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密会みっかい (安部あべ公房こうぼう)

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』
密会みっかい
わけだい Secret Rendezvous
作者さくしゃ 安部あべ公房こうぼう
くに 日本の旗 日本にっぽん
言語げんご 日本語にほんご
ジャンル 長編ちょうへん小説しょうせつ
発表はっぴょう形態けいたい ろし
刊本かんぽん情報じょうほう
出版しゅっぱんもと 新潮社しんちょうしゃ
出版しゅっぱん年月日ねんがっぴ 1977ねん12月5にち
装幀そうてい 安部あべ真知まち
そうページすう 213
ウィキポータル 文学ぶんがく ポータル 書物しょもつ
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密会みっかい』(みっかい)は、安部あべ公房こうぼうろし長編ちょうへん小説しょうせつ。あるあさ突然とつぜん救急きゅうきゅうしゃられたつまさがすために巨大きょだい病院びょういんはいんだおとこ物語ものがたり巨大きょだいなシステムにより、盗聴とうちょうでその行動こうどうすべ監視かんしされていたおとこ迷走めいそうする姿すがたとおして、現代げんだい都市とし社会しゃかいの「出口でぐちのない迷路めいろ」の構造こうぞうえがいている[1][2][3]

1977ねん昭和しょうわ52ねん)12月5にち新潮社しんちょうしゃより刊行かんこうされた。文庫ぶんこばん新潮しんちょう文庫ぶんこ刊行かんこうされている。翻訳ほんやくばんも1981ねん昭和しょうわ56ねん)のJuliet Winters CarpenterやくえいだいSecret Rendezvous)をはじめ、各国かっこくおこなわれている。

作者さくしゃ随筆ずいひつてのひら編集へんしゅうわらつき』にも同名どうめいべつ作品さくひん収録しゅうろくされている。ほん作品さくひんとの関連かんれん明記めいきされていないが、一部いちぶ類似るいじしたてん存在そんざいする。

作品さくひん成立せいりつ構成こうせい

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安部あべ公房こうぼうは『密会みっかい』の執筆しっぴつのきっかけとなったものは、中学校ちゅうがっこう教師きょうし自分じぶんおし関係かんけいち、自殺じさつしたという新聞しんぶん記事きじだとし、それをときに、その教師きょうし内面ないめんはいってみたらどうかというかんがえがかび、中学生ちゅうがくせいおんなが「中心ちゅうしんのイメージ」となり、構想こうそう徐々じょじょ出来できていったとしている[1]。また救急きゅうきゅうしゃのサイレンのおと着想ちゃくそうひとつとされる[4]

安部あべ公房こうぼうは『密会みっかい』のはこぶんでは以下いかのように付記ふきしている。

地獄じごくへの旅行りょこう案内あんないいてみた。べつに特別とくべつ装備そうび必要ひつようとしない。ただ入口いりくちだけは、まぎらわしいので、よく指示しじしたがってほしい。いったんなかはいってしまえば、あとはきみかよいなれた道順みちじゅんにそっくりのはずである。地上ちじょうではあい殺意さついというほんえだわかれていたものが、地獄じごくではひとつの球根きゅうこんけあっているとしても、おどろくことはないだろう。いま以上いじょうまよったりする気遣きづかいはないのだから。 — 安部あべ公房こうぼう著者ちょしゃ言葉ことば[5]

作品さくひん構成こうせいとしては、盗聴とうちょうをしかけられすべ監視かんしされていた主人公しゅじんこうが、そのテープをきながら、自身じしん行動こうどう記録きろく三人称さんにんしょうの「おとこ」をもちいて、ノートに記述きじゅつしていったものをじくにしたストーリー展開てんかいとなり、最後さいごの「付記ふき」では、一人称いちにんしょうもどる。かねてよりつね独自どくじ表現ひょうげんもとめる安部あべは、既成きせい比喩ひゆやいいまわしを使つかうことなく、その情景じょうけい皮膚ひふ感覚かんかくとして読者どくしゃつたわるような独特どくとく表現ひょうげん世界せかいえがくことを目指めざしているが、『密会みっかい』における空間くうかん構造こうぞうは、8ねんぶりに自作じさくかえした安部あべ自身じしんが、あまりの不気味ぶきみさにいた本人ほんにんですらたじろいでしまったという[6]

