メノン (対話 篇 )
プラトンの (プラトン |
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ソクラテスの エウテュプロン - カルミデス ラケス - リュシス - イオン ヒッピアス ( |
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プロタゴラス - エウテュデモス ゴルギアス - クラテュロス メノン - メネクセノス |
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パルメニデス - テアイテトス |
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ソピステス - ティマイオス - クリティアス ピレボス - |
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アルキビアデスI - アルキビアデスII ヒッパルコス - クレイトポン - ミノス - エピノミス デモドコス - シシュポス エリュクシアス - アクシオコス アルキュオン - |
『メノン』(メノーン、
『メノン』は
構成
[登場 人物
[- ソクラテス - 67
歳 頃 。 - メノン(メノン3
世 ) - テッタリア地方 パルサロス(Pharsalos)出身 の貴族 の子息 。アテナイを訪 れ、アニュトスの家 に滞在 している。20歳 頃 。紀元前 401年 (本 篇 設定 の翌年 )に、アケメネス朝 ペルシアの小 キュロスの反乱 に傭兵 として参加 、翌年 処刑 されたことが、クセノポンの『アナバシス』に記述 されている。 - メノンの
召使 - アニュトス - アテナイの
富裕 市民 、民主 派 政治 家 。後 に、手工 者 ・政治 家 の代表 として、ソクラテスの告発 者 の一人 に名 を連 ね、その刑死 に主導 的 役割 を果 たす(『ソクラテスの弁明 』)。
時代 ・場面 設定
[ソクラテスは、
特徴 ・補足
[『パイドン』において、
また、アリストテレスは、その
内容
[メノンはいくつかの
しかし、メノンは
ところがその
そこでソクラテスは
導入
[- 1. メノンは、ソクラテスに「
徳 」は教 えられるか問 う。ソクラテスは、乗馬 と金持 ちで有名 だったテッタリア人 をそんな風 にしてしまったのはゴルギアスかとからかいつつ、ここアテナイでは事情 は逆 で、そんなこと聞 かれても皆 、「そもそも「徳 」が何 かすら知 らない」と答 えるだろうと述 べる。 - 2. ソクラテスは、それは
自分 も同 じで、自分 は「徳 」が何 かを知 らない上 に、それを知 ってる者 に会 ったことも無 いと述 べる。メノンは、ゴルギアスがアテナイに来 た時 に会 わなかったのかと問 う。ソクラテスは、会 ったけれども物覚 えが悪 くて思 い出 せないので、メノンに思 い出 させてほしいと言 う。
メノンとの問答 1
[「徳 」の定義 1
[- 3. メノンは、
男 の「徳 」は「国事 を処理 する能力 」であり、女 の「徳 」は「夫 への服従 と家事 」であり、その他 、子供 、年配 、自由 人 、召使 、それぞれに「徳 」があると述 べる。ソクラテスは、それらに共通 する「徳 」の定義 を聞 きたいと述 べる。 - 4. ソクラテスは、
再度 、「徳 」の単一 の相 (本質 )の定義 について、解説 。 - 5. メノンは、それを
受 けて、「徳 」とは「人々 を支配 する能力 を持 つこと」だと述 べる。ソクラテスは、召使 が主人 を支配 するのはおかしいと指摘 。メノンも、同意 する。ソクラテスは、その定義 に「正 しく」を付 け加 えるべきか問 う。メノンは、「正義 」は「徳 」なのだから付 け加 えるべきだと同意 する。ソクラテスは、それは「徳 」か「徳 の一部 」か問 う、「円形 」が「形 の一部 」であるように。というのも、他 にも様々 な「形 」があるからだと。メノンは、たしかに「徳 」にも色々 あると述 べる。ソクラテスは、挙 げてみるよう頼 む。メノンは、「勇気 」「節制 」「智恵 」「度量 の大 きさ」等 を挙 げる。ソクラテスは、再度 、我々 は多 くの「徳 」を見 つけ出 してしまったと指摘 。 - 6. ソクラテスは、「
