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養殖業 - Wikipedia

養殖ようしょくぎょう

人工じんこうてき生物せいぶつ育生いくせいする産業さんぎょう
養殖ようしょくから転送てんそう

養殖ようしょくぎょう(ようしょくぎょう、英語えいご: aquaculture)とは、生物せいぶつを、その本体ほんたいまたはふく生成せいせいぶつ食品しょくひん工業こうぎょう製品せいひんなどとして利用りようすることを目的もくてきとして、人工じんこうてきそだてる産業さんぎょうである。金魚きんぎょ錦鯉にしきごいなどを鑑賞かんしょう愛玩あいがん目的もくてきそだてることは「養魚ようぎょ」としょうする場合ばあいおお[1]

中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこく大連たいれん旅順りょじゅんこうにおける真珠しんじゅかい養殖ようしょく

狭義きょうぎおよ通常つうじょうは、水産すいさんぎょう養殖ようしょく漁業ぎょぎょう)の一種いっしゅで、魚介ぎょかいるい海藻かいそうなどの水棲すいせい生物せいぶつ人為じんいてき繁殖はんしょくについて使つかわれる。広義こうぎには、生物せいぶつ全般ぜんぱんそだてることをすが、陸生りくせい植物しょくぶつかんしては栽培さいばい農耕のうこう哺乳類ほにゅうるいかんしては畜産ちくさん、そのうち乳牛にゅうぎゅうなどは酪農らくのう、ニワトリにかんしては養鶏ようけい、ブタは養豚ようとん昆虫こんちゅう昆虫こんちゅう養殖ようしょく英語えいごばん養蜂ようほう養蚕ようさんなど)という用語ようごがある。

概要がいよう

編集へんしゅう

養殖ようしょくするためには対象たいしょうとなる生物せいぶつ生態せいたい必要ひつようがあり、安定あんていした養殖ようしょく技術ぎじゅつ獲得かくとくまでには時間じかんがかかる。魚介ぎょかいるいかんしては、たまごあるいは稚魚ちぎょややかいからそだてることがおおい。反面はんめん飼育しいくおやぎょからの採卵さいらん管理かんり環境かんきょうでの孵化ふかぎょおよ稚魚ちぎょしつりょう確保かくほ困難こんなんさかなしゅたとえば、ニホンウナギクロマグロハマチ)の場合ばあい自然しぜんかいから稚魚ちぎょらえてそだてる「蓄養」がおこなわれる。ニホンウナギやマグロるいでは稚魚ちぎょとしてもちいる未成みせいぎょ捕獲ほかく行為こうい無制限むせいげんおこなわれ、捕獲ほかくする行為こうい自体じたい天然てんねん資源しげん資源しげん減少げんしょう要因よういん指摘してきされていたが、クロマグロにいては2014ねんから未成みせいぎょ捕獲ほかく制限せいげんおこなわれると報道ほうどうされた[2][3]

目的もくてき

編集へんしゅう

おおくの場合ばあいそだてた生物せいぶつ自体じたい食用しょくようとすること目的もくてきであるが、生物せいぶつ育成いくせいによって副次的ふくじてき生成せいせいされる物質ぶっしつ食用しょくよう以外いがい用途ようととする場合ばあい真珠しんじゅなど)もある。一方いっぽう人間にんげんによって略奪りゃくだつ破壊はかいされた海洋かいよう環境かんきょう自然しぜんかえ手段しゅだんひとつとする見解けんかいもある[4]

養殖ようしょくには、りょう条件じょうけん捕獲ほかく環境かんきょう管理かんりできることで、捕獲ほかくのダメージによる劣化れっかふせ時間じかんやエネルギーなどの各種かくしゅコストをおさえられること、さかなしゅによっては天然てんねん環境かんきょうくら成長せいちょうはやめることが技術ぎじゅつてき可能かのうであることなど、明確めいかくなメリットがある[5]