安部あべ作品さくひんひとつの骨格こっかくとなっている「病人びょうにん医者いしゃ」という「管理かんりするものと管理かんりされるもの」の関係かんけいせいについて以下いかのようにかたっている。

自分じぶん自身じしんなかに、やはり患者かんじゃとしての自分じぶん医者いしゃとしての自分じぶんというものがあって、医者いしゃ患者かんじゃというものは、両方りょうほうともある意味いみでは自立じりつした人間にんげんではなくなっているわけだ。われわれがいまおかれている現代げんだいという構造こうぞう、これは非常ひじょう病院びょういん構造こうぞうめんがあって、人間にんげんがそのなか疎外そがいされていっている側面そくめんに、事件じけんとして、出来事できごととして次々つぎつぎぶちたるわけだ。その結果けっか、ますますふか迷路めいろなかまよんでくという、その部分ぶぶん探偵たんてい小説しょうせつらしくない、いわゆる解決かいけつというものはてこないけれども、解決かいけつがないことによって、われわれの、ぎゃく現実げんじつ認識にんしき実態じったいというものにふか照明しょうめいてるという構造こうぞうになっているとおもうけれども、これは説明せつめいむずかしい。 — 安部あべ公房こうぼう自作じさくかたる――『密会みっかい』」[2]

主題しゅだい

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安部あべ公房こうぼうは『密会みっかい』でかんがえた「弱者じゃくしゃ概念がいねん」については、「人間にんげん進化しんか」は動物どうぶつ世界せかい弱肉強食じゃくにくきょうしょくとはちがい、「社会しゃかいのなかに弱者じゃくしゃをどこまで包含ほうがんしていくか」が進歩しんぽつながり、民主みんしゅ主義しゅぎ概念がいねんもこの「ぎゃく進化しんか法則ほうそく」からてくるものとし、この概念がいねん短絡たんらくしてしまうと「全体ぜんたい主義しゅぎ」になる可能かのうせいもあると考察こうさつして[7]、「進化しんかろんてき淘汰とうた法則ほうそくしたがっている状況じょうきょうであきらかに弱者じゃくしゃであったものが、社会しゃかい構造こうぞうつとべつ意味いみでの機能きのうって強者きょうしゃ充分じゅうぶんなりうる」と説明せつめい[1]セックスたねとしての人間にんげん関係かんけい)の弱者じゃくしゃともいえる院長いんちょううま人間にんげん)が、社会しゃかいてき関係かんけいでの権力けんりょくしゃで、ある意味いみでの強者きょうしゃとなっている作品さくひん構造こうぞう示唆しさしている[1]

そして安部あべは、「いま社会しゃかい弱者じゃくしゃ希望きぼうはないが、その希望きぼうのなさに希望きぼうをみるよりないようにおもう」とし、その「現代げんだい都市としてき状況じょうきょう」を「怪物かいぶつ」とんで、弱者じゃくしゃれるためにこの「怪物かいぶつ」からをそらすことはできないとしている[7]。また、小説しょうせつ末尾まつびいちぎょうについては、「“ぬ”ではなくて “につづける”なんだ。もし人間にんげんあいとか希望きぼうまれてくるとしたら、ぬことではなくて、につづけることのなかからではないかとおもう」と説明せつめいしている[7]

