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即興演奏 - Wikipedia

即興そっきょう演奏えんそう

演奏えんそう手法しゅほう

即興そっきょう演奏えんそう(そっきょうえんそう)は、楽譜がくふなどにらず音楽おんがく即興そっきょう作曲さっきょくまたは編曲へんきょくしながら演奏えんそうおこなうこと。スキャットなどがふくまれる場合ばあいもある。アドリブラテン語らてんごad lib)、インプロヴィゼーション英語えいごimprovisation)などともう。

即興そっきょう演奏えんそうは、ジャズ、ジャム・バンド、ロック、ファンクや各種かくしゅ民族みんぞく音楽おんがくなど非常ひじょうおおくのジャンルで演奏えんそうされる。また、先鋭せんえいてき表現ひょうげん目指めざ前衛ぜんえい音楽おんがく実験じっけん音楽おんがくノイズミュージックでもこのんで即興そっきょう使用しようされる。とく即興そっきょうあたらしさをもとめる場合ばあいことなるジャンルへの越境えっきょう頻繁ひんぱんおこなわれる。楽曲がっきょく一部いちぶ即興そっきょうふく手法しゅほう以外いがいに、即興そっきょうせいそのものに価値かちいだす、即興そっきょうせんもん演奏えんそうしゃ表現ひょうげんしゃもいる。芸術げいじゅつ表現ひょうげんとしてだけでなく、演奏えんそうの「教育きょういく」や音楽おんがく療法りょうほう一環いっかんとしておこなわれることもある。

概要がいよう

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まったくめごとをつくらずに自由じゆう演奏えんそうすること。「完全かんぜん即興そっきょう」、「フリー・インプロヴィゼーションとうばれることもあり、呼称こしょう定義ていぎにはゆらぎがおおい。内容ないよう奏者そうしゃ指向しこうせいによって様々さまざまで、奏者そうしゃ音楽おんがくてきバックグラウンドによって特定とくてい音楽おんがくジャンルがかんじられるものになることもある。特定とくてい演奏えんそう技能ぎのう知識ちしきらずとも表現ひょうげんできる、ジャンルへの越境えっきょうがたやすいなどの利点りてんがある。楽器がっきこえ以外いがいにち用品ようひん環境かんきょうおんなど多様たようなものが使用しようされうる。即興そっきょう演奏えんそうのスキルでられたクラシックの作曲さっきょくには、バッハモーツァルトベートーヴェンショパンリストらがいた[1]

演奏えんそう時間じかん人数にんずうなど最低限さいていげんめごとがある場合ばあいおおい。ジョン・ゾーンのゲームピース「COBRA」のように即興そっきょう演奏えんそうのためにかれた作品さくひんもあり、ここでは演奏えんそう内容ないよう即興そっきょうだが、展開てんかいめていくための約束事やくそくごと共有きょうゆうされている。

クラシック音楽おんがく即興そっきょう演奏えんそう

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中世ちゅうせいルネサンス時代じだい器楽きがく楽譜がくふ声楽せいがくくらのこされたかずすくない。文献ぶんけん絵画かいが資料しりょうから多様たよう楽器がっき演奏えんそうおこなわれていたことはられるため、おおくは記憶きおく即興そっきょうによっていたものとかんがえられる。バロック音楽おんがくにおいても、伴奏ばんそう担当たんとうした鍵盤けんばん楽器がっきリュート奏者そうしゃは、数字すうじ低音ていおんて、即興そっきょうてき和音わおん充填じゅうてんして演奏えんそうおこなった。これをつうそう低音ていおんう。録音ろくおんのこされた最古さいこ即興そっきょう演奏えんそうは、イサーク・アルベニス1903ねんろうかん録音ろくおんしたものだとかんがえられている。協奏曲きょうそうきょくアリアにおけるカデンツァなどでしばしば即興そっきょうおこなわれるが、作曲さっきょくによりあらかじめ音符おんぷまれていることもおおい。

