エメラルドの原石 げんせき
エメラルド (英 えい : emerald )は、緑 みどり 柱石 ちゅうせき (英 えい : beryl 、ベリル )の一種 いっしゅ で、強 つよ い緑 みどり を帯 お びた宝石 ほうせき である。和名 わみょう は、翠玉 すいぎょく (すいぎょく)、緑玉 りょくぎょく (りょくぎょく)である。また、5月の誕生石 たんじょうせき 。
アクアマリン と組成 そせい を同 おな じくするが、クロム Cr やバナジウム V がドーパント として混入 こんにゅう している。
内部 ないぶ に特有 とくゆう の傷 きず が無数 むすう にあり、これが天然 てんねん ものの標識 ひょうしき ともなっている。当然 とうぜん ながら、大 おお きく、傷 きず が少 すく ないほうが価値 かち が高 たか く、明 あか るく濃 こ い緑色 みどりいろ のものが最上級 さいじょうきゅう とされる。エメラルドは天然 てんねん には良質 りょうしつ の石 いし がほとんど産 さん しないため、かなりの傷物 きずもの も宝石 ほうせき として流通 りゅうつう させることが一般 いっぱん に認 みと められており、その場合 ばあい オイル や樹脂 じゅし に浸 ひた すなど化学 かがく 的 てき 処理 しょり を施 ほどこ して傷 きず を隠 かく したり、石 いし の耐 たい 久度 くど を高 たか めたりする。特 とく に無 む 処理 しょり 、ノンオイルとのことわりがない限 かぎ り、この手 て の処理 しょり を施 ほどこ してあると考 かんが えて差 さ し支 つか えない。処理 しょり が下手 へた な場合 ばあい 、時間 じかん の経過 けいか とともにオイルが蒸発 じょうはつ する。かなり高度 こうど な処理 しょり であっても、近年 きんねん 宝石 ほうせき 店 てん の店頭 てんとう でも盛 さか んに行 おこな われている超 ちょう 音波 おんぱ 洗浄 せんじょう 機 き によりオイルが抜 ぬ けてしまうことがあり、そうなると本来 ほんらい の傷物 きずもの の姿 すがた に戻 もど ってしまう。
また、緑 みどり 柱石 ちゅうせき の中 なか には黄 き 緑色 みどりいろ をした石 いし もあるが、エメラルドとして扱 あつか われることはほとんどなく、ヘリオドール、グリーンベリルなどと呼 よ ばれ価値 かち も著 いちじる しく下 さ がる。発色 はっしょく の仕組 しく みも鉄 てつ イオン が関係 かんけい しており、クロム やバナジウム により発色 はっしょく するエメラルドとは原理 げんり が異 こと なる。これらの石 いし は加熱 かねつ 処理 しょり によりアクアマリン へと変色 へんしょく させることができる。
モース硬度 こうど ではかなり硬 かた い石 いし だが、内部 ないぶ に多数 たすう の傷 きず を抱 かか えていると云 い う結晶 けっしょう の性質 せいしつ 上 じょう 、衝撃 しょうげき に極端 きょくたん に弱 よわ い。指輪 ゆびわ の台 だい に取 と り付 つ けるだけで割 わ れることさえあり、職人 しょくにん 泣 な かせの石 いし とされる。エメラルドカットと呼 よ ばれるカットがされることが多 おお いが、これは屈折 くっせつ 率 りつ がダイヤモンドのように高 たか くなく、ブリリアントカット を施 ほどこ しても屈折 くっせつ 率 りつ の高 たか い石 いし に特徴 とくちょう 的 てき な煌き(ファイア)が見 み られないためで、印象 いんしょう 的 てき な緑色 みどりいろ をより広 ひろ く見 み せようとした結果 けっか である。それと、上述 じょうじゅつ したこの石 いし の脆 もろ さ、及 およ び六 ろく 角柱 かくちゅう をした結晶 けっしょう から取 と り出 だ せる大 おお きさなどとの関係 かんけい から、なるべく欠 か け易 やす い角 かく が少 すく なくなるようなこのカットが生 う まれた。なお、透明 とうめい 度 ど の低 ひく い石 いし の場合 ばあい はカボション・カット が施 ほどこ される場合 ばあい もある。
稀 まれ にキャッツアイ効果 こうか (シャトヤンシー効果 こうか )の現 あらわ れるエメラルド・キャッツアイやスター効果 こうか の現 あらわ れるスターエメラルドが産出 さんしゅつ されることがあるが、非常 ひじょう に希少 きしょう である。トラピチェ・エメラルドと呼 よ ばれる均等 きんとう に放射状 ほうしゃじょう に6 むっ つに割 わ れた一見 いっけん スターに見紛 みまが う石 いし もあり、こちらも非常 ひじょう に希少 きしょう である。
同 おな じベリルに属 ぞく するレッドベリル をアメリカの宝石 ほうせき 業界 ぎょうかい がレッドエメラルドと呼 よ ぶように他国 たこく と激 はげ しい議論 ぎろん を重 かさ ねているが、本来 ほんらい エメラルドには「緑色 みどりいろ の」と言 い う意味 いみ があるのでこの名称 めいしょう は正 ただ しくない、と考 かんが える人 ひと もいる[ 1]
。ベリルの語源 ごげん であるギリシア語 ご beryllosにも「海 うみ のような青 あお 緑 みどり の石 いし 」という意味 いみ がある [要 よう 出典 しゅってん ] 。
