パウリ行列 ぎょうれつ (パウリぎょうれつ、英 えい : Pauli matrices )、パウリのスピン行列 ぎょうれつ (パウリのスピンぎょうれつ、英 えい : Pauli spin matrices )とは、下 した に挙 あ げる3つの複素 ふくそ 2次 じ 正方 まさかた 行列 ぎょうれつ の組 くみ のことである[1] [2] 。σ しぐま (シグマ )で表記 ひょうき されることが多 おお い。量子力学 りょうしりきがく のスピン角 かく 運動 うんどう 量 りょう や、部分 ぶぶん 偏 へん 極 ごく 状態 じょうたい の記述 きじゅつ 方法 ほうほう に関連 かんれん が深 ふか い。1927年 ねん に物理 ぶつり 学者 がくしゃ ヴォルフガング・パウリ によって、スピン角 かく 運動 うんどう 量 りょう の記述 きじゅつ のために導入 どうにゅう された[3] 。
σ しぐま
1
=
σ しぐま
x
=
[
0
1
1
0
]
,
σ しぐま
2
=
σ しぐま
y
=
[
0
−
i
i
0
]
,
σ しぐま
3
=
σ しぐま
z
=
[
1
0
0
−
1
]
{\displaystyle \sigma _{1}=\sigma _{x}={\begin{bmatrix}0&1\\1&0\end{bmatrix}}{\mbox{, }}\quad \sigma _{2}=\sigma _{y}={\begin{bmatrix}0&-i\\i&0\end{bmatrix}}{\mbox{, }}\quad \sigma _{3}=\sigma _{z}={\begin{bmatrix}1&0\\0&-1\end{bmatrix}}}
添字 そえじ は数学 すうがく では 1, 2, 3 が、物理 ぶつり 学 がく では x, y, z が使 つか われる。座標 ざひょう 系 けい によっては添字 そえじ と3つの行列 ぎょうれつ の対応 たいおう が違 ちが ったり、あるいは符号 ふごう が違 ちが ったり、さらには一見 いっけん 全 まった く違 ちが って見 み えることもあるが、本質 ほんしつ 的 てき な性質 せいしつ は変 か わらない。
上記 じょうき 3つに単位 たんい 行列 ぎょうれつ I を加 くわ えた4つの行列 ぎょうれつ をパウリ行列 ぎょうれつ と呼 よ ぶこともある。
σ しぐま
0
=
I
=
[
1
0
0
1
]
{\displaystyle \sigma _{0}=I={\begin{bmatrix}1&0\\0&1\end{bmatrix}}}
基本 きほん 的 てき な性質 せいしつ [ 編集 へんしゅう ]
パウリ行列 ぎょうれつ は次 つぎ の性質 せいしつ を満 み たす[1] [2] 。
エルミート性 せい ・ユニタリ性 せい [ 編集 へんしゅう ]
パウリ行列 ぎょうれつ は
σ しぐま
k
†
=
σ しぐま
k
(
k
=
1
,
2
,
3
)
{\displaystyle {\sigma _{k}}^{\dagger }=\sigma _{k}\qquad (k=1,2,3)}
を満 み たすエルミート行列 ぎょうれつ であり、
σ しぐま
k
†
σ しぐま
k
=
σ しぐま
k
σ しぐま
k
†
=
I
(
k
=
1
,
2
,
3
)
{\displaystyle {\sigma _{k}}^{\dagger }\sigma _{k}=\sigma _{k}{\sigma _{k}}^{\dagger }=I\qquad (k=1,2,3)}
を満 み たすユニタリ行列 ぎょうれつ でもある。
パウリ行列 ぎょうれつ の積 せき [ 編集 へんしゅう ]
パウリ行列 ぎょうれつ の自乗 じじょう は単位 たんい 行列 ぎょうれつ に等 ひと しい。
σ しぐま
1
2
=
σ しぐま
2
2
=
σ しぐま
3
2
=
I
{\displaystyle {\sigma _{1}}^{2}={\sigma _{2}}^{2}={\sigma _{3}}^{2}=I}
また相 あい 異 こと なるパウリ行列 ぎょうれつ 同士 どうし の積 せき は次 つぎ の関係 かんけい を満 み たす。
σ しぐま
1
σ しぐま
2
=
−
σ しぐま
2
σ しぐま
1
=
i
σ しぐま
3
,
σ しぐま
2
σ しぐま
3
=
−
σ しぐま
3
σ しぐま
2
=
i
σ しぐま
1
,
σ しぐま
3
σ しぐま
1
=
−
σ しぐま
1
σ しぐま
3
=
i
σ しぐま
2
