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一般意志 - Wikipedia

一般いっぱん意志いし(いっぱんいし、ふつ: Volonté générale, ヴォロンテ・ジェネラル、えい: General will)とは、共同きょうどうたい国家こっか)の成員せいいんである人民じんみん総体そうたいとしてつとされる意志いしのこと。一般いっぱん意思いし普遍ふへん意志いしとも。18世紀せいきのフランスの哲学てつがくしゃジャン=ジャック・ルソー政治せいじ思想しそう基本きほん概念がいねんとしてられる。

一般いっぱんにはルソーの社会しゃかい契約けいやくろん基礎きそ理論りろんとしてもちいられ、とくにここでいう総体そうたい意志いしとは、個々ここ利害りがい特殊とくしゅ意志いし)からははなれた、公共こうきょうえき達成たっせいするために人民じんみん共有きょうゆうしているとする意志いしのことである。

なお、この用語ようごは、ルソーにおいては、1762ねん主著しゅちょ社会しゃかい契約けいやくろん』に先駆さきがけて、1755ねんの『政治せいじ経済けいざいろん』から使用しようされはじめるが、意味合いみあいはことなるが、元々もともと百科全書ひゃっかぜんしょドゥニ・ディドロ最初さいしょもちいたものである[1]

概要がいよう

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ルソーは個人こじん自由じゆう主張しゅちょうした思想家しそうかであると同時どうじに、個人こじん国家こっか絶対ぜったいてき融合ゆうごう主張しゅちょうしている。このふたつの主張しゅちょうむすびつけるさいかれ造語ぞうごである「一般いっぱん意志いし」はおおきな意味いみつ。

一般いっぱん意志いし概念がいねん国民こくみん市民しみん意志いしとはなにであり、それが政治せいじ反映はんえいされるとはどういうことであるかという疑問ぎもん解決かいけつになった。これを発見はっけんするまでの過程かてい自由じゆう討論とうろんであり、そこからすべてのひとにとって自分じぶん問題もんだいでもあり全員ぜんいん問題もんだいでもある事項じこうみちびされ、それが一般いっぱん意志いしとなる。だが、これはあくまで全員ぜんいん共通きょうつうする意志いしであり、個人こじん事情じじょう利害りがい総体そうたいではない。すべてのひと個人こじんてき特定とくてい事情じじょうをこのかぎりでったときこそ共通きょうつう意志いしあきらかとなり、この共通きょうつう意志いしだけをたよりに社会しゃかい成立せいりつする。この社会しゃかい秩序ちつじょはこの一般いっぱん意志いしのみを根拠こんきょとした主権しゅけんちからであり、こうして個人こじん社会しゃかい主権しゅけんまった対立たいりつすることなくかさなり局面きょくめんとなる。

社会しゃかい契約けいやくろん』のなかでも、「一般いっぱん意志いしはつねにただしく、つねにおおやけ利益りえきざす」ことを確認かくにんする文言もんごんからはじまるだいへんだいさんしょうにおいて、ルソーは、「特殊とくしゅ意志いし」(かく個人こじん意志いし)と「全体ぜんたい意志いし」(特殊とくしゅ意志いし総和そうわ全体ぜんたい総意そうい)という概念がいねんとわけて、それらとはべつに「一般いっぱん意志いし」があるのだと主張しゅちょうしている。それはつまり、「特殊とくしゅ意志いし」の総和そうわである「全体ぜんたい意志いし」はわたし利益りえきをこころがけているてんである。「おおやけ利益りえき」とは、「公共こうきょう利益りえき」や「全体ぜんたい利害りがい」とも説明せつめいされる。またどうあきらおいて、「一般いっぱん意志いし」は、単純たんじゅんな「特殊とくしゅ意志いし」のではないが、そのそれぞれの「特殊とくしゅ意志いし」から、相殺そうさいしあう過不足かふそくのぞけば、「相違そうい総和そうわ」としての「一般いっぱん意志いし」がのこるのだと説明せつめいしている。このように、無論むろん選挙せんきょ投票とうひょうによってられる意志いしや、議会ぎかいでの政党せいとうあいだ合意ごういなどでられる意志いしは、「一般いっぱん意志いし」ではない。「一般いっぱん意志いし」は政治せいじ意志いしでもない。ルソーは、『社会しゃかい契約けいやくろん』の全体ぜんたいとおして、「一般いっぱん意志いし」への絶対ぜったい服従ふくじゅういている。

