トロツキズム

レフ・トロツキー

トロツキズムまたはトロツキー主義しゅぎ（トロツキーしゅぎ、英えい: Trotskyism、露ろ: Троцкизм）は、レフ・トロツキーによって主張しゅちょうされたマルクス主義まるくすしゅぎおよび共産きょうさん主義しゅぎ革命かくめい理論りろんのこと。トロツキズムを主張しゅちょうする者ものをトロツキストという。

当初とうしょの呼称こしょうはボリシェヴィキ・レーニン主義しゅぎ(英えい: Bolshevik-Leninism)で、「トロツキスト」はヨシフ・スターリンらによる批判ひはん用語ようごを自称じしょうに採用さいようしたものである。

トロツキストの国際こくさい組織そしきには第だい四よんインターナショナルなどがある。

トロツキーの思想しそう

トロツキズムの思想しそうとしての構成こうせい要素ようそは、以下いかを主おもな柱はしらとしている。

• プロレタリアート・労働ろうどう者しゃ階級かいきゅうの前衛ぜんえい党とうの建設けんせつなくして、社会しゃかい主義しゅぎ革命かくめいはあり得えない。また、革命かくめい党とうの掲かかげる「社会しゃかい主義しゅぎ-革命かくめい」という最終さいしゅう目標もくひょうと、労働ろうどう者しゃ大衆たいしゅうの日々ひびの要求ようきゅうの媒介ばいかいとなる「過渡かと的てき綱領こうりょう-過渡かと的てき要求ようきゅう」による大衆たいしゅうの革命かくめいへの組織そしき化か。（第だい一いち次じ世界せかい大戦たいせんのさなかに「帝国ていこく主義しゅぎ戦争せんそうを内乱ないらんへ」を掲かかげ「平和へいわなどフィクションである」としたウラジーミル・レーニンに対たいして、トロツキーは「目標もくひょうとしての『内乱ないらん』は正ただしいが大衆たいしゅうを組織そしきする直接ちょくせつのスローガンにはならないし、平和へいわを求もとめる大衆たいしゅうの要求ようきゅうを軽視けいししてはならない」と批判ひはんする。論争ろんそうの結果けっか、レーニンがトロツキーの主張しゅちょうを受うけ入いれ、ボリシェヴィキのロシア革命かくめい時どきのスローガン「パン・土地とち・平和へいわ」が採用さいようされた。）
• 永続えいぞく革命かくめい論ろんの立場たちばから、ヨシフ・スターリンの一いち国こく社会しゃかい主義しゅぎ建設けんせつに反対はんたいし、世界せかい革命かくめいによる世界せかい社会しゃかい主義しゅぎの達成たっせいを目指めざす。あるいは、世界せかい革命かくめいの達成たっせいなくしてスターリンの提唱ていしょうする「一いち国こくによる社会しゃかい主義しゅぎ建設けんせつ」は不可能ふかのうであり、それは必然ひつぜん的てきに官僚かんりょうの特権とっけんとその既得きとく権けん防衛ぼうえいのための専制せんせい体制たいせいへと堕落だらくする。
• 社会しゃかい民主みんしゅ主義しゅぎ政党せいとうおよびスターリン主義しゅぎ的てき共産党きょうさんとうをも含ふくむ、多様たような政治せいじ傾向けいこうを含ふくむ労働ろうどう者しゃ階級かいきゅうの統一とういつ戦線せんせんの結成けっせいによる二に重じゅう権力けんりょくの形成けいせいから、最終さいしゅう的てきな労働ろうどう者しゃ階級かいきゅうの権力けんりょく奪取だっしゅ。プロレタリア民主みんしゅ主義しゅぎに基もとづくソビエト（労働ろうどう者しゃ評議ひょうぎ会かい）権力けんりょくによる絶たえざる社会しゃかい革命かくめいと国際こくさい革命かくめいの有機ゆうき的てき結合けつごうによって資本しほん家かの搾取さくしゅを廃止はいしする社会しゃかい主義しゅぎの建設けんせつ。
• 世界せかい社会しゃかい主義しゅぎ革命かくめいを目指めざす単一たんいつのインターナショナル組織そしきの建設けんせつと、それを媒介ばいかいにする労働ろうどう者しゃ階級かいきゅう・被ひ抑圧よくあつ民族みんぞくの国際こくさい連帯れんたいの形成けいせい。