{\displaystyle \sigma _{1}\sigma _{2}=-\sigma _{2}\sigma _{1}=i\sigma _{3},\quad \sigma _{2}\sigma _{3}=-\sigma _{3}\sigma _{2}=i\sigma _{1},\quad \sigma _{3}\sigma _{1}=-\sigma _{1}\sigma _{3}=i\sigma _{2}}
すなわち i , j , k = 1, 2, 3 について
{
σ しぐま
i
2
=
I
=
−
i
σ しぐま
1
σ しぐま
2
σ しぐま
3
σ しぐま
i
σ しぐま
j
=
−
σ しぐま
j
σ しぐま
i
(
i
≠
j
)
{\displaystyle {\begin{cases}{\sigma _{i}}^{2}&=I=-i\sigma _{1}\sigma _{2}\sigma _{3}\\\sigma _{i}\sigma _{j}&=-\sigma _{j}\sigma _{i}\qquad (i\neq j)\end{cases}}}
が成 な り立 た つ。ここでクロネッカーのデルタ δ でるた ij とエディントンのイプシロン ε いぷしろん ijk を用 もち いれば、これらをまとめて
σ しぐま
i
σ しぐま
j
=
δ でるた
i
j
I
+
i
∑
k
=
1
3
ε いぷしろん
i
j
k
σ しぐま
k
(
i
,
j
,
k
=
1
,
2
,
3
)
{\displaystyle \sigma _{i}\sigma _{j}=\delta _{ij}I+i\textstyle \sum \limits _{k=1}^{3}\varepsilon _{ijk}\sigma _{k}\qquad (i,j,k=1,2,3)}
と書 か くことができる。
交換 こうかん 関係 かんけい ・反 はん 交換 こうかん 関係 かんけい [ 編集 へんしゅう ]
パウリ行列 ぎょうれつ の交換 こうかん 関係 かんけい と反 はん 交換 こうかん 関係 かんけい は一般 いっぱん 的 てき に
[
σ しぐま
i
,
σ しぐま
j
]
=
σ しぐま
i
σ しぐま
j
−
σ しぐま
j
σ しぐま
i
=
2
i
∑
k
=
1
3
ϵ
i
j
k
σ しぐま
k
,
{
σ しぐま
i
,
σ しぐま
j
}
=
σ しぐま
i
σ しぐま
j
+
σ しぐま
j
σ しぐま
i
=
2
δ でるた
i
j
I
{\displaystyle {\begin{aligned}[][\sigma _{i},\sigma _{j}]&=\sigma _{i}\sigma _{j}-\sigma _{j}\sigma _{i}=2i\textstyle \sum \limits _{k=1}^{3}\epsilon _{ijk}\sigma _{k},\\\{\sigma _{i},\sigma _{j}\}&=\sigma _{i}\sigma _{j}+\sigma _{j}\sigma _{i}=2\delta _{ij}I\end{aligned}}}
となる。
交換 こうかん 関係 かんけい
反 はん 交換 こうかん 関係 かんけい
[
σ しぐま
1
,
σ しぐま
1
]
=
0
[
σ しぐま
1
,
σ しぐま
2
]
=
2
i
σ しぐま
3
[
σ しぐま
2
,
σ しぐま
3
]
=
2
i
σ しぐま
1
[
σ しぐま
3
,
σ しぐま
1
]
=
2
i
σ しぐま
2
{\displaystyle {\begin{aligned}\left[\sigma _{1},\sigma _{1}\right]&=0\\\left[\sigma _{1},\sigma _{2}\right]&=2i\sigma _{3}\\\left[\sigma _{2},\sigma _{3}\right]&=2i\sigma _{1}\\\left[\sigma _{3},\sigma _{1}\right]&=2i\sigma _{2}\end{aligned}}}
{
σ しぐま
1
,
σ しぐま
1
}
=
2
I
{
σ しぐま
1
,
σ しぐま
2
}
=
0
{
σ しぐま
2
,
σ しぐま
3
}
=
0
{
σ しぐま
3
,
σ しぐま
1
}
=
0
