伊東いとう義よし祐ゆう

凡例はんれい 伊東いとう 義よし祐ゆう
伊東いとう義よし祐ゆう像ぞう
時代じだい	戦国せんごく時代じだい - 安土あづち桃山ももやま時代じだい
生誕せいたん	永えい正ただし9年ねん（1512年ねん）
死没しぼつ	天正てんしょう13年ねん8月がつ5日にち（1585年ねん8月がつ29日にち）
改名かいめい	虎とら熊ぐま丸まる（幼名ようみょう）、祐ゆう清きよし、可か水みず、義よし祐ゆう、照あきら眼め
別名べつめい	六郎ろくろう五郎ごろう（通称つうしょう）、三さん位い入道にゅうどう
官位かんい	正せい五ご位い下か、修理しゅうり大夫たいふ、従したがえ四よん位い下か、大膳だいぜん大夫たいふ、正せい四よん位い下か、従したがえ三さん位い
幕府ばくふ	室町むろまち幕府ばくふ御ご相伴しょうばん衆しゅ
氏族しぞく	日向ひなた伊東いとう氏し（藤原ふじわら南みなみ家か為ため憲けん流りゅう工藤くどう氏し）
父母ちちはは	父ちち：伊東いとう尹いん祐ゆう、母はは：福永ふくなが祐ゆう炳娘むすめ
兄弟きょうだい	福永ふくなが源みなもと兵衛ひょうえ室しつ、男子だんし（生母せいぼは中村なかむら氏し）、 祐ゆう充たかし、義よし祐ゆう、玉たま蓮はちす夫人ふじん（島津しまつ忠治ただはる室しつ）、祐吉ゆうきち
妻つま	荒あら武たけし氏し娘むすめ、籾もみ木き氏し娘むすめ、河崎かわさき祐ゆう長ちょう娘むすめ、 御ご東ひがし（福永ふくなが源兵衛げんべえ娘むすめ：義よし祐ゆうの姪めい）、 福園ふくぞの（川崎かわさき良りょう長ちょう娘むすめ）
子こ	高城たかぎ（肝付きもつき良兼りょうけん室しつ、杉田すぎた宗はじめ盛もり室しつ）、麻生あそう（北原きたはら兼けん守もり室しつ、馬うま関田せきだ右みぎ衛門えもん佐さ室しつ）、歓虎丸まる、義ぎ益えき、尼公にこう方丈ほうじょう東興とうこう庵あん、町まち上じょう（伊東いとう祐ゆう青あお室しつ、伊東いとうマンショの母はは）、伊東いとう祐信すけのぶ室しつ、照あきら覚さとし院いん、祐ゆう兵へい

伊東いとう 義よし祐ゆう（いとう よしすけ）は、戦国せんごく時代じだいから安土あづち桃山ももやま時代じだいにかけての武将ぶしょう、日向ひなた国こくの戦国せんごく大名だいみょう。日向ひなた伊東いとう氏し11代だい（伊東いとう氏し16代だい）当主とうしゅ。伊東いとう祐ゆう充たかし・祐吉ゆうきちは同母どうぼ兄弟きょうだい。

