下江しもえ秀太郎ひでたろう

下江しもえ 秀太郎ひでたろう（しもえ ひでたろう、1848年ねん（嘉よしみ永ひさし元年がんねん5月）- 1904年ねん（明治めいじ37年ねん）5月3日にち）は、日本にっぽんの武士ぶし、剣術けんじゅつ家か。流派りゅうはは北辰ほくしん一刀いっとう流りゅう。称号しょうごうは大だい日本にっぽん武徳ぶとく会かい精錬せいれん証しょう。維新いしん後ごの職業しょくぎょうは警察官けいさつかん。諱いみなは恒明つねあき（つねあき）。「鬼おに秀しゅう」、「日本一にっぽんいちの突つきの名人めいじん」と呼よばれた。

生涯しょうがい

幕末ばくまつ期き

宇都宮うつのみや藩士はんし下江しもえ恒貞つねさだの子ことして生うまれる。初はじめは父ちちから北辰ほくしん一刀いっとう流りゅうを学まなび、1858年ねん（安政あんせい5年ねん）、江戸えどへ出でて北辰ほくしん一刀いっとう流りゅうの道場どうじょう・玄武げんぶ館かんに入門にゅうもん、千葉ちば栄次郎えいじろうに剣術けんじゅつを学まなぶ。1862年ねん（文久ぶんきゅう2年ねん）の千葉ちば栄次郎えいじろうの死しの後のちは、その弟おとうと千葉ちば道どう三郎さぶろうに剣術けんじゅつを学まなび、関東かんとう諸国しょこくを武者むしゃ修行しゅぎょうする。1866年ねん（慶応けいおう2年ねん）、19歳さいにして玄武げんぶ館かん塾頭じゅくとうとなる。10代の塾頭じゅくとうを輩出はいしゅつしたことを故郷こきょうの宇都宮うつのみや藩主はんしゅが喜よろこび、下江しもえに朱しゅ鞘さやの大小だいしょうを贈おくった。これにより「朱しゅ鞘さやの秀しゅう」の異名いみょうをとる。1867年ねん（慶応けいおう3年ねん）、宇都宮うつのみやに帰かえり、宇都宮うつのみや藩はんの剣術けんじゅつ師範しはんとなる。

明治めいじ期き

1868年ねん（明治めいじ元年がんねん）、明治維新めいじいしんにより江戸えど町まち奉行ぶぎょうが廃止はいしされ、刑部おさかべ省しょうに逮部が置おかれた際さい、逮部に剣術けんじゅつを指導しどうする剣術けんじゅつ教授きょうじゅの一人ひとりとして選えらばれる。逮部伍長ごちょうに昇任しょうにん。1870年ねん（明治めいじ3年ねん）、北辰ほくしん一刀いっとう流りゅうの免許めんきょを授さずかる。1871年ねん（明治めいじ4年ねん）7月がつ、刑部おさかべ省しょうが司法省しほうしょうに改組かいそされると司法しほう権けん少しょう検けん部ぶに任にんじられたが、退職たいしょくして郷里きょうりの栃木とちぎ県けん鹿沼かぬまに帰かえった。

1879年ねん（明治めいじ12年ねん）、再ふたたび東京とうきょうへ出でて、警視けいし局きょく四よん等とう巡査じゅんさに就職しゅうしょくする。撃剣げっけん世話ぜわ掛かけとして他ほかの警察官けいさつかんに剣術けんじゅつを指導しどうする立場たちばとなったが、あまりに稽古けいこが厳きびしいため「体からだを壊こわして勤務きんむに支障ししょうをきたす」という苦情くじょうが続出ぞくしゅつしたという。下江しもえが「ちょいと突ついたりよ」と言いって放はなつ片手かたて突とっきは、軽かるく突ついているように見みえるが2、3日にち唾つばを飲のみ込こんでも痛いたく、胴どう打うちは剃刀かみそりで切きられたかのように鋭するどく、上段じょうだんからの小しょう手打てうちを受うけた者ものはあまりの痛いたさに手てを振ふって道場どうじょうの中なかを走はしり回まわったという。1882年ねん（明治めいじ15年ねん）7月がつ6日にち、天覧てんらん試合しあいに出場しゅつじょうし、宮みや内省ないせいから出場しゅつじょうした山岡やまおか鉄舟てっしゅうの門人もんじん・前田まえだ忠ただし挙きょに勝かった。

