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人智学 - Wikipedia

人智じんちがく(じんちがく)とは、ギリシア人間にんげん意味いみする ἄνθρωποςanthropos, アントローポス)と、叡智えいちあるいは知恵ちえ意味いみする σοφίαsophia, ソピアー)の合成ごうせい、すなわち逐語ちくごてきには「人間にんげん叡智えいち」を意味いみする ドイツ: Anthroposophie日本にっぽん訳語やくごである。ドイツおんからアントロポゾフィー音訳おんやくされる[* 1]

19世紀せいきまつから20世紀せいき初頭しょとうにかけてドイツけん中心ちゅうしんとするヨーロッパ活躍かつやくした哲学てつがくしゃ神秘しんぴ思想家しそうかルドルフ・シュタイナー(1861ねん-1925ねん)が自身じしん思想しそうして使つかった言葉ことばとして有名ゆうめいであるが、この言葉ことば自体じたい初期しょき近代きんだい近世きんせい)にすでに使用しようされている。[よう出典しゅってん]

人智じんちがくという言葉ことば使用しようしたドイツけん哲学てつがくしゃイマヌエル・ヘルマン・フィヒテイグナツ・パウル・ヴィタリス・トロクスラードイツばんは、人間にんげんにはちょう感覚かんかくてき存在そんざいとしての側面そくめんがあるというかんがかた提示ていじしたが、おなじく人智じんちがくという用語ようごもちいたシュタイナーの思想しそうもそのながれをいでいると高橋たかはしいわお指摘してきしている[1]

人智じんちがく(アントロポゾフィー)という言葉ことばは、ギリシア人間にんげんしめανθρωποςanthropos アントローポス)と叡智えいちあるいは知恵ちえしめσしぐまοおみくろんφふぁいιいおたαあるふぁsophia ソピアー)を合成ごうせいしたものである。シュタイナー思想しそう言葉ことばとしてひろられるが、シュタイナーの造語ぞうごではなく、初期しょき近代きんだい文献ぶんけんにもその使用しよう確認かくにんされている。それ以降いこうはイグナツ・パウル・ヴィタリス・トロクスラー(Ignaz Paul Vitalis Troxler, 1780ねん-1866ねん)や、ヨハン・ゴットリープ・フィヒテ息子むすこであり、ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル弟子でし右派うは)であるイマヌエル・ヘルマン・フィヒテにおいてもこの言葉ことば使用しようみとめられる。

シュタイナー以前いぜん歴史れきし

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16世紀せいき

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人智じんちがくAnthroposophie, アントロポゾフィー)という言葉ことばは、初期しょき近代きんだい時点じてんですでに使用しようされていることが確認かくにんされている。ルネサンス・プラトン主義しゅぎしゃ秘教ひきょう学者がくしゃとして有名ゆうめいドイツハインリヒ・コルネリウス・アグリッパはしはっするとみなされている、著作ちょさくしゃ不明ふめい魔術まじゅつしょ『アルバテル - 古人こじん魔術まじゅつについて : 至高しこう叡智えいち研究けんきゅう』(Arbatel de magia veterum, summum sapientiae studium, 1575)は、かみ智学ちがく (Theosophia) と人智じんちがく (Antroposophia〔ママ〕) を「善良ぜんりょうなる知識ちしき」に分類ぶんるいし、後者こうしゃには「自然しぜん事象じしょう知識ちしき」(Scientia rerum naturalium) と「人間にんげん事象じしょう洞察どうさつ」(Prudentia rerum humanarum) が該当がいとうするとしている[2]

イグナツ・パウル・ヴィタリス・トロクスラー

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19世紀せいき初頭しょとうには、スイス医師いしであり哲学てつがくしゃでもあるイグナツ・パウル・ヴィタリス・トロクスラー(1780ねん-1866ねん)が「人智じんちがく」という概念がいねんもちい、それを著作ちょさくなま智学ちがく要素ようそ』(1806ねん)にてなま智学ちがくどく: Biosophie, ビオゾフィー)〔βίος/bios:生命せいめい + σοφία/sophia:叡智えいち〕に分類ぶんるいした。生命せいめい哲学てつがくの、そしてまたなによりもトロクスラーにまなんだ自然しぜん哲学てつがくしゃシェリング先駆せんくしゃという意味いみにおいて、なま智学ちがくは「自己じこ認識にんしきとおして本性ほんしょう認識にんしき」を意味いみしている。トロクスラーは人間にんげん本性ほんしょうかんする認識にんしきのことを人智じんちがくんだ。かれにしたがえば、すべての哲学てつがく人智じんちがくにならなければならず、また、すべての哲学てつがく同時どうじ本性ほんしょう認識にんしきでなければならない。それは「本来ほんらいてき人間にんげん」にもとづいた「客観きゃっかんされた人間にんげんがく」(objektivierte Anthropologie) とかんがえられた。必然ひつぜんてきかみ世界せかいは、人間にんげん本性ほんしょうにおいて神秘しんぴてき過程かていとおして統一とういつされるのである。

イマヌエル・ヘルマン・フィヒテ

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かの有名ゆうめいヨハン・ゴットリープ・フィヒテ息子むすこであり、またゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル弟子でし右派うは)でもあるイマヌエル・ヘルマン・フィヒテも、この概念がいねん使用しようしている。かれは著書ちょしょ人間にんげんがく 人間にんげんたましいかんする学問がくもん』(1856ねん)のなかで、人智じんちがくとは「精神せいしんおこな委曲いきょくくした承認しょうにんのみ」における「人間にんげん根本こんぽんてき自己じこ認識にんしき」であるとした。「かみてき精神せいしん居合いあわせあるいは実証じっしょうを、みずからの内側うちがわけることのみ」以外いがい方法ほうほうで、「人間にんげん精神せいしん」はしかしそれをしん根本こんぽんてきにあるいは徹底的てっていてき認識にんしきすることはできないとした。

ギデオン・シュピッカー

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宗教しゅうきょう哲学てつがくしゃであるドイツギデオン・シュピッカードイツばん(1840ねん-1912ねん)は「宗教しゅうきょうに、哲学てつがくてき形式けいしきをもって自然しぜん科学かがくてき基礎きそあたえる」ことに心血しんけつそそぎ、信仰しんこう知識ちしきあるいは宗教しゅうきょう自然しぜん科学かがく葛藤かっとうを、みずからの人生じんせい思考しこう根本こんぽん問題もんだいであるとみなした。かれは「もっと高貴こうき自己じこ認識にんしき」という意味いみにおいて人智じんちがく要綱ようこう以下いかのように表現ひょうげんした。