安部あべは、「ぎゃく進化しんか法則ほうそく」では弱者じゃくしゃ拡大かくだいともない、医者いしゃさい生産せいさんせざるをないとし、この患者かんじゃ医者いしゃ関係かんけいはちょうど民主みんしゅ主義しゅぎ社会しゃかい官僚かんりょうシステムをさい生産せいさんしてゆくのとていると説明せつめい[8]医者いしゃは「弱者じゃくしゃ極限きょくげん対応たいおうする極限きょくげんてきぜん」であると同時どうじに、例外れいがいしゃとして「患者かんじゃ人間にんげんてきにあつかう特権とっけん」があたえられ、それがある意味いみ健康けんこうあこがれる患者かんじゃ願望がんぼうであり、マゾヒスティック悪魔あくま崇拝すうはいさい生産せいさんしていくという自己じこ矛盾むじゅんふく性質せいしつとなるとし、「これを窮極きゅうきょくにまでひろげたあるべき〈理想りそう社会しゃかい〉はひどくねじげられたくらいものにならざるをないじゃないか。それが今度こんど小説しょうせつのテーマだったんだ」と解説かいせつしている[8]

また、小説しょうせつ冒頭ぼうとうの〈弱者じゃくしゃへのあいには、いつも殺意さついがこめられている〉という言葉ことば意味いみれ、「たとえば、ファシズムだって〈弱者じゃくしゃへのあい〉のネガティブ表現ひょうげんだろ、人間にんげんがかならず存在そんざいである以上いじょう五体ごたい満足まんぞく人間にんげんがいない以上いじょう身障者しんしょうしゃへの偏見へんけんは、本当ほんとう自己じこ嫌悪けんおなんだよ。だから医者いしゃぎゃく自己じこ回復かいふくしようとすれば患者かんじゃになる以外いがいにない」とし[8]、それが作中さくちゅうにある〈医者いしゃ患者かんじゃ〉というかんがかたであり、安部あべ自身じしん医学部いがくぶ出身しゅっしんという立場たちばから内部ないぶ告発こくはつてき意味合いみあいや、医者いしゃつ「社会しゃかい改革かいかくしゃ特有とくゆうの「特権とっけん意識いしき」にたいする憎悪ぞうお感情かんじょうもあるとべている[8]安部あべ自身じしんの「ぎゃく進化しんか法則ほうそく論理ろんり肯定こうていしながらも、どうしてもそこに「絶望ぜつぼうてきなもの」をかんじるが、「強者きょうしゃ論理ろんり」にくみするわけにはいかないとし、「この登場とうじょう人物じんぶつたちのいろどりは、そこから派生はせいしてきた一種いっしゅ弱者じゃくしゃ悪夢あくむなんだよ」と説明せつめいしている[8]

あらすじ

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あるなつ夜明よあまえ救急きゅうきゅうしゃいえしかけ、つまをさらっていった。おとこ(ぼく)はつまさがすため、奇妙きみょうなシステムの閉鎖へいさてききょだい病院びょういんはいむ。そこは、「人間にんげん関係かんけい神経症しんけいしょう」のてにインポテンツとなったふく院長いんちょう支配しはいし、かれ自分じぶん治療ちりょうのために盗聴とうちょうポルノ・テープを必要ひつようとし、病院びょういん内外ないがいに250ちかくの盗聴とうちょう装置そうちえつけていた。そればかりでなく、患者かんじゃとの密会みっかいのための「し」を奨励しょうれいしながら代理だいり業者ぎょうしゃ結託けったくして、かし衣装いしょうのどこかにかなら小型こがたFM発信はっしん装着そうちゃくさせるようにしていた。

つま消息しょうそく一向いっこうつかめず、盗聴とうちょうによってかんされるおとこ(ぼく)は、他人たにん下半身かはんしん切断せつだん装着そうちゃくしているうまふく院長いんちょう)や、その秘書ひしょおんな、溶骨しょう少女しょうじょなど奇妙きみょう人物じんぶつたちかかわりいながら、この病院びょういん一大いちだいイベントである医者いしゃ看護かんごから患者かんじゃまで参加さんかした前夜祭ぜんやさいうたげ遭遇そうぐうする。そこにはつまらしき「仮面かめんおんな」が、オルガスム・コンクールのさい有力ゆうりょく優勝ゆうしょう候補こうほとして出演しゅつえんしていた。記念きねんさいとなる「明日あした新聞しんぶん」には、うま人間にんげん仮面かめんおんな舞台ぶたいうえ交接こうせつしてみせる模様もよう記事きじっていた。

