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ナギ

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア（Wikipedia）』
曖昧さ回避 「ナギ」のその他たの用法ようほうについては「ナギ (曖昧あいまいさ回避かいひ)」をご覧らんください。
ナギ
1. ナギの葉は
保全ほぜん状じょう況きょう評価ひょうか[1]
NEAR THREATENED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類ぶんるい
界さかい : 植物しょくぶつ界かい Plantae
階級かいきゅうなし : 裸子植物らししょくぶつ gymnosperms
綱つな : マツ綱つな Coniferopsida
目め : ナンヨウスギ目め Araucariales[注ちゅう 1]
科か : マキ科か Podocarpaceae
属ぞく : ナギ属ぞく Nageia
種たね : ナギ N. nagi
学名がくめい
Nageia nagi (Thunb.) Kuntze (1891)[6][7]
シノニム
和名わみょう
ナギ（梛なぎ、樀、南みなみ木き、竹柏なぎ、竹たけ葉は柏かしわ）[8][9][10][11]、ナギノキ[12]、チカラシバ（力ちから芝しば、弁慶べんけいの力ちから柴しば）[13][12][8]、ベンケイナカセ（弁慶べんけい泣なかせ）[13]、コゾウナカセ[14]
英名えいめい
Asian bayberry[15], kaphal[15]

ナギ（梛なぎ[16]、学名がくめい: Nageia nagi）は、裸子植物らししょくぶつのマキ科かナギ属ぞくに分類ぶんるいされる常緑じょうりょく高木たかぎの1種しゅである。マキ属ぞくに分類ぶんるいされることも多おおかったが (Podocarpus nagi)[16]、葉はの形態けいたいや分子ぶんし系統けいとう学がく的てき研究けんきゅうから別べつ属ぞくとされるようになった。針葉樹しんようじゅの仲間なかまであるが、葉はは幅広はばひろく被子植物ひししょくぶつのように見みえる（図ず1）[11]。種子しゅしは鱗片りんぺんが発達はったつした套皮で包つつまれて核果かっか状じょうになる。本州ほんしゅう南部なんぶから台湾たいわん、中国ちゅうごく南部なんぶに分布ぶんぷし、また世界せかい各地かくちの暖地だんちで植うえ栽されている[15]。日本にっぽんではしばしば神社じんじゃに植うえ栽され、特とくに熊野くまの権現ごんげんとの関かかわりが深ふかい。「ナギ」の名なは、葉はがコナギ（古名こみょうはナギ）の葉はに似にていることに由来ゆらいするとされる。

特徴とくちょう

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常緑じょうりょく性せいの高木たかぎであり、直立ちょくりつし、大おおきなものは高たかさ25メートル (m)、幹みきの直径ちょっけいは 1.5 m に達たっする[2][17][18][19]（下図したず2a）。葉はが密生みっせいし円形えんけいの樹冠じゅかんを形成けいせいする[14]。樹皮じゅひは平滑へいかつで黒褐色こっかっしょくから灰はい褐色かっしょく、あるいは紫むらさき褐色かっしょくで[16]、鱗片りんぺん状じょうに浅あさく剥はがれてその跡あとは紅べに黄色おうしょくになる[2][18][19][20][14]（下図したず2b）。枝えだは半円はんえん柱状ちゅうじょう、小しょう枝えだは対生たいせいし、硬かたく無む毛け、扁ひらた圧あつされている[19]。

葉はは十字じゅうじ対生たいせいするが、葉柄ようへいがねじれて二に列れつ対生たいせいのように見みえる[2][17][18][19][14]（図ず1, 2c）。葉は身みは針葉樹しんようじゅとしては独特どくとくで、卵たまご形がたから長ちょう楕円だえん状じょう披針形ひしんけい、全ぜん縁えん、2–9 × 0.7–3 センチメートル (cm)、基部きぶはくさび形がた、先端せんたんは切きり形がた、鈍どん形がたまたは鋭するど尖とんが形かたち[2][17][18][19][14]（図ず1, 2c）。葉はは厚あつく革質かくしつ、無む毛け、中央ちゅうおう脈みゃくはないが基部きぶで二又ふたまた分ぶん枝えだし先端せんたんで収束しゅうそくする細ほそい平行へいこう脈みゃくが多数たすうあり、表面ひょうめんは深緑しんりょく色しょくで光沢こうたくがあり、裏面りめんはやや白色はくしょくを帯おびる[2][17][18][19][14]（図ず1, 2c）。葉はは縦たてには容易よういに裂さけるが、横よこにはなかなかちぎれない[14][11]。葉はと枝えだはともに無む毛け[16]。根ねに根粒こんりゅう状じょうの構造こうぞう（窒素ちっそ固定こてい能のうは見みつかってない）をもつ[21]。冬芽とうがは雄花おばな、雌花めばなともに一いち年ねん枝えだの葉腋ようえきにつく[16]。

2a. 樹き形がた
2b. 樹皮じゅひ
2c. 葉はと"雄花おばな"