科学かがくにおいての問題もんだい事物じぶつ認識にんしきである、一方いっぽう哲学てつがくにおいての問題もんだいはこの認識にんしきかんする認識にんしきさば最終さいしゅうてき審判しんぱんである。したがって人間にんげんつべき本来ほんらい研究けんきゅう課題かだいとは、人間にんげん自身じしんかんするものである。同時どうじにそれは哲学てつがく研究けんきゅうであり、その究極きゅうきょく到達とうたつてん自己じこ認識にんしきあるいは人智じんちがくである。
『シャフツベリー伯爵はくしゃく哲学てつがく』、1872ねん

シュピッカーの理想りそうは、理性りせい経験けいけん適用てきようにおける自己じこ責任せきにんもとづいた認識にんしきとして、宗教しゅうきょうなかでのかみ世界せかい統一とういつ包括ほうかつするものであった。

ロベルト・ツィンマーマン

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オーストリア哲学てつがくしゃでありヘルバルト主義しゅぎしゃでもあるロベルト・ツィンマーマンドイツばん(1824ねん-98ねん)は、いわゆる「哲学てつがく序論じょろん」の創始そうししゃでもある。かれは1882ねんみずからの著作ちょさくにおいて「人智じんちがく」という言葉ことばえらんだ(『人智じんちがく概論がいろん じつねんろんてき基礎きそもとづいた観念論かんねんろんてき世界せかい解釈かいしゃく体系たいけいのための草稿そうこう』、1882ねん)。その哲学てつがく講義こうぎわかかりしにルドルフ・シュタイナーも聴講ちょうこうしたことがあるというツィンマーマンは、「通俗つうぞくてき体験たいけん見地けんちにな制約せいやく矛盾むじゅん」をみずからの体系たいけいにおいて克服こくふくするために「人間にんげん哲学てつがく」を構築こうちくしようとした。それは経験けいけん科学かがくはしはっするものであるが、同時どうじ論理ろんりてき思考しこう必要ひつようとされる場合ばあい、それを超越ちょうえつするものでもあった。

ルドルフ・シュタイナー

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1880年代ねんだい中盤ちゅうばんからゲーテ研究けんきゅうならびに哲学てつがくしゃとして活躍かつやくしていたルドルフ・シュタイナーは、1900年代ねんだいはいったころからその方向ほうこうせい一転いってんさせ、神秘しんぴてき事柄ことがらについておおやけかたるようになった。そのとしあきベルリン神智しんちがく文庫ぶんこでの講義こうぎ依頼いらいされ、シュタイナーはこれにおうじる。1902ねん1がつには正式せいしきかみ智学ちがく協会きょうかい会員かいいんとなり、ドイツを中心ちゅうしんにヨーロッパ各地かくち講義こうぎなどの精力せいりょくてき活動かつどうひろげる。1912ねんアニー・ベサントらを中心ちゅうしんとする神智しんちがく協会きょうかい幹部かんぶとの方向ほうこうせいちがいからどうかい脱退だったい同年どうねん12がつ当時とうじ神智しんちがく協会きょうかいドイツ支部しぶ会員かいいんほぼ全員ぜんいんれてケルンにて人智じんちがく協会きょうかいAnthroposophische Gesellschaft, アントロポゾフィー協会きょうかい)を設立せつりつする(設立せつりつ年月としつきを1913ねん2がつとする場合ばあいもある[3]:225)。

それまでかみ智学ちがくんでいた自身じしん思想しそうをシュタイナーがどの時点じてん人智じんちがく(アントロポゾフィー)とぶようになったかは不明ふめいであるが、1916ねんにツィンマーマンからの影響えいきょうかんして以下いかのようにべている。

我々われわれ事柄ことがら(Sache)に、いかなる名前なまえあたえるかという問題もんだいには、なが年月としつきようした。そんななか非常ひじょうあいすべき人物じんぶつわたし脳裏のうりかんだ。何故なぜならわたし青年せいねん時代じだいにその講義こうぎ聴講ちょうこうしたことのある哲学てつがく教授きょうじゅロベルト・ツィンマーマンは、みずからの主著しゅちょを『人智じんちがく』とんでいたからである。
論文ろんぶんしゅう全集ぜんしゅう36ばん176ぺーじ

シュタイナーは、だいいち世界せかい大戦たいせんのドイツの破滅はめつてき状況じょうきょうのなかで、近代きんだいしょ問題もんだい克服こくふくする思想しそう実践じっせん模索もさくした。近代きんだい物質ぶっしつ主義しゅぎ忌避きひしており[4]人間にんげん意識いしき進化しんかすること、人間にんげん意識いしき進化しんか基礎きそとなる霊的れいてき現実げんじつ直接ちょくせつ知覚ちかくすることが可能かのうであること、また、文化ぶんか活動かつどう経済けいざい活動かつどう政治せいじ活動かつどうとおして社会しゃかい発展はってんさせることができるとしんじた[4]様々さまざま思想しそう当時とうじ科学かがくてき知見ちけんれてみずからの思想しそう構築こうちくし、その思想しそう当初とうしょは「かみ智学ちがく」、のちに人智じんちがくんだ。人間にんげんうちなるれいせい認識にんしき訓育くんいく、さらには近代きんだい社会しゃかいしょ問題もんだいえたあらたなる調和ちょうわいた社会しゃかい構想こうそういた[5]かみ智学ちがく協会きょうかいとの決裂けつれつ人智じんちがく協会きょうかい設立せつりつした。インド・イランがく研究けんきゅうしゃ岡田おかだ明憲あきのりは、シュタイナーの人智じんちがくは、ヨーロッパをえようとしたかみ智学ちがく協会きょうかいかみ智学ちがくから出発しゅっぱつしており、その内容ないようは、科学かがく自称じしょうしながらも信仰しんこう宗教しゅうきょうであった神智しんちがくを、学問がくもん哲学てつがくいきたかめたもので、「理性りせいてき洗練せんれんしたかみ智学ちがく」といったいろいとべている[6]