生涯しょうがい

家督かとく相続そうぞく

永えい正ただし9年ねん（1512年ねん）、日向ひなた国こくの戦国せんごく大名だいみょう・伊東いとう尹いん祐ゆうの子ことして誕生たんじょう。

天文てんもん2年ねん（1533年ねん）、日向ひなた伊東いとう氏し9代だい当主とうしゅで兄あに・祐ゆう充たかしが若死わかじににすると、叔父おじ・伊東いとう祐ゆう武たけが反乱はんらんを起おこし、祐ゆう充たかしや祐ゆう清きよし（義よし祐ゆう）の外祖父がいそふで家中かちゅうを牛耳ぎゅうじっていた福永ふくなが祐ゆう炳を自害じがいに追おい込こみ、都於郡とのごおり城じょうを占拠せんきょしてしまう。残のこされた祐ゆう清きよし・祐吉ゆうきち兄弟きょうだいは後うしろ盾たてを失うしない、日向ひなたを退去たいきょし上洛じょうらくしようとしたが、祐ゆう武ぶを支持しじしない者もの達たちの制止せいしを受うけて思おもい留とまり、財部たからべに引ひき返かえして祐ゆう武たけ方かたと対峙たいじした。こうして家中かちゅうを二ふたつに分わけた御家おいえ騒動そうどうとなったが、荒あら武三たけぞう省しょうの活躍かつやくにより祐ゆう武たけは自害じがいし、祐ゆう清きよし・祐吉ゆうきち方かたは都於郡とのごおり城じょうを奪回だっかいした。

乱らんの収束しゅうそく後ご、伊東いとう氏しの家督かとくは長倉ながくら祐ゆう省しょうの後援こうえんで弟おとうとの祐吉ゆうきちが継つぎ、祐ゆう清きよしは出家しゅっけを余儀よぎなくされる。ところが3年ねんで祐吉ゆうきちが病死びょうししたため、天文てんもん5年ねん（1536年ねん）7月がつ10日とおかに還俗げんぞくし佐土原さどわら城しろへ入はいると11代だいを相続そうぞくした。

翌よく天文てんもん6年ねん（1537年ねん）、従したがえ四よん位い下かに叙じょせられ将軍しょうぐん・足利あしかが義晴よしはるの偏へん諱いみなを受うけ、以後いご「義よし祐ゆう」と名乗なのる。天文てんもん10年ねん（1541年ねん）に大膳だいぜん大夫たいふの官途かんとを拝受はいじゅするとともに、永えい禄ろく4年ねん（1561年ねん）には従したがえ三さん位いに叙じょせられ、以後いご「三さん位い入道にゅうどう」を称しょうした。（従したがえ三さん位いへの叙位じょい年ねんについては『日向ひなた記き』では天文てんもん15年ねん（1546年ねん）とされている。）また、永えい禄ろく7年ねん（1564年ねん）には室町むろまち幕府ばくふ相伴しょうばん衆しゅに任にんじられている。

飫肥おび役やく

義よし祐ゆうは、飫肥おびを領りょうする島津しまつ豊ゆたか州しゅう家かと日向ひなた南部なんぶの権益けんえきをめぐって争あらそい、長ながい一進一退いっしんいったいの攻防こうぼうを繰くり返かえした。

永えい禄ろく3年ねん（1560年ねん）、豊ゆたか州しゅう家かは島津しまつ宗家そうけを介かいして幕府ばくふに飫肥おび役やくの調停ちょうていを依頼いらい、6月がつに足利あしかが義輝よしてるより和睦わぼく命令めいれいが出だされるが、義よし祐ゆうはこれに従したがわなかった。そのため、9月4日にちに幕府ばくふ政所まんどころ執事しつじである伊勢いせ貞さだ孝こうが日向ひなた国こくへ下向げこうした。その際さい、義よし祐ゆうは貞さだ孝こうへ飫肥おび侵攻しんこうの正当せいとう性せいを示しめすべく、6代だい当主とうしゅ・伊東いとう祐ゆう堯が足利あしかが義政よしまさより賜たまわったという「日にち薩隅三さんヶ国かこくの輩やからは伊東いとうの家人かじんたるべし、但ただし島津しまつ、渋谷しぶやはこれを除のぞく」という内容ないようの御教書みぎょうしょを提示ていじする。これを見みた貞さだ孝こうは、当時とうじの幕府ばくふが用もちいない言葉ことば遣づかいが散見さんけんされ偽書ぎしょの疑うたがいが強つよいと断だんじたものの、確証かくしょうまでは得えられなかった為ために、止やむを得えず飫肥おびを幕府ばくふ直轄ちょっかつ領りょうと定さだめて不可侵ふかしんの領地りょうちとした。しかし、義よし祐ゆうはこれを歯牙しがにも掛かけず、翌よく永えい禄ろく4年ねん（1561年ねん）4月がつには七なな度目どめの飫肥おび侵攻しんこうを開始かいしした。

