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散乱さんらん理論りろん

出典しゅってん: フリー百科ひゃっか事典じてん『ウィキペディア(Wikipedia)』

散乱さんらん理論りろん(さんらんりろん、えい: Theory of Scattering)は、粒子りゅうしなどの散乱さんらんあつか理論りろんのこと。

物質ぶっしつ微視的びしてき構造こうぞう調しらべるときにもっと一般いっぱんてき方法ほうほうは、その物体ぶったい粒子りゅうし(または波動はどう)を衝突しょうとつさせて、散乱さんらんされた粒子りゅうし分布ぶんぷ様子ようす調しらべることである。現代げんだい物理ぶつりがく実験じっけんてき研究けんきゅう結果けっかおおくは量子力学りょうしりきがくにおける散乱さんらん理論りろんもとづく計算けいさん結果けっか比較ひかくされることになる。[1]

実験じっけんでは電子でんし光子こうし電磁波でんじは)、中性子ちゅうせいし陽子ようし、イオンなどが、原子げんし分子ぶんし原子核げんしかく素粒子そりゅうしなどによって散乱さんらんされる。

通常つうじょう量子力学りょうしりきがくもちいてこれらの散乱さんらん記述きじゅつする理論りろんのことを散乱さんらん理論りろん場合ばあいおおいが、古典こてん力学りきがくによってあつかわれる散乱さんらんもある。以下いかは、量子力学りょうしりきがく立場たちばによる記述きじゅつである。

散乱さんらん現象げんしょうあつかふたつの方法ほうほう

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散乱さんらん現象げんしょう理論りろんてきあつか方法ほうほうにはふたつの方法ほうほうかんがえられる。[1]

れいとして、ホースからみず散乱さんらんたいにぶつかって四方八方しほうはっぽうるような散乱さんらん現象げんしょうかんがえる。

だいいち方法ほうほうでは、みずしっぱなしにして全体ぜんたい状況じょうきょう定常ていじょうてきになったとき、この散乱さんらん様子ようす撮影さつえいした1まい写真しゃしんとして全体ぜんたいぞう考察こうさつする。この方法ほうほうでは、一体いったいもしくはたい弾性だんせい散乱さんらん散乱さんらん前後ぜんこうでエネルギーが不変ふへんである散乱さんらん)のみあつかことができる。この方法ほうほうでは定常ていじょう状態じょうたいシュレディンガー方程式ほうていしきを、散乱さんらんあらわ境界きょうかい条件じょうけんのもとでくことで、散乱さんらん状態じょうたいもとめる。

これはハミルトニアン固有値こゆうち固有こゆうベクトルもとめる問題もんだいとはことなることに注意ちゅういしなければならない。入射にゅうしゃ粒子りゅうしのエネルギーは実験じっけんしゃによって指定していされるため、弾性だんせい散乱さんらんでは散乱さんらん状態じょうたいのエネルギー固有値こゆうちEはすでに指定していされており、それに対応たいおうするエネルギー固有こゆう状態じょうたいもとめるのである。つまり自由じゆう粒子りゅうし入射にゅうしゃ状態じょうたい)のたしているエネルギー固有こゆう関係かんけい境界きょうかい条件じょうけんとして微分びぶん方程式ほうていしきく。これにはグリーン関数かんすうもちいる方法ほうほう有用ゆうようである。

シュレディンガー方程式ほうていしきかいである散乱さんらん状態じょうたいは、入射にゅうしゃ平面へいめんそと球面きゅうめんかさわせで記述きじゅつされるとかんがえて、その球面きゅうめん振幅しんぷく散乱さんらん振幅しんぷく)を決定けっていすることで散乱さんらんだん面積めんせきもとめる。このかんがかた古典こてんてき波動はどう散乱さんらん問題もんだいあつかかた本質ほんしつてき同等どうとうであり、その波動はどう量子りょうしてきかくりつ振幅しんぷくであると解釈かいしゃくするてんだけがことなる。以下いかではこちらの方法ほうほうでの散乱さんらん理論りろんしるす。

だい方法ほうほうでは、ホースからひとつの水滴すいてきがどのように散乱さんらんされていくかを時間じかんてき追跡ついせきしていく。この方法ほうほうでは、散乱さんらん過程かていはじめ状態じょうたいからおわり状態じょうたいへの転移てんいとしてとらえ、その転移てんいかくりつ時間じかん依存いぞんシュレディンガー方程式ほうていしきもちいてもとめる(時間じかん発展はってんについてはシュレディンガー描像から相互そうご作用さよう描像えてから計算けいさんすることもある)。この方法ほうほうは、より量子力学りょうしりきがくかんがかた沿った方法ほうほうであり、弾性だんせい散乱さんらんなどもあつかえるため、だいいち方法ほうほうより一般いっぱんせいがある。この方法ほうほうS行列ぎょうれつ理論りろんともばれる。

ポテンシャルによる電子でんし散乱さんらん

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定常ていじょう状態じょうたいのシュレディンガー方程式ほうていしきかい