ミドルセックス大学だいがくのピーター・ワシントンは、人智じんちがくについてこう解説かいせつしている。

人間にんげん存在そんざいとは感覚かんかくてき存在そんざい感覚かんかく超越ちょうえつした世界せかい統合とうごうされている存在そんざいで、このてん人間にんげん動物どうぶつ天使てんしちがっている。感覚かんかく超越ちょうえつした領域りょういきには客観きゃっかんてき実体じったいがあり、現象げんしょう世界せかい同様どうようである。人智じんちがくはそのふたつのあいだ人間にんげん位置いち研究けんきゅうする学問がくもんである。これは絶対ぜったい我々われわれつことのできないかみ々の知恵ちえではなく、人間にんげんつつましい知恵ちえであり、むしろ人間にんげんについての知恵ちえというべきものである[7]

シュタイナーの認識にんしきろん広義こうぎには直観ちょっかん認識にんしき基本きほんとする直観ちょっかん主義しゅぎ理解りかいされており、シュタイナーの霊的れいてき直観ちょっかん認識にんしき基本きほんとする。衞藤えとう吉則よしのりは、人智じんちがくは「理論りろんてきにも実践じっせんてきにも究極きゅうきょくてきには<所与しょよ絶対ぜったい確実かくじつ知識ちしき>をしょとして理論りろんづけられている」とべている[8]人智じんちがくは、シュタイナーのちょう感覚かんかくてき観照かんしょう霊感れいかん)によってられたという知識ちしき法則ほうそく絶対ぜったい基準きじゅんとしてあり、これは本質ほんしつてきなものであるとされ、検証けんしょうまった必要ひつようとされない[8]実践じっせんは、この知識ちしき法則ほうそく適用てきようあるいは現実げんじつ技術ぎじゅつである[8]。シュタイナーが設立せつりつした人智じんちがく協会きょうかいは、かれ思想しそう著作ちょさく求道きゅうどう指針ししんとしており、しん宗教しゅうきょうちか性格せいかく[9]

ドイツ哲学てつがく研究けんきゅうしゃ三島みしま憲一けんいち説明せつめいによると、ゲーテの自然しぜん科学かがくろん影響えいきょうでシュタイナーが展開てんかいしたのは、当時とうじさまざまに模索もさくされていた総合そうごうのひとつのかたちであり、その背景はいけいにはしんプラトン主義しゅぎドイツ神秘しんぴ主義しゅぎ、ヨーロッパの古典こてんてき自然しぜん科学かがくがあった[5]グノーシス主義しゅぎひとし研究けんきゅうする宗教しゅうきょう学者がくしゃ大田おおた俊寛としひろ指摘してきするところでは、シュタイナーは近代きんだいかみ智学ちがく創始そうししゃヘレナ・P・ブラヴァツキーの『シークレット・ドクトリン』におけるれいせい進化しんかろん人間にんげん転生てんせいかえして霊的れいてき進化しんかするという思想しそう[* 2]けて、これを独自どくじ明晰めいせき体系たいけいさい構築こうちくしようとした[11]:68。シュタイナーはブラヴァツキーによる、せいなる数字すうじとされてきた7をもちいたオカルト進化しんかろん単位たんいともえる「周期しゅうき(ラウンド)」という図式ずしきを、ブラヴァツキー以上いじょう自身じしん思想しそう徹底的てっていてきれて重視じゅうしした[11]:68地球ちきゅう人種じんしゅ文明ぶんめい人間にんげん進化しんかのプロセスが7段階だんかいあるとされ、それぞれ密接みっせつ関係かんけいしあっているとかんがえた[11]。ただし、インド思想しそう重視じゅうししたかみ智学ちがく協会きょうかいにとってキリストきょうすうある宗教しゅうきょうひとつでしかなかったが[12]、シュタイナーは西洋せいよう思想しそうキリスト教きりすときょうてきれいせい重視じゅうしし、特異とくいなキリストろん[* 3]みずからの思想しそう中軸ちゅうじくえた[4]大田おおたは、神智しんちがく周期しゅうきせつのほかに、マクロコスモスとミクロコスモス宇宙うちゅう人間にんげん)の照応しょうおうという西洋せいよう伝統でんとうてき秘教ひきょう自然しぜん魔術まじゅつ観念かんねんや、ドイツの生物せいぶつ学者がくしゃ哲学てつがくしゃエルンスト・ヘッケルゆう機体きたい進化しんかろんにおける「個体こたい発生はっせい系統けいとう発生はっせいかえす」という「反復はんぷくせつ」という生命せいめいかん折衷せっちゅう融合ゆうごうされていると指摘してきしている[11]:68

人智じんちがく思想しそうてきいちめんをシュタイナーは「精神せいしん科学かがく / 心霊しんれい科学かがく / れいがく」(Geisteswissenschaft[* 4])とんだ。[よう出典しゅってん](以下いか便宜べんぎてきに「精神せいしん科学かがく」で統一とういつ。)

シュタイナーの著作ちょさくに「人智じんちがく」をかんするものはなく[* 5]、その著作ちょさくにおいて一貫いっかんして「人智じんちがくとは〜である」といった固定こていてき表現ひょうげんには否定ひていてきであった。シュタイナーの最盛さいせいさい晩年ばんねんであるともわれるが、その時期じきの1924ねん2がつ17にち人智じんちがくかんする発言はつげんが(文書ぶんしょにて)なされた。[よう出典しゅってん]それが以下いかのものである。

人智じんちがく認識にんしきみちであり、それは人間にんげん存在そんざい本性ほんしょう)の霊的れいてきなものを、森羅万象しんらばんしょう霊的れいてきなものへみちびこうとするものである。 — 『人智じんちがく指導しどう原則げんそくだいいちじょうより抜粋ばっすい

シュタイナーの弟子でしたちにかれ同等どうとうれい能力のうりょくやカリスマせいつものはあらわれず、シュタイナーが死去しきょすると信奉しんぽうしゃたちはシュタイナーの直観ちょっかんあらたにることはできなくなった。しかし、かれ影響えいきょう死後しごつづき、人智じんちがく協会きょうかい協会きょうかいないにある霊的れいてき分野ぶんや研究けんきゅう団体だんたいれいがくのための自由じゆう大学だいがく」はそのおしえをひろつづけた[4]

