作品の魅力1:ガンダムの生みの親、富野由悠季による正統続編
「閃光のハサウェイ」最大の魅力は、なんといっても、ガンダムを生み出した監督・富野由悠季が直々に手がけた作品ということでしょう。シリーズの表裏を知り尽くし、部外者が知ることも出来ないボツ設定まで参照出来る作者が、超名作「逆襲のシャア」の続編として発表したとあっては、ガンダムファン必読です。
刊行された1989年の時点では、映画『機動戦士ガンダムF91』が製作されるまで、ガンダムシリーズとしてはもっとも未来の宇宙世紀の話だったということも、注目すべき点です(「閃光のハサウェイ」以前にも宇宙世紀0200年代の『ガイア・ギア』という作品がありましたが)。
また作者が作者だけに、ファンにはお馴染みとなっている独特な台詞回し、通称「富野節」も健在。
やっているけど、カーゴが死んじまっては、乗りうつったら死ぬよ
(『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』上巻より引用)
こういったところも、本作注目のポイントです。
作品の魅力2:新型ガンダムの勇姿とライバル機
ガンダムというコンテンツは、今や単一の作品の枠を越えて1つのブランドと化しており、そこで描かれる出来事や設定は「歴史」と呼んで差し支えないほど膨大なものとなっています。
ガンダムシリーズは大まかに「宇宙世紀モノ」と、世界観の異なる「アナザーガンダム」の2つに分けることが出来ます(『∀ガンダム』の設定まで語ると長くなるので割愛)。初代から続く宇宙世紀の作品は正史とされ、それらに登場する機動兵器「モビルスーツ(MS)」は、時代によって変化していきます。
特に、宇宙世紀0100年代はMSの恐竜的進化(巨大化、複雑化、重武装化に由来するたとえ)といわれる、軍事技術の全盛期です。
そうした背景のもと、宇宙世紀の技術全部盛りのようなMSとして主役機「Ξガンダム」が出てきます。「Ξ」は14番目のギリシャ文字で、13番目の文字「ν(ニュー)」、つまり「νガンダム」の後継という意味で名付けられました。
Ξの全体的なデザインはZZガンダム、あるいはSガンダムの系譜が感じられるでしょう。νガンダムの影響が色濃く見えるユニコーンガンダムと比べると(『機動戦士ガンダムUC』は後付けなので当然ですが)、νの後継という割りにはやや異端に見えるかもしれません。
重力下でも自由に飛行出来るミノフスキークラフトを搭載した、画期的なMSです。後の時代でも、同様の機能を持つのはV2ガンダムなどのごく限られた機体だけなので、いかに優れた性能かおわかりいただけるのではないでしょうか。
そんなΞのライバルMSが、「ペーネロペー」です。名前からはわかりませんが、こちらもガンダムタイプのMS。後付けですが、オデュッセウスガンダムという機体にフライトユニットを装着した姿とされました。
どちらもアナハイム・エレクトロニクス製で兄弟機のような関係にあり、性能はほぼ互角。当初はシャアの反乱で実戦経験のあるハサウェイが有利でしたが、ペーネロペーのパイロットであるレーン・エイムも急成長していきます。
小説『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』上巻の見所をネタバレ紹介!
月から密かに送り出されたガンダム受領のため、高官向けシャトル「ハウンゼン」に乗船していたハサウェイは、数奇な運命の巡り合わせで反乱組織「マフティー」殲滅の任を負った軍人ケネスと懇意になります。
彼はケネスら連邦の目を狡猾にかいくぐり、Ξガンダムに乗り込むこと自体には成功します。が、直前に隕石に偽装したガンダム降下を察知されたことで、ケネス率いるキルケー部隊と接触。新鋭MSペーネロペーとの戦闘に突入するのでした。
- 著者
- 富野 由悠季
- 出版日
- 1989-02-13
物語を重層的に見せる登場人物の因縁作りは、さすが富野監督の手腕と唸らせられるでしょう。見所となるMS戦闘においても、まずマフティー軍の量産機であるメッサーとペーネロペーに先に戦わせておいて、性能差を実感させてから主役機との対決に持ち込むところが見事です。
まずはゲリラ戦を得意とする「マフティー」の勝利に終わりますが、果たして……。