生存せいぞん者しゃバイアス

生存せいぞん者しゃバイアス（せいぞんしゃバイアス、英語えいご: survivorship bias、survival bias）または生存せいぞんバイアス（せいぞんバイアス）とは、何なんらかの選択せんたく過程かていを通過つうかした人ひと・物もの・事ことのみを基準きじゅんとして判断はんだんを行おこない、その結果けっかには該当がいとうしない人ひと・物もの・事ことが見みえなくなることである。選択せんたくバイアスの一種いっしゅである。

生存せいぞん者しゃバイアスの例れいとして、ある事故じこの生存せいぞん者しゃの話はなしを聞きいて、「その事故じこはそれほど危険きけんではなかった」と判断はんだんするという事例じれいがある。それは、話はなしを聞きく相手あいてが全すべて「生いき残のこった人ひと」だからである。たとえ事故じこによる死者ししゃ数かずを知しっていたとしても、当然とうぜん死しんだ人達ひとたちの話はなしを聞きく方法ほうほうはなく、それがバイアスにつながる。

他たの例れいでは、存在そんざいしなくなった企業きぎょうが財務ざいむ業績ぎょうせきの分析ぶんせきから除外じょがいされる場合ばあいなど、失敗しっぱいが無視むしされることになるため、生存せいぞん者しゃバイアスが過度かどに楽観らっかん的てきな考かんがえにつながる可能かのう性せいがある。それはまた、ある集団しゅうだんの成功せいこうが、単たんなる「偶然ぐうぜんの一致いっち」ではなく、「その集団しゅうだんが持もつ特別とくべつな性質せいしつ」によるという誤あやまった信念しんねんにつながることがある（前後ぜんご即そく因果いんがの誤謬ごびゅう）。例たとえば、ある難関なんかん大学だいがくに合格ごうかくした5人にんのうち3人にんが同おなじ高校こうこうの出身しゅっしん者しゃだった場合ばあい、それを理由りゆうに、その高校こうこうはハイレベルな教育きょういくを実現じつげんしていると判断はんだんする事こともあるかもしれない。これが真実しんじつかどうかは、合格ごうかく者しゃのみではなく、全すべてまたは少すくなくとも統計とうけい学がく的てきに十分じゅうぶんな数かずの在校生ざいこうせいの成績せいせきを確認かくにんしなければ、それは正確せいかくな判断はんだんとは言いえない。

例れい

経済けいざい

財務ざいむ業績ぎょうせき調査ちょうさにおいては、調査ちょうさ期間きかんの終了しゅうりょう日びに存在そんざいしていた企業きぎょうのみが調査ちょうさの対象たいしょうとなり、その期間きかんに倒産とうさんした企業きぎょうは除外じょがいされるため、そのことを考慮こうりょしないと調査ちょうさ結果けっかが歪ゆがめられることになる。

歴史れきし

無む神かみ論ろん者しゃであったミロスのディアゴラスは、難破なんぱ船ふねを脱出だっしゅつした人々ひとびとの絵えについて「神かみ々は人間にんげんのことを気きにしていないとあなたは言いっているが、神かみ々の特別とくべつな好意こういによって死しから救すくわれた人々ひとびとのことはどう考かんがえているのか」と訊たずねられ、次つぎのように返答へんとうした。「神かみに見捨みすてられた人々ひとびとはここには描えがかれていない。その数かずの方ほうが遥はるかに多おおい」

Susan Mummは、歴史れきし家かが生存せいぞん者しゃバイアスによって、廃止はいしされた組織そしきよりも現存げんそんする組織そしきを研究けんきゅうするように導みちびかれる様子ようすを記述きじゅつしている。「歴史れきしは勝者しょうしゃのみの記録きろく」と言いわれるように、一いち例れいとしてWomen's Institutesのような大だい規模きぼで成功せいこうした組織そしきは、うまく組織そしき化かされ、歴史れきし家かのために利用りようできるアーカイブが現存げんそんしているため、小ちいさいけれどより多おおくの仕事しごとをしている慈善じぜん団体だんたいよりも、よく研究けんきゅうされているのである。

競争きょうそうの激はげしい業界ぎょうかい

映画えいが俳優はいゆう、スポーツ選手せんしゅ、ミュージシャン、学校がっこうを中退ちゅうたいした数すう十じゅう億おくドル規模きぼの企業きぎょうのCEOなど、夢ゆめを追おい求もとめ競争きょうそうに打うち克かった人々ひとびと（成功せいこう者しゃ）の話はなしが、メディアではよく取とり上あげられる。才能さいのうを持もっているが、本人ほんにんの力ちからではどうすることもできない要因よういんや、（一見いっけんして