また、それらの柱はしらから導みちびき出だされる政治せいじ理論りろんとして、社会しゃかいファシズム論ろん（社会しゃかい民主みんしゅ主義しゅぎ主要しゅよう打撃だげき論ろん）批判ひはん、人民戦線じんみんせんせん批判ひはん、あるいはスターリンが支配しはいしたソビエト連邦れんぽうを「革命かくめいの成果せいかを簒奪さんだつしたスターリニスト官僚かんりょうが堕落だらくさせた労働ろうどう者しゃ国家こっかであり、官僚かんりょうを追放ついほうする政治せいじ革命かくめいは必要ひつようだが、依然いぜんとしてブルジョワジーによる生産せいさん手段しゅだんの所有しょゆうを廃はいした労働ろうどう者しゃ国家こっかであることから帝国ていこく主義しゅぎの包囲ほうい・攻撃こうげきからは世界せかいの労働ろうどう者しゃ階級かいきゅうはソビエト連邦れんぽうを防衛ぼうえいしなければならない」（「官僚かんりょうによって歪ゆがめられ、堕落だらくした労働ろうどう者しゃ国家こっか」論ろん）とするテーゼ。同様どうように、非ひ政権せいけん共産党きょうさんとうについても（「反はんスターリン主義しゅぎ」派は的てきな）「国家こっか権力けんりょくと同等どうとうな打倒だとうの対象たいしょう」とはみなさず、「誤あやまった綱領こうりょう・路線ろせんで指導しどうされているとしても、労働ろうどう者しゃ階級かいきゅう内部ないぶの革命かくめいをめざす一いち潮流ちょうりゅう」と認知にんちし、批判ひはんしつつも必要ひつような共闘きょうとうは追求ついきゅうするという立場たちばを取とる。また、「社会しゃかい主義しゅぎへの過渡かと期き経済けいざいでは市場いちばをも利用りようし、資本しほん主義しゅぎ・帝国ていこく主義しゅぎとの競争きょうそうに耐たえられる経済けいざい建設けんせつ」の提唱ていしょうなどのトロツキーの思想しそう・主張しゅちょう・実践じっせんの総体そうたいを「トロツキズム」という。

スターリンが指導しどうしていたコミンテルンに対抗たいこうして、トロツキーの呼よびかけによって1938年ねんに結成けっせいされた国際こくさい革命かくめい組織そしき第だい四よんインターナショナル系けいのトロツキスト自身じしんは、自みずからを「第だい一いちインターナショナル以来いらいの世界せかい革命かくめいによる社会しゃかい主義しゅぎ建設けんせつの原則げんそくを擁護ようごする古典こてん的てきマルクス主義まるくすしゅぎ者もの」、「1917年ねんのロシア革命かくめいの意義いぎと原則げんそくを擁護ようごし、コミンテルンの最初さいしょの四よん回かいの大会たいかいの決議けつぎを出発しゅっぱつ点てんとした新あたらしい革命かくめい党とうを目指めざすボリシェヴィキ・レーニン主義しゅぎ者もの」とし、「スターリンによるマルクス主義まるくすしゅぎの歪曲わいきょくに最もっとも抗こうしたトロツキーの立場たちばと思想しそうを擁護ようごするという意味いみで“トロツキスト”の称号しょうごうを受うけ入いれる」と自己じこ定義ていぎする。

日本にっぽん共産党きょうさんとうを含ふくめた第だい三さんインターナショナル（コミンテルン）の系譜けいふからは、反はん革命かくめいの烙印らくいんが押おされてきたが、1956年ねんのフルシチョフによるスターリン批判ひはんで、日本にっぽんでもトロツキズムに拠よる左翼さよく活動かつどう家かが現あらわれる。