自分 達 が求 めているもの」は、そうした様々 なものを列挙 する際 に、「念頭 においている当 のもの」であることを、「形 」と「円形 」「直線 形 」等 を例 に指摘 。
「形 /色 」の定義
[- 7. ソクラテスは、「
形 」を例 に、共通 同一 の定義 を要求 、試 しに、「形 」とは「色 に随伴 しているもの」という例 を挙 げてみる。メノンは、それでは不明瞭 な語 である「色 」の再 定義 が必要 になるので、間 が抜 けた定義 だと指摘 。 - 8. ソクラテスは、ソフィストであれば
先程 の定義 でもいいだろうが、自分 達 は問答 法 をやっているのだから、合意 ・確認 を経 ながら話 を進 めていこうと前置 きし、「終 わり」「限界 」「端 」「平面 」「立体 」などを確認 しつつ、「立体 がそこで限 られるもの」「立体 の限界 」という定義 を提示 。 - 9. メノンに「
色 」の場合 はどうなるかを問 われ、ソクラテスは、エンペドクレスの「感覚 は外物 から流出 した微粒子 が感覚 器官 の孔 から入 って生 ずる」という説 を引 き合 いに出 しつつ、「色 」とは「その大 きさが視覚 に適合 して感覚 されるところの、形 から発出 される流出 物 である」という定義 を提示 する。メノンは、称 讃 する。ソクラテスは、今回 の定義 はものものしいので、メノンは気 に入 っているかもしれないが、自分 は前 の定義 の方 が優 れていると思 うと述 べる。
「徳 」の定義 2
[- 10. メノンは、「
徳 」の定義 として「美 しいものを欲求 して、これを獲得 する能力 があること」を提示 。ソクラテスは、「美 しいもの」は「善 いもの」であるが、その反対 の「悪 いもの」を、自 ら望 む者 などいないこと(誰 もが皆 、自分 なりに「美 しいもの/善 いもの」を欲求 しているのであり、無知 ゆえにそれが結果 として「悪 いもの」であったりするだけ)を指摘 。 - 11. ソクラテスは、
先 の定義 の「欲求 して」の部分 は崩 れたので、残 りの「善 いものを獲得 する能力 」を考察 。「善 いもの」として、健康 ・富 ・金 ・銀 ・名誉 ・官職 などを2人 は例示 していくが、ソクラテスはそれらが「不正 に」獲得 されたなら「徳 」とは言 えないので、「正 しく、敬虔 に」という条件 を定義 につける必要 を指摘 。メノンも、同意 する。更 にソクラテスは、「正 しくない」場合 に、金 ・銀 などの「善 いもの」を「獲得 しないこと」も「徳 」であり得 るし、結局 のところ、「正義 」「節制 」「敬虔 」などが付 け加 わらないと、その定義 は成 りたないことを指摘 。メノンも、同意 する。 - 12. ソクラテスは、
結局 相変 わらず「徳 」を切 り刻 んでその「部分 」を提示 しているだけだと指摘 。メノンも、同意 する。
行 き詰 まり
[- 13. メノンは、
他人 を巻 き込 んで行 き詰 まらせるソクラテスの性質 を「シビレエイ」に例 えてからかう。ソクラテスは、「シビレエイ」は自分 でしびれることは無 いが、自分 の場合 は、他人 の前 に、まず何 よりも自分 自身 が道 を見失 って行 き詰 まっているのだと、違 いを指摘 。 - 14. メノンは、ソクラテスが
対象 を全 く知 らないのであれば、それをどうやって、どういう目処 の下 で、探求 するのか、また、仮 にそれを獲得 できたとして、どうやってそれを確認 するのか問 う。ソクラテスは、それは論争 家 たちがよく持 ち出 す議論 、「人間 は、知 っているものも、知 らないものも、探求 することはできない」という話 と一緒 だと指摘 。メノンは、それはよくできた議論 だと思 わないか問 う。ソクラテスは、否定 しつつ、「不死 の魂 」の話 を始 める。
「魂 の不死 」と「想起 説 」
[- 15. ソクラテスは、