養殖ようしょく施設しせつ

編集へんしゅう

さかなったりしないように管理かんりして、給餌きゅうじ漁獲ぎょかく容易よういにするため、うみ沿岸えんがんいき淡水たんすい湖沼こしょうなどに様々さまざま施設しせつつくられる。魚介ぎょかいるい種類しゅるいわせて、海面かいめんいかだ養魚ようぎょなどが使つかけられる。海水かいすいぎょ一部いちぶは、海水かいすい水質すいしつたもって内陸ないりくそだてる閉鎖へいさ循環じゅんかんしき陸上りくじょう養殖ようしょく可能かのうになっている[6]

とく悪天候あくてんこうにおいてなみ海流かいりゅう潮流ちょうりゅうはげしい外海がいかいでの養殖ようしょくむずかしいが、ノルウェーでは北海ほっかい油田ゆでん石油せきゆプラットホーム技術ぎじゅつ応用おうようし、水深すいしん150mの外洋がいようサーモン養殖ようしょくしている[7]

中国ちゅうごく大陸たいりくには淡水魚たんすいぎょ養殖ようしょくではふるくからの歴史れきしがあり、いまなおもっとさかんなコイ養殖ようしょくは3000ねんまえからはじまったという。春秋しゅんじゅう時代じだいこしおう臣下しんかである范蠡世界せかいはつ養殖ようしょくについての概論がいろんしょ養魚ようぎょけい』をあらわした。

古代こだいローマではカキ(かい養殖ようしょくされた[8]ほか資産しさん投資とうしさきひとつとして、養魚ようぎょ経営けいえいがあった。養魚ようぎょには淡水たんすいいけもあれば、うみから海水かいすいんで内陸ないりくつくられる海水かいすいもあった。資産しさんたちは饗宴きょうえん使つかわれる高級こうきゅうぎょであるヘダイヒメジなどをそだてていた。中世ちゅうせいヨーロッパではカワカマスウナギよんしゅんぶしようのコイの養殖ようしょくさかんで、だい地主じぬし農夫のうふいけみずうみ権利けんりし、さかな金銭きんせん徴収ちょうしゅうするかたちおこなわれた。領主りょうしゅ水産すいさん資源しげん養魚ようぎょ権益けんえきまもるためにかわみずうみでのりには厳格げんかくなルールをつくった。上流じょうりゅう階級かいきゅうには特許とっきょじょうしたが、平民へいみん違反いはんすると重罪じゅうざいとなった[9]

完全かんぜん養殖ようしょく

編集へんしゅう
 
ブリ一種いっしゅたねぎょ(Broodfish)、カンパチ

生物せいぶつ誕生たんじょうから次世代じせだいへの継続けいぞくというサイクルをすべて人工じんこう飼育しいく実施じっしすることを完全かんぜん養殖ようしょく(かんぜんようしょく)という。たとえば、魚類ぎょるいであれば、成魚せいぎょからたまご人工じんこう孵化ふかのち成魚せいぎょそだて、さらに成長せいちょうさせただいさかなからたまごって人工じんこう孵化ふかさせるというサイクルが出来できると完全かんぜん養殖ようしょくぶ。ナマズサケコイマダイトラフグ浅海せんかいせいエビひとしおおくの食用しょくようとなるしゅでは技術ぎじゅつ確立かくりつし、完全かんぜん養殖ようしょくおこなわれている。一方いっぽう食用しょくよう魚介ぎょかいるいとして馴染なじみのあるイカタコサンマイワシアジうみせいカニ牡蠣かきなどでは完全かんぜん養殖ようしょくおこなわれていない。たとえば、養殖ようしょくぎょとして馴染なじみのあるハマチ[10]においては天然てんねんさん稚魚ちぎょそだてる畜養がすべてをめている。