同年どうねん12月がつ、豊ゆたか州しゅう家かを圧迫あっぱくし、交渉こうしょうにより飫肥おびの一部いちぶを割譲かつじょうさせると、永えい禄ろく5年ねん（1562年ねん）5月がつには完全かんぜんなる領有りょうゆうに成功せいこうする。しかし、同年どうねん9月がつに豊ゆたか州しゅう家かに攻せめられると、ほんの4か月げつで撤退てったいすることとなった。

そして永えい禄ろく11年ねん（1568年ねん）1月がつ9日にち、義よし祐ゆう自みずから総勢そうぜい2万まんと号ごうする大軍たいぐんを率ひきいて飫肥おび城じょうを攻撃こうげき。島津しまつ忠ただし親おやが守まもる飫肥おび城じょうを約やく五ごヶ月かげつ間あいだにわたり包囲ほういし、また援軍えんぐんとして出陣しゅつじんした北郷きたごう時じ久ひさしの軍ぐんを小越おごしの戦たたかいにおいて撃破げきは（第だい九きゅう飫肥おび役やく）。この大敗たいはいを受うけて同年どうねん5月がつ、島津しまつ貴久たかひさは義ぎ祐ゆうとの和睦わぼくを決定けっていした。その結果けっか、大隅おおすみ国こくの肝付きもつき氏しと豊ゆたか州しゅう家かの領土りょうどを分わけ合あう形かたちで永えい禄ろく12年ねん（1569年ねん）に飫肥おびを知行ちぎょう。こうして島津しまつ氏しを政治せいじ的てきに圧倒あっとうし、日向ひなた国内こくないに48の支ささえ城じょうを構かまえた義よし祐ゆうは、伊東いとう氏しの最盛さいせい期きをき上ずきあげたのである（伊東いとう四よん十じゅう八はち城しろ）。

勢いきおい盛さかんな義ぎ祐ゆうは次第しだいに奢侈しゃしと京きょう風ふう文化ぶんかに溺おぼれるようになり、本拠ほんきょである佐土原さどわら（現げん宮崎みやざき県けん宮崎みやざき市し佐土原さどわら町まち）は「九州きゅうしゅうの小しょう京都きょうと」とまで呼よばれるほど発展はってんしていくが、義よし祐ゆうの武将ぶしょうとしての覇気はきは失うしなわれていった。

真幸まさき院いん攻略こうりゃく〜木崎きざき原げんの戦たたかい

永えい禄ろく元年がんねん（1558年ねん）、長ちょうきに渡わたり姻戚いんせき関係かんけいを続つづけていた北原きたはら氏しの家督かとく継承けいしょう問題もんだいに介入かいにゅう、北原きたはら兼けん守もりに嫁とつぎ未亡人みぼうじんとなった娘むすめの麻生あそうを、北原きたはら庶流の馬うま関田せきだ右みぎ衛門えもん佐さに娶めあわせるとして、事実じじつ上じょうの乗のっ取とりを画策かくさくした。翌よく永えい禄ろく2年ねん（1559年ねん）3月17日にち、義よし祐ゆうはその反対はんたい派はを都於郡とのごおり城じょうへ呼よび寄よせて詰問きつもんし、その帰かえり道みちである六ろく野原のはらで取とり囲かこんで粛清しゅくせいすると、右みぎ衛門えもん佐さと麻生あそうの婚姻こんいんを敢行かんこうして北原きたはら氏しの領地りょうちの全すべてを奪うばい取とった。しかし永えい禄ろく5年ねん（1562年ねん）、島津しまつ貴久たかひさと相良さがら義よし陽ひ、北郷きたごう時じ久ひさが北原きたはら氏しの旧領きゅうりょう回復かいふくに協力きょうりょくしたため奪うばい返かえされる。これに義ぎ祐ゆうは、密ひそかに相良さがら氏しと同盟どうめい、永えい禄ろく6年ねん（1563年ねん）に共ともに大明神だいみょうじん城じょうを攻せめ落おとし、永えい禄ろく7年ねん（1564年ねん）には北原きたはら氏しに従属じゅうぞくする大河平おおこうびら隆次りゅうじの今城いましろを攻せめ取とった。その後ご、北原きたはら氏しは離反りはん者しゃが相次あいついだために、真幸まさき院いんの飯野いいの地区ちく以外いがいは再ふたたび伊東いとう氏しの領地りょうちとなる。