アメリカの音楽おんがく学者がくしゃけんピアニストのロバート・レヴィン(en)は、モーツァルトベートーヴェンひとし楽曲がっきょくカデンツァを、作曲さっきょく当時とうじのスタイルにしたがって完全かんぜん即興そっきょうし、楽譜がくふにはのこさない[2]。インタビューでかたったところでは、事前じぜんにはなに準備じゅんびしていないという。したがって、その時々ときどき演奏えんそうなにてくるのかは本人ほんにんにもまったくわからず、その演奏えんそうかえけるのは録音ろくおんやCDのみということになる。自由じゆう即興そっきょうれいではトルコのファジル・サイピアノ協奏曲きょうそうきょくアンコールなどでせてくれ、かれはもちろん協奏曲きょうそうきょくさいのカデンツァでも様式ようしきにあった即興そっきょう披露ひろうしている。

セルゲイ・ラフマニノフには、編曲へんきょくはしていない原曲げんきょく変更へんこうした録音ろくおんおおのこっている[注釈ちゅうしゃく 1]アンドレ・プレヴィンが、そうしたかたちモーツァルトピアノ協奏曲きょうそうきょくしたCDをのこしている。またフリードリヒ・グルダはモーツァルトのピアノソナタなかで、提示ていじかえしと展開てんかい再現さいげんかえしにバッハてき装飾音そうしょくおんもちいて変奏へんそう即興そっきょうしている。ヴァイオリンとピアノのユリア・フィッシャーやピアノのマルティン・シュタットフェルト(en)のように、カデンツァを自作じさくする演奏えんそう欧米おうべいにはたくさんいる。にはナイジェル・ケネディマクシム・ヴェンゲーロフヒラリー・ハーン日本人にっぽんじんでは児玉こだま麻里まり庄司しょうじ紗矢香さやかなども自作じさくカデンツァを演奏えんそうしている。しかしこれらの場合ばあい、カデンツァの大枠おおわく事前じぜんめられていて、即興そっきょう部分ぶぶんてきなものにまる。

ヴァイオリンのヨーゼフ・ヨアヒムなど高名こうみょう演奏えんそうによるカデンツァが楽譜がくふのこされると演奏えんそうもそれを使つか傾向けいこうがあり、そうなるともはや完全かんぜん即興そっきょう演奏えんそうとはがたいものになる。スヴャトスラフ・リヒテルは、カデンツァでなにもせずいきなり最後さいごのトリルにはいるという「即興そっきょう」をしてしまい、「即興そっきょうカデンツァの本来ほんらいかたちひとつだ」と新聞しんぶん絶賛ぜっさんされたこともある。アルフレート・ブレンデル即興そっきょうんでいる。普段ふだんから単純たんじゅん旋律せんりつでも即興そっきょうてき装飾音そうしょくおん音階おんかい分散ぶんさん和音わおんなどをれる。カデンツァなが即興そっきょうしすぎて調しらべせい完全かんぜんわってしまい、もと調しらべもどれなかったという逸話いつわもある。ヴィルヘルム・バックハウスのライブ録音ろくおんでは、ゆびらしふう分散ぶんさん和音わおんとうのメロディーをいてからつぎきょくはじめることがある。

現代げんだい音楽おんがく即興そっきょう演奏えんそう

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現代げんだい音楽おんがく演奏えんそうとしてはショスタコーヴィチメシアンリーム、ジョン・ケージ[注釈ちゅうしゃく 2]武満たけみつとおる[注釈ちゅうしゃく 3]などがげられる。イタリア出身しゅっしんでパリで活躍かつやくしたジャチント・シェルシ自分じぶん即興そっきょう演奏えんそうした音楽おんがくをすべてテープに録音ろくおんして、自分じぶん聴音ちょうおんして自己じこ作品さくひんとして楽譜がくふしたとわれる。シュトゥットガルトシュタイナー学校がっこうでは楽譜がくふによる演奏えんそうならんで即興そっきょう演奏えんそう重要じゅうよう教育きょういくテーマのひとつである。

ロック/ソウルにおける即興そっきょう演奏えんそう

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一般いっぱんてきポピュラー音楽おんがくとくロックなどでの「即興そっきょう演奏えんそう」では、ジャズと同様どうよう一定いっていのコード進行しんこうやコード理論りろんなどの規則きそくにしたがってフレーズをつく演奏えんそうされる。