完全かんぜん養殖ようしょくは「産卵さんらん」「孵化ふか」「稚魚ちぎょ育成いくせい」「性的せいてき成熟せいじゅく」まですべての過程かてい最適さいてき条件じょうけん管理かんりした環境かんきょうおこなうもので、生物せいぶつ生態せいたいかく課程かてい詳細しょうさい研究けんきゅう最適さいてきえさ水温すいおんあかるさなどの条件じょうけん見出みいだ必要ひつようる。実際じっさい完全かんぜん養殖ようしょくおこなおうとした場合ばあい目的もくてきとするさかなしゅ生態せいたい解明かいめいだけでおやぎょ飼育しいく稚魚ちぎょ生産せいさんまでにかかる生産せいさんコストも重要じゅうようで、生産せいさんコストの上乗うわのせが容易よういなウナギ、マグロでは技術ぎじゅつ開発かいはつ成功せいこうしているが、サンマやイワシなど安価あんか販売はんばいされるさかなしゅでは技術ぎじゅつ開発かいはつおこなわれていない。しかし、21世紀せいきはいってから、かつては、不可能ふかのうとされていたウナギなどの魚介ぎょかいるいでの完全かんぜん養殖ようしょく実験じっけん実験じっけんしつレベルで成功せいこう[11]とくクロマグロなが期間きかんをかけて完全かんぜん養殖ようしょく商業しょうぎょうてきりたせており[12]今後こんご技術ぎじゅつ発展はってん水産すいさん業者ぎょうしゃ関心かんしんあつまっている。

完全かんぜん養殖ようしょく世代せだいかさねると、養殖ようしょくやす特性とくせい遺伝いでん集団しゅうだん形成けいせいされる反面はんめん単一たんいつ形質けいしつをもつ遺伝いでんてき多様たようせいける集団しゅうだんとなる。その結果けっか環境かんきょうストレスにたいするたいせいたいびょうせい低下ていかさせるとともに、つぎだい人工じんこう種苗しゅびょうおやぎょ(Broodstock)となった自然しぜんかいでのさい生産せいさんのサイクルが良好りょうこう機能きのうしない原因げんいんとなっている可能かのうせいアユでは指摘してきされている。一方いっぽう遺伝いでんてき多様たようせい維持いじするために、養殖ようしょくメスと野生やせいオスを交配こうはいさせ次世代じせだい種苗しゅびょうとすること遺伝いでんてき多様たようせい維持いじをはかることが可能かのうである[13]

世界せかい養殖ようしょく

編集へんしゅう

1883ねん著名ちょめい生物せいぶつ学者がくしゃトマス・ヘンリー・ハクスリーは「タラりょう、ニシンりょう、マイワシりょう、サバりょう、そしておそらくすべての海洋かいようりょう無尽蔵むじんぞうである。つまり、我々われわれ人間にんげんのすることなどさかなかずおおきな影響えいきょうおよぼすことはない」とべたが、そのの1世紀せいき世界せかい海洋かいよう資源しげん激減げきげんし、国連こくれん食糧しょくりょう農業のうぎょう機関きかん推定すいていでは流通りゅうつうしているおもさかなの3ぶんの2は、集団しゅうだん維持いじできる以上いじょうのレベルで捕獲ほかくされていると指摘してきしている[5]

 
世界せかい水産物すいさんぶつ生産せいさんりょう推移すいい[14] みどり(養殖ようしょく)、あお(天然てんねん)

西にしヨーロッパでは、1970年代ねんだい乱獲らんかくによる漁業ぎょぎょう資源しげん枯渇こかつと、沿岸えんがん無秩序むちつじょ開発かいはつ海洋かいよう汚染おせん問題もんだいとなった。ル貝るがいカキ養殖ようしょくは18世紀せいき以来いらい伝統でんとうがあったが、海洋かいよう汚染おせんのために従来じゅうらい場所ばしょ養殖ようしょくてきさなくなったり、あらたな手法しゅほう開発かいはつする必要ひつようせまられたりした。魚類ぎょるい養殖ようしょく中世ちゅうせい以来いらいすたれていたが、環境かんきょう問題もんだいたかまりとともに研究けんきゅう実践じっせんすすみつつある。