人間にんげんろん霊的れいてき進化しんかろん

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人間にんげん本質ほんしつかんする研究けんきゅうおこなった。通常つうじょう人間にんげんが、人間にんげんにおいてという感覚かんかく器官きかんとおして知覚ちかくすることができる存在そんざいを、肉体にくたい物質ぶっしつてき身体しんたい der physische Leib)と名付なづけ、それを「人間にんげんいち肢体したい部分ぶぶん構成こうせい要素ようそ Glied)」として位置いちづけ、それよりさらに「高次こうじの」構成こうせい要素ようそちょう感覚かんかくてきであり、通常つうじょう人間にんげんはそれを知覚ちかくすることができないとする。精神せいしん科学かがくはそれらのちょう感覚かんかくてき肢体したい」(精妙せいみょうからだ)を、肉体にくたいうえにさらにろくないしはやっみとめ、それらすべてを「全体ぜんたいとしての人間にんげん der ganze Mensch」とする。[よう出典しゅってん]地球ちきゅうの7つの周期しゅうき人間にんげんは、その周期しゅうき関連かんれんしながら物質ぶっしつれい粗雑そざつ混合こんごうぶつから精妙せいみょう存在そんざいへと、肉体にくたい・エーテルたいアストラルたい自我じがれい生命せいめいれいれいじんという7段階だんかい進化しんかげ、現在げんざいははっきりした自意識じいしき獲得かくとくした自我じが段階だんかいであるとされた[14]

人生じんせいろん転生てんせいろん

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人間にんげん人生じんせい支配しはいしている法則ほうそくについての研究けんきゅうおこなった。死後しご生活せいかつかんする記述きじゅつや、さい受肉(転生てんせいまれわり)Reinkarnation思想しそういた。霊的れいてき進化しんかともな転生てんせい思想しそうは、神智しんちがくから発展はってんさせたものである。シュタイナーのちょう感覚かんかくてき観照かんしょう生来せいらいれい能力のうりょくによるれいもとづくとされている。

宇宙うちゅうろん

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現在げんざい地球ちきゅう、あるいは宇宙うちゅう生成せいせいした過程かていかんする研究けんきゅうおこなった。人間にんげん同様どうよう地球ちきゅうもまたさい受肉する存在そんざいであるとみなし、現在げんざい地球ちきゅうのいわば「前世ぜんせい」にかんする描写びょうしゃがなされる。地球ちきゅうは7つの曜日ようびならって、土曜どよう太陽たいようがつ地球ちきゅう木星もくせい金星きんせいヴァルカンの7つの段階だんかい進化しんかするとされ、現在げんざい地球ちきゅうであるとされた[14]秘教ひきょうてき宇宙うちゅうろん英語えいごばんは、神智しんちがくから発展はってんさせたものである。シュタイナーのちょう感覚かんかくてき観照かんしょう生来せいらいれい能力のうりょくによるれいもとづくとされている。

修行しゅぎょうろん

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通常つうじょう人間にんげんには、シュタイナーがっていると主張しゅちょうしたようなちょう感覚かんかくてき認識にんしきれい能力のうりょくはない。人智じんちがくひとつの学問がくもんになるためには、すべてのひとかれちょう感覚かんかくてき認識にんしき必要ひつようがあるが、シュタイナーはそれがだれにでも獲得かくとくできる能力のうりょくであるとかんがえ、霊的れいてき教師きょうしのための精神せいしん教育きょういく確立かくりつ重視じゅうしし、人智じんちがく方法ほうほうしたがった修行しゅぎょうとくにその「瞑想めいそう」と「集中しゅうちゅう」のくだり毎日まいにち15分間ふんかんおこないさえすれば、自然しぜんれい能力のうりょく発現はつげんすると主張しゅちょうした[15][7]。このてんによって、シュタイナーは従来じゅうらい神秘しんぴ主義しゅぎ一線いっせんかくしている[15]

修行しゅぎょうみちにはななつの発達はったつ段階だんかいがあるとされた。[よう出典しゅってん]

歴史れきしかん

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シュタイナーの7つの人種じんしゅもとづく根源こんげん人種じんしゅというかんがえは、ブラヴァツキーによる神智しんちがくのテキスト『シークレット・ドクトリン』だい2かんのものとほぼおなじである[16]北極ほっきょく付近ふきん不滅ふめつ聖地せいちまれたアストラルたいだいいち根源こんげん人種じんしゅ、エーテルたいだい根源こんげん人種じんしゅハイパーボリアじん物質ぶっしつてき身体しんたいっただいさん根源こんげん人種じんしゅレムリアひとアトランティス大陸たいりく文明ぶんめい発達はったつさせただいよん根源こんげん人種じんしゅアトランティスひとだい洪水こうずいのがれたアトランティス王国おうこく聖人せいじんたちのみちびきで誕生たんじょうしただい根源こんげん人種じんしゅアーリアじんアメリカ大陸あめりかたいりくまれ物質ぶっしつてき身体しんたいくびきからだっしてくだいろく根源こんげん人種じんしゅパーターラじん地球ちきゅうにおける人類じんるい進化しんか最終さいしゅう段階だんかいであるだいなな根源こんげん人種じんしゅの7段階だんかいがあり[17]現在げんざい支配しはい人種じんしゅ英語えいごばんだい5根源こんげん人種じんしゅアーリアじんであるとされた[16]

人種じんしゅろん文化ぶんかろん

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文化ぶんかろんヘーゲル進歩しんぽ主義しゅぎてき歴史れきし哲学てつがくからの影響えいきょうられ、歴史れきしじょうおも文化ぶんかは「アーリアてき」とされた文化ぶんか限定げんていされており、インド文化ぶんか、エジプト・カルデア文化ぶんか、ギリシャ・ラテン文化ぶんかて、現代げんだいは5段階だんかいゲルマン文化ぶんか[* 6]であるとされた[16]アーリアン学説がくせつは、ブラヴァツキーよりくわしく具体ぐたいてきれられている[16]

かく民族みんぞく集合しゅうごうてき無意識むいしきともいえる「民族みんぞくたましい」「民族みんぞく精神せいしん」があり、国家こっかみちびき、文化ぶんか発展はってんさせるとしている[16]民族みんぞくたましいてんつかわしただい天使てんしかみ々としてあらわれるという[18][19]

国家こっかろん

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シュタイナーは大戦たいせんまえのヨーロッパについて、国家こっか運命うんめい宇宙うちゅう計画けいかく一部いちぶとしてあらかじめさだまっており、各国かっこくには世界せかい進化しんかのためのたすべき役割やくわりがあるとかんがえていた。なかでもドイツじん世界せかい進化しんかにおけるもっと高度こうどてんかかわっているとべるなど、ゲルマン民族みんぞく文化ぶんか優越ゆうえつせいき、ドイツじん精神せいしんめんたすべき使命しめいがあると主張しゅちょうしていた[18]