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散乱さんらんたいが、単独たんどく存在そんざいする(孤立こりつした)マフィンティンポテンシャルである場合ばあいかんがえる。

ここでっきゅう対称たいしょうポテンシャルのおよぶ領域りょういき半径はんけいで、マフィンティン半径はんけいばれる。 長距離ちょうきょり相互そうご作用さようのポテンシャルはここでは考察こうさつ対象たいしょうがいとする。

マフィンティンポテンシャルでの電子でんしについての定常ていじょう状態じょうたいのシュレーディンガー方程式ほうていしきは、

となる。ここで電子でんし質量しつりょう入射にゅうしゃ状態じょうたいのエネルギー固有値こゆうちですでに指定していされている。また簡単かんたんのためとした。この微分びぶん方程式ほうていしきくことができれば、散乱さんらん問題もんだいけたことになる。

波動はどう関数かんすう極座標きょくざひょう表示ひょうじ展開てんかいすると、

とする。どうみち波動はどう関数かんすうどうみち座標ざひょう軌道きどうかく運動うんどうりょう)、未定みてい係数けいすうつぎルジャンドル多項式たこうしきである。

場合ばあいどうみち波動はどう関数かんすうは、

くことによってつぎかいられる。

ここで、A、Bは任意にんい係数けいすう。jl(x)はたまベッセル関数かんすう、nl(x)はたまノイマン関数かんすうである。

r < rMT場合ばあい省略しょうりゃく

位相いそう

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このかいを、

変形へんけいし、ここでてくる位相いそう位相いそうシフト、位相いそうのずれ、フェーズシフト)とう。これはポテンシャル(マフィンティンがたである必要ひつようはない)が存在そんざいすることによる波動はどう関数かんすう位相いそうのずれの効果こうかあらわしている。

散乱さんらん振幅しんぷく散乱さんらんだん面積めんせき

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ここで、zじくじょう無限むげんとお(-∞)から平面へいめん入射にゅうしゃして、これがポテンシャルV(r)によって散乱さんらんされ、球面きゅうめんとなって場合ばあい全体ぜんたい散乱さんらん状態じょうたい波動はどう関数かんすうつぎのように漸近ぜんきんするとかんがえる。

ここで、f(θしーた)は散乱さんらんかくりつ振幅しんぷく散乱さんらん振幅しんぷくθしーた極座標きょくざひょう角度かくど成分せいぶん)であり、これはシュレディンガー方程式ほうていしきかい比較ひかくすることで、つぎのようにあらわされる。

散乱さんらん振幅しんぷく本来ほんらい、f(θしーた,φふぁい)とあらわされるが(φふぁい極座標きょくざひょうにおけるもう1つの角度かくど成分せいぶん)、マフィンティンポテンシャルはっきゅう対称たいしょうなのでθしーたのみに依存いぞんし、φふぁいらない。ここで散乱さんらん振幅しんぷく二乗にじょう微分びぶん散乱さんらんだん面積めんせき(dσしぐま/dΩおめがσしぐまぜんだん面積めんせき、dΩおめが微小びしょう立体りったいかく)となる。

T行列ぎょうれつ

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多重たじゅう散乱さんらん理論りろんなどをかんがえる場合ばあい便利べんりであるため、以下いかしめされる遷移せんい演算えんざん(T演算えんざん)を導入どうにゅうする。

ここで、G0自由じゆう電子でんしグリーン関数かんすう、H0自由じゆう電子でんしハミルトニアンである。εいぷしろん無限むげんしょうかずである。

は、遷移せんい演算えんざん入射にゅうしゃ状態じょうたい散乱さんらん状態じょうたい行列ぎょうれつ表示ひょうじしたT行列ぎょうれつ(T行列ぎょうれつ遷移せんい行列ぎょうれつ)によって、以下いかのようにあらわせる。

T演算えんざんは、

ともあらわせる。よってT行列ぎょうれつ行列ぎょうれつ要素ようそは、

となる。ここで球面きゅうめん調和ちょうわ関数かんすうで、軌道きどう磁気じき量子りょうしすうである。さらに、

より、これから、

る。これがかく運動うんどうりょう表示ひょうじでのT行列ぎょうれつ位相いそう(フェーズシフト)との関係かんけい。k0κかっぱ記号きごうあらわされることがおおい。
以上いじょうは、孤立こりつしたポテンシャルでの散乱さんらんであるが、実際じっさい多数たすう存在そんざいするポテンシャルの存在そんざいで、多数たすう粒子りゅうし電子でんしなど)がなん散乱さんらんされる(多重たじゅう散乱さんらん)。これを理論りろんてきあつかうのが多重たじゅう散乱さんらん理論りろんである。

参考さんこう文献ぶんけん

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  1. ^ a b 砂川すなかわ重信しげのぶ散乱さんらん量子りょうしろん岩波書店いわなみしょてん、1977ねんISBN 4000212133 

関連かんれん項目こうもく

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