1884年ねん（明治めいじ17年ねん）、突然とつぜん、警視庁けいしちょうを退職たいしょくした。厳きびしい剣術けんじゅつ指導しどうが原因げんいんといわれる。退職たいしょく後ごは再ふたたび郷里きょうりの栃木とちぎ県けん鹿沼かぬまに帰かえった。帰郷ききょう後ご、回国かいこく修行しゅぎょう中ちゅうの内藤ないとう高治たかじが鹿沼かぬまに立たち寄よったので、短期間たんきかんではあるが下江しもえは内藤ないとうに稽古けいこをつけたという。1885年ねん（明治めいじ18年ねん）、茨城いばらき県警けんけい部長ぶちょう竹内たけうち寿ことぶき貞さだに招まねかれ茨城いばらき県けん警察けいさつ本署ほんしょ兼けん監獄かんごく本署ほんしょ詰つめ剣術けんじゅつ師範しはんに就任しゅうにん。水戸みとの道場どうじょう・東武とうぶ館かんでも剣術けんじゅつを指導しどうした。その時ときに東武とうぶ館かんで修行しゅぎょう中ちゅうの門奈かどな正ただしと出会であう。後のちに門奈かどな正ただしは、「下江しもえの技わざを最もっとも受うけ継ついだ」と評ひょうされる。

1887年ねん（明治めいじ20年ねん）、竹内たけうちが水戸みとを去さると、茨城いばらき県けん警察けいさつを退職たいしょくし、警視庁けいしちょうに復職ふくしょく。富岡とみおか門前もんぜん署しょの撃剣げっけん世話ぜわ掛かけに就任しゅうにんした。同年どうねん、下江しもえは門奈かどなを東京とうきょうに呼よび、警視庁けいしちょうに就職しゅうしょくさせ、下江しもえがいる富岡とみおか門前もんぜん署しょに配属はいぞくさせた。また同年どうねん、内藤ないとうも東京とうきょうに出でて警視庁けいしちょう撃剣げっけん世話ぜわ掛かけたちに試合しあいを挑いどみ連勝れんしょうした後のちに警視庁けいしちょうに就職しゅうしょくしたので、下江しもえは内藤ないとうも富岡とみおか門前もんぜん署しょに配属はいぞくさせた。1890年ねん（明治めいじ23年ねん）1月がつ、警視庁けいしちょう春季しゅんき撃剣げっけん大会たいかいで逸見いつみ宗そう助すけと対戦たいせんし勝かつ。日本橋にほんばし本石もといし町まちに道場どうじょう演武えんぶ館かんを開ひらいた。高野たかの茂義しげよしの著ちょ『剣道けんどう一路いちろ』には、「天下てんか第だい一いちの名人めいじん、下江しもえ秀太郎ひでたろうの道場どうじょうがあるところ、雲くもを望のぞんで名なのある剣士けんしは日本橋にほんばしをめざした」とある。

竹内たけうちを慕したって行動こうどうを共ともにし、1898年ねん（明治めいじ31年ねん）、愛知あいち県けん警察けいさつ部ぶの撃剣げっけん師範しはんとなる。翌よく1899年ねん（明治めいじ32年ねん）、宮城みやぎ県けん警察けいさつ部ぶの撃剣げっけん師範しはんとなり仙台せんだいに移住いじゅう、陸軍りくぐん第だい2師団しだんの撃剣げっけん師範しはんも務つとめた。この頃ころ、目めが不自由ふじゆうとなっていた。

1903年ねん（明治めいじ36年ねん）、大東だいとう流りゅうの伝承でんしょうによれば武田たけだ惣そう角かくと剣術けんじゅつ試合しあいで戦たたかい、敗やぶれたとも引ひき分わけたともいわれる。

1904年ねん（明治めいじ37年ねん）5月がつ、仙台せんだいで死去しきょした。

『大だい日本にっぽん剣道けんどう史し』の著者ちょしゃ堀ほり正平しょうへいが三橋みつはし鑑あきら一郎いちろうに「下江しもえ先生せんせいは強つよかったそうですね」と訊きくと、三さん橋きょうは「下江しもえが一番いちばん（強つよい）」と答こたえた。

参考さんこう文献ぶんけん

• 『剣けんの達人たつじん111人にんデータファイル』、新人物往来社しんじんぶつおうらいしゃ
• 中村なかむら民雄たみお『剣道けんどう事典じてん 技術ぎじゅつと文化ぶんかの歴史れきし』島津しまつ書房しょぼう、1994年ねん。