魂 は不死 であり、その輪廻 の過程 で、あの世 この世 のあらゆるものを既 に見 て学 んできているのだから、それを想 い起 こすことができるのは、何 も不思議 なことではない、人 が「探求 する」とか「学 ぶ」とか呼 んでいるものは、実 は全 て「想起 する」ことに他 ならないと述 べる(想起 説 )。更 に、先程 の論争 家 好 みの議論 は我々 を怠惰 にするので信 じてはいけないし、こちらの「想起 説 」は我々 の探求 を鼓舞 するのでこちらを信 じると述 べる。メノンは、「想起 」の意味 を尋 ねる。ソクラテスは、メノンの従者 を使 って証明 しようと述 べる。メノンは、従者 の中 から1人 の召使 を選 ぶ。
「幾何 学 の手 ほどき」を通 じた証明
[- 16. ソクラテスは、
召使 に「正方形 」を書 いて見 せ、それを縦横 に線 を引 き、「四 等分 」する。元 の「正方形 」の一辺 を2プース(pous)[8]とすると、四 等分 された「小 さな正方形 」の一 辺 は1プースであり、その面積 は1平方 プースとなる。「小 さな正方形 」を2つ合 わせると、その面積 は2平方 プース。元 の「正方形 」は、「小 さな正方形 」4つから成 るので、先 の倍 (2の2倍 )であることを確認 しつつ、ソクラテスはその「正方形 」の面積 を尋 ね、召使 は4平方 プースと答 える。ソクラテスは、次 に元 の「正方形 」の「2倍 の面積 」を持 つ「2倍 正方形 」を想像 してもらう。その面積 を問 われ、召使 は8平方 プースと答 える。ソクラテスは、それではその「2倍 正方形 」の一 辺 の長 さはどれくらいかを問 う。召使 は(面積 が2倍 なのだから同 じように)元 の「正方形 」の一 辺 (2プース)の2倍 だと答 える。ソクラテスは、メノンに今 の召使 は「面積 が2倍 の正方形 は、2倍 の辺 からできる」と思 い込 んでいる状態 だと指摘 。 - 17. ソクラテスは、
実際 に縦横 2倍 の辺 を持 つ「大 正方形 」を書 いて見 せ、そこには元 の「正方形 」が4つ入 ること、すなわち、2倍 の辺 からは4倍 の面積 の図形 ができることを指摘 、その面積 は4平方 プースの4倍 で16平方 プースだと確認 する。召使 、同意 する。ソクラテスは、改 めて面積 が8平方 プースである「2倍 正方形 」の一 辺 の長 さを問 う。ソクラテスは、「2倍 正方形 」が、元 の「正方形 」の2倍 であると同時 に、今 書 いた「大 正方形 」の半分 の大 きさであることを指摘 。召使 、同意 する。ソクラテスは、元 の「正方形 」の一 辺 は2プースであり、「大 正方形 」の一 辺 は4プースなので、「2倍 正方形 」の一 辺 の長 さはその間 にあると指摘 。召使 、同意 する。その長 さを尋 ねられ、召使 は3プースと答 える。ソクラテスは、実際 に一 辺 3プースの図 を書 き加 えて見 せ、その面積 を問 う。召使 は9平方 プースと答 える。ソクラテスは、「2倍 正方形 」の面積 が8平方 プースであることを確認 しつつ、改 めてその一 辺 の長 さを問 う。召使 、分 からないと答 える。 - 18. ソクラテスは、メノンに
今 の召使 は先程 の「思 い込 み」状態 から、「行 き詰 まり(アポリア)の自覚 」(無知 の知 )にまで前進 したと指摘 。そして、「しびれさせること」(上記 13)は真相 発見 の一助 となることを指摘 。メノンも、同意 する。 - 19. ソクラテスは、「
大 正方形 」内 にある4つの元 の「正方形 」群 のそれぞれに、それらを半分 にする「対角線 」を引 き、正方形 を作 る。面積 が4平方 プースである元 の「正方形 」を半分 にしたものが4つあるので、2×4=8平方 プースの「2倍 正方形 」がようやく作 られたことを、召使 は確認 する。 - 20. ソクラテスは、
今 の一連 のやり取 りによって、召使 は知 らなかったはずの事柄 に対 し、彼 の中 で様々 な「思 いなし」(思惑 )が生 じ、繰 り返 し尋 ねられることでそれが明確 化 していったことを指摘 。メノンも、同意 する。ソクラテスは、それは「自分 の中 にあった知識 を取 り出 し、把握 し直 すこと」であり、「想起 する」ということではないかと指摘 。メノンも、同意 する。ソクラテスは、召使 はこれまで幾何 を教 わったことがあるのか問 う。メノンは、否定 する。 - 21. ソクラテスは、