カナダスカンジナビアチリではサケ魚類ぎょるい養殖ようしょくさかんである。養殖ようしょくぎょ成長せいちょうには温度おんど管理かんり重要じゅうようとなるが、フランスやカナダでは原子力げんしりょく発電はつでんしょ冷却れいきゃくすい利用りようした温度おんど管理かんりでウナギやコイの養殖ようしょくおこなわれている。アメリカ合衆国あめりかがっしゅうこくでは、流通りゅうつうしているニジマスとナマズのほぼ100%が養殖ようしょくされたものである。

中央ちゅうおうヨーロッパでは伝統でんとうてきにコイの養殖ようしょくさかんで、なかでもみなみボヘミア地方ちほうのコイは世界せかいてき名声めいせいがある。ハンガリーでは、コイとアヒルやガチョウをおなうことで家禽かきんるい排泄はいせつぶつでコイをふとらせている。たような方法ほうほう中国ちゅうごく中央ちゅうおうアフリカなどでもおこなわれている。また、すうねんごといけみず穀類こくるい栽培さいばいする輪作りんさくおこなっている[15]

養殖ようしょく品目ひんもく

編集へんしゅう

養殖ようしょく対象たいしょうとなるおも品目ひんもく魚類ぎょるいで、生産せいさんだかおおたねはコイ、サケティラピアナマズである。甲殻こうかくるいでは浅海せんかいせいエビ養殖ようしょくが1970年代ねんだいから、上海しゃんはいかには1990年代ねんだいから急激きゅうげき増加ぞうかした。軟体動物なんたいどうぶつでは牡蠣かきムラサキイガイなど、そのにはクラゲナマコウニホヤなどである。

養殖ようしょく漁業ぎょぎょう生産せいさんだかひゃくまんトン)[14]
おも養殖ようしょくしゅ
したから海藻かいそう魚類ぎょるい軟体動物なんたいどうぶつ貝類かいるい、イカ・タコなど)、甲殻こうかくるい、その
そのたね
品目ひんもく一覧いちらん
 
海苔のり養殖ようしょく
そのヒオウギガイ[17][18]、アサリ、アワビ[19]

各国かっこく生産せいさんだか

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1980年代ねんだい以降いこう中国ちゅうごく国内こくない中華人民共和国ちゅうかじんみんきょうわこく生産せいさんだか)の養殖ようしょくきゅう成長せいちょうしている。2009ねん生産せいさんりょうやく8せんまんトンで生産せいさん金額きんがくは860おくドル[20]

各国かっこく養殖ようしょく漁業ぎょぎょう生産せいさんだかひゃくまんトン)[14]
したから中国ちゅうごくインドネシアインドベトナムフィリピン韓国かんこくバングラデシュタイ日本にっぽん、その
おおじゅんに、中国ちゅうごく、インドネシア、インド、ベトナム、フィリピン、韓国かんこく、バングラデシュ、タイ、日本にっぽん、その

日本にっぽんにおける養殖ようしょく 

編集へんしゅう

日本にっぽんにおける養殖ようしょくによる生産せいさんりょう重量じゅうりょうペースで世界せかいやく1%であった。

養殖ようしょくされるおもさかなしゅ

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平成へいせい27ねん農林水産省のうりんすいさんしょう ぎょ種別しゅべつ生産せいさんりょう がい数値すうち[21]
順位じゅんい 海面かいめん養殖ようしょくぎょしゅ 単位たんい = 1まんt 内水うすいめん養殖ようしょくぎょしゅ 単位たんい = t
1 ほたてがい 24.81 うなぎ 19,913
2 かきるい 14