1960年代ねんだい後半こうはん以後いごブルース・ロックやファンク、ハードロックプログレッシブ・ロックのジャンルに、間奏かんそう部分ぶぶん即興そっきょう演奏えんそうをおこなうバンドが登場とうじょうした。ジェームス・ブラウンの「スーパーバッド」の間奏かんそう部分ぶぶんでは即興そっきょうける。ミュージシャンがその雰囲気ふんいきわせてソロを自由じゆうひろげるライブが人気にんきて、拡大かくだいしていった。1970年代ねんだいには、即興そっきょう演奏えんそう重視じゅうししたプログレッシブ・ロック・バンドも人気にんきとなった。キング・クリムゾンのアルバム『暗黒あんこく世界せかい』は、ライブ部分ぶぶん即興そっきょう演奏えんそうとなっている。だが、1970年代ねんだい後半こうはんにはパンク登場とうじょうにより、ハードロックやプログレのバンドはオールド・ウェイブとばれることもあり、ふるいとめつけられた。そのなかで、つね斬新ざんしんなサウンドに挑戦ちょうせんつづけたのは、フランク・ザッパキャプテン・ビーフハート、レジデンツ、ルー・リードらである。 ジャム・バンド[注釈ちゅうしゃく 4]ばれるバンドぐんのルーツには、グレイトフル・デッド[注釈ちゅうしゃく 5]オールマン・ブラザーズ・バンド[注釈ちゅうしゃく 6]がいる。

ジャズの即興そっきょう演奏えんそう

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ジャズの即興そっきょう演奏えんそうはスタイルによって多少たしょうちがいがあるが、まったく規則きそく演奏えんそうされるのではなく、原曲げんきょくのコード進行しんこう、またはそこから音楽おんがく理論りろんてき展開てんかい可能かのうなコードにもとづいておこなわれる。したがって演奏えんそうされるアドリブを理解りかいしたり、アドリブをみずか演奏えんそうするためには、前提ぜんていとしてコード理論りろんかんする知識ちしき必要ひつようであり、さらに原曲げんきょくのコード進行しんこうっていなければならない。前身ぜんしんのラグタイムから、ジャズ時代じだいのニューオーリンズ、ディキシー、スウィングまでは、ジャズは大衆たいしゅう音楽おんがくだった。やがてチャーリー・パーカーディジー・ガレスピーらのビバップの時代じだいとなり、ジャズは即興そっきょう音楽おんがく芸術げいじゅつ音楽おんがくとして認識にんしきされるようになる[注釈ちゅうしゃく 7]。1950年代ねんだい後半こうはんにおけるセシル・テイラーオーネット・コールマンらによるフリー・ジャズは、ほとんど規則きそくせいのない演奏えんそうだとわれるが、ブルースやアフリカ音楽おんがく影響えいきょうけたジャズ・メンもみられる。

フリー・ジャズの登場とうじょうにより、ジャズの即興そっきょう演奏えんそうはばおおきくひろがり、1960年代ねんだいには完全かんぜん即興そっきょう演奏えんそうによるジャズがおおきく成長せいちょうすることになった。また、1985ねんソニー・ロリンズニューヨーク近代きんだい美術館びじゅつかんで、1間近まぢかくにおよ伴奏ばんそうサックス・ソロを即興そっきょう披露ひろうしたコンサートは当時とうじ話題わだいになった。

日本にっぽん大友おおとも良英よしひで+Sachiko Mのように、ノイズを大量たいりょう使つかった現代げんだい自由じゆう即興そっきょう演奏えんそうがジャズのカテゴリーにまれることもある。ジャズで即興そっきょう演奏えんそうをする奏者そうしゃは、一般いっぱんてきリフみじかフレーズかえし)をいくつもおぼえていて、曲想きょくそうやひらめきなどにおうじて、リフを自在じざいわせて演奏えんそうする。

ジャズにおいて、ディキシーランド・ジャズ・スタイルのリフをおもおぼえているものたちの演奏えんそうと、ビバップ・スタイルのリックをおもおぼえているものたちとでは、演奏えんそうおもむきはまるでことなるが、たとえばおなじディキシーランド・ジャズのリックをおぼえているもの同士どうし演奏えんそうおもむきは、ことなってはいるがなんとなくたスタイルにこえる。専門せんもん用語ようご分野ぶんやべつことなるように、リックもスタイルによりことなっているからである。