召使 が「現世 」でそれを学 んでないとすると、「前世 」以前 に学 んだことになると指摘 。メノンも、同意 する。ソクラテスは、したがって魂 は不死 であり、全 てを知 っているのであり、知 らないと思 っているようなことでも、それを励 まし、探求 し、想起 できるように努 めるべきではないかと指摘 。メノンは、なるほどと感心 する。ソクラテスは、この説 を以 て様々 なことを確信 的 に断言 しようとは思 わないが、人 が何 かを知 らない場合 に、こうしてそれを探求 しなければならないと思 う方 が、勇気 づけられ、怠 け心 が無 くなり、より優 れた者 になるのではないかと指摘 。メノンも、同意 する。
メノンとの問答 2
[「仮設 法 」
[- 22. ソクラテスは、それでは「
徳 とは何 か」の探求 に戻 ろうと提案 。しかしメノンは、それよりも当初 に尋 ねていた「徳 は教 えられるのか」(それとも生 まれつきか)についての、ソクラテスの意見 を聞 かせて欲 しいと述 べる。ソクラテスは、それを受 け入 れ、どうやら自分 達 は「何 であるか」すら分 ってないものに対 して、それが「どのような性質 であるか」を考察 しなければならないらしいと、自嘲 する。
ソクラテスは、これを考察 するにあたって、正誤 未 判明 なままの結論 ・前提 を先 に設定 (仮設 )し、そこから遡 って条件 に合 うように議論 を絞 り込 んでいく手法 を採 るよう提案 。
仮設 1「徳 は教 えられる/知識 」
[- 23. ソクラテスは、「
徳 が教 えられる」と(仮定 /仮設 )して、それは「どのような性質 」か、から議論 を始 める。ソクラテスは、教 えられるとすれば、「徳 」は「知識 」ではないかと指摘 。メノンも、同意 する。ソクラテスは、これで「徳 が「知識 」の一種 であれば、教 えられるし、「知識 」でなければ、教 えられない」という第 一 段階 が片付 いたと指摘 。メノンも、同意 する。
仮設 2「徳 (知識 )は善 いもの(善 )/有益 」
[- ソクラテスは、それでは
次 に「徳 は「知識 」か否 か」を考 えなければならないと指摘 。メノンも、同意 する。ソクラテスは、「徳 」は「善 いもの(善 )」と仮設 し、「「知識 」とは別 の「善 」があれば、「徳 」は「知識 」ではないし、全 ての「善 」が「知識 」に包括 されるなら、「徳 」は「知識 」である」と推定 できると指摘 。メノンも、同意 する。
ソクラテスは、「善 い人間 」は「徳 」ゆえにそうであるし、また同時 に、「善 い人間 」は「有益 」な人間 でもあるので、「徳 」は「有益 」だと指摘 。メノンも、同意 する。
- 24. ソクラテスは、「
有益 」の例 として、健康 、強 さ、美 しさ、富 などを挙 げる。メノンも、同意 する。ソクラテスは、しかしこれらは時 には「有害 」でもあると指摘 。メノンも、同意 する。
ソクラテスは、それではそれらは「正 しい使用 」である場合 には「有益 」になり、そうでない場合 は「有害 」になるのではないかと指摘 。メノンも、同意 する。
ソクラテスは、続 いて「魂 」における「有益 」の例 として、「節制 」「正義 」「勇気 」「物分 かりの良 さ」「記憶 力 」「度量 の大 きさ」等 を挙 げ、これらも「知識 」「知性 」を伴 う場合 には「有益 」となり、そうでない場合 は「有害 」になると指摘 。メノンも、同意 する。
ソクラテスは、したがって「徳 」が「有益 」なものであるならば、「徳 」は「知 」でなければならないと指摘 。メノンも、同意 する。 - 25. ソクラテスは、
更 に先 に挙 げた「富 」の類 も、「知 」に導 かれた魂 よって「有益 」になるし、そうでなければ「有害 」ともなると指摘 。メノンも、同意 する。ソクラテスは、したがって人間 にとっての一切 の「善 いもの」は「魂 」に、そしてその「知 」に依存 するのであり、「徳 は「知 」」ということになると指摘 。メノンも、同意 する。
ソクラテスは、したがって「優 れた人物 」というのも、「生 まれつきではない」ということになると指摘 。メノンも、同意 する。