溶骨しょう少女しょうじょふく院長いんちょうから隔離かくり地下ちかにかくまっていたぼくは、病院びょういんないでただ一人ひとり患者かんじゃになりきれずめられ居場所いばしょがなくなった。やみなか盗聴とうちょう受信じゅしんしているうまふく院長いんちょう)にかい、ぼくは患者かんじゃになることをわめうったつづけた。だが食料しょくりょうみずそこをつき、ぼくは、「やさしい一人ひとりだけの密会みっかい」をきしめるように、少女しょうじょきしめる。

登場とうじょう人物じんぶつ

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おとこ(ぼく)
32さい身長しんちょう176センチ、体重たいじゅう57キロ。やせがた筋肉質きんにくしつ男性だんせいヌードモデル経験けいけんあり。現在げんざいはスバル運動うんどうてん勤務きんむし、ジャンプ・シューズの販売はんばい促進そくしん係長かかりちょう妻帯さいたいしゃ。5ねんまえ結婚けっこんした。
おとこつま
31さい早朝そうちょう4ごろ、突然とつぜんやって救急きゅうきゅうしゃ病院びょういん搬送はんそうされ行方ゆくえ不明ふめいになる。まるがお色白いろじろ。どんぐりまなこ
ふく院長いんちょううま人間にんげん
病院びょういんふく院長いんちょう軟骨なんこつ外科げか部長ぶちょう兼任けんにんせてひく小男こおとこインポテンツわずらっている。ぼくに、おとこ(ぼく)の盗聴とうちょう記録きろくおさめられたカセットテープ3ほんわたし、ノートにつまさがおとこのレポートをくようにめいじる。他人たにん下半身かはんしん切断せつだんしてつくったコルセット装着そうちゃくし、他人たにんきょのペニスを補助ほじょ下半身かはんしんにするうま人間にんげん
病院びょういん守衛しゅえい
老人ろうじんじつ病院びょういん模範もはん患者かんじゃ救急きゅうきゅうしゃ大野おおの隊長たいちょうからぎ、おとこつま身柄みがらをあずかる。自宅じたく電話でんわをかけようと守衛しゅえいしつから以後いごつま行方ゆくえ不明ふめいになる。
真野まの斡旋あっせん」のおんな
おとこどう年配ねんぱい名前なまえ真野まのけい。「真野まの斡旋あっせん」は病院びょういんまえにある病院びょういん公認こうにん紹介しょうかい代理だいり業者ぎょうしゃ手続てつづ業務ぎょうむ代行だいこうや、入院にゅういんセットの品物しなものや、のまわりひん販売はんばいしている。みせのカウンターには禿げたひげ小男こおとこがいる。入院にゅういん患者かんじゃしに必要ひつようかし衣装いしょうあつかう。
当直とうちょく
おとこつま搬送はんそうされた当直とうちょく独身どくしん大柄おおがら体格たいかくがいい。ふと黒縁くろぶち眼鏡めがねのガラスがあつい。職員しょくいんよう住宅じゅうたくらしき(ホよんごうとうの2かい部屋へやオナニーをしているところを、尾行びこうしてきたおとこのぞかれる。おとこつかみかかろうとまどから転落てんらくして意識いしきうしなう。精子せいし採取さいしゅ精子せいし銀行ぎんこうっている。