.41

あゆあゆ 5,083
3 ぶり 10.17 にじます虹鱒にじます 4,833
4 まだい真鯛まだい 6.35 こいこい 3,256
5 かんぱち 3.38 そのまするい 2,867
6 くろまぐろ黒鮪くろまぐろ 1.47
7 ぎんざけぎんさけ 1.39
8 ほやるい .83
9 しまあじ .33
10 ひらめ平目ひらめ .25
11 くるまえび車海老くるまえび .13
12 まあじ .08

しゅ産地さんち

編集へんしゅう

さかなしゅによって生産せいさんはまったくことなるが、生産せいさん金額きんがくでは下記かき地域ちいき上位じょういにランクされる。瀬戸内海せとないかい有明海ありあけかいなどの内海うつみとく養殖ようしょくおおく、西にし九州きゅうしゅう四国しこくはいずれもタイ、ブリるいハマチひとし)、ウナギの養殖ようしょくさかんである。なお、海面かいめん漁業ぎょぎょうふくめると北海道ほっかいどう最多さいたである。宮城みやぎけん岩手いわてけん三陸海岸さんりくかいがん東北とうほく地方ちほう太平洋たいへいようおき地震じしん津波つなみおおきな被害ひがいけた。

平成へいせい27ねん農林水産省のうりんすいさんしょう 養殖ようしょくぎょう生産せいさんりょう上位じょうい都道府県とどうふけん がい数値すうち[21]
順位じゅんい 都道府県とどうふけん海面かいめん 単位たんい = 1まんt 海面かいめん最多さいた生産せいさんしゅ 都道府県とどうふけん内水うすいめん 単位たんい = t 内水うすいめん最多さいた生産せいさんしゅ
全国ぜんこく 106.69 全国ぜんこく 36,114
1 北海道ほっかいどう 16.60 ホタテ 13.51 鹿児島かごしま 8,127 ウナギ 8,007t
2 広島ひろしま 11.07 カキ 10.68 愛知あいち 6,485 ウナギ 5,116t
3 青森あおもり 10.11 ホタテ 10.07 宮崎みやざき 4,014 ウナギ 3,315t
4 宮城みやぎ 7.68 コンブ・ワカメるい 315 静岡しずおか 3,255 ウナギ 1,834t
5 兵庫ひょうご 7.64 クロノリ 674 長野ながの 1,599 ニジマス 767t
6 佐賀さが 6.84 クロノリ 665 福島ふくしま 1,379 コイ 932t
7 愛媛えひめ 6.47 ブリ・カンパチ 214 岐阜ぎふ 1,358 アユ 897t
8 鹿児島かごしま 4.98 ブリ・カンパチ 434 茨城いばらき 1,252 コイ 1,087t
9 熊本くまもと 4.95 海藻かいそう 303 和歌山わかやま 991 アユ 984t
10 岩手いわて 4.29 コンブ・ワカメるい 329 山梨やまなし 979 ニジマス 702t