真幸まさき院いんが肥沃ひよくな穀倉こくそう地帯ちたいであること、また日向ひなたの完全かんぜんなる支配しはいにはどうあっても飯野いいの地区ちく攻略こうりゃくが不可欠ふかけつであったため、永えい禄ろく9年ねん（1566年ねん）に飯野いいの地区ちく攻略こうりゃくの前線ぜんせん基地きちとして小林こばやし村むらに三ツ山みつやま城じょう（後ごの小林こばやし城しろ）を築城ちくじょうさせる。だが、これを知しった島津しまつ義久よしひさらが城しろの完成かんせいする前まえに攻撃こうげきを仕掛しかけてくる。須木すき城しろからの援軍えんぐんもあり、城主じょうしゅの米よね良重よしえ方かたは苦戦くせんしながらもこれを撃退げきたいする。

永えい禄ろく11年ねん（1568年ねん）、飯野いいの地区ちくへの攻略こうりゃくに乗のり出だし、菱刈ひしかり氏し攻略こうりゃく中ちゅうで留守るすの島津しまつ義弘よしひろの飯野いいの城しろを伊東いとう祐安すけやすに攻せめさせたが、このことを相良さがら家臣かしんで球磨くま皆越みなごえの地頭じとう・皆みな越こし六郎ろくろう左衛門さえもんの妻つまであり、大河平おおこうびら隆次りゅうじの姉あねであったナミが義弘よしひろへ密告みっこく。それにより島津しまつ勢ぜいと睨にらみ合あいとなったため、飯野いいの・田原たはら陣じんに桶おけ平城ひらじろを築城ちくじょうし佐土原さどわら遠江とおとうみ守まもるを入いれ駐屯ちゅうとんさせる。しかし、遠矢とおや良りょう賢けんらの釣つり野の伏ぶせに掛かかるなど成果せいかは上あがらず、また家督かとくを譲ゆずっていた次男じなん・義ぎ益えきの急死きゅうしもあり、やむなく桶おけ平城ひらじろに火ひを放はなち軍勢ぐんぜいを撤退てったいさせる。だが、桶おけ平城ひらじろは菱刈ひしかり・相良さがら両氏りょうし支援しえんのための城しろでもあったにもかかわらず、相良さがら氏しに一切いっさい通告つうこくしないまま撤兵てっぺいしたことから、これが相良さがら氏しの遺恨いこんを買かうことにもなった。

そして元もと亀かめ3年ねん（1572年ねん）5月がつ、島津しまつ貴久たかひさの死去しきょと肝付きもつき氏しの侵攻しんこうにより動揺どうようしている島津しまつ氏しの加久藤かくとう城じょうを相良さがら義よし陽ひと連携れんけいして攻せめた際さいに、伊東いとう側がわは3,000の軍勢ぐんぜいがありながら、島津しまつ義弘よしひろ率ひきいる300の軍勢ぐんぜいに敗やぶれる（木崎きざき原げんの戦たたかい）。伊東いとう祐安すけやす、伊東いとう祐信すけのぶら五ご人にんの大将たいしょうをはじめ、落合おちあい兼けん置おけ、米よね良重よしえ方かたなど伊東いとう家かの名なだたる武将ぶしょうが討死うちじにしてしまった。これ以降いこう、真幸まさき院いん攻略こうりゃくの戦たたかいは頓挫とんざすることとなる。