雌雄しゆう異い株かぶで"花期かき"は3–6月がつ[2][19][14]。"雄花おばな"[注ちゅう 2]は円柱えんちゅう状じょう、長ながさ 0.5–2 cm、数個すうこがまとまって前年ぜんねん枝えだの葉腋ようえきに束たばね生せいする[2][19][14]（図ず2c, 3a）。"雄おしべ"（小しょう胞子ほうし葉は）には2個この"葯室"（花粉かふん嚢、小しょう胞子ほうし嚢、雄ゆう性せい胞子ほうし嚢）がある[2]。"雌花めばな"[注ちゅう 3]は前年ぜんねん枝えだの葉腋ようえきに単たん生せいし、有ゆう柄がら（長ながさ4.5–13ミリメートル (mm)）、数個すうこの鱗片りんぺんと1個いっこの倒たおせ生なま胚珠はいしゅからなる[2][19][14]。種たね托たく[20]は肥厚ひこうせず、種子しゅしは鱗片りんぺんが肉質にくしつ化かした套皮（とうひ）で包つつまれ、球形きゅうけいで直径ちょっけい 10–15 mm、粉白このしろを帯おび最初さいしょは緑色みどりいろだが、8–11月がつに熟じゅくし、紫むらさき褐色かっしょくになる[2][19][14][20]（図ず3b）。種子しゅし本体ほんたいの基部きぶは尖とがり、頂いただき端はしは丸まるみを帯おび、表面ひょうめんには点てん状じょうのくぼみが密みつにある[19]。染色せんしょく体たい数かずは 2n = 26 (29)[2][19]。

3a. "雄花おばな"
3b. 套皮で包つつまれた種子しゅし

分布ぶんぷ・生態せいたい

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日本にっぽんの本州ほんしゅう（式根島しきねじま、紀伊きい半島はんとう、山口やまぐち県けんなど）、四国しこく、九州きゅうしゅう、南西諸島なんせいしょとう、台湾たいわん、海南かいなん島とう、朝鮮半島ちょうせんはんとう、中国ちゅうごく南部なんぶの暖帯だんたいから亜熱帯あねったい域いきに分布ぶんぷする[6][2][18][14][20]。ただし古ふるくから植うえ栽されているため自然しぜん分布ぶんぷ域外いきがいにも見みられ、伊豆いず[20]や奈良なら県けん[20][25]、朝鮮半島ちょうせんはんとう[6]のものは、植うえ栽されたものに由来ゆらいするとされる。常緑じょうりょく広葉樹こうようじゅ林りんに生育せいいくする[19]。

ナギは葉は、種子しゅし、根ねなどにアレロパシー物質ぶっしつであるナギラクトン (nagilactone) をもつことが知しられており、他たの植物しょくぶつの発芽はつがや生長せいちょうを抑制よくせいする[26][25][27]。

保全ほぜん状じょう況きょう評価ひょうか

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国際こくさい自然しぜん保護ほご連合れんごう (IUCN) のレッドリストでは、ナギは近きん危急ききゅう種しゅ（NT）に指定していされている[1]。

日本にっぽん全体ぜんたいとしては絶滅ぜつめつ危惧きぐ等とうの指定していはないが、愛媛えひめ県けんでは情報じょうほう不足ふそく、鹿児島かごしま県けんでは分布ぶんぷ特性とくせい上じょう重要じゅうような種たねとされている[28]。

山口やまぐち県けんの「小郡おぐに町まちナギ自生じせい地ち北限ほくげん地帯ちたい」、奈良なら県けんの「春日しゅんじつ神社じんじゃ境内けいだいナギ樹林じゅりん」、和歌山わかやま県けんの「熊野くまの速玉はやたま神社じんじゃのナギ」（下図したず5a）、愛知あいち県けんの「牛久保うしくぼのナギ」（下図したず4）は国くにの天然記念物てんねんきねんぶつに指定していされている[2][29]。そのほかにも茨城いばらき県けん行方ゆくえ市し、岐阜ぎふ県けん養老ようろう町まち、和歌山わかやま県けん有田ありた市し、愛媛えひめ県けん伊予いよ市し、熊本くまもと県けん天草あまくさ市しなど自治体じちたいが天然記念物てんねんきねんぶつ等とうに指定していしている例れいも多おおい[13][30][31][32]。

4. 牛久保うしくぼのナギ

人間にんげんとの関かかわり

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文化ぶんか

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日本にっぽんでは、古ふるくから神社じんじゃに植うえ栽されている[18][11]（下図したず5）。奈良なら県けん奈良なら市しの春日大社かすがたいしゃのナギ林りんは日本にっぽんの天然記念物てんねんきねんぶつに指定していされており（上記じょうき参照さんしょう）、大木たいぼくは樹齢じゅれい1,000年ねん以上いじょうになるとも伝つたえられている[18]。春日大社かすがたいしゃでは神事しんじにサカキ（榊さかき）ではなく、このナギを使つかう[11]。和歌山わかやま県けんには特とくに多おおく、熊野くまの権現ごんげんにおいてナギは神木しんぼくとされ、熊野くまの神社じんじゃではナギを玉串たまぐしとし、ナギの葉はの上うえに供物くもつをのせる[18][12][26][27]。『保ほ元もと物語ものがたり』には、信者しんじゃがナギの葉はをかざして熊野くまの詣まいをすることが記しるされている[18]。新宮しんぐう市しの熊野くまの速玉はやたま神社じんじゃにはナギの大木たいぼくがあり、伝承でんしょうによれば平重盛たいらのしげもりによって寄進きしんされたという[11]。この熊野くまの新宮しんぐうで御ご神木しんぼくとして扱あつかわれたたため、熊野くまの信仰しんこうの広ひろまりとともに、広ひろく神社じんじゃに植うえられるようになったと考かんがえられている[11]。神社じんじゃの中なかには、ナギの代だい用木ようぼくとしてモチノキを植うえている場合ばあいもある[要よう出典しゅってん]。