養殖ようしょく問題もんだいてん

編集へんしゅう
生産せいさん過剰かじょう
養殖ようしょく技術ぎじゅつ確立かくりつされ、稚魚ちぎょから成魚せいぎょになるまでの歩留ぶどまりが向上こうじょうすると、生産せいさん過剰かじょうになり、成魚せいぎょ市場いちば価格かかく暴落ぼうらくする。あるさかなしゅ収益しゅうえきたかいと注目ちゅうもくされるとおおくの養殖ようしょく業者ぎょうしゃがそのさかなしゅあつかおうとすることからしょうじ、また市場いちば価格かかく低迷ていめいしているからといって長期間ちょうきかん蓄養するとえさ費用ひよう無視むしできないので、安値やすねでも出荷しゅっかせざるをなくなる。稚魚ちぎょ確保かくほ制約せいやくのあるさかなしゅ場合ばあい一定いっていのブレーキがきくが、幼生ようせいから養殖ようしょくできるさかなしゅ場合ばあい、その歯止はどめがかない。
周辺しゅうへん水質すいしつ汚染おせん
えさ過剰かじょう投与とうよ過密かみつ養殖ようしょくとうによる周辺しゅうへんとみ栄養えいよう[22]水質すいしつ汚染おせん指摘してきされている。養殖ようしょくなみ海流かいりゅうおだやかな内湾ないわんおこなわれることおおく、海流かいりゅうによる浄化じょうか作用さようきにくい。近年きんねんではえさ改良かいりょうされ、またとうえさ技術ぎじゅつ進歩しんぽしたため、のこし、汚染おせんすくないえさもちいられるようになっている。また、フグ養殖ようしょく業者ぎょうしゃによるホルマリンたれなが騒動そうどうもかつてはあった。
品質ひんしつへの不信ふしん
日本にっぽん消費しょうひしゃには天然てんねんもの志向しこうきわめてつよく、「養殖ようしょくぶつなにべさせているかわからない」という観念かんねん支配しはいてきである。また、抗生こうせい物質ぶっしつなど投与とうよぶつへの不信ふしん根強ねづよいものがある。たとえば、だい日本にっぽん水産すいさんかい[23]が2003年度ねんど平成へいせい15年度ねんど)におこなった「水産物すいさんぶつ中心ちゅうしんとした消費しょうひかんする調査ちょうさ若年じゃくねんそう対象たいしょう調査ちょうさ)」では、養殖ようしょくぎょ海水かいすい汚染おせん問題もんだいさかなびょう対策たいさく使用しようされる抗生こうせい物質ぶっしつ抗菌こうきんざい残留ざんりゅうなど、おおくの消費しょうひしゃ不安ふあんいていることがわかったと報告ほうこくされている。
養殖ようしょく業者ぎょうしゃではえさ改良かいりょうなど食味しょくみ改良かいりょう[24]品質ひんしつ向上こうじょうつとめている。また、関係かんけい団体だんたいでは消費しょうひしゃへの広報こうほう活動かつどうとうおこなっている。なお、養殖ようしょく業者ぎょうしゃにおいては「なにえさべているかわからない天然てんねんぶつよりべさせたえさのはっきりしている養殖ようしょくぶつほう安心あんしん」と主張しゅちょうしている。実際じっさいに、しゅんでない時期じきには天然てんねんものより養殖ようしょくもののほう高値たかねくこともある。
また、近年きんねんでは遺伝子いでんし技術ぎじゅつれた「アクアドバンテージ・サーモン」のような養殖ようしょく用品ようひんしゅたいする安全あんぜんせいへの懸念けねん論争ろんそうこしている[25]
天然てんねん資源しげん減少げんしょう
完全かんぜん養殖ようしょく成功せいこうしているうみ生魚なまざかなるいすくなく、天然てんねん成魚せいぎょ捕獲ほかくして養殖ようしょくしているのが実態じったいである。養殖ようしょくよう稚魚ちぎょすべてを人工じんこうてき供給きょうきゅうしており、自然しぜんかい資源しげん減少げんしょうにはくみしていないとおもわれがちであるが、実際じっさいにはマグロるい、ウナギ、ハマチなどでは自然しぜんかいから稚魚ちぎょ捕獲ほかくしてそだてる蓄養という手段しゅだん養殖ようしょくしており、クロマグロのきょく一部いちぶ完全かんぜん養殖ようしょくされているほかは、商業しょうぎょうベースでの完全かんぜん養殖ようしょくいたっておらず、資源しげん減少げんしょう要因よういんとして非難ひなんされている。また、えさ使用しようされるマイワシ自然しぜんかいからったものであり、しかも人間にんげん食用しょくようよりも肥料ひりょう養殖ようしょくえさとしての消費しょうひほうおおいという問題もんだいもある。ブリテッシュコロンビア大学だいがく漁業ぎょぎょうセンターの2006ねん調査ちょうさによれば、漁獲ぎょかくされた海洋かいようぎょの37%は養殖ようしょくよう魚粉ぎょふん飼料しりょうになっているという(1948ねんには7.7%でしかなかった)[26]べつ数値すうちでは、さかないちひき養殖ようしょくするためには天然てんねんぎょ19ひき必要ひつようである[27]