伊東いとう崩くずれ

木崎きざき原ばらでの大敗たいはいを契機けいきとして、義よし祐ゆうの勢力せいりょくは次第しだいに衰退すいたいしてゆく。まず、木崎きざき原げんの戦たたかいから4年ねん後ごの天正てんしょう4年ねん（1576年ねん）には、伊東いとう四よん十じゅう八はち城しろの一ひとつである長倉ながくら祐政すけまさが治おさめる高原こうげん城じょうが島津しまつ義久よしひさの3万まんの兵へいに攻せめられる。義よし祐ゆうは援軍えんぐんを出だすも圧倒的あっとうてきな兵へい数すう差さのため一いち戦せんも交まじえず、高原こうげん城じょうは水みずの手てを断たたれやむなく降伏ごうぶくする。その翌日よくじつには小林こばやし城しろと須木すき城しろを治おさめる米よね良りょう矩のり重おもが義よし祐ゆうへの遺恨いこんから島津しまつに寝返ねがえり、後難こうなんを恐おそれた近隣きんりんの三ツ山みつやま城じょう、野首のくび城じょう、更さらに三ツ山みつやまと野尻のじりの堺さかいにある岩いわ牟礼むれ城じょうまでも島津しまつに帰きする。これによって島津しまつ氏し領りょうとの境界きょうかい線せんである野尻のじりと青井岳あおいだけが逼迫ひっぱくの事態じたいに陥おちいった。野尻のじり城しろ主おも・福永ふくなが祐ゆう友ともは何なん度ども義ぎ祐ゆうに事態じたい打開だかいを訴うったえ出でたものの、直参じきさん家臣かしんによって訴うったえは握にぎり潰つぶされてしまった。義よし祐ゆうの家臣かしん団だんは、境界きょうかいの実情じつじょうを知しっていながらも、義よし祐ゆうの栄華えいが驕慢きょうまんの日々ひびを諫止することが出来できなかった。これは義ぎ祐ゆうが諫言をする家臣かしんを遠とおざけ、自分じぶんに都合つごうのいい家臣かしんだけを側近そっきんにしていたためであったとされる。

翌よく天正てんしょう5年ねん（1577年ねん）に入はいり情勢じょうせいはますます悪化あっかする。6月には、南みなみの守まもりの要ようである櫛くし間あいだ城じょうが島津しまつ忠長ただながによって攻せめ落おとされた。義よし祐ゆうは飫肥おび城主じょうしゅである三男さんなん・祐ゆう兵へいに櫛くし間あいだへの出兵しゅっぺいを命めいじたものの、逆ぎゃくに忠長ただながに反撃はんげきされ、飫肥おび本城ほんじょうに敗走はいそう。敵てきに飫肥おび城じょうを包囲ほういされてしまった。また同おなじ頃ごろ、日向ひなた北部ほくぶの国人くにびと・土持つちもち氏しが突如とつじょ門川かどがわ領りょうへの攻撃こうげきを開始かいししたため、伊東いとう家かは北きたは土持つちもち、南みなみと北西ほくせいからは島津しまつ氏しの侵攻しんこうを受うけることになったのである。義よし祐ゆうは窮きゅうする事態じたいに人心じんしん一新いっしんを図はかったものか、次男じなん・義ぎ益えきの嫡男ちゃくなんで嫡孫ちゃくそんの義賢よしかたに家督かとくを譲ゆずる。