アニュトスとの問答
[「徳 の教師 」について1
[- 26. ソクラテスは、しかしいまだに「
徳 が「知識 」である」ことに対 する疑念 が拭 えないと言 う。というのも、「徳 」が「知識 」であり、教 えることができるのであれば、それを教 える教師 がいるはずだが、自分 はまだそれに出会 ったことが無 いからだと。そこにちょうどアニュトスがやって来 たので、素性 も良 く、アテナイで重要 官職 を担 ってもいる彼 に、ソクラテスは「徳 の教師 」について尋 ねてみることにする。 - 27. ソクラテスは、
例 えば医術 、靴 作 り、笛 吹 き術 など、何 かを教 わろうと思 ったら、その専門 家 のところで報酬 を払 って教 わるのが当然 ではないかと指摘 。アニュトスも、同意 する。 - 28. ソクラテスは、では「
徳 」を学 ぶには、ソフィスト達 のところへ行 くべきか問 う。アニュトスは、激昂 して否定 、連中 のところへ行 けば害悪 を受 けて堕落 すると。 - 29. ソクラテスは、しかしプロタゴラスは40
年 以上 もソフィストをやって大金 を稼 いでいたし、現在 でも様々 なソフィスト達 が活躍 している、もし彼 らの看板 に偽 りありなら、そんなに長 く隠 し通 せるものかと疑問 を呈 す。更 に、もし彼 らがそのような「偽物 」なら、彼 らは青年 達 を自覚 的 に欺 いているのだろうか、それとも本人 達 も無自覚 なままそれを行 っているほど気 が狂 っているのか問 う。 - 30. アニュトスは、ソフィスト
達 は気 が狂 っているわけではなく、気 が狂 っているのはむしろ青年 達 の方 であり、もっと気 が狂 っているのはそれを許容 する彼 らの身内 、そして最 も気 が狂 っているのがそれらを排除 しない国家 だと答 える。ソクラテスは、アニュトスはどうしてそんなにソフィスト達 を毛嫌 いするのか問 う。彼 らの内 の誰 かがアニュトスに悪事 を働 いたのかと。アニュトスは、彼 らの誰 とも付 き合 ったことがないが、彼 らがどんな人間 かは知 っていると述 べる。ソクラテスは、それでは誰 のところに行 けば、徳 を教 えてもらえるのか問 う。アニュトスは、アテナイ人 で「ひとかどの立派 な人物 」なら誰 でも優 れた人間 にしてくれると答 える。
- 31. ソクラテスは、その「ひとかどの
立派 な人物 」達 は、誰 にも学 ばずにそうなったのか問 う。アニュトスは、彼 らも「ひとかどの立派 な人物 」であった先人 達 に学 んだのだと答 える。ソクラテスは、そんな現在 及 び過去 の優 れた人物 達 は、「自分 の徳性 を他者 に教 える」ことにかけても優 れている(いた)のか問 う。 - 32. ソクラテスは、テミストクレスを
例 に出 し、彼 は息子 のクレオンパントスに熱心 に教師 を与 え、教育 を施 したが、父親 ほど優 れた人物 になったという話 は、聞 いたことがないと指摘 、それではテミストクレスは自分 が持 っている肝心 の知恵 だけは息子 に教 える気 がなかったのか問 う。アニュトスは、あり得 ないと否定 する。 - 33. ソクラテスは、
次 にアリステイデス(Aristides)[9]を例 に出 し、息子 リュシマコス[10]を同 じように優 れた人物 にできなかったことを指摘 。更 に、ペリクレスとその2人 の息子 達 パラロス、クサンティッポスについても指摘 。更 に、トゥキュディデス[11]とその2人 の息子 達 メレシアス[10]、ステパノスについても言及 。 - 34. ソクラテスは、
以上 のように、本人 に徳性 があり、教育 に熱心 で、金 もコネも十分 であるのにもかかわらず、誰 一人 として息子 達 を自分 と同 じように仕上 げることができなかったということは、「徳 は教 えることができない」ということなのではないかと指摘 。アニュトスは、人々 のことを軽々 しく悪 く言 ってはいけないと憤慨 、この国 (アテナイ)では特 に他人 に害 を加 えるのは容易 なのだから、口 が災 いの元 にならぬよう気 をつけることをソクラテスに忠告 しつつ、怒 りで黙 り込 む。
メノンとの問答 3