{\displaystyle {\begin{aligned}\left\{\sigma _{1},\sigma _{1}\right\}&=2I\\\left\{\sigma _{1},\sigma _{2}\right\}&=0\\\left\{\sigma _{2},\sigma _{3}\right\}&=0\\\left\{\sigma _{3},\sigma _{1}\right\}&=0\end{aligned}}}
固有値 こゆうち ・固有 こゆう ベクトル[ 編集 へんしゅう ]
それぞれのパウリ行列 ぎょうれつ は、固有値 こゆうち +1 と −1 を持 も つ。それぞれの規格 きかく 化 か された固有 こゆう ベクトル は、
|
σ しぐま
1
,
+
⟩
=
1
2
[
1
1
]
,
|
σ しぐま
1
,
−
⟩
=
1
2
[
1
−
1
]
|
σ しぐま
2
,
+
⟩
=
1
2
[
1
i
]
,
|
σ しぐま
2
,
−
⟩
=
1
2
[
1
−
i
]
|
σ しぐま
3
,
+
⟩
=
[
1
0
]
,
|
σ しぐま
3
,
−
⟩
=
[
0
1
]
{\displaystyle {\begin{alignedat}{4}&|\sigma _{1,+}\rangle ={}&{\frac {1}{\sqrt {2}}}&{\begin{bmatrix}1\\1\end{bmatrix}},&\qquad &|\sigma _{1,-}\rangle ={}&{\frac {1}{\sqrt {2}}}&{\begin{bmatrix}1\\-1\end{bmatrix}}\\&|\sigma _{2,+}\rangle ={}&{\frac {1}{\sqrt {2}}}&{\begin{bmatrix}1\\i\end{bmatrix}},&&|\sigma _{2,-}\rangle ={}&{\frac {1}{\sqrt {2}}}&{\begin{bmatrix}1\\-i\end{bmatrix}}\\&|\sigma _{3,+}\rangle ={}&&{\begin{bmatrix}1\\0\end{bmatrix}},&&|\sigma _{3,-}\rangle ={}&&{\begin{bmatrix}0\\1\end{bmatrix}}\end{alignedat}}}
である。
トレース・行列 ぎょうれつ 式 しき [ 編集 へんしゅう ]
パウリ行列 ぎょうれつ σ しぐま k (k = 1, 2, 3) のトレース (Tr) は 0 となり、行列 ぎょうれつ 式 しき (det) は −1 となる。
Tr
(
σ しぐま
k
)
=
0
det
(
σ しぐま
k
)
=
−
1
{\displaystyle {\begin{aligned}\operatorname {Tr} (\sigma _{k})&=0\\\det(\sigma _{k})&=-1\end{aligned}}}
2次 じ 単位 たんい 行列 ぎょうれつ σ しぐま 0 = I を含 ふく めた場合 ばあい 、
Tr
(
σ しぐま
0
)
=
2
det
(
σ しぐま
0
)
=
1
{\displaystyle {\begin{aligned}\operatorname {Tr} (\sigma _{0})&=2\\\det(\sigma _{0})&=1\end{aligned}}}
である。
単位 たんい 行列 ぎょうれつ を含 ふく めたパウリ行列 ぎょうれつ σ しぐま μ みゅー (μ みゅー = 0, 1, 2, 3) について、
Tr
(
σ しぐま
μ みゅー
σ しぐま
ν にゅー
)
=
2
δ でるた
μ みゅー
ν にゅー
(
μ みゅー
,
ν にゅー
=
0
,
1
,
2
,
3
)
{\displaystyle \operatorname {Tr} (\sigma _{\mu }\sigma _{\nu })=2\delta _{\mu \nu }\quad (\mu ,\nu =0,1,2,3)}
が成 な り立 た つ。よって、複素 ふくそ 2次 じ 正方 せいほう 行列 ぎょうれつ 空間 くうかん Mat(2,C ) において、単位 たんい 行列 ぎょうれつ を含 ふく めたパウリ行列 ぎょうれつ はヒルベルト=シュミット内積 ないせき (英語 えいご 版 ばん ) ⟨A , B ⟩ = Tr(A † B ) について、直交 ちょっこう する。
複素 ふくそ 行列 ぎょうれつ の展開 てんかい [ 編集 へんしゅう ]