コロンビア 、ブラジル 、ザンビア 、ジンバブエ 、マダガスカル 、パキスタン など各地 かくち で産出 さんしゅつ されるが、現在 げんざい は、コロンビアが最大 さいだい の産出 さんしゅつ 国 こく である。
2000年 ねん の生産 せいさん シェアはコロンビア (60%)、ザンビア (15%)、ブラジル (12%)、ロシア (4%)、ジンバブエ (3%)、マダガスカル (3%) である。
エメラルドの語源 ごげん はサンスクリット語 ご で「緑色 みどりいろ の石 いし 」を意味 いみ する「スマラカタ」にある。それが、ギリシャ語 ご で「スマクラグドス」、ラテン語 らてんご で「スマラグダス」と変化 へんか し、さらに「スマラルダス」に変化 へんか 、そこからさらに古 こ フランス語 ふらんすご で「エスメラルド」に変化 へんか し、現在 げんざい の「エメラルド」と言 い う呼称 こしょう になったとされる。
エメラルドはエメラルドグリーン のように色 いろ の名前 なまえ として、また美 うつく しい鮮 あざ やかな緑色 みどりいろ を表現 ひょうげん する上 じょう で「エメラルドのような〜」といったように慣用 かんよう 句 く として使 つか われる。
エメラルドの歴史 れきし は古 ふる く、世界 せかい の4大 だい 宝石 ほうせき にも数 かぞ えられている。ギリシア時代 じだい 、アリストテレス の弟子 でし テオフラストスの「石 いし について」に登場 とうじょう し、エジプトの紅海 こうかい に近 ちか い砂漠 さばく で発見 はっけん されたという。プトレマイオス朝 あさ エジプト ではクレオパトラ も愛用 あいよう し好 この みの大使 たいし に与 あた え、シーザー は治療 ちりょう のためにたくさん集 あつ めたと伝 つた えられている。このことから富 とみ と権力 けんりょく の象徴 しょうちょう でもあったとされている。ロ ろ ーマ帝国 まていこく 時代 じだい のプリニウス の「博物 はくぶつ 誌 し 」では、ダイヤと真珠 しんじゅ に次 つ ぐ、第 だい 三 さん 位 い の宝石 ほうせき とされており、皇帝 こうてい ネロ はエメラルド製 せい のモノクル を所有 しょゆう していたとのい伝 いつた えもある。実際 じっさい 、ポンペイ などロ ろ ーマ帝国 まていこく 時代 じだい の遺跡 いせき からはエメラルド製品 せいひん がよく出土 しゅつど する。
このように古 ふる い歴史 れきし を持 も つエメラルドではあるが、量的 りょうてき に出回 でまわ るようになったのはアメリカ大陸 あめりかたいりく 発見 はっけん 後 ご 、新大陸 しんたいりく で発見 はっけん されてからである。
エメラルドは、ギリシアやローマでは、占星術 せんせいじゅつ の影響 えいきょう でヴィーナスに捧 ささ げられていた。ユダヤの伝説 でんせつ ではソロモン王 おう が神 かみ から授 さづ けられた宝石 ほうせき の中 なか に、エメラルドが入 はい っていたという。
サンスクリットの医術 いじゅつ では、エメラルドは解毒 げどく のほか、下剤 げざい 、消化 しょうか を助 たす ける、等 ひとし の効果 こうか があるとされていた。ペルシアやアラビアの聖者 せいじゃ たちも、解毒 げどく のほか、てんかん を治 なお す、肝臓 かんぞう 病 びょう やらい病 びょう に効 き くなど万能 ばんのう 薬 やく 扱 あつか いしていたという。
ヨーロッパでは、蛇 へび がエメラルドを凝視 ぎょうし すると目 め が見 み えなくなるという古 ふる くからのい伝 いつた えがある。
中世 ちゅうせい では、エメラルドに未来 みらい を予言 よげん する力 ちから があるとされ、また、女性 じょせい の貞節 ていせつ を守 まも り夫 おっと の愛 あい を保 たも つとされていた。
エメラルドの合成 ごうせい はフラックス法 ほう により19世紀 せいき に成功 せいこう していたが、20世紀 せいき になると、フラックス法 ほう と共 とも に水 みず 熱 ねつ 合成 ごうせい 法 ほう による宝石 ほうせき 級 きゅう のエメラルドの合成 ごうせい が行 おこな われるようになったが、結晶 けっしょう の成長 せいちょう 速度 そくど が遅 おそ いため年 とし 単位 たんい での合成 ごうせい が必要 ひつよう となり、歩留 ぶど まりが低 ひく いなどの問題 もんだい がある[ 2] 。特 とく に、フラックス法 ほう により大型 おおがた のエメラルド結晶 けっしょう の合成 ごうせい を成功 せいこう させ、1940年 ねん から宝石 ほうせき 市場 いちば に流 なが したキャロル・チャザム(Carroll Chatham)が有名 ゆうめい であり、彼 かれ が創設 そうせつ したChatham Created Gems, Inc.[ 3] は現在 げんざい もエメラルドなどの宝石 ほうせき を製造 せいぞう している。
春山 はるやま 行夫 ゆきお 『春山 はるやま 行夫 ゆきお の博物 はくぶつ 誌 し Ⅳ 宝石 ほうせき 1』平凡社 へいぼんしゃ
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