人類じんるいてき

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シュタイナーは、現在げんざいだい文化ぶんかに、人類じんるいはゲルマンのかみ々のみちびきであらたなれいせいるとかんがえたが、キリストというかみてき存在そんざいみちびかれる霊的れいてき進化しんかと、ルシファーアーリマンという悪霊あくりょうによってみちびかれる堕落だらくみちとの分岐ぶんきてんでもあるとしている[16]

ルシファー、アーリマンは、神智しんちがくの「グレート・ホワイト・ブラザーフッド・オブ・マスターズおおいなるしろ同胞どうほうだん)」と闘争とうそうつづける悪霊あくりょう「ロード・オブ・ダーク・フェイス(くろかおあるじ)」という漠然ばくぜんとした概念がいねん明確めいかく定義ていぎづけしたもので、人類じんるいおもてきである[20]。1914ねんだいいち世界せかい大戦たいせんこると、シュタイナーは戦争せんそうこしたのはダーク・フォースだと主張しゅちょうした[18]

ルシファーは傲慢ごうまんれいで、「人間にんげんなかのあらゆる熱狂ねっきょうてきちからや、あらゆる神秘しんぴ主義しゅぎてきちからこす能力のうりょくそなえた存在そんざい」であり、人間にんげん努力どりょくすれば人間にんげん限界げんかい霊的れいてき能力のうりょくてるという程知ほどしらずなかんがえにおちいらせるれいである[20][21]幻想げんそうてきちから使つかい、だいさん根源こんげん人種じんしゅレムリアひと性的せいてき逸脱いつだつによって堕落だらくするよう影響えいきょうおよぼしたという[21]。アフリマンは物質ぶっしつ主義しゅぎれいで、「人間にんげん唯物ゆいぶつろんという迷信めいしんへとみちびき、無味むみ乾燥かんそう散文さんぶんてき俗物ぞくぶつてき存在そんざいにするちからつ」という[21]現代げんだい科学かがく技術ぎじゅつ最高さいこうしんであり、人類じんるい精神せいしん五感ごかん領域りょういきだけをしんじ、霊的れいてきめんこばむように仕向しむけるとされた[20]。ただし、歴史れきしながれば、ルシファーとアーリマンのちから文化ぶんか多様たようせい人間にんげん精神せいしん自律じりつせいをもたらすというめんもある[22]。アーリマンの影響えいきょうもっとおおきいのは自然しぜん科学かがくしょ分野ぶんやで、すべてが数字すうじ還元かんげんされるため、人々ひとびと徐々じょじょ世界せかい物質ぶっしつでできた機械きかいのようなものだとかんじるようになっていくとしている[23]ダーウィン進化しんかろんも、アーリマンの影響えいきょうでできたものだという[23]。また、アーリマンは経済けいざいにもおおきなちから発揮はっきするとしており、その影響えいきょう科学かがくてき経済けいざいてき繁栄はんえいし、物質ぶっしつてき欲望よくぼうたされた生活せいかつ享受きょうじゅするようになると、霊的れいてき進化しんかまり、文化ぶんか崩壊ほうかいするとかんがえた[24]。ルシファーとアーリマンのちからあいだ均衡きんこうたもつため、本質ほんしつてき太陽たいようしんであるキリストというれいかく必要ひつようとされるのだという[21]。シュタイナーは人々ひとびとに、キリストの受肉の意味いみ理解りかいし、人類じんるい堕落だらくさせるために悪霊あくりょうめぐらせたわなそなえ、霊的れいてき進化しんかみちすすむようもとめた[24]

著作ちょさく

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初期しょきの『輪廻りんね』、『どのようにカルマ作用さようするか』、『かみ智学ちがく世界せかいについてのちょう感覚かんかくてき知識ちしき人類じんるい目的もくてきへの序文じょぶん』(1904ねん)、『アトランティスレムリアそしてオカルト科学かがく:その概要がいよう』などの著作ちょさくには神智しんちがく団体だんたいへの関心かんしん見受みうけられる[4]

人智じんちがく思想しそうてき側面そくめんは『自由じゆう哲学てつがく』(1894ねん)、『かみ智学ちがく世界せかいについてのちょう感覚かんかくてき知識ちしき人類じんるい目的もくてきへの序文じょぶん』、『いかにしてひとたかるにいたるか』(1904/05ねん)、『神秘しんぴがく概論がいろん』(1910ねん)のよん著書ちょしょ集約しゅうやくされるという意見いけんもある。人智じんちがく信奉しんぽうしゃはしばしばこれらを「よんだい主著しゅちょ」などとび、シュタイナーの著作ちょさくのうちでもっと重要じゅうようする。[よう出典しゅってん]

発展はってん

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学問がくもん芸術げいじゅつ社会しゃかい実践じっせん発展はってんふくめたを人智じんちがく人智じんちがく運動うんどうぶ。あるいはそれらは、人智じんちがく成長せいちょうさん段階だんかいであるともえる(そのことはシュタイナー自身じしんべている)。シュタイナー自身じしん人智じんちがく学問がくもんとして出発しゅっぱつし、芸術げいじゅつとおしてそのいのちまれる」とべており、そしてそれは社会しゃかい実践じっせんというもっと実用じつようてき世俗せぞくてき結論けつろんいたる。

芸術げいじゅつ運動うんどう

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学問がくもんとしての人智じんちがくは、1910ねんの『神秘しんぴがく概論がいろん』の出版しゅっぱんによってその頂点ちょうてんむかえた。たしかに、これ以降いこうもシュタイナーは精神せいしん科学かがく研究けんきゅうつづあたらしい研究けんきゅう結果けっか発表はっぴょうしたが、それはつね専門せんもん分野ぶんやかんするもので、思想しそうとしての全体ぜんたいぞうおぎなう「部分ぶぶん」であった。

