スラップスティック・コメディ

スラップスティック・コメディ（英えい: slapstick comedy）とは、コメディのジャンルの一ひとつ。観客かんきゃくを笑わらわせることおよび観客かんきゃくの笑わらいを引ひき出だすことを主おも目的もくてきとした喜劇きげきの中なかでも、とくに体からだを張はった表現ひょうげん形態けいたいを指さす。サイレント映画えいがにおいて盛さかんに制作せいさくされ、「映画えいが独自どくじの形式けいしきをもった喜劇きげき」としてコメディ映画えいがの一いちジャンルと定義ていぎづけられることもある^[1]。日本にっぽんでは「ドタバタ喜劇きげき」と訳やくされることが多おおいが、厳密げんみつには異ことなる^{[注釈ちゅうしゃく 1]}。単たんにスラップスティック^[2]、スラプスティック^[3]とも。

アメリカのサイレント映画えいがで、マック・セネットがプロデュースしたキーストン喜劇きげきが代表だいひょう的てきなもの^[4]。

名前なまえの由来ゆらい

スラップスティック。画像がぞうは上下じょうげが逆ぎゃく

「スラップスティック」とは、叩たたく（スラップ）棒ぼう（スティック）の意い。もともとはアメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくの道化どうけ芝居しばいで相手あいてをひっぱたくときに使つかわれた、先さきが二ふたつに割われた棒ぼうのこと（振ふるった時ときの音おとは大おおきいがあまり痛いたくなく、日本にっぽんのハリセンのようなものと考かんがえて差さし支つかえない。使つかう時ときは跳はねて音おとを出だす可動かどう側がわを上うえにする）。これが転てんじて舞台ぶたい喜劇きげきのドタバタ芸げいを指さすようになり、さらに転てんじて、動うごきの多おおいコメディ映画えいがをそう呼よぶようになった。

映画えいがにおける流行りゅうこうと廃すたれ

叩たたいたり叩たたかれたり、追おいかけたり追おいかけられたり、あるいはパイを投なげ合あったりといった体からだを張はった演技えんぎは、映画えいがが音声おんせい・音響おんきょう、特とくに俳優はいゆうの語かたる言葉ことばを持もたなかったサイレント時代じだい初期しょきに広ひろく流行りゅうこうした。

しかし、映画えいがの主流しゅりゅうが短編たんぺんから長編ちょうへんへと移行いこうするにつれ、物語ものがたりの比重ひじゅうが重要じゅうようになり、さらにトーキーに移行いこうすることで、大おおげさな体技たいぎによる笑わらいから、セリフによる笑わらいへと変化へんかしていったことなどから徐々じょじょに廃すたれていき、現在げんざい^[いつ?]ではほとんど作つくられることがなくなっている^{[要よう出典しゅってん]}。

（参考さんこう：年代ねんだい別べつリスト（英語えいご版ばん））

代表だいひょう的てきなコメディアン

コメディアン以外いがいでスラップスティック・コメディー制作せいさくに関かかわった主おもな人々ひとびと

プロデューサー

ハル・ローチ（英語えいご版ばん） - ハロルド・ロイド主演しゅえん作品さくひんなど
ジョセフ・M・シェンク - バスター・キートン主演しゅえん作品さくひんなど
アーヴィング・タルバーグ - マルクス兄弟きょうだい主演しゅえん作品さくひんなど