5a. 熊野くまの速玉はやたま神社じんじゃのナギ
5b. 三さん柱はしら神社じんじゃ（柳川やないご市し）の神木しんぼくであるナギ

その名なが凪なぎ（なぎ）に通つうじることから、葉はが船ふねのお守まもりとされた[18][12][27]。また男女だんじょ間あいだに波風なみかぜが立たたないように、あるいはナギの葉はが切きれにくいため縁えんが切きれないように、女性じょせいが夫婦ふうふ円満えんまんや縁結えんむすびのお守まもりとして鏡かがみの裏うらにナギの葉はを入いれる風習ふうしゅうがあった[20][18][27]。鏡かがみの裏うらにナギの葉はを入いれておくと、会あいたい人ひとの姿すがたが鏡かがみの表ひょうに現あらわれるという迷信めいしんもあったといわれる[11]。また、夫婦ふうふ縁えんが強つよいことを示しめす説話せつわもいくつかあるという[11]。

ナギの葉はを基もとにした家紋かもんも多おおく、特とくに熊野くまの信仰しんこうに関かかわる一族いちぞくに多おおい[33]。

利用りよう

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世界せかい各地かくちで庭園ていえん、並木なみき、生いけ垣がき、墓地ぼちなどに植うえ栽される[15][18][14]。斑入ふいり（フイリナギ）や細ほそ葉は（ホソバナギ）、円形えんけいの葉は（マルバナギ）などの園芸えんげい品種ひんしゅもある[20][34]。寒さむさには弱よわいため、関東かんとう地方ちほうでは若木わかぎに寒さむさよけを必要ひつようとする[14]。肥沃ひよくで深ふかい土壌どじょうを好このむ[34]。害虫がいちゅうとしてルビーロウカイガラムシがつきやすい[34]。

材ざいは硬かたく耐たい水性すいせいがあり、建築けんちく（床柱とこばしらなど）、橋はし、家具かぐ、桶おけ、柩ひつぎ（ひつぎ）、彫刻ちょうこくなどに用もちいられる[19][18][20][34]。

樹皮じゅひに大量たいりょうのタンニンを含ふくむため、皮かわなめしや染料せんりょうに利用りようされる[27]。また材ざいから抽出ちゅうしゅつされた精油せいゆは、アロマテラピーに利用りようされる[27]。

生薬きぐすりとされることもあり、根ねや樹皮じゅひは筋肉きんにく痛つうや関節かんせつ痛つうに、葉はは骨折こっせつや外傷がいしょうの出血しゅっけつに煎せんじ液えきを外用がいようする[26]。

種子しゅしからは油あぶらがとられ食用しょくように利用りようされることがあり[19]、また古ふるくは神社じんじゃの灯火ともしび用ように使つかわれた[14][11]。

名称めいしょう

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「ナギ」の名なは、葉はの形かたちがミズアオイ科かのコナギ（古名こみょうはナギ）に似にているためともいわれる[14]。同おなじミズアオイ科かのミズアオイの古名こみょうもナギである[18]。また葉はが横よこにはちぎれにくいため、「チカラシバ」や「コゾウナカセ」、「ベンケイナカセ」ともよばれる[14][20]。

脚注きゃくちゅう

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[脚注きゃくちゅうの使つかい方かた]

注釈ちゅうしゃく

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  1. ^ ナンヨウスギ科かとともにナンヨウスギ目めに分類ぶんるいされるが[2][3]、ヒノキ科か、イチイ科かなどとともにヒノキ目め（Cupressales）に分類ぶんるいされることもある[4]。さらにマツ科か（およびグネツム類るい）を加くわえた広義こうぎのマツ目め（Pinales）にまとめられることもある[5]。
  2. ^ 厳密げんみつには花はなではなく、雄ゆう球だま花はな、雄ゆう性せい球だま花はな、雄お錐きり、花粉かふん錐きり、小しょう胞子ほうし嚢穂、雄ゆう性せい胞子ほうし嚢穂とよばれる[22][23][24]。
  3. ^ 厳密げんみつには花はなではなく、雌めす球だま花はな、雌めす性せい球だま花はな、雌めす錐きり、種子しゅし錐きり、大だい胞子ほうし嚢穂、雌めす性せい胞子ほうし嚢穂とよばれる[22][23][24]。

出典しゅってん

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関連かんれん項目こうもく

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