トラウトサーモンのような肉食にくしょくせい養殖ようしょくぎょを1トン生産せいさんするのに、しょうさかなを3トンから5トン必要ひつようとする。世界せかい漁獲ぎょかくこうやく5ぶんの1が、ほかのさかなえさになる。[28]
環境かんきょう負荷ふか
甲殻こうかくるい養殖ようしょく養豚ようとん養鶏ようけい以上いじょうにCO2排出はいしゅつりょうおおい。また、エビの養殖ようしょくじょうにするために、世界せかい最大さいだいのCO2吸収きゅうしゅうげんの1つであるマングローブりんが1980ねんからやく150まんヘクタールうしなわれている[29]
外国がいこくさん水産物すいさんぶつとの競合きょうごう
外国がいこくさん水産物すいさんぶつ多量たりょう流入りゅうにゅうし、これらとの競合きょうごうまれている。
遺伝いでんてき多様たようせい欠如けつじょした集団しゅうだん形成けいせい
世代せだいかさ交配こうはいしていくことで、遺伝いでんてき多様たようせいうす画一かくいつてき個体こたいぐん形成けいせいされていく。この、遺伝いでんてき多様たようせいける個体こたいぐん感染かんせんしょうたいするたいせいよわくなっている場合ばあいがあり、感染かんせんしょう蔓延まんえんしやすい。また、自然しぜん環境かんきょうへの放流ほうりゅう環境かんきょう対応たいおうりょくうすれていくことが指摘してきされている。一方いっぽう多様たようせい維持いじできている個体こたいぐんであれば感染かんせんまぬか生存せいぞんする個体こたいがあり全滅ぜんめつ可能かのうせいひくくできる[13]
外来がいらいしゅ遺伝子いでんし攪乱かくらん
養殖ようしょくよう地域ちいきからまれた生物せいぶつ自然しぜんかい外来がいらいしゅとして野生やせいした事例じれいおおく、周辺しゅうへん生態せいたいけい破壊はかいしたり、在来ざいらいしゅとの交雑こうざつによる遺伝子いでんし攪乱かくらん懸念けねんされる。また、植物しょくぶつやほ乳類にゅうるいにおいて一般いっぱんてきおこなわれている F1 とばれるいちだい雑種ざっしゅ手法しゅほう養殖ようしょくぎょ生産せいさんせい成長せいちょう速度そくど)をげるため、導入どうにゅうすることがある。しかし、サケ魚類ぎょるいいちだい雑種ざっしゅでは致死ちしせいぎょのみが誕生たんじょうする組合くみあわせが[30]。そのため養殖ようしょくぎょ自然しぜんかいし、さらなる交雑こうざつ個体こたいしょうじないようにするため、にん処理しょりほどこした生殖せいしょく能力のうりょくたない3ばいたいメス(3ばいからだぎょでは繁殖はんしょくりょくくなったため天然てんねんぎょであれば生殖せいしょくため消費しょうひされていたエネルギーが成長せいちょうけられるので短期間たんきかん出荷しゅっか可能かのうおおきさに成長せいちょうする)を作出さくしゅつすることがおお[31][32]
さかな福祉ふくし
みずからげられたさかな最大さいだいで250分間ふんかん感覚かんかくたもつことができる[33]ため、迅速じんそく屠殺とさつもとめられる。OIE(国際こくさい獣疫じゅうえき事務じむきょく)は、水生すいせい動物どうぶつ衛生えいせい規約きやくの「養殖ようしょくぎょ福祉ふくし」のなかで、「養殖ようしょくぎょ屠殺とさつされるまえ気絶きぜつさせられるべきであり、その気絶きぜつ手段しゅだんは、確実かくじつ即効そっこうせいがあり、かつ意識いしき喪失そうしつから確実かくじつ回復かいふくしないようにすべき」と記載きさいしている[34]。しかし実際じっさいには、そのまま冷蔵れいぞう処理しょりされるなど気絶きぜつ処理しょりおこなわれないケースがある。
養殖ようしょくサーモンでは、うみシラミをべさせるために、ベラなどの掃除そうじぎょ使用しようされるが、不適切ふてきせつ飼育しいく環境かんきょう死亡しぼうりつ非常ひじょうたかく(最大さいだい100%)、のこったとしても、最終さいしゅうてきにサーモンの生産せいさんサイクルの最後さいごころされてしまうことが問題もんだい提起ていきされている[35]
疾病しっぺい
2020 ねん養殖ようしょくノルウェーさんサーモンでは、生産せいさんコストのほぼ 3 ぶんの 1 が、病気びょうきとシラミの管理かんりのためについやされる[36]
品質ひんしつ劣化れっか
米国べいこく農務のうむしょう調査ちょうさによると、養殖ようしょくされたアトランティック・サーモンは、天然てんねんものの2ばい脂肪しぼうふくみ、養殖ようしょくニジマス天然てんねんものとタンパク質たんぱくしつりょうはほぼおなじだが、脂肪しぼうりょう最大さいだいで79%おおかった。[37]