監督かんとく

マック・セネット - キーストン・スタジオ等とうで多数たすう
フレッド・C・ニューメイヤー（英語えいご版ばん） - ハロルド・ロイド主演しゅえん作品さくひんなど
サム・テイラー (映画えいが監督かんとく)（英語えいご版ばん） - ハロルド・ロイド主演しゅえん作品さくひんなど
エドワード・クライン（英語えいご版ばん） - バスター・キートン主演しゅえん作品さくひんなど
クライド・ブルックマン（英語えいご版ばん） - バスター・キートン主演しゅえん作品さくひんなど
ジェームズ・W・ホートン（英語えいご版ばん） - バスター・キートン主演しゅえん作品さくひんなど
エドワード・セジウィック（英語えいご版ばん） - バスター・キートン主演しゅえん作品さくひんなど
ジュールス・ホワイト（英語えいご版ばん） - バスター・キートン、三さんばか大将たいしょう主演しゅえん作品さくひんなど
チャールズ・ラモント（英語えいご版ばん） - バスター・キートン、アボット&コステロ主演しゅえん作品さくひんなど
チャールズ・ライスナー（英語えいご版ばん） - バスター・キートン、マルクス兄弟きょうだい、アボット&コステロ主演しゅえん作品さくひんなど（俳優はいゆうとしても活動かつどうし、チャップリン作品さくひんにも出演しゅつえん）
フランク・キャプラ - ハリー・ラングドン主演しゅえん作品さくひんなど
レオ・マッケリー - ローレル&ハーディ、マルクス兄弟きょうだい、ハロルド・ロイド各かく主演しゅえん作品さくひんなど
サム・ウッド - マルクス兄弟きょうだい主演しゅえん作品さくひんなど
エドワード・バゼル（英語えいご版ばん） - マルクス兄弟きょうだい主演しゅえん作品さくひんなど
アーサー・ルービン（英語えいご版ばん） - アボット&コステロ主演しゅえん作品さくひんなど
プレストン・スタージェス^[5] - 「結婚けっこん五ご年ねん目め」^[6]など
ノーマン・タウログ - ディーン・マーティン&ジェリー・ルイス主演しゅえん作品さくひんなど
フランク・タシュリン - ジェリー・ルイス主演しゅえん作品さくひんなど
ブレイク・エドワーズ - 「ピンク・パンサー」シリーズなど
ルイ・マル - 「地下鉄ちかてつのザジ」
リチャード・レスター - ビートルズ主演しゅえん作品さくひんなど
ジョン・ランディス - 「ブルース・ブラザース」など
山本やまもと嘉次郎かじろう - 榎本えのもと健一けんいち主演しゅえん作品さくひんなど
斎藤さいとう寅次郎とらじろう - 「子宝こだから騒動そうどう^[7]」など
川島かわしま雄三ゆうぞう - 「幕末ばくまつ太陽たいよう傳でん」など^[8]
中平なかひら康やすし - 「牛乳ぎゅうにゅう屋やフランキー」^[9]
前田まえだ陽一よういち - コント55号ごう主演しゅえん作品さくひんなど

参考さんこう資料しりょう

『世界せかいの喜劇きげき人じん』（小林こばやし信彦のぶひこ著ちょ、1983年ねん、新潮社しんちょうしゃ ISBN 4101158061）
『サイレント・コメディ全ぜん史し』（新野しんの敏也としや著ちょ、1992年ねん、喜劇きげき映画えいが研究けんきゅう会かい ISBN 978-4906409013）
『〈喜劇きげき映画えいが〉を発明はつめいした男おとこ　帝王ていおうマック・セネット、自みずからを語かたる』（マック・セネット著しる、石野いしのたき子こ訳やく／新野しんの敏也としや監訳かんやく、2014年ねん、作品社さくひんしゃ ISBN 978-4861824722）

外部がいぶリンク

スラプスティック・コメディ - コトバンク
『喜劇きげきの王様おうさまたち（When Comedy Was King）』 - ロバート・ヤングソン（Robert Youngson）編集へんしゅうのサイレント・コメディのアンソロジー。ハロルド・ロイドを除のぞく当時とうじの代表だいひょう的てきコメディアンのほとんどが見みられる^[1]。1960年ねん。
『喜劇きげきの大将たいしょう（30 Years of Fun』 - ロバート・ヤングソン監督かんとく。1962年ねん^[10]。サイレント・コメディのアンソロジー。
『シネブラボー!（Cine Bravo!）』 - ロバート・ヤングソン製作せいさく。1972年ねん。サイレント・コメディのアンソロジー。
喜劇きげき映画えいが研究けんきゅう会かい
Hollywood Pt. 08 Comedy a Serious Business - インターネット・アーカイブ。テムズ・テレビジョンの『Hollywood』で採とり上あげられたサイレント・スラップスティックコメディのドキュメンタリー。
16 Of Cinema’s Greatest Slapstick Moments - 2012年ねんの英えいエンパイア誌しが選出せんしゅつした「最高さいこうのスラップスティックシーン16」。
COMEDY’S GREATEST ERA – BY JAMES AGEE - 1949年ねん、雑誌ざっし"ライフ"に掲載けいさいされた映画えいが評論ひょうろん家かのジェームス・エイジーのエッセイ（小林こばやし信彦のぶひこの「世界せかいの喜劇きげき人じん」で「喜劇きげき華はなやかなりし頃ころ」の邦題ほうだいで紹介しょうかいしている）。この中なかでサイレント・コメディの黄金おうごん時代じだいを振ふり返かえり、このジャンルの「4人にんの最もっとも著名ちょめいな巨匠きょしょう」はチャーリー・チャップリン、バスター・キートン、ハロルド・ロイド、そしてハリー・ラングドンである、と宣言せんげんした。