おんな秘書ひしょ
20だい後半こうはんふく院長いんちょう秘書ひしょみじかげたかみ。くりくりと筋肉きんにくかたそうないろ浅黒あさぐろおんな試験管しけんかんベビー出生しゅっしょうんだおんな卵子らんし精子せいし銀行ぎんこう混合こんごう精子せいしから合成ごうせいされた。不感症ふかんしょう。5ねんまえ院内いんない言語げんご心理しんり研究所けんきゅうじょおこなわれていた実験じっけんもと被験者ひけんしゃ。そのとき技師ぎし(のちに警備けいび主任しゅにん)に強姦ごうかんされた。
トレパン姿すがた若者わかものたち
病院びょういん構内こうない出没しゅつぼつする暴力ぼうりょくてき警備けいび要員よういん。いがぐりあたまに、そろいの口髭くちひげ空手からて学生がくせいといった印象いんしょうじつ病院びょういんない患者かんじゃ耳鼻じび皮膚ひふ精神せいしん患者かんじゃ)。しパンのようにれぼったいかおおんな秘書ひしょ命令めいれいされるときゅうきゅう朗唱ろうしょうする。
溶骨しょう少女しょうじょ
13さい軟骨なんこつ外科げか入院にゅういん患者かんじゃ軟骨なんこつ外科げか病棟びょうとうの8ごうしつ入院にゅういんほねがゼリーのように流体りゅうたいしてゆく奇病きびょう人前ひとまえでオナニーを平気へいきでする。ふく院長いんちょうせいなぐさしゃになっている。少女しょうじょ母親ははおやは、毛穴けあなから綿めんいてくる「綿めんびょう」で死亡しぼう院内いんない記念きねんかんには、その綿めんつくられたふとんがある。
警備けいび主任しゅにん
溶骨しょう少女しょうじょ父親ちちおやむねはばあついがっちりした体格たいかくもと電気でんき技師ぎしきょのペニスの持主もちぬし。トレパン姿すがた若者わかものたちにより殺害さつがいされ、その下半身かはんしんふく院長いんちょう補助ほじょ下半身かはんしんとして使用しようされる。そのおとこ警備けいび主任しゅにん後任こうにんということにさせられる。
ふく院長いんちょう夫人ふじん
ふく院長いんちょうつま言語げんご心理しんり研究所けんきゅうじょ勤務きんむ。ただの患者かんじゃタイピストから研究けんきゅういん資格しかくれた。うそ発見はっけん権威けんい夫婦ふうふ会話かいわにもうそ発見はっけん確認かくにんしながらしていた。インポテンツのふく院長いんちょうとは別居べっきょちゅう
仮面かめんおんな
「ぼく」のつまらしきおんなオルガスム寸前すんぜん状態じょうたいつづいている。人格じんかく放棄ほうきからくる患者かんじゃびょうふく院長いんちょうは「なお必要ひつようはない」としている。
ちゅう年男としおとこ
前夜祭ぜんやさい出演しゅつえんしゃ小肥こぶとり。ステージじょう仮面かめんおんな交接こうせつこころみる。
看護かんごたち
ふく院長いんちょう配下はいかはたら看護かんごたち。実験じっけんちゅうふく院長いんちょうのペニスをマッサージしたり、前夜祭ぜんやさい出演しゅつえんしゃ性器せいき潤滑油じゅんかつゆをぬったりの処置しょちをする。