複素 ふくそ 2次 じ 正方 せいほう 行列 ぎょうれつ 空間 くうかん Mat(2,C ) において、単位 たんい 行列 ぎょうれつ を含 ふく むパウリ行列 ぎょうれつ は直交 ちょっこう 基底 きてい をなす[4] 。よって、任意 にんい の複素 ふくそ 2次 じ 行列 ぎょうれつ A は単位 たんい 行列 ぎょうれつ を含 ふく むパウリ行列 ぎょうれつ σ しぐま μ みゅー (μ みゅー = 0, 1, 2, 3) の線形 せんけい 結合 けつごう として、次 つぎ の形 かたち で書 か ける。
A
=
s
0
I
+
s
1
σ しぐま
1
+
s
2
σ しぐま
2
+
s
3
σ しぐま
3
=
∑
μ みゅー
=
0
3
s
μ みゅー
σ しぐま
μ みゅー
{\displaystyle A=s_{0}I+s_{1}\sigma _{1}+s_{2}\sigma _{2}+s_{3}\sigma _{3}=\textstyle \sum \limits _{\mu =0}^{3}s_{\mu }\sigma _{\mu }}
ここで複素 ふくそ 係数 けいすう sμ みゅー は
s
μ みゅー
=
1
2
Tr
(
A
σ しぐま
μ みゅー
)
(
μ みゅー
=
0
,
1
,
2
,
3
)
{\displaystyle s_{\mu }={\frac {1}{2}}\operatorname {Tr} (A\sigma _{\mu })\quad (\mu =0,1,2,3)}
で与 あた えられる。
また、任意 にんい の2次 じ エルミート行列 ぎょうれつ A は単位 たんい 行列 ぎょうれつ を含 ふく むパウリ行列 ぎょうれつ の線形 せんけい 結合 けつごう で書 か いたとき、係数 けいすう sμ みゅー は実数 じっすう になる。
部分 ぶぶん 偏 へん 極 ごく 状態 じょうたい を表現 ひょうげん するコヒーレンス行列 ぎょうれつ はエルミート行列 ぎょうれつ であるが、これをパウリ行列 ぎょうれつ で展開 てんかい した係数 けいすう を要素 ようそ とするベクトル(実 じつ ベクトル )はストークスベクトル (英語 えいご 版 ばん ) と呼 よ ばれる。ストークスベクトルは、ある種 しゅ の射影 しゃえい 空間 くうかん であるポアンカレ球 だま の座標 ざひょう 系 けい を作 つく る。
パウリ行列 ぎょうれつ の性質 せいしつ
σ しぐま
i
2
=
I
{\displaystyle {\sigma _{i}}^{2}=I}
から、その行列 ぎょうれつ 指数 しすう 関数 かんすう はオイラーの公式 こうしき の類似 るいじ である関係 かんけい 式 しき
exp
(
i
a
σ しぐま
i
)
=
I
cos
a
+
i
σ しぐま
i
sin
a
(
a
∈
C
)
{\displaystyle \exp(ia\sigma _{i})=I\cos a+i\sigma _{i}\sin a\quad (a\in \mathbb {C} )}
を満 み たす[5] 。
さらに実 じつ ベクトル a → = (a 1 , a 2 , a 3 ) ∈ R 3 とパウリ行列 ぎょうれつ の組 くみ σ しぐま → = (σ しぐま 1 , σ しぐま 2 , σ しぐま 3 ) に対 たい し、
exp
(
i
a
→
⋅
σ しぐま
→
)
=
I
cos
|
a
→
|
+
i
(
n
→
⋅
σ しぐま
→
)
sin
|
a
→
|
{\displaystyle \exp(i{\vec {a}}\cdot {\vec {\sigma }})=I\cos {|{\vec {a}}|}+i({\vec {n}}\cdot {\vec {\sigma }})\sin {|{\vec {a}}|}}
が成 な り立 た つ[2] 。ただし、n → は
n
→
=
1
|
a
→
|
(
a
1
,
a
2
,
a
3
)
{\displaystyle {\vec {n}}={\frac {1}{|{\vec {a}}|}}(a_{1},a_{2},a_{3})}
で与 あた えられる単位 たんい ベクトル である。
a → が実 じつ ベクトルの場合 ばあい 、exp(i a → ⋅σ しぐま → ) は2次 じ 特殊 とくしゅ ユニタリ群 ぐん SU(2) の元 もと となる。これはパウリ行列 ぎょうれつ に虚数 きょすう 単位 たんい を乗 じょう じた iσ しぐま k (k = 1, 2, 3) が SU(2) に対応 たいおう するリー代数 だいすう 𝔰𝔲(2) の基底 きてい であることによる。
SU(2)の生成 せいせい 子 こ [ 編集 へんしゅう ]