また、ルソーは『社会しゃかい契約けいやくろんだいへんだいななしょうにおいて、「一般いっぱん意志いし」を仕組しくみとしての「立法りっぽうしゃ」なる概念がいねん提示ていじしている。

このように、「一般いっぱん意志いし」は非常ひじょうにわかりにくい概念がいねんであり、長年ながねんおおくの学者がくしゃ研究けんきゅうしゃによって様々さまざま検討けんとうがなされてきた。

初期しょき批判ひはんしゃとして有名ゆうめいなのがバンジャマン・コンスタンヘーゲルである。ヘーゲルは、ルソーが仮定かていした理想りそうてき理性りせいにはなん根拠こんきょいとろんじ、必然ひつぜんてきにそれは恐怖きょうふによる統治とうちにつながるとろんじた。コンスタンもまた、フランス革命かくめい惨禍さんかけてルソーを批判ひはんし、人民じんみんによる一般いっぱん意志いしもとづく政治せいじ決定けってい(への服従ふくじゅう)を拒絶きょぜつした[2]

1952ねんジェイコブ・タルモンはルソーの一般いっぱん意志いしが、国家こっか理論りろんじょう瑕疵かしがないとする多数たすう意志いし執行しっこうしゃとなって国民こくみん服従ふくじゅうさせるといった、全体ぜんたい主義しゅぎてき民主みんしゅ主義しゅぎみちびいたとろんじた。

べつ批判ひはんしゃとしては、自由じゆう主義しゅぎしゃカール・ポパー同様どうようにルソーを批判ひはんしたが、そのうえバートランド・ラッセルつぎのように警告けいこくした。「一般いっぱん意志いしという思想しそうは、投票とうひょうばこ必要ひつようとせず、指導しどうしゃたいする国民こくみん不可解ふかかい帰属きぞく意識いしき可能かのうにさせた」[3]

著名ちょめい批判ひはんしゃとしては、アイザイア・バーリンがおり、一般いっぱん意志いしへの服従ふくじゅう前提ぜんていとしたルソーの自由じゆう社会しゃかいは、自由じゆうというのもとで抑圧よくあつ正当せいとうする全体ぜんたい主義しゅぎ指導しどうしゃ存在そんざいゆるし、ルソーを「人類じんるい思想しそう歴史れきしなかもっと邪悪じゃあくおそろしいてきひとつだ」とひょうした[4]

経済けいざい学者がくしゃフリードリヒ・ハイエクも「人間にんげん天国てんごくもどすと約束やくそくする現代げんだい知的ちてき合理ごうり主義しゅぎ致命ちめいてきおもいあがりの主要しゅよう源泉げんせん」にルソーが創作そうさくした一般いっぱん意志いしがあるとする[5]

独裁どくさいとの関係かんけい

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フランス革命かくめいジャコバンのリーダーとして政権せいけんにぎったマクシミリアン・ロベスピエールは、ぞくに「ルソーの血塗ちぬられた」とばれる。これはロベスピエールがみずからこそが「一般いっぱん意志いし」をすることができるものだとしたうえ独裁どくさいおこない、恐怖きょうふ政治せいじによって反対はんたいしゃ大量たいりょう処刑しょけいしたことに由来ゆらいする。このように、「一般いっぱん意志いし」という概念がいねんは、歴史れきしじょうたびたび独裁どくさいしゃによって「利用りよう」されてきた。

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ 一般いっぱん意志いしとは - コトバンク
  2. ^ Joseph Reisert (2010). “General Will”. In Bevir, Mark. Encyclopedia of Political Theory. pp. 551–553. ISBN 1412958652. https://books.google.com/books?id=gryvMfjg-zEC&pg=PA553&lpg=PA553&f=false#v=onepage&q&f=false 
  3. ^ David Lay Williams (2014). Rousseau's Social Contract: An Introduction. Cambridge University Press. pp. 1–2. ISBN 978-0521124447. https://books.google.com/books?id=1_tGAgAAQBAJ&pg=PA2&lpg=PA2#v=onepage&q&f=false 
  4. ^ George Crowder (2004). Isaiah Berlin: Liberty, Pluralism and Liberalism. Polity. p. 61. ISBN 978-0745624778. https://books.google.com/books?id=dj-bMlq0V5QC&pg=PA61#v=onepage&q&f=false 
  5. ^ 致命ちめいてきおもいあがり」 『ハイエク全集ぜんしゅうだい1かん渡辺わたなべ幹雄みきおやく西山にしやま千明ちあき監修かんしゅう春秋しゅんじゅうしゃ、2009ねん、p71

参考さんこう文献ぶんけん

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外部がいぶリンク

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