脚注きゃくちゅう

注釈ちゅうしゃく

^ 小林こばやし信彦のぶひこによると、日本にっぽんで「ドタバタ喜劇きげき」と呼よばれるものはアドリブの要素ようそが大おおきく、個々ここの演者えんじゃの能力のうりょくに依拠いきょする部分ぶぶんが大おおきいのだが、「スラップスティック・コメディ映画えいが」は綿密めんみつな構成こうせいと入念にゅうねんな打うち合あわせや準備じゅんびを要ようするもので、本質ほんしつ的てきに異ことなるという^{[要よう出典しゅってん]}。

脚注きゃくちゅう

^ ^a ^b 新潮社しんちょうしゃ、SHINCHO ONLINE BOOKS、『世界せかいの喜劇きげき人じん』小林こばやし信彦のぶひこ著ちょ、「第だい二に部ぶ喜劇きげき映画えいがの衰退すいたい　序章じょしょう遥はるかなる喝采かっさい」
^ "スラップスティック". 小学しょうがく館かん「デジタル大辞泉だいじせん」. コトバンクより2022年ねん2月がつ6日にち閲覧えつらん。
^ "スラプスティック". 平凡社へいぼんしゃ「世界せかい大だい百科ひゃっか事典じてん第だい２版はん」. コトバンクより2022年ねん2月がつ6日にち閲覧えつらん。
^ "スラップスティック・コメディ". ブリタニカ国際こくさい大だい百科ひゃっか事典じてん小しょう項目こうもく事典じてん. コトバンクより2022年ねん2月がつ6日にち閲覧えつらん。
^ 有森ありもり由紀子ゆきこ「プレストン・スタージェス作品さくひんにおけるアメリカの悲喜劇ひきげき :『偉大いだいなるマッギンティ』と『サリヴァンの旅たび』を中心ちゅうしんとして」『人間にんげん・環境かんきょう学がく』第だい23巻かん、京都きょうと大学だいがく大学院だいがくいん人間にんげん・環境かんきょう学がく研究けんきゅう科か、2014年ねん12月、43-56頁ぺーじ、CRID 1050564285767046784、hdl:2433/199846、ISSN 0918-2829。
^ “『結婚けっこん五ご年ねん目め』（1942年ねん・パラマウント・プレストン・スタージェス）｜佐藤さとう利明としあき（娯楽ごらく映画えいが研究けんきゅう家か・オトナの歌謡かよう曲きょくプロデューサー）の娯楽ごらく映画えいが研究所けんきゅうじょ”. note（ノート） (2022年ねん3月がつ19日にち). 2023年ねん6月がつ5日にち閲覧えつらん。 “社会しゃかい的てきなメッセージやメロドラマ要素ようそを排はいして、ひたすらドライに、スラップスティックとソフスティケイテッドな味あじわいを追求ついきゅう。”
^ “子宝こだから騒動そうどう”. www.shochiku.co.jp. 2023年ねん12月9日にち閲覧えつらん。
^ 小林こばやし信彦のぶひこ「第だい四よん章しょう　その後ごのスラップスティック　アメリカ　フランス　ソ連それん　日本にっぽん」『日本にっぽんの喜劇きげき人じん』新潮社しんちょうしゃ、1982年ねん。ISBN 4101158045。
^ 小林こばやし信彦のぶひこ「第だい四よん章しょう　その後ごのスラップスティック　アメリカ　フランス　ソ連それん　日本にっぽん」『日本にっぽんの喜劇きげき人じん』新潮社しんちょうしゃ、1982年ねん。
^ Youngson, Robert (1963-02-10), 30 Years of Fun, Robert Youngson Productions, https://www.imdb.com/title/tt0056799/ 2023年ねん1月がつ15日にち閲覧えつらん。