芸術げいじゅつ運動うんどうとしての人智じんちがく運動うんどう最初さいしょ胎動たいどうは、その学問がくもんてき隆盛りゅうせい以前いぜんの1907ねんにすでに見出みいだされる。このとし聖霊せいれい降臨こうりんさい開催かいさいされたミュンヘン会議かいぎにおいてシュタイナーは、インテリア設計せっけいにおいてみずからの思想しそう不可視ふかしなもの)を芸術げいじゅつとおして可視かしてき空間くうかん表現ひょうげんすることをこころみた(ただし、当時とうじかれはプラトンてき芸術げいじゅつ解釈かいしゃく否定ひていしていた)。そして、このこころみは徐々じょじょ発展はってんし、人智じんちがく芸術げいじゅつ運動うんどう象徴しょうちょうてき存在そんざいである「ヨハネス建築けんちく」の設計せっけいいたる。ミュンヘンでのヨハネス建築けんちく計画けいかく当局とうきょく建設けんせつ許可きょかりなかったために頓挫とんざしたが、スイスのバーゼル近郊きんこう都市としドルナッハの土地とち篤志とくしから提供ていきょうされ、1913ねん9がつ建設けんせつはじまる。1918ねん以降いこうは「ゲーテアヌム」とばれるこの木造もくぞう建築けんちくは、1922ねん大晦日おおみそか完成かんせいのままで放火ほうかにあい消失しょうしつした。同一どういつ場所ばしょには、それまでとはまったことなる外観がいかんのコンクリート建築けんちくてられ、それは1923ねんまつあらたに創立そうりつされた「普遍ふへんアントロポゾフィー協会きょうかい」(Allgemeine Anthroposophische Gesellschaft, 一般いっぱん人智じんちがく協会きょうかい)の本部ほんぶとなった。一般いっぱんてきに、この現存げんそんする建築けんちくぶつだいゲーテアヌムとばれ、消失しょうしつした木造もくぞう建築けんちくだいいちゲーテアヌムとばれる。

1908ねんごろにはオイリュトミーというまったあたらしい運動うんどう芸術げいじゅつ舞踏ぶとう芸術げいじゅつがシュタイナーによってはじめられる。これは日本にっぽんもっと有名ゆうめいな「シュタイナー芸術げいじゅつ」である。オイリュトミーはシュタイナーが死去しきょする1925ねんまでなが年月としつきをかけて徐々じょじょ発展はってんし、最終さいしゅうてきには治療ちりょうオイリュトミーというかたち医療いりょう現場げんばにももちいられるようになる。とくにドイツでは、治療ちりょうオイリュトミーによる医療いりょう行為こういたいしても保険ほけん適用てきようされるほど一般いっぱん認知にんちされている。

1910ねんから1913ねんまでのよん年間ねんかん、シュタイナーは毎年まいとしなつ戯曲ぎきょく神秘しんぴげき』をあらたにろし、それはミュンヘンで上演じょうえんされた。その内容ないよう主人公しゅじんこうであるヨハネス・トマジウス(上記じょうきの「ヨハネス建築けんちく」はかれの名前なまえ由来ゆらい)をはじめとする、近代きんだいてき人間にんげん精神せいしんてき成長せいちょう過程かていえがいたものである。シュタイナーは人間にんげん成長せいちょうを、芸術げいじゅつとおして「具体ぐたいてきに」えがこうとこころみたのである。1912ねん上演じょうえんされた神秘しんぴげきだいさんなかでは、上記じょうきのオイリュトミーがはじめて上演じょうえんされたので、このとし本来ほんらい芸術げいじゅつとしての「オイリュトミー誕生たんじょうとし」であると認知にんちされている。

社会しゃかい実践じっせん

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神秘しんぴげき本来ほんらい、7または12構成こうせい予定よていであったが、だいいち世界せかい大戦たいせん影響えいきょうによってその劇作げきさく活動かつどう中断ちゅうだん余儀よぎなくされた。だいいち世界せかい大戦たいせん惨状さんじょうのち、1918ねんごろからシュタイナーは社会しゃかい組織そしきさん構成こうせい運動うんどう心血しんけつそそぐようになるが、これはよく1919ねん破綻はたんする。ドイツ共産党きょうさんとうナチとうは、社会しゃかいさんそうろんつうじて国民こくみん国家こっかわくえた人々ひとびと活動かつどうについての展望てんぼうかたったシュタイナーを敵視てきしし、かれの活動かつどうはナチ党員とういんによる妨害ぼうがいけた[3]:236。それにつづくようにヴァルドルフ教育きょういくシュタイナー教育きょういく運動うんどうはじまり、同年どうねん9がつには最初さいしょ学校がっこう自由じゆうヴァルドルフ学校がっこうシュトゥットガルトが設立せつりつされる。ヴァルドルフ教育きょういく運動うんどうは、日本にっぽんもっと有名ゆうめい人智じんちがく社会しゃかい実践じっせんである。

人智じんちがく社会しゃかい実践じっせんとして、このヴァルドルフ教育きょういく運動うんどう皮切かわきりに医療いりょう農業のうぎょう養護ようご教育きょういく自然しぜん科学かがく様々さまざま職業しょくぎょう分野ぶんや改新かいしんされた。現在げんざいではそれにともな施設しせつぜん世界せかいで10,000箇所かしょえる[25]

ちょうどこの時期じきにシュタイナーは宗教しゅうきょう運動うんどう改新かいしんにも助力じょりょくし、キリストしゃ共同きょうどうたい設立せつりつにもおおきなちから発揮はっきした。これは一般いっぱんてき人智じんちがく社会しゃかい実践じっせん一環いっかんとみなされる。

現代げんだいでの復活ふっかつ展開てんかい

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環境かんきょう問題もんだい切迫せっぱくした課題かだいになった現代げんだいでは、おおくのスピリチュアルな組織そしき指導しどうしゃが、精神せいしんてき課題かだいとして環境かんきょう保護ほご注目ちゅうもくするようになった[26]。シュタイナーは環境かんきょう問題もんだい関心かんしんっており、その思想しそう中心ちゅうしんはエコロジーと宗教しゅうきょうめていたため、現代げんだい時流じりゅうとうまくマッチした[26]。また、神秘しんぴ思想しそうとしてはめずらしく、教育きょういく農業のうぎょう治療ちりょうといった実用じつようてき世俗せぞくてき実践じっせんのノウハウを確立かくりつさせていたため(神智しんちがくおおきくことなるてんである)、シュタイナーの思想しそう現代げんだい復活ふっかつした[26]。シュタイナーののこしたさまざまな構想こうそうは、とくドイツ語どいつごけん国々くにぐにで、小規模しょうきぼとはいえ存在そんざいかんをもって実践じっせんされつづけている[4]