[「徳 の教師 」について2
[- 35. ソクラテスは、アニュトスはソクラテスが
彼 らの悪口 を言 っていると思 い込 んでいるとメノンに述 べる。アニュトスが「悪 く言 う」の意味 を覚 る時 が来 れば、怒 るのをやめるだろうと。
ソクラテスは、代 わりにメノンに彼 の国 の優 れた人物 達 は、「徳 」を教 えられると言 い、その教師 の役 を引 き受 けているか否 か問 う。メノンは、彼 らは時 には「徳 」を教 えられると言 うし、ある時 はそうでないと言 うと、述 べる。ソクラテスは、ではそんな意見 が一致 しない人々 を「徳 」の教師 と言 えるか問 う。メノンは、否定 する。ソクラテスは、それではソフィスト達 はどうが問 う、「徳 」を教 えると公言 する彼 らは、本当 に「徳 」の教師 だと思 うか問 う。メノンは、少 なくともゴルギアスは、「人 を弁論 に秀 でた者 にする」と言 っているだけで、「徳 」を教 えるなどとは言 っていないし、他 のソフィストがそれを約束 しているのを聞 くと、笑 っていると言 う。ソクラテスは、ではメノンもソフィスト達 は「徳 」の教師 とは思 えないのか問 う。メノンは、分 からないと答 える、自分 も時 には「徳 」を教 えられると思 ったり、時 にはそうでないと思 ったりもすると。
ソクラテスは、「徳 」が教 えられると思 えたり、思 えなかったりするのは、メノンや政治 家 達 だけではなく、詩人 テオグニスの場合 も一緒 だと指摘 。 - 36. ソクラテスは、テオグニスの
詩 を披露 する。そして、これまでの話 をまとめ、一方 には「徳 」を教 えると称 するソフィスト達 がいるが、そんな彼 らの資質 ・能力 に疑問 ・批判 を投 げかける者 がおり、他方 には、本人 の「徳性 」が認 められている人物 達 がいるが、彼 らがその「徳性 」を教 えられるか否 かについて見解 の相違 がある、こうした意見 が混乱 した人々 を「徳 」の教師 と肯定 できるか問 う。メノンは、否定 する。 - 37. ソクラテスは、それでは「
徳 」を教 えることができる者 はいないし、それを習 う者 もいないし、徳 は教 えられるものではないということになると指摘 。メノンも、同意 する。
「徳 は神 的 な正 しい思 いなし(思惑 )」
[- メノンは、それでは「
徳 を備 えた人物 」の存在 すらも否定 されることになってしまうのか問 う。ソクラテスは、自分 達 は「徳 」が「知識 」によって導 かれる場合 だけではないことに、気付 いてなかったのではないかと指摘 。
- 38. ソクラテスは、というのも「
優 れた人物 」は「有益 な人間 」であり、その「有益 」たるゆえんは、我々 を「正 しく導 く」ことにあるわけだが、それが「知 」によってのみなされると考 えたのが、正 しくなかったのではないかと述 べる。なぜなら、見当 をつけて道 を歩 いていくのと同 じように、「知 」にまで至 っていない「思 いなし(思惑 )」であったとしても、それがうまくいく限 りは、その「有益 性 」において、「知 」と何 ら変 わらないからだと。メノンは、「知識 」を持 っている者 は常 に成功 するが、「思 いなし(思惑 )」の場合 は常 にうまくいくとは限 らないのではないかと指摘 。
「知識 」と「思 いなし(思惑 )」
[- 39. ソクラテスは、
逆 に言 えば、「思 いなし(思惑 )」が正 しい限 りは、常 にうまくいくと指摘 。メノンは、それではなぜ「知識 」は、「思 いなし(思惑 )」より高 く評価 されるのか問 う。ソクラテスは、「ダイダロスの彫像 」[12]を例 に出 す。「ダイダロスの彫像 」は、そのままでは逃 げ去 って無 くなってしまうが、縛 り付 けておけば値打 ちものとなる、同 じように、正 しい「思 いなし(思惑 )」も、そのままでは魂 から逃 げ去 ってしまう(忘却 されてしまう)が、それを先 の「想起 」の話 のように、「原因 ・根拠 の思考 」(すなわち言論 (ロゴス))で以 て縛 りつければ、「知識 」として、「永続 的 」に価値 のあるものとして留 める(記憶 する)ことができる、それゆえ「知識 」は、「思 いなし(思惑 )」より高 く評価 されるのだと。 - 40. ソクラテスは、これはあくまでも
