
それでは、いよいよ八犬士の紹介です。「犬」の字が付く名字を持つ彼らは、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字のある数珠の玉を持ち、身体のどこかに牡丹の形の痣があります。玉に書かれた文字は、それぞれ儒教における8つの徳の理念を表したものです。以下から、物語での登場順にご紹介します。
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犬塚信乃
孝の玉を持ちます。元服まで性別を入れ替えて育てると丈夫に育つというい伝えから、女の子の姿で育てられました。読者の前に最初に姿を現す犬士です。
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犬川荘助
荘介の表記もあります。儀の玉を持ちます。下男として酷使されたり、主人殺しの罪を着せられて処刑されかけたりと、八犬士随一の苦労人です。
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犬山道節
忠の玉を持ちます。幼少時に父の妾に毒殺されましたが、墓の中で生き返りました。火遁の術を使う、いわば忍者ですが、ちょっと短気で短慮なところがあります。
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犬飼現八
信の玉を持ちます。見八から現八に改名しました。因縁を知らずに信乃と戦います。次に紹介する犬田小文吾とは乳兄弟です。
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犬田小文吾
悌の玉を持ちます。次に紹介する犬江親兵衛の伯父にあたる人物です。巨漢で、相撲を得意とし、暴れ牛を取り押さえる活躍もします。
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犬江親兵衛
仁の玉を持ちます。最年少の犬士です。生まれつき左手が開きませんでしたが、実はここに玉を握っていました。初登場時は4歳。神隠しに遭い、伏姫神の庇護のもと富山で育てられます。後半の主人公です。母親のぬいは小文吾の妹です。
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犬坂毛野
智の玉を持ちます。毛野も女装で育てられます。それに相応しい美貌の持ち主で、小文吾に結婚を申し込んだ際には、男性であると疑われることなく承諾されました。また、八犬士随一の知略の持ち主でもあります。
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犬村大角
礼の玉を持ちます。父親に化けた化猫に虐待されたため、伯父・犬村儀清に引き取られ、犬村家の一人娘、雛衣と結婚。現八の助力と雛衣の犠牲により、化け猫を倒します。古今の書物に精通している人物です。
続いて敵のキャラクターを紹介します。
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船虫
繰り返し犬士たちを陥れようとする悪女。
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妙椿
さまざまな妖術を操る比丘尼。正体は富山の牝狸です。玉梓の霊が取り憑いています。
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扇谷定正
関東管領。八犬士と里見家の最大の敵、ラスボスです。
作者・曲亭(滝沢)馬琴とは?
彼は、1767~1848年に活躍した江戸時代後記の読本作家です。著書には『椿説弓張月』などがあります。日本では、原稿料のみで生計を立てられたようになった最初の作家は彼だったといわれています。
しかし、この時代にはまだ印税制度はなく、生活は貧しいものでした。滝沢馬琴の名でも知られますが、これは明治以降に流布した表記です。