パウリ行列 ぎょうれつ は、行列 ぎょうれつ 式 しき を 1 とする 2次 じ ユニタリ行列 ぎょうれつ がなす2次 じ 特殊 とくしゅ ユニタリ群 ぐん SU(2) に対応 たいおう するリー代数 だいすう 𝔰𝔲(2) の生成 せいせい 子 こ である[1] [5] [6] 。パウリ行列 ぎょうれつ に −i / 2 を乗 じょう じた
X
1
=
−
i
2
σ しぐま
1
=
[
0
−
i
/
2
−
i
/
2
0
]
X
2
=
−
i
2
σ しぐま
2
=
[
0
−
1
/
2
1
/
2
0
]
X
3
=
−
i
2
σ しぐま
3
=
[
−
i
/
2
0
0
i
/
2
]
{\displaystyle {\begin{aligned}X_{1}&=-{\frac {i}{2}}\sigma _{1}={\begin{bmatrix}0&-i/2\\-i/2&0\end{bmatrix}}\\X_{2}&=-{\frac {i}{2}}\sigma _{2}={\begin{bmatrix}0&-1/2\\1/2&0\end{bmatrix}}\\X_{3}&=-{\frac {i}{2}}\sigma _{3}={\begin{bmatrix}-i/2&0\\0&i/2\end{bmatrix}}\end{aligned}}}
は 𝔰𝔲(2) の基底 きてい であり、交換 こうかん 関係 かんけい
[
X
1
,
X
2
]
=
X
3
,
[
X
2
,
X
3
]
=
X
1
,
[
X
3
,
X
1
]
=
X
2
{\displaystyle [X_{1},X_{2}]=X_{3},\,[X_{2},X_{3}]=X_{1},\,[X_{3},X_{1}]=X_{2}}
を満 み たす。𝔰𝔲(2) はトレースが 0 かつ反 はん エルミート
Tr
(
X
)
=
0
X
†
=
−
X
{\displaystyle {\begin{aligned}\operatorname {Tr} (X)&=0\\X^{\dagger }&=-X\end{aligned}}}
である元 もと X から構成 こうせい されるが、X 1 , X 2 , X 3 はこの性質 せいしつ を満 み たす。コンパクト で連結 れんけつ な線形 せんけい リー群 ぐん である
SU(2) の任意 にんい の元 もと は、リー環 たまき の指数 しすう 写像 しゃぞう によって、
exp
(
∑
k
=
1
3
t
k
X
k
)
(
t
1
,
t
2
,
t
3
∈
R
)
{\displaystyle \exp(\sum \limits _{k=1}^{3}t_{k}X_{k})\quad (t_{1},t_{2},t_{3}\in \mathbb {R} )}
の形 かたち で与 あた えることができる。
スピン角 かく 運動 うんどう 量 りょう [ 編集 へんしゅう ]
量子力学 りょうしりきがく において、パウリ行列 ぎょうれつ はスピン 1 / 2 の角 かく 運動 うんどう 量 りょう 演算 えんざん 子 こ の表現 ひょうげん に現 あらわ れる[1] [2] 。角 かく 運動 うんどう 量 りょう 演算 えんざん 子 こ J 1 , J 2 , J 3 は交換 こうかん 関係 かんけい
[
J
1
,
J
2
]
=
i
ℏ
J
3
,
[
J
2
,
J
3
]
=
i
ℏ
J
1
,
[
J
3
,
J
1
]
=
i
ℏ
J
2
{\displaystyle [J_{1},J_{2}]=i\hbar J_{3},\,[J_{2},J_{3}]=i\hbar J_{1},\,[J_{3},J_{1}]=i\hbar J_{2}}
を満 み たす。ただし、ℏ = h / 2π ぱい はディラック定数 ていすう である。エディントンのイプシロン ε いぷしろん ijk を用 もち いれば、この関係 かんけい 式 しき は
[
J
i
,
J
j
]
=
i
ℏ
∑
k
=
1
3
ε いぷしろん
i
j
k
J
k
{\displaystyle [J_{i},J_{j}]=i\hbar \textstyle \sum \limits _{k=1}^{3}\varepsilon _{ijk}J_{k}}
と表 あらわ すことができる。ここで、
J
1
1
/
2
=
ℏ
2
σ しぐま
x
=
ℏ
2
[
0
1
1
0
]
J
2
1
/
2
=
ℏ
2
σ しぐま
y
=
ℏ
2
[
0
−
i
i
0
]
J
3
1
/
2
=
ℏ
