(Translated by https://www.hiragana.jp/)
長期と短期 - Wikipedia

長期ちょうき短期たんき

長期ちょうきから転送てんそう

ミクロ経済けいざいがくにおいて、長期ちょうきえい: Long run)とは、固定こてい生産せいさん要素ようそ存在そんざいせず、そのため(資本しほんストックの変化へんか産業さんぎょう参入さんにゅう退出たいしゅつなどによる)生産せいさんりょう変化へんかさまたげるような制約せいやくがない概念的がいねんてき期間きかんす。すなわち、長期ちょうきではすべての生産せいさん要素ようそ可変かへんてきとなる。これとは対照たいしょうてき短期たんきえい: Short run)とは、一部いちぶ生産せいさん要素ようそ可変かへんてきである一方いっぽうで、一部いちぶ生産せいさん要素ようそ固定こていてきであり、産業さんぎょう参入さんにゅう退出たいしゅつ制限せいげんされているような概念的がいねんてき期間きかんす。すなわち、短期たんきでは一部いちぶ生産せいさん要素ようそ固定こていてきとなる。マクロ経済けいざいがくにおいて、「長期ちょうき」とは、一般いっぱん物価ぶっか水準すいじゅん賃金ちんぎんりつおよび期待きたい経済けいざい状態じょうたいたいして完全かんぜん調整ちょうせいされる期間きかんす。一方いっぽうで、「短期たんき」においては一部いちぶ変数へんすう完全かんぜんには調整ちょうせいされない[1]

長期ちょうき

編集へんしゅう

長期ちょうきにおいて、企業きぎょう生産せいさん水準すいじゅんを(期待きたい利潤りじゅん(あるいは損失そんしつ)、土地とち労働ろうどう資本しほんなどの要素ようそおうじて、その経済けいざい長期ちょうき平均へいきん費用ひよううように変化へんかさせる。単純たんじゅんのため工場こうじょう固定こてい生産せいさん要素ようそしかたないとかんがえると、一般いっぱんてきに、企業きぎょう長期ちょうきてきつぎのような変化へんかこす。

  • 期待きたい利潤りじゅんおうじて産業さんぎょう参入さんにゅうする
  • 損失そんしつおうじて産業さんぎょうから退出たいしゅつする
  • 利潤りじゅんおうじて工場こうじょうやす
  • 損失そんしつおうじて工場こうじょうらす

ミクロ経済けいざいがくのモデルでは、この「長期ちょうき」という概念がいねん長期ちょうき平均へいきん費用ひよう曲線きょくせん英語えいごばん(Long-run average cost curve, LRAC)に関連かんれんしており、企業きぎょうはそれぞれの長期ちょうき産出さんしゅつりょうたいして平均へいきん費用ひよう(1単位たんいごと費用ひよう)を最小さいしょうするであろうという事実じじつ反映はんえいしている。長期ちょうき限界げんかい費用ひよう英語えいごばん(Long-run marginal cost, LRMC)は固定こてい資本しほんふくめた生産せいさん要素ようそ変化へんかさせ追加ついかてき産出さんしゅつたいする費用ひよう最小さいしょうにしようとしたときの追加ついかてきざいサービスの1単位たんいたいする費用ひようである[注釈ちゅうしゃく 1]長期ちょうきにおいて、長期ちょうき限界げんかい費用ひようひとしい価格かかく設定せっていされることで効率こうりつてき資源しげん配分はいぶん達成たっせいされる。「長期ちょうき費用ひよう」の概念がいねん企業きぎょうがその産業さんぎょうにおいて生産せいさんつづけるか退出たいしゅつするかの決定けっていかんがえるさいにももちいられている。完全かんぜん競争きょうそう産業さんぎょうにおける長期ちょうき均衡きんこうにおいては、LRACの最小さいしょうにおいて LRMC = LRAC となる。長期ちょうき限界げんかい費用ひよう曲線きょくせん長期ちょうき平均へいきん費用ひよう曲線きょくせんかたち規模きぼかんする収穫しゅうかく英語えいごばんがどのように変化へんかするかで決定けっていされる。