（国際こくさいトロツキスト運動うんどうの展開てんかいについては第だい四よんインターナショナルの項こう参照さんしょう）

レッテルとしての「トロツキスト」

長年ながねん、各国かっこく共産党きょうさんとうは、自党じとうの指導しどうに従したがわない共産きょうさん主義しゅぎ者ものを、トロツキーの思想しそうの影響えいきょう下かにあるなしとは関係かんけいなく「トロツキスト」と呼よんで非難ひなんしていた。「トロツキスト」とは、共産党きょうさんとうにとって最悪さいあくの裏切うらぎり者ものの代名詞だいめいしであり、スターリンが1936年ねんに開始かいしした大だい粛清しゅくせい時どきの定義ていぎ「ソ連邦それんぽうの破壊はかいを目論もくろむトロツキーを頭目とうもくとする反はん革命かくめい分子ぶんしで帝国ていこく主義しゅぎの手先てさきの群むれ」「ファシストの第だい五ご列れつ」をそのまま踏襲とうしゅうし、「左翼さよくを装よそおった挑発ちょうはつ者しゃ」「スパイ反はん革命かくめい集団しゅうだん」を意味いみしていた。すなわち、共産党きょうさんとうとは別べつの立場たちばにある共産きょうさん主義しゅぎ思想しそう・およびそれを信奉しんぽうする者もの全般ぜんぱんを指さしたレッテルとして「トロツキズム」「トロツキスト」と総称そうしょうしていた。

例れいとしては、スペイン内戦ないせん時ときに独自どくじの反はんファシスト民兵みんぺいを組織そしきしていたマルクス主義まるくすしゅぎ統一とういつ労働ろうどう者しゃ党とう(POUM)に対たいするコミンテルンおよびスペイン共産党きょうさんとうの「トロツキスト」という非難ひなんが挙あげられる。POUMは指導しどう者しゃのアンドレウ・ニンがトロツキーの秘書ひしょを務つとめたことがあるが、トロツキーの指導しどうする国際こくさい的てきな左翼さよく反対はんたい派はの運動うんどう（のちに第だい四よんインターナショナルを形成けいせいする）とは一線いっせんを画かくしていた（トロツキーもPOUMを「中間なかま主義しゅぎ」と批判ひはんしていた）。にも拘かかわらず、POUMは「トロツキスト」と規定きていされ、のちに「ファシストの手先てさき」とされ共和きょうわ国こく政府せいふおよびスペインに潜入せんにゅうしていたソ連それんの秘密ひみつ警察けいさつに組織そしきごと抹殺まっさつされることになる。

日本にっぽんにおいては、日本にっぽん共産党きょうさんとうは、新しん左翼さよく発生はっせい以前いぜんには共産党きょうさんとう結成けっせい初期しょきに共産党きょうさんとうから分離ぶんりした労農ろうのう派はをトロツキストと呼よんでいた。1950年代ねんだい後半こうはんに六ろく全ぜん協きょうに対たいする反発はんぱつやハンガリー動乱どうらんの影響えいきょうで新しん左翼さよくが生うまれると、彼かれらをトロツキストと罵倒ばとうした。60年ねん安保あんぽ闘争とうそう時どきの、決けっしてトロツキーの思想しそうの影響えいきょう下かにあったわけではなかった共産きょうさん主義しゅぎ者しゃ同盟どうめいおよび全学ぜんがく連れんを「極左きょくさ冒険ぼうけん主義しゅぎのトロツキスト集団しゅうだん」と口くちをきわめて非難ひなんした。あるいは、「トロツキズムを乗のり越こえた新あたらしい体系たいけい＝反はんスタ、反はん純じゅんトロ」を標榜ひょうぼうする革マル派かくまるは、中核ちゅうかく派は、果はてはそもそもレーニン主義しゅぎを否定ひていしている社しゃ青あお同どう解放かいほう派はまで、一いち括くくりに「トロツキスト」と規定きていしていた。