比喩 を使 った推量 だが、それでも「知識 」と正 しい「思 いなし(思惑 )」が別 のものだということ自体 は確 かだと述 べる。メノンも、同意 する。
「優 れた人物 」と「神 がかり」
[- ソクラテスは、「
知識 」であれ、正 しい「思 いなし(思惑 )」であれ、生 まれながらにして備 わっているものではないと指摘 。メノンも、同意 する。ソクラテスは、では「優 れた人物 」も、生 まれながらにして優 れているわけではないと指摘 。メノンも、同意 する。
- 41. ソクラテスは、
先 の議論 によって、「優 れた人物 」は、教 えることができるような「知識 」によって正 しく導 いていたのではないことが、明 らかになったので、正 しい「思 いなし(思惑 )」によってそうしていたということになり、これによって国 を正 しく導 いている政治 家 というのは、神託 の巫女 らと何 ら変 わらず、「神 がかり」によって、それを行 っていることになると指摘 。メノンは、同意 しつつ、そんなことを言 ったら、傍 らのアニュトスが腹 を立 てているかもしれないと述 べる。
「徳 を教 えられる者 」
[- 42. ソクラテスは、これまでの
議論 をまとめると、「徳 」とは、生 まれつきのものでも、教 えられるものでもなく、それを身 につけている者 は、「知性 」とは無関係 に、「神 の恵 み」によってそれを身 に付 けていることになる、これまでのように他者 に「徳 」を教 えることができる者 が出 て来 ない限 りは、と指摘 。そして、もしそうした人物 が出 てくるとしたら、それはホメロスがテイレシアスを形容 したように、他 を影 にしてしまうような存在 だろうと指摘 。メノンも、同意 する。
「徳 それ自体 」
[- ソクラテスは、しかしながら「
徳 」については、今 議論 してきたように、「いかに人間 にそなわるようになるか」ではなく、「徳 それ自体 がそもそも何 であるか」という問 いを手 がけてはじめて、明確 に知 ることができると指摘 。そして、自分 はそろそろ行 かなくてはならないと述 べ、アニュトスへの説得 と気 の和 らげをメノンに頼 みつつ、話 は終 わる。
論点
[「徳 」と「知識 」
[- 「これまでの
政治 家 やソフィスト達 を検討 した限 りでは」
という
そして、そのことは、
また、
「知識 」と「思 いなし(思惑 )」
[「
それゆえに、「
ちなみに、
正 しい「思 いなし(思惑 )」を、「言論 (ロゴス)」で縛 りつけることで、それが「知識 」になる
ということが、(
そして、その『テアイテトス』や、『
想起 説
[ただし、これは
仮設 法
[ただし、これによって
日本語 訳
[- 『プラトン
全集 〈9〉 ゴルギアス メノン』加来 彰 俊 、藤沢 令 夫 訳 岩波書店 、初版 1974年 、復刊 2005年 - 『メノン』
藤沢 令 夫 訳 岩波 文庫 1994年 10月 ISBN 4-00-336016-8 - 『メノン――
()について』徳 渡辺 邦夫 訳 光文社 〈光文社 古典 新訳 文庫 〉、2012年 2月 ISBN 978-4-334-75244-6
脚注
[- ^ 「アレテー」(
希 : ἀρετή、arete)の訳語 。 - ^ a b 「エピステーメー」(
希 : ἐπιστήμη, episteme)。 - ^ a b 「ドクサ」(
希 : δόξα, doxa)。 - ^ 『メノン』
岩波 文庫 p133 - ^ 『メノン』
藤沢 令 夫 訳 岩波 文庫 pp138-140 - ^ 『
分析 論 前書 』第 2巻 67a21、『分析 論 後書 』第 1巻 71a29 - ^
参考 : 『メノン』岩波 文庫 - ^ 1pous(プース)≒30cm
- ^ 『ラケス』に
登場 するリュシマコスの父 。 - ^ a b 『ラケス』の
登場 人物 。 - ^ 『ラケス』に
登場 するメレシアスの父 。 - ^ ダイダロスは、ギリシア
神話 の伝説 的 工匠 。彼 が彫 った像 は、ひとりでに動 き出 すとされる。「ダイダロスの像 」の例 えは、『エウテュプロン』(11C)などでも用 いられている。