長期ちょうき」においてあらゆる計画けいかく実施じっしされる[2][3]いちれいとして、ある企業きぎょうあらたな工場こうじょう建設けんせつしたり、あるいはあらたな生産せいさんラインを追加ついかすることでよりだい規模きぼ生産せいさんをするとする。ここで、その企業きぎょうはその生産せいさん過程かていにおいてあらたな技術ぎじゅつ採用さいようするとする。この企業きぎょうはその長期ちょうき生産せいさんかんしてあらゆる選択肢せんたくし考慮こうりょし、そしてその長期ちょうき目標もくひょうたいして、最適さいてき投入とうにゅうぶつわせと技術ぎじゅつ選択せんたくする[4]最適さいてき投入とうにゅうぶつわせとは、すべての投入とうにゅうぶつ可変かへんであるとき、計画けいかくされた産出さんしゅつりょう水準すいじゅんたいして最小さいしょう費用ひようとなるような投入とうにゅうぶつわせである[3]実際じっさい計画けいかく決定けっていされ生産せいさんはじまると、この企業きぎょう短期たんきにおいて固定こてい投入とうにゅうぶつ可変かへん投入とうにゅうぶつもちいて生産せいさん活動かつどうおこな[3][5]

リアルタイムにおこなわれるあらゆる生産せいさんは「短期たんき」としてあつかわれる。短期たんきにおいては、利潤りじゅん最大さいだいをする企業きぎょうつぎのことを実行じっこうする。

短期たんきから長期ちょうきへの移行いこう

編集へんしゅう

短期たんきから長期ちょうきへの移行いこうつぎのようにされる。すなわち、需要じゅよう供給きょうきゅう均衡きんこうかんして、一部いちぶ短期たんき均衡きんこう同時どうじ長期ちょうき均衡きんこうでもあるとみなす。この均衡きんこう状態じょうたいを、さらに均衡きんこうさまたげる要因よういん変化へんかさせてつくしたあらたな短期たんき均衡きんこう状態じょうたいおよび長期ちょうき均衡きんこう状態じょうたい比較ひかくする(この均衡きんこうさまたげるような要因よういんとは、たとえば物品ぶっぴん販売はんばい税率ぜいりつげられる)。この比較ひかくたいして、まず短期たんき調整ちょうせいえがき、つぎに長期ちょうき調整ちょうせいえがく。これらのそれぞれのプロセスは比較ひかくせいがくかんがえに沿うものであり、このような静的せいてき状態じょうたい比較ひかく分析ぶんせきする手法しゅほうアルフレッド・マーシャル(1890)が開発かいはつしたものである[6]。マーシャルは(一時いちじてきな)市場いちば期間きかん産出さんしゅつりょう固定こてい)を「短期たんき」として長期ちょうき区別くべつした。こうした手法しゅほうは、Viner 1931Hicks 1939、そしてSamuelson 1947によって形式けいしきされた[6]。この法則ほうそく短期たんき限界げんかい費用ひよう曲線きょくせんせいかたむきに関連かんれんしている[注釈ちゅうしゃく 2]

マクロ経済けいざいがくにおける用法ようほう

編集へんしゅう

長期ちょうき」と「短期たんき」のマクロ経済けいざいがくにおける用法ようほうはミクロ経済けいざいがくによるものとことなっている。ジョン・メイナード・ケインズは1936ねん刊行かんこうされた主著しゅちょ雇用こよう利子りしおよび貨幣かへい一般いっぱん理論りろん』において、市場いちば経済けいざい完全かんぜん雇用こようから乖離かいりし、経済けいざい完全かんぜん雇用こよう到達とうたつしない期間きかんについてろんじ、経済けいざいのファンダメンタルな要素ようそ強調きょうちょうした[8]。より近代きんだいのマクロ経済けいざいがくにおける用法ようほうでは、「長期ちょうき」というかたりは「経済けいざいそう需要じゅようそう供給きょうきゅう曲線きょくせんのシフトにかんして価格かかく水準すいじゅん完全かんぜん柔軟じゅうなんである期間きかん」としてもちいられている。「長期ちょうき」では、くわえて、経済けいざい部門ぶもん(セクター)あいだにおける労働ろうどうりょく資本しほん完全かんぜん自由じゆう移動いどう仮定かていされ、国際こくさいあいだ資本しほん完全かんぜん自由じゆう移動いどう仮定かていされている。しかし、短期たんきにおいてはこれらの条件じょうけんのどれにおいても完全かんぜんたされる必要ひつようはない。そう需要じゅよう曲線きょくせんそう供給きょうきゅう曲線きょくせんのシフトにかんして、物価ぶっか名目めいもく硬直こうちょくせいがある。資本しほん部門ぶもんあいだ完全かんぜん自由じゆう移動いどうするわけではなく、また、資本しほん国際こくさいてき移動いどうかんしても、国家こっかあいだでの利子りしりつちがいおよび固定こてい為替かわせレートによって、資本しほん完全かんぜんには自由じゆう移動いどうしないとされている[9]