現代げんだい人智じんちがく協会きょうかい活動かつどうはさほど活発かっぱつともえないが(主要しゅようメンバーは年配ねんぱいしゃである)、時代じだいって環境かんきょう運動うんどう成功せいこうさせ、有機ゆうき農業のうぎょうバイオダイナミック農法のうほう伝統でんとう事業じぎょうといった生態せいたい環境かんきょうてき観点かんてんかな企画きかく低利ていりりつ資金しきんけるGLS銀行ぎんこうドイツばん(Gemeinschaft für Leihen und Schenken:貸与たいよ贈与ぞうよのための共同きょうどう銀行ぎんこう)などの社会しゃかいてき銀行ぎんこう設立せつりつし、人智じんちがく運動うんどう教育きょういくシュタイナー教育きょういく)、治療ちりょうおよび医療いりょう人智じんち医学いがく英語えいごばん)までひろげた[26]現代げんだい人智じんちがく協会きょうかい影響えいきょう活動かつどう規模きぼよりもかなりおおきく、おおくの宗教しゅうきょう団体だんたい人智じんちがく運動うんどう方向ほうこうせい追従ついしょうしている[26]

批評ひひょう批判ひはん

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三島みしま憲一けんいちによると、1920年代ねんだい、ドイツの文芸ぶんげい批評ひひょう哲学てつがくしゃヴァルター・ベンヤミンはシュタイナーについて「ぜん近代きんだいへの願望がんぼうでしかない」(三島みしま 2002 : 596)として軽侮けいぶしめしたという[5]

岡田おかだ明憲あきのりは、シュタイナーはヨーロッパの伝統でんとう(としょうするもの)、とく薔薇ばらじゅう錬金術れんきんじゅつてき伝統でんとう執着しゅうちゃくしており、かれ人智じんちがく薔薇ばらじゅう伝統でんとう継承けいしょうしたかかはいておいても、その思想しそう理性りせい尊重そんちょうするヨーロッパ近代きんだい特有とくゆう神秘しんぴ主義しゅぎであり、中世ちゅうせい神秘しんぴ主義しゅぎ伝統でんとう再興さいこうしたと評価ひょうかすることはできないとべている[6]岡田おかだ明憲あきのりは、シュタイナーもまた、近代きんだいヨーロッパ文化ぶんか否定ひていし、その超克ちょうこく目指めざした神秘しんぴ主義しゅぎしゃ一人ひとりであるが、かれ人智じんちがく近代きんだいヨーロッパ文化ぶんか産物さんぶつである「自己じこ意識いしき」によるものであり、ヨーロッパ近代きんだい文化ぶんかまるとしている[6]

大田おおた俊寛としひろは、シュタイナーの思想しそうはブラヴァツキーらの神智しんちがく同様どうように、マックス・ミュラーらによる当時とうじアーリアン学説がくせつ影響えいきょうけ、アーリアじん中心ちゅうしん史観しかん優越ゆうえつろん傾向けいこうがあることを指摘してきしている。ただし、ブラヴァツキーやシュタイナーは、現今げんこん支配しはいてき人類じんるいをアーリアじんんでいるが、人類じんるい霊的れいてき進化しんか途上とじょうであり、のちにあたらしいよりすぐれた人種じんしゅあらわれるとかんがえており、アーリア人種じんしゅ至上しじょう主義しゅぎとはえないとべている[11]:82

ピーター・ワシントンは、ゲルマン民族みんぞく文化ぶんかてき優位ゆういせいき、霊的れいてきてきによる陰謀いんぼう主張しゅちょうしたシュタイナーのろんについて、「戦後せんご人智じんち主義しゅぎしゃがシュタイナー擁護ようごろんをいろいろしたが、大戦たいせんまえのヨーロッパ政治せいじについてかれいたものは、さきべたような常軌じょうきいっしたかんがえを多少たしょうおだやかに改変かいへんしたものにすぎない。(中略ちゅうりゃくかれがゲルマン文化ぶんか熱烈ねつれつ擁護ようごしゃなのか、むきしの愛国あいこく主義しゅぎしゃなのかを区別くべつするのはむずかしい」とべている[18]

The Skeptics Society(懐疑かいぎ協会きょうかい)の創設そうせつしゃでサイエンスライターのマイケル・シャーマーなどの現代げんだい批評ひひょうは、人智じんちがく生物せいぶつがく医学いがく農業のうぎょうなどをにせ科学かがく批判ひはんしている[27][28]

日本にっぽん人智じんちがく運動うんどう組織そしき

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日本にっぽんにおけるシュタイナー研究けんきゅう第一人者だいいちにんしゃである高橋たかはしいわおは、1985ねん日本人にっぽんじん智学ちがく協会きょうかい設立せつりつした。この団体だんたいは、スイスのドルナッハにあるゲーテアヌムを本部ほんぶとする普遍ふへんアントロポゾフィー協会きょうかい一般いっぱん人智じんちがく協会きょうかい)の日本にっぽんにおけるくにいき協会きょうかいではなかった。1986ねん2がつのゲーテアヌム理事りじかいにおいて、どう協会きょうかい日本にっぽんルドルフ・シュタイナー・ハウス(1982ねん上松あげまつ佑二ゆうじ設立せつりつ)とともに、くにいき協会きょうかいぜん段階だんかいとみなされた。1989ねん日本にっぽんルドルフ・シュタイナー・ハウスは日本にっぽんアントロポゾフィー協会きょうかいルドルフ・シュタイナー・ハウスに改名かいめいし、以後いごふたつの協会きょうかい併存へいそんするようになる。1993ねんヨハネ支部しぶ設立せつりつされ、1994ねん以降いこうすう年間ねんかんにわたるくにいき協会きょうかい設立せつりつ準備じゅんびかいと1999ねん3がつのゲーテアヌム理事りじかいて、2000ねん5がつ上松あげまつ佑二ゆうじ中心ちゅうしんとするメンバーによって、日本にっぽんアントロポゾフィー協会きょうかいが、普遍ふへんアントロポゾフィー協会きょうかい正式せいしき日本にっぽんくにいき協会きょうかいとして設立せつりつされた。また、現在げんざい(2013ねん)では普遍ふへんアントロポゾフィー協会きょうかい日本にっぽん支部しぶとして、「NPO法人ほうじん日本にっぽんアントロポゾフィー協会きょうかい」と「一般いっぱん社団しゃだん法人ほうじん普遍ふへんアントロポゾフィー協会きょうかい - くにいき協会きょうかい日本にっぽん」のふたつの協会きょうかい、および四国しこくアントロポゾフィークライスが存在そんざいしている。

脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ 標準ひょうじゅんドイツ語どいつごおんでは /antʁopozoˈfiː/ となる。
  2. ^ 神智しんちがく転生てんせいろんアラン・カルデック創始そうししたフランスの心霊しんれい主義しゅぎ運動うんどうスピリティスム)から借用しゃくようしたものである。そのカルデックの転生てんせいろんも、社会しゃかいてき不平等ふびょうどう説明せつめいしようとした19世紀せいき社会しゃかい主義しゅぎしゃシャルル・フーリエピエール・ルルーなどからの借用しゃくようであり、その社会しゃかい主義しゅぎしゃたちの理論りろんも、18世紀せいき後半こうはんまれたニコラ・ド・コンドルセジャック・テュルゴーなどの「進歩しんぽ」の概念がいねんっている[10]:181
  3. ^ 小杉こすぎえいりょうろんじるところでは、シュタイナーの思想しそうには聖霊せいれい恩寵おんちょうけた教会きょうかいつうじてのみひと霊的れいてきなものにあずかれるとする正統せいとうのドグマが抑圧よくあつしてきた、ヨーロッパのかくれたれいせい人々ひとびと開示かいじしようとするめんがあった[13]
  4. ^ 高橋たかはしいわおはこれを「れいがく」、白幡しらはた節子せつこ門田かどた俊夫としおは「心霊しんれい科学かがく」と翻訳ほんやくしている。
  5. ^ シュタイナー遺稿いこう管理かんりきょくから全集ぜんしゅう45ばんとして『人智じんちがく』という著作ちょさく出版しゅっぱんされているが、それは『神秘しんぴがく概論がいろん』と人智じんちがく協会きょうかい設立せつりつあいだ時期じきである1910ねんにかれがいたフラグメント(断片だんぺん)である。そのことは明記めいきされたうえ公表こうひょうされた。内容ないようはシュタイナーが独自どくじ考察こうさつした感覚かんかくろんである。なお、正確せいかくには『神秘しんぴがく概論がいろん』は1909ねん12月の時点じてんですでにだつ稿こうしており、出版しゅっぱんされたのが1910ねん1がつである。また、シュタイナーが神智しんちがく協会きょうかいわるあたらしい協会きょうかい名前なまえに「人智じんちがく」をげたのは1912ねん8がつのことである。
  6. ^ 大田おおた俊寛としひろは、シュタイナーはだい文化ぶんか名称めいしょう明記めいきしていないが、その内実ないじつをゲルマン文化ぶんかかんがえていたのはあきらかであるとしている。

出典しゅってん

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  1. ^ 高橋たかはしいわお 『シュタイナー哲学てつがく入門にゅうもん もうひとつの近代きんだい思想しそう角川書店かどかわしょてん角川かどかわ選書せんしょ 213〉、1991ねん、129-132ぺーじ
  2. ^ Joseph H. Peterson (2009). Arbatel - Concerning the Magic of the Ancients. Ibis Press. pp. 99-101.
  3. ^ a b コリン・ウィルソン 『ルドルフ・シュタイナー その人物じんぶつとヴィジョン』 中村なかむら保男やすお中村なかむら正明まさあきやく河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ河出かわで文庫ぶんこ〉、1994ねん旧版きゅうばん 1986ねん)。
  4. ^ a b c d e f Tingay 2009
  5. ^ a b c 三島みしま 2002
  6. ^ a b c 岡田おかだ 2002, pp. 121–122.
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  8. ^ a b c 衞藤えとう吉則よしのり 1997.
  9. ^ しまその 1996, pp. 36–42.
  10. ^ ルノワール 2010
  11. ^ a b c d e 大田おおた 2013
  12. ^ 深澤ふかさわ 2012
  13. ^ 小杉こすぎ 2000, pp. 58-86.
  14. ^ a b 大田おおた 2013 位置いちNO.655/2698-674/2698
  15. ^ a b 吉永よしなが松田まつだ 1996.
  16. ^ a b c d e f 大田おおた 2013 位置いちNO.677/2698-697/2698
  17. ^ 大田おおた 2013 位置いちNO.320/2698-386/2698
  18. ^ a b c d ワシントン, 白幡しらはた節子せつこ門田かどた俊夫としおやく 1999, pp. 226–227.
  19. ^ 大田おおた 2013 位置いちNO.697/2698-705/2698
  20. ^ a b c ワシントン, 白幡しらはた節子せつこ門田かどた俊夫としおやく 1999, p. 202.
  21. ^ a b c d 大田おおた 2013 位置いちNO.706/2698-725/2698
  22. ^ 大田おおた 2013 位置いちNO.715/2698
  23. ^ a b 大田おおた 2013 位置いちNO.743/2698
  24. ^ a b 大田おおた 2013 位置いちNO.753/2698-771/2698
  25. ^ Goetheanum - History of the Anthroposophical Society - Overview(2015ねん11がつ20日はつか閲覧えつらん
  26. ^ a b c d e ワシントン, 白幡しらはた節子せつこ門田かどた俊夫としおやく 1999, pp. 511–512.
  27. ^ The Skeptic Encyclopedia of Pseudoscience. ABC-CLIO. (2002). pp. 31–. ISBN 9781576076538. https://books.google.com/books?id=Gr4snwg7iaEC&pg=PA33 
  28. ^ Ruse, Michael (2013-09-25). The Gaia Hypothesis: Science on a Pagan Planet. University of Chicago Press. pp. 128–. ISBN 9780226060392. https://books.google.com/books?id=EQRuAAAAQBAJ&pg=PA128 2018ねん1がつ12にち閲覧えつらん 

参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん文献ぶんけん

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  • 『ルドルフ・シュタイナー著作ちょさく全集ぜんしゅう人智じんちがく出版しゅっぱんしゃ
  • Steiner, Rudolf: Einführung in die Anthroposophie. Dornach : Rudolf-Steiner-Verlag, 1992. ISBN 3-7274-6560-3
  • Steiner, Rudolf: Einführung in die Geisteswissenschaft. München : Archiati, 2004. ISBN 3-937078-25-8

関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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