2
σ しぐま
z
=
ℏ
2
[
1
0
0
−
1
]
{\displaystyle {\begin{aligned}J_{1}^{1/2}&={\frac {\hbar }{2}}\sigma _{x}={\frac {\hbar }{2}}{\begin{bmatrix}0&1\\1&0\end{bmatrix}}\\J_{2}^{1/2}&={\frac {\hbar }{2}}\sigma _{y}={\frac {\hbar }{2}}{\begin{bmatrix}0&-i\\i&0\end{bmatrix}}\\J_{3}^{1/2}&={\frac {\hbar }{2}}\sigma _{z}={\frac {\hbar }{2}}{\begin{bmatrix}1&0\\0&-1\end{bmatrix}}\end{aligned}}}
を導入 どうにゅう すると、これらは上記 じょうき の角 かく 運動 うんどう 量 りょう 演算 えんざん 子 こ の交換 こうかん 関係 かんけい を満 み たしている。J 1 , J 2 , J 3 の交換 こうかん 関係 かんけい はゼロではないため、同時 どうじ に対 たい 角 かく 化 か できないが、この表現 ひょうげん は J 3 を選 えら び対 たい 角 かく 化 か している。J 3 1/2 の固有値 こゆうち は +ℏ / 2 , −ℏ / 2 であり、スピン 1 / 2 の状態 じょうたい を記述 きじゅつ する。
ガンマ行列 ぎょうれつ の表現 ひょうげん [ 編集 へんしゅう ]
パウリ行列 ぎょうれつ はガンマ行列 ぎょうれつ の特定 とくてい の表現 ひょうげん を構成 こうせい するのに用 もち いられる。ガンマ行列 ぎょうれつ σ しぐま μ みゅー (μ みゅー = 0, 1, 2, 3 ) は反 はん 交換 こうかん 関係 かんけい
{
γ がんま
μ みゅー
,
γ がんま
ν にゅー
}
=
γ がんま
μ みゅー
γ がんま
ν にゅー
+
γ がんま
ν にゅー
γ がんま
μ みゅー
=
2
g
μ みゅー
ν にゅー
I
{\displaystyle \{\gamma ^{\mu },\gamma ^{\nu }\}=\gamma ^{\mu }\gamma ^{\nu }+\gamma ^{\nu }\gamma ^{\mu }=2g^{\mu \nu }I}
を満 み たすものとして定義 ていぎ される。ただし、I は単位 たんい 元 もと であり、gμ みゅー ν にゅー (μ みゅー , ν にゅー = 0, 1, 2, 3) は4次元 じげん 時空 じくう のミンコフスキー計量 けいりょう g = (gμ みゅー ν にゅー ) = diag(+1, −1, −1, −1) である。このとき、2次 じ 単位 たんい 行列 ぎょうれつ I 2 とパウリ行列 ぎょうれつ により、4次 じ 正方 せいほう 行列 ぎょうれつ
γ がんま
0
=
[
I
2
0
0
−
I
2
]
,
γ がんま
j
=
[
0
σ しぐま
j
−
σ しぐま
j
0
]
(
j
=
1
,
2
,
3
)
{\displaystyle \gamma ^{0}={\begin{bmatrix}I_{2}&0\\0&-I_{2}\\\end{bmatrix}},\,\gamma ^{j}={\begin{bmatrix}0&\sigma _{j}\\-\sigma _{j}&0\end{bmatrix}}\quad (j=1,2,3)}
を導入 どうにゅう すると、これらは上記 じょうき の反 はん 交換 こうかん 関係 かんけい を満 み たし、ガンマ行列 ぎょうれつ の表現 ひょうげん を与 あた える。これをガンマ行列 ぎょうれつ のディラック表現 ひょうげん と呼 よ ぶ。これは次 つぎ の直積 ちょくせき に対 たい する4次 じ 正方 せいほう 行列 ぎょうれつ 表現 ひょうげん である。
γ がんま
0
=
σ しぐま
3
⊗
I
2
,
γ がんま
j
=
i
σ しぐま
2
⊗
σ しぐま
j
(
j
=
1
,
2
,
3
)
{\displaystyle \gamma ^{0}=\sigma _{3}\otimes I_{2},\,\gamma ^{j}=i\sigma _{2}\otimes \sigma _{j}\quad (j=1,2,3)}
順 じゅん 時 じ 固有 こゆう ローレンツ群 ぐん とSL(2,C)[ 編集 へんしゅう ]