同年どうねん12月がつ、野尻のじり城主じょうしゅ・福永ふくなが祐ゆう友ともが、島津しまつ方かたである高原こうげん城主じょうしゅ・上原うえはら尚なお近ちかの説得せっとくを受うけ入いれ、島津しまつ方かたに寝返ねがえってしまった。福永ふくなが氏しは伊東いとう氏しとは姻戚いんせき関係かんけいにあった為ため、この謀反むほんは義ぎ祐ゆうは勿論もちろん、他た氏族しぞくへの大おおきな衝撃しょうげきになった。これを知しった内山うちやま城しろ主おもの野村のむら刑部おさかべ少しょう輔文綱つな（野村のむら松まつ綱つなの子こ）、紙屋かみや城じょう主おも・米よね良りょう主税しゅぜい助すけも島津しまつ方かたに寝返ねがえった為ため、佐土原さどわらの西にしの守まもりは完全かんぜんに島津しまつ氏しの手中しゅちゅうに収おさめられてしまったのである。さすがの義ぎ祐ゆうも事態じたいの深刻しんこくさを受うけ止とめ、12月8日にち、領内りょうない諸しょ将しょうを動員どういんしてまず紙屋かみや城じょう奪回だっかいの兵へいを出だした。ところが、途中とちゅうで背後はいごから伊東いとう家か譜代ふだい臣しんの謀反むほんの動うごきを察知さっち。即座そくざに反転はんてんして佐土原さどわらに帰き城じょうした。

翌よく12月がつ9日にち、佐土原さどわら城じょうで事態じたい打開だかいの評定ひょうじょうが開ひらかれた。南みなみの島津しまづ方かたは飫肥おびを越こえ、佐土原さどわらへ攻せめ寄よせるのは必至ひっしな状況じょうきょうで、籠城ろうじょうして島津しまづ軍ぐんを迎撃げいげきする声こえはなかった。同日どうじつ、城しろを包囲ほういされて逃亡とうぼうしてきた祐ゆう兵へいも佐土原さどわら城じょうに帰着きちゃく。もはや義よし祐ゆうには残のこされた選択肢せんたくしはなかった。同日どうじつ正午しょうご過すぎ、義よし祐ゆうは日向ひなたを捨すて、次男じなん・義ぎ益えき正室せいしつの阿おもね喜多きたの叔父おじ・豊後ぶんご国こくの大友おおとも宗麟そうりんを頼たよる決断けつだんを下くだしたのであった。

本拠ほんきょである佐土原さどわらを捨すて、豊後ぶんごを目指めざす義ぎ祐ゆう一いち行ぎょうの進路しんろ上じょうに、新しん納院のういん財部たからべ城じょう主おも・落合おちあい兼けん朝あさも島津しまつ氏しに迎合げいごうして挙兵きょへいした報しらせが入はいった。落合おちあい氏しは伊東いとう氏しが日向ひなたに下向げこうする以前いぜんからの重臣じゅうしんで譜代ふだいの筆頭ひっとう格かくであったが、義よし祐ゆうの寵臣ちょうしん・伊東いとう帰き雲斎うんさいの専横せんおうが元もとで子息しそくの落合おちあい丹後たんご守もりを殺ころされており、それを深ふかく恨うらんでいた。落合おちあい兼けん朝ちょうの裏切うらぎりにより、義よし祐ゆうは己おのれの今いままでの愚行ぐこうに気付きづき切腹せっぷくしようとするが家臣かしんらに止とめられる。一いち行ぎょうは財部たからべに入はいるのを諦あきらめ、西にしに迂回うかいし米良めら山中さんちゅうを経へて、高千穂たかちほを通とおって豊後ぶんごに抜ぬけるルートを通とおることにした。女おんな子供こどもを連つれての逃避行とうひこうはかなり辛からく苦くるしく、また険峻けんしゅんな山やまを猛もう吹雪ふぶきの中なか 進すすまねばならず、当初とうしょ120～150名めい程度ていどだった一いち行ぎょうは、途中とちゅう崖がけから落おちた者ものや、足あしが動うごかなくなって自決じけつしたものなどが後こうを絶たたず、また島津しまつからの追撃ついげきや山賊さんぞくにも悩なやまされ、豊後ぶんご国こくに着ついた時ときはわずか80名めい足たらずになっていたという（豊後ぶんご落おち）。その中なかには後のちに天正てんしょう遣や欧おう少年しょうねん使節しせつの一人ひとりとなる伊東いとうマンショの幼おさない姿すがたもあった。