ライブ演奏えんそう録音ろくおんかにかかわらず、より高度こうどなソロを演奏えんそうするために、あらかじめ演奏えんそう内容ないようつくりこんで準備じゅんびすることがある。即興そっきょう演奏えんそうとはいえなくなるが、それをそのまま演奏えんそうすることにするか、つくりこんだメロディからインスピレーションてある程度ていど即興そっきょうてきなメロディを演奏えんそうするかは場合ばあいによる。ともあれ、奏者そうしゃ即興そっきょう演奏えんそう先立さきだち、綿密めんみつおおまかかにかかわらず、しも準備じゅんびをしてくることもしばしばある。

民族みんぞく音楽おんがく即興そっきょう演奏えんそう

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表現ひょうげんジャンルとの共演きょうえん

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即興そっきょう融通ゆうずうせいかして、映像えいぞう絵画かいが、パフォーマンスなどことなるジャンルとのコラボレーションがおこなわれることもある。

  • 絵画かいがにおける即興そっきょう演奏えんそう

イヴ・クラインがヌードの女性じょせい3にん協力きょうりょくて、大型おおがたボードにしろとブルーのアートを表現ひょうげんしたさいに、楽団がくだん演奏えんそうをつけている。

  • 即興そっきょうげき(インプロ)における即興そっきょう演奏えんそう

演劇えんげきのジャンルのひとつである即興そっきょうげき(インプロ)のげきちゅうでは、演劇えんげき内容ないよう台本だいほんわせがまったくないため、BGM即興そっきょう演奏えんそうされる。おも使つかわれるのはピアノ、キーボード、シンセサイザー、ギターなどであり、舞台ぶたいのすぐよこ、あるいは舞台ぶたいじょう楽器がっき設置せっちされ、せんもんのプレイヤー(即興そっきょうミュージシャンとばれる)が演奏えんそうする。場面ばめん展開てんかいにあわせて適切てきせつなBGMを即興そっきょう演奏えんそうしなければならないため、演奏えんそうしゃとしての技術ぎじゅつ音楽おんがく知識ちしきのみならず、即興そっきょうてき対応たいおうする能力のうりょく必要ひつようとされる。

  • 身体しんたい表現ひょうげんむすびつく即興そっきょう演奏えんそう

ダンス舞踏ぶとう表現ひょうげんしゃ即興そっきょう演奏えんそう共演きょうえんられる。めごとの配分はいぶん様々さまざまで、全員ぜんいん自由じゆう即興そっきょうおこなこともある。最近さいきんでは即興そっきょう舞台ぶたい芸術げいじゅつとしての観点かんてんから、効果こうか照明しょうめいやビデオアート、ライブ・ペインティングがともなわれることもおおい。

  • 言語げんご表現ひょうげんむすびつく即興そっきょう演奏えんそう

その作品さくひんつくりながら即興そっきょう詩人しじんふくめた詩人しじん作家さっか朗読ろうどく音楽おんがく演奏えんそう共演きょうえんられる。また即興そっきょうおこな歌手かしゅやヴォイス・パフォーマーの場合ばあい音楽おんがく形式けいしきのみならず自身じしんはっするこえ母語ぼごとのむすびつきも即興そっきょうせい設定せっていするさい問題もんだいとなりうる。

関連かんれん項目こうもく

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脚注きゃくちゅう

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注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ エリック・カルメンはラフマニノフのきょくをもとにした「オール・バイ・マイセルフ」を発表はっぴょうしている
  2. ^ 無音むおん作品さくひんなど、前衛ぜんえいてき作品さくひん数多かずおお発表はっぴょうした
  3. ^ 映画えいが音楽おんがくや「んだおとこのこしたものは」など、ポピュラー音楽おんがく作曲さっきょくした
  4. ^ のジャム・バンドにはロバート・ランドルフ、ギャラクティク、ソウライブらがいる
  5. ^ 1969ねんのアルバム『ライブ・デッド』など、即興そっきょう演奏えんそう作品さくひんおお
  6. ^ 「ランブリン・マン」が1973ねんにヒットした
  7. ^ 1947ねんの『バード・アンド・ディズ』はビバップの誕生たんじょうげたアルバムとして有名ゆうめいである

出典しゅってん

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  1. ^ Leon Botstein, What makes Franz Liszt still important 2022ねん12月28にち閲覧えつらん
  2. ^ Robert D. Levin|en Profile Philadelphia Chamber Music Society. 2022ねん1がつ7にち閲覧えつらん