作品さくひん評価ひょうか解釈かいしゃく

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密会みっかい』は、『はこおとこ』からやく4ねんはん発表はっぴょうされた長編ちょうへんであるが、その前作ぜんさく複雑ふくざつ作品さくひん構造こうぞう小説しょうせつ空間くうかん比較ひかくされて論究ろんきゅうされるめんがあり、『はこおとこ』が「のぞ小説しょうせつ」であるなら、『密会みっかい』が「盗聴とうちょうもの小説しょうせつ」であるとみなされることもある[4]

高野たかの志美しびは『はこおとこ』を、「都市とし廃棄はいきぶつ」「んだ有機物ゆうきぶつ」のれ、群衆ぐんしゅうへの「鎮魂ちんこん散文詩さんぶんし」とするなら、それにたいして『密会みっかい』では「残酷ざんこく無機物むきぶつによる管理かんりシステム」がえがかれているとしている[3]。そして高野たかのは、つまさがしていた主人公しゅじんこうが、「出口でぐちのない迷路めいろ全体ぜんたいそのものが巨大きょだい管理かんり構造こうぞう」だとづいたときに、「すべての行為こうい無益むえき」であり、自分じぶんが「管理かんり迷路めいろ病院びょういん)のなかにとじこめられていること」をり、〈もうぶんのない患者かんじゃになること〉を院長いんちょううったえる様相ようそうを、「疎外そがい状況じょうきょうにとじこめられることは、出口でぐちをみつけないかぎり、さらにふか疎外そがいへと追放ついほうされることなのであり、はられ管理かんりされ、いつめられていく日常にちじょうのなかで、人間にんげん感覚かんかく断片だんぺん転化てんかしていくということ」だと解説かいせつしている[3]

平岡ひらおかあつしよりゆきは、現代げんだいの「未曾有みぞうせいてき表象ひょうしょう氾濫はんらん状況じょうきょうを、せい解放かいほうされスポーツされただけでなく、「営利えいり目的もくてきをもってあおてられ、つね鼻先はなさききつけられ、増産ぞうさんされ薄利多売はくりたばいされている」とし[4]、それは、「公娼こうしょう制度せいど以上いじょう管理かんり統制とうせいいろくし、社会しゃかい全体ぜんたい神経しんけいをピンクづけにしている」状況じょうきょうであり、社会しゃかい煽動せんどう個人こじん色情しきじょうたがいに増大ぞうだいさせ関係かんけいせいとなり、いわば『密会みっかい』はそういった「悪循環あくじゅんかんがエスカレートしたてに現出げんしゅつする、色情しきじょう地獄じごくというぎゃくユートピア」をえがいていると解説かいせつしている[4]

おもな刊行かんこうほん

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脚注きゃくちゅう

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  1. ^ a b c d 安部あべ公房こうぼう構造こうぞう主義しゅぎてき思考しこう形式けいしき」(ききて渡辺わたなべ広士ひろし)(週刊しゅうかん読書どくしょじん 1978ねん1がつ16にちごう掲載けいさい
  2. ^ a b 安部あべ公房こうぼう自作じさくかたる――『密会みっかい』」(新潮社しんちょうしゃテレホン・サービス録音ろくおん作家さっか自作じさくかたる〉、1977ねん12月5にち - 14にち
  3. ^ a b c 新潮しんちょう日本にっぽん文学ぶんがくアルバム51 安部あべ公房こうぼう』(新潮社しんちょうしゃ、1994ねん
  4. ^ a b c d 平岡ひらおかあつしよりゆき解説かいせつ」(文庫ぶんこばん密会みっかい』)(新潮しんちょう文庫ぶんこ、1983ねん
  5. ^ 安部あべ公房こうぼう著者ちょしゃ言葉ことば」(『密会みっかいはこぶん)(新潮社しんちょうしゃ、1977ねん
  6. ^ 安部あべ公房こうぼういそくじらたち』(新潮しんちょう文庫ぶんこ、1991ねん) 205ぺーじISBN 4-10-112123-0
  7. ^ a b c 安部あべ公房こうぼう『「密会みっかい」の安部あべ公房こうぼう談話だんわ記事きじ〉』(山形やまがた新聞しんぶん 1977ねん12月16にちごう掲載けいさい
  8. ^ a b c d e 安部あべ公房こうぼううらからみたユートピア」(なみ 1977ねん11がつごう掲載けいさい

参考さんこう文献ぶんけん

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  • 安部あべ公房こうぼう全集ぜんしゅう 25 1974.03-1977.11』(新潮社しんちょうしゃ、1999ねん
  • 安部あべ公房こうぼう全集ぜんしゅう 26 1977.12-1980.01』(新潮社しんちょうしゃ、1999ねん
  • 新潮しんちょう日本にっぽん文学ぶんがくアルバム51 安部あべ公房こうぼう』(新潮社しんちょうしゃ、1994ねん
  • 文庫ぶんこばん密会みっかい』(付録ふろく解説かいせつ 平岡ひらおかあつしよりゆき)(新潮しんちょう文庫ぶんこ、1983ねん