豊後ぶんごに到着とうちゃくした義よし祐ゆうは大友おおとも宗麟そうりんと会見かいけんし、日向ひなた攻ぜめの助力じょりょくを請こうた。宗麟そうりんはその願ねがいを受うけ、また自身じしんも日向ひなたをキリスト教きりすときょう国くににする野望やぼうを抱いだき、天正てんしょう6年ねん（1578年ねん）に門川かどがわの土持つちもち氏しを攻せめ滅ほろぼし、耳川みみがわ以南いなんで島津しまつ氏しと激突げきとつ（耳川みみがわの戦たたかい）。しかし大友おおとも氏しは島津しまつ氏しに大敗たいはいを喫きっしてしまう。大友おおとも氏しの大敗たいはいは、居候いそうろう同然どうぜんの義ぎ祐ゆう一いち行ぎょうへの風当かぜあたりに繋つながり、また宗麟そうりんの息子むすこ・義統よしむねが祐ゆう兵へい夫人ふじん・阿おもね虎とらの方ほうを奪うばおうとしているとの噂うわさがあったため、義よし祐ゆうは子この祐ゆう兵へいら20余人よにんを連つれ（義賢よしかたは大友おおともに残のこされる）伊予いよ国こくに渡わたって河野こうの氏しを頼たより、河野こうの通とおる直ただしの一族いちぞく・大内おおうち栄さかえ運うんの知行ちぎょう地ちに匿かくまわれた。

その後ご、天正てんしょう10年ねん（1582年ねん）に義ぎ祐ゆうらは伊予いよから播磨はりま国こくに渡わたる。ここで祐ゆう兵へいは織田おだ信長のぶながの家臣かしん・羽柴はしば秀吉ひでよしに仕つかえていた同族どうぞくの伊東いとう長ちょう実みのるの縁えんを得えて、その斡旋あっせんで秀吉ひでよしの扶持ふちを受うけるようになった。

最期さいご

祐ゆう兵へいの仕官しかんを見届みとどけた義よし祐ゆうは暫しばらく播磨はりまに留とどまっていたが、天正てんしょう12年ねん（1584年ねん）祐ゆう兵へいの付つけた供ともの黒木くろき宗右衛門そうえもん尉じょうと共ともに中国ちゅうごく地方ちほうを気き儘に流浪るろうし、やがて周防すおう国こく山口やまぐちに至いたって旧臣きゅうしん宅たくに滞在たいざいした。

その後ごは黒木くろきを撒まいて独ひとりで旅たびをしていたが、病やまいに侵おかされ祐ゆう兵へいの屋敷やしきのある堺さかいへ向むかった。しかし便船びんせんの中なかで病やまい衰おとろえし、面倒めんどうを嫌きらった船頭せんどうに砂浜すなはまに捨すて置おかれた。偶然ぐうぜんにもそれを知しった祐ゆう兵へいの従者じゅうしゃ（祐ゆう兵へい夫人ふじんらとの説せつも）に発見はっけんされ、堺さかいの屋敷やしきで7日にち余あまり看病かんびょうを受うけたものの、甲斐かい無なく死去しきょした。享年きょうねん73。

人物じんぶつ

• 奢侈しゃしに溺おぼれ、国くにを追おわれた事ことで知しられるが、中なかでも仏事ぶつじへの傾倒けいとうが最もっとも深刻しんこくな問題もんだいであった。天文てんもん20年ねん（1551年ねん）には大和やまと国こくから仏師ぶっしを招聘しょうへいして大仏だいぶつを造立ぞうりゅうし、また金閣寺きんかくじを模もして金かね柏寺かしわでら（きんぱくじ）なる寺てらを建たて、日夜にちや念仏ねんぶつや法談ほうだんに励はげんだという。

小説しょうせつ

• 松本まつもと清張せいちょう『三さん位い入道にゅうどう』（講談社こうだんしゃ文庫ぶんこ･『奥羽おううの二人ふたり』収録しゅうろく）