パウリ行列 ぎょうれつ は順 じゅん 時 じ 固有 こゆう ローレンツ群 ぐん L ↑ + とその普遍 ふへん 被覆 ひふく 群 ぐん である2次 じ 特殊 とくしゅ 線形 せんけい 群 ぐん SL(2, C ) を対応 たいおう づけるのに用 もち いられる[7] [8] 。ローレンツ群 ぐん L = O(3, 1) は一般 いっぱん 線形 せんけい 群 ぐん GL(4, R ) の元 もと Λ らむだ で4次元 じげん 時空 じくう のミンコフスキー計量 けいりょう g = (gμ みゅー ν にゅー ) = diag(+1 ,−1, −1, −1) (μ みゅー , ν にゅー = 0, 1, 2, 3) に対 たい し、Λ らむだ T gΛ らむだ = g を満 み たし、ミンコフスキー内積 ないせき を保 たも つものから成 な る。
L
=
{
Λ らむだ
∈
G
L
(
4
,
R
)
|
Λ らむだ
T
g
Λ らむだ
=
g
}
{\displaystyle L=\{\Lambda \in GL(4,\mathbb {R} )|\,\Lambda ^{T}g\Lambda =g\}}
一方 いっぽう 、順 じゅん 時 じ 固有 こゆう ローレンツ群 ぐん L ↑ + = SO+ (3, 1) はローレンツ群 ぐん の連結 れんけつ な正規 せいき 部分 ぶぶん 群 ぐん であり、00成分 せいぶん と行列 ぎょうれつ 式 しき の符号 ふごう についての条件 じょうけん から
L
+
↑
=
{
Λ らむだ
∈
L
|
Λ らむだ
00
≥
1
,
det
Λ らむだ
=
1
}
{\displaystyle L_{+}^{\uparrow }=\{\Lambda \in L|\,\Lambda _{00}\geq 1,\det {\Lambda }=1\}}
として、定義 ていぎ される[9] 。ここで4元 げん ベクトル x = (x 0 , x 1 , x 2 , x 3 ) に対 たい し、パウリ行列 ぎょうれつ σ しぐま 0 = I , σ しぐま → = (σ しぐま 1 , σ しぐま 2 , σ しぐま 3 ) により、2次 じ 正方 せいほう 行列 ぎょうれつ
X
=
∑
μ みゅー
=
0
3
σ しぐま
μ みゅー
x
μ みゅー
=
x
0
I
+
x
→
⋅
σ しぐま
→
=
[
x
0
+
x
3
x
1
+
i
x
2
x
1
−
i
x
2
x
0
−
x
3
]
{\displaystyle X=\textstyle \sum \limits _{\mu =0}^{3}\sigma _{\mu }x^{\mu }=x^{0}I+{\vec {x}}\cdot {\vec {\sigma }}={\begin{bmatrix}x^{0}+x^{3}&x^{1}+ix^{2}\\x^{1}-ix^{2}&x^{0}-x^{3}\end{bmatrix}}}
を導入 どうにゅう する。その行列 ぎょうれつ 式 しき は
det
X
=
(
x
0
)
2
−
(
x
1
)
2
−
(
x
2
)
2
−
(
x
3
)
2
{\displaystyle \det X=(x^{0})^{2}-(x^{1})^{2}-(x^{2})^{2}-(x^{3})^{2}}
であり、ミンコフスキー内積 ないせき ⟨x , x ⟩ を与 あた える。ここで SL(2, C ) の元 もと A により、変換 へんかん
X
′
=
A
X
A
†
{\displaystyle X'=AXA^{\dagger }}
を定義 ていぎ すると、
det
X
′
=
det
X
{\displaystyle \det X'=\det X}
であり、ミンコフスキー内積 ないせき を保 たも ち、順 じゅん 時 じ 固有 こゆう ローレンツ変換 へんかん Λ らむだ (A ) を与 あた える。さらに、±A は同 おな じローレンツ変換 へんかん Λ らむだ (A ) = Λ らむだ (−A ) を与 あた えることから、これは SL(2, C ) から L ↑ + への2対 たい 1の準 じゅん 同型 どうけい 写像 しゃぞう を与 あた える。その核 かく は Z2 = {±1} であり、群 ぐん の同型 どうけい 対応 たいおう
S
L
(
2
,
C
)
/
Z
2
≅
L
+
↑
{\displaystyle SL(2,\mathbb {C} )/\mathbb {Z} _{2}\cong L_{+}^{\uparrow }}
が成 な り立 た つ。