脚注きゃくちゅう

編集へんしゅう
  1. ^ いちれいとして、しんささえはカープの勝利しょうり 西日本にしにほん豪雨ごううでコイの養魚ようぎょじょう被害ひがい産経さんけいフォト(2018ねん10がつ14にち)2018ねん10がつ24にち閲覧えつらん
  2. ^ クロマグロ漁獲ぎょかく規制きせい、14年度ねんどから 日本にっぽんへの影響えいきょう「ほとんどない」 J-CAST ニュース 2013ねん9がつ24にち
  3. ^ クロマグロ規制きせいつよまる 幼魚ようぎょ漁獲ぎょかくわく削減さくげん日本経済新聞にほんけいざいしんぶん』2013ねん12月3にち
  4. ^ トゥーサン=サマ 1998, pp. 334–335.
  5. ^ a b Harold McGee 2008, pp. 177–178.
  6. ^ (3)様々さまざま養殖ようしょく方法ほうほう水産すいさん白書はくしょ平成へいせい25年度ねんどばん(2018ねん10がつ24にち閲覧えつらん)。
  7. ^ 世界せかい経済けいざい あるき】ノルウェー・ヒトラとう オーシャンファーム1/革命かくめいてきな「外洋がいよう養殖ようしょく油田ゆでん技術ぎじゅつ応用おうよう サーモン10ばい毎日新聞まいにちしんぶん朝刊ちょうかん2018ねん10がつ21にち総合そうごう経済けいざいめん)2018ねん10がつ24にち閲覧えつらん
  8. ^ Higginbotham, James Arnold (1997-01-01). Piscinae: Artificial Fishponds in Roman Italy. UNC Press Books. ISBN 9780807823293. https://books.google.com/books?id=cPyDuRqA2jEC 
  9. ^ トゥーサン=サマ 1998, pp. 316–320.
  10. ^ 香川かがわのハマチ養殖ようしょく概要がいよう 香川かがわけんかんすい養殖ようしょく漁業ぎょぎょう協同きょうどう組合くみあい
  11. ^ 世界せかいはつ、ウナギを完全かんぜん養殖ようしょく成功せいこう 産経さんけいスポーツ
  12. ^ 熊井くまいえいすい, 宮下みやしたもりクロマグロ完全かんぜん養殖ようしょく達成たっせい」『日本水産にっぽんすいさん學會がっかいだい69かんだい1ごう日本にっぽん水産すいさん学会がっかい、2003ねん1がつ、124-127ぺーじdoi:10.2331/suisan.69.124ISSN 00215392NAID 110003145547 
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参考さんこう文献ぶんけん

編集へんしゅう
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関連かんれん項目こうもく

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外部がいぶリンク

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