しかしスターリン批判ひはん以降いこう、日本にっぽん社会しゃかいでも凶悪きょうあくな独裁どくさい者しゃというのがスターリンの評価ひょうかとして一般いっぱん的てきになっていく中なかで日本にっぽん共産党きょうさんとうもスターリンについて「科学かがく的てき社会しゃかい主義しゅぎを歪曲わいきょくした」「大国たいこく主義しゅぎ」と批判ひはん的てきになっていき、1982年ねん（昭和しょうわ57年ねん）には不破ふわ哲三てつぞうが著作ちょさく『スターリンと大国たいこく主義しゅぎ』を著あらわしてスターリン批判ひはんを行おこない、その中なかにおいて「ロシア革命かくめいにおけるトロツキーの役割やくわり」を一定いってい認みとめる見解けんかいを発表はっぴょうした。そのため以降いこう日本にっぽん共産党きょうさんとうは新しん左翼さよく党派とうはを「トロツキスト」と呼称こしょうすることを公式こうしきには取とりやめ、いまは「ニセ『左翼さよく』暴力ぼうりょく集団しゅうだん」（口語こうごで略りゃくするときは「ニセサヨク」）に取とって代かわられている。

なお、英語えいごにも「トロット(Trot)」（複数ふくすう形がたは「トロッツ (Trots)」）というトロツキストへの蔑称べっしょうが存在そんざいする。

「ネオコンの出自しゅつじはトロツキスト」論ろんをめぐって

アメリカのトロツキスト・グループから、「ネオコン」と呼よばれる現在げんざいのアメリカの政治せいじに影響えいきょう力りょくを及およぼしている新しん保守ほしゅ主義しゅぎが生うまれているという説せつがある。この点てんをもって、トロツキズムとネオコンの根ねは同一どういつであると説とく論者ろんしゃも存在そんざいする。これらはネオコンの創始そうし者しゃともされるアーヴィング・クリストルやイラク戦争せんそうを推進すいしんした亡命ぼうめいイラク人じんのカナン・マキヤらがトロツキストだった過去かこ、どちらも世界せかいに武力ぶりょくを用もちいてでも理想りそう（世界せかい革命かくめい、自由じゆう化か、民主みんしゅ化か）を広ひろめるという側面そくめんを根拠こんきょとしている。しかし、ネオコンとトロツキズムとの「思想しそう的てき連続れんぞく性せい」という説せつについてはトロツキスト側がわから反論はんろんもなされている。

関連かんれん項目こうもく

• 永続えいぞく革命かくめい論ろん - ボリシェヴィキ・レーニン主義しゅぎ
• 第だい四よんインターナショナル
  • エルネスト・マンデル
  • 日本にっぽん革命かくめい的てき共産きょうさん主義しゅぎ者しゃ同盟どうめい（第だい四よんインターナショナル日本にっぽん支部しぶ）
  • 国際こくさいボリシェヴィキ潮流ちょうりゅう
• アブラハム・レオン、彭述之の、タ・トゥ・タオ
• アイザック・ドイッチャー - 『追放ついほうされた予言よげん者しゃ・トロツキー』（新潮社しんちょうしゃ、1964年ねん）、『武装ぶそうせる予言よげん者しゃ・トロッキー』（新潮社しんちょうしゃ、1964年ねん）、『武力ぶりょくなき予言よげん者しゃ・トロツキー』（新潮社しんちょうしゃ、1964年ねん）、『永久えいきゅう革命かくめいの時代じだい:トロツキー・アンソロジー』（河出書房新社かわでしょぼうしんしゃ、1968年ねん）の著者ちょしゃ。
• 反はんスターリン主義しゅぎ
• スターリニズム、人民戦線じんみんせんせん
• 新しん保守ほしゅ主義しゅぎ（ネオコン）

外部がいぶリンク

• トロツキズム入門にゅうもん（レオン・トロツキー、エルネスト・マンデル）
• 第だい四よんインターナショナル小史しょうし - 1923～1968年ねん（ピエール・フランク）
• トロツキズム(トロツキズム)とは - コトバンク