四 よん 元 げん 数 すう の表現 ひょうげん [ 編集 へんしゅう ]
パウリ行列 ぎょうれつ により、四 よん 元 げん 数 すう の2次 じ 正方 せいほう 行列 ぎょうれつ 表現 ひょうげん を与 あた えることができる。
e
k
=
−
i
σ しぐま
k
(
k
=
1
,
2
,
3
)
{\displaystyle e_{k}=-i\sigma _{k}\quad (k=1,2,3)}
を導入 どうにゅう すると、関係 かんけい 式 しき
e
1
2
=
e
2
2
=
e
3
2
=
−
I
{\displaystyle {e_{1}}^{2}={e_{2}}^{2}={e_{3}}^{2}=-I}
e
1
e
2
=
−
e
2
e
1
=
e
3
,
e
2
e
3
=
−
e
3
e
2
=
e
1
,
e
3
e
1
=
−
e
1
e
3
=
e
2
{\displaystyle e_{1}e_{2}=-e_{2}e_{1}=e_{3},\,e_{2}e_{3}=-e_{3}e_{2}=e_{1},\,e_{3}e_{1}=-e_{1}e_{3}=e_{2}}
を満 み たす。これは四 よん 元 げん 数 すう の基底 きてい 元 もと i , j , k が満 み たす関係 かんけい 式 しき
i
2
=
j
2
=
k
2
=
−
1
{\displaystyle i^{2}=j^{2}=k^{2}=-1}
i
j
=
−
j
i
=
k
,
j
k
=
−
k
j
=
i
,
k
i
=
−
i
k
=
j
{\displaystyle ij=-ji=k,\,jk=-kj=i,\,ki=-ik=j}
と対応 たいおう する。四 よん 元 げん 数 すう 環 たまき H から複素 ふくそ 行列 ぎょうれつ 環 たまき Mat(2,C ) へのR -線形 せんけい 写像 しゃぞう
a
1
+
b
i
+
c
j
+
d
k
↦
a
I
+
b
e
1
+
c
e
2
+
d
e
3
(
a
,
b
,
c
,
d
∈
R
)
{\displaystyle a1+bi+cj+dk\mapsto aI+be_{1}+ce_{2}+de_{3}\ \quad (a,b,c,d\in \mathbb {R} )}
は和 わ と積 せき と保 たも ち、四元 よつもと 数 すう の2次 じ 正方 せいほう 行列 ぎょうれつ 表現 ひょうげん を与 あた える。この像 ぞう は
M
=
{
[
a
−
d
i
−
(
c
+
b
i
)
c
−
b
i
a
+
d
i
]
|
a
,
b
,
c
,
d
∈
R
}
=
{
(
α あるふぁ
β べーた
−
β べーた
¯
α あるふぁ
¯
)
|
α あるふぁ
,
β べーた
∈
C
}
{\displaystyle M=\left\{{\begin{bmatrix}a-di&-(c+bi)\\c-bi&a+di\end{bmatrix}}\,{\Biggl |}\,a,b,c,d\in \mathbb {R} \right\}=\left\{{\begin{pmatrix}\alpha &\beta \\-{\bar {\beta }}&{\bar {\alpha }}\end{pmatrix}}\,{\Biggl |}\,\alpha ,\beta \in \mathbb {C} \right\}}
であり、H と M は R -多元 たげん 環 たまき として同型 どうけい である。
^ a b c d 猪木 いのき 、河合 かわい (1994)、第 だい 7章 しょう
^ a b c d J.J Sakurai and Jim Napolitano(2010), chapter 3
^ Pauli, W. (1927). “Zur Quantenmechanik des magnetischen Elektrons”. Zeitschrift für Physik 43 (9): 601-623. doi :10.1007/BF01397326 . ISSN 0044-3328 .
^ 内積 ないせき はヒルベルト=シュミット内積 ないせき とする。
^ a b 平井 ひらい 、山下 やました (2003)、第 だい 4章 しょう
^ 佐藤 さとう (1992)、第 だい 5章 しょう
^ 佐藤 さとう (1992)、第 だい 8章 しょう
^ 平井 ひらい 、山下 やました (2003)、第 だい 5章 しょう
^ 相対 そうたい 論 ろん での慣習 かんしゅう に従 したが い、添 そ え字 じ は 0, 1, 2, 3 をとるものとする。