長期ちょうき分析ぶんせき現実げんじつせいや、短期たんき分析ぶんせき軽視けいしへの批判ひはんはジョン・メイナード・ケインズによるものがある。貨幣かへい供給きょうきゅうばいにすることで物価ぶっか水準すいじゅんばいになるということを主張しゅちょうする貨幣かへい数量すうりょうせつ長期ちょうき命題めいだいひょうして、ケインズは「長期ちょうきてきには我々われわれみなんでいる」とべた(Keynes 1923, p. 65)。

関連かんれん項目こうもく

編集へんしゅう

脚注きゃくちゅう

編集へんしゅう

注釈ちゅうしゃく

編集へんしゅう
  1. ^ 長期ちょうきであるからこそ固定こてい資本しほん変化へんかさせることができるのであって、短期たんきにおいては固定こてい資本しほん変化へんかさせることはできない。
  2. ^ While the law does not directly apply in the long run it is not irrelevant. The long run is the planning phase. A manager deciding which of several plants to build would want to know the shape of the SR cost curves associated with each of these plants. Marginal diminishing returns are related to the shape of the short-run marginal and average cost curves. Thus the law indirectly effects long-run decision making per R. [7]

出典しゅってん

編集へんしゅう
  1. ^ Paul A. Samuelson and William D. Nordhaus (2004). Economics, 18th ed., [end] Glossary of Terms, "Long run" and "Short run."
  2. ^ Melvin & Boyes, 2002. Microeconomics, 5th ed., p. 185. Houghton Mifflin.
  3. ^ a b c Boyes, W., 2004. The New Managerial Economics, p. 107. Houghton Mifflin.
  4. ^ Melvin & Boyes, 2002. Microeconomics, 5th ed., p. 185. Houghton Mifflin.
  5. ^ Perloff, J, 2008. Microeconomics Theory & Applications with Calculus, p. 230. Pearson .
  6. ^ a b Whitaker 2008.
  7. ^ Pindyck & D. Rubinfeld, 2001, Microeconomics, 5th ed., pp. 185-86. Prentice-Hall.
  8. ^ Carlo Panico and Fabio Petri, 2008. "long run and short run," Short- and long-period in Keynes, The New Palgrave Dictionary of Economics, 2nd Edition. Abstract.
       • John Maynard Keynes, 1936. The General Theory of Employment, Interest and Money, pp. 4-5.
  9. ^ N. Gregory Mankiw, 2002. Macroeconomics, 5th ed. pp. 240, 120, and 327-329.

参考さんこう文献ぶんけん

編集へんしゅう
  • Armen, Alchian, 1959. "Costs and Outputs," in M. Abramovitz, ed., The Allocation of Economic Resources, ch. 2, pp. 23-40. Stanford University Press. Abstract.
  • Hicks, John (1939), Value and Capital: An Inquiry into Some Fundamental Principles of Economic Theory, Oxford .
  • Hirshleifer, Jack, 1962. "The Firm's Cost Function: A Successful Reconstruction?" Journal of Business, 35(3), pp. 235-255.
  • Boyes, W., 2004. The New Managerial Economics, Houghton Mifflin. ISBN 0-395-82835-X
  • Keynes, J.M (1923), A Tract on Monetary Reform, Macmillan .
  • Marshall, Alfred (1890), Principles of Economics, Macmillan .
  • Melvin & Boyes, 2002. Microeconomics, 5th ed. Houghton Mifflin.
  • Panico, Carlo, and Fabio Petri, 2008. "long run and short run," The New Palgrave Dictionary of Economics, 2nd Edition. Abstract.
  • Perloff, J, 2008. Microeconomics Theory & Applications with Calculus. Pearson. ISBN 978-0-321-27794-7
  • Pindyck, R., & D. Rubinfeld, 2001. Microeconomics, 5th ed. Prentice-Hall. ISBN 0-13-019673-8
  • Samuelson, Paul (1947), Foundations of Economic Analysis, Harvard University Press .
  • Viner, Jacob (1931), “Costs Curves and Supply Curves”, Journal of Economics 3 (1): p. 23-46 .
  • Viner, Jacob, 1940. "The Short View and the Long in Economic Policy," American Economic Review, 30(1), Part 1, pp. 1-15. Reprinted in Viner, 1958, and R. B. Emmett, ed. 2002, The Chicago Tradition in Economics, 1892-1945, Routledge, v. 6, pp. 327- 41. Review extract.
  • Viner, Jacob, 1958. The Long View and the Short: Studies in Economic Theory and Policy. Glencoe, Ill.: Free Press.
  • Whitaker, John K. (2008), “Marshall, Alfred (1842–1924), Price determination and period analysis”, The New Palgrave Dictionary of Economics .