[2] 小林こばやし信彦のぶひこによると、日本にっぽんで「ドタバタ喜劇きげき」と呼よばれるものはアドリブの要素ようそが大おおきく、個々ここの演者えんじゃの能力のうりょくに依拠いきょする部分ぶぶんが大おおきいのだが、「スラップスティック・コメディ映画えいが」は綿密めんみつな構成こうせいと入念にゅうねんな打うち合あわせや準備じゅんびを要ようするもので、本質ほんしつ的てきに異ことなるという^{[要よう出典しゅってん]}。

[名前なし-1] 新潮社しんちょうしゃ、SHINCHO ONLINE BOOKS、『世界せかいの喜劇きげき人じん』小林こばやし信彦のぶひこ著ちょ、「第だい二に部ぶ喜劇きげき映画えいがの衰退すいたい　序章じょしょう遥はるかなる喝采かっさい」

[3] "スラップスティック". 小学しょうがく館かん「デジタル大辞泉だいじせん」. コトバンクより2022年ねん2月がつ6日にち閲覧えつらん。

[4] "スラプスティック". 平凡社へいぼんしゃ「世界せかい大だい百科ひゃっか事典じてん第だい２版はん」. コトバンクより2022年ねん2月がつ6日にち閲覧えつらん。

[5] "スラップスティック・コメディ". ブリタニカ国際こくさい大だい百科ひゃっか事典じてん小しょう項目こうもく事典じてん. コトバンクより2022年ねん2月がつ6日にち閲覧えつらん。

[6] 有森ありもり由紀子ゆきこ「プレストン・スタージェス作品さくひんにおけるアメリカの悲喜劇ひきげき :『偉大いだいなるマッギンティ』と『サリヴァンの旅たび』を中心ちゅうしんとして」『人間にんげん・環境かんきょう学がく』第だい23巻かん、京都きょうと大学だいがく大学院だいがくいん人間にんげん・環境かんきょう学がく研究けんきゅう科か、2014年ねん12月、43-56頁ぺーじ、CRID 1050564285767046784、hdl:2433/199846、ISSN 0918-2829。

[7] “『結婚けっこん五ご年ねん目め』（1942年ねん・パラマウント・プレストン・スタージェス）｜佐藤さとう利明としあき（娯楽ごらく映画えいが研究けんきゅう家か・オトナの歌謡かよう曲きょくプロデューサー）の娯楽ごらく映画えいが研究所けんきゅうじょ”. note（ノート） (2022年ねん3月がつ19日にち). 2023年ねん6月がつ5日にち閲覧えつらん。 “社会しゃかい的てきなメッセージやメロドラマ要素ようそを排はいして、ひたすらドライに、スラップスティックとソフスティケイテッドな味あじわいを追求ついきゅう。”

[8] “子宝こだから騒動そうどう”. www.shochiku.co.jp. 2023年ねん12月9日にち閲覧えつらん。

[9] 小林こばやし信彦のぶひこ「第だい四よん章しょう　その後ごのスラップスティック　アメリカ　フランス　ソ連それん　日本にっぽん」『日本にっぽんの喜劇きげき人じん』新潮社しんちょうしゃ、1982年ねん。ISBN 4101158045。

[10] 小林こばやし信彦のぶひこ「第だい四よん章しょう　その後ごのスラップスティック　アメリカ　フランス　ソ連それん　日本にっぽん」『日本にっぽんの喜劇きげき人じん』新潮社しんちょうしゃ、1982年ねん。

[11] Youngson, Robert (1963-02-10), 30 Years of Fun, Robert Youngson Productions, https://www.imdb.com/title/tt0056799/ 2023年ねん1月がつ15日にち閲覧えつらん。

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[注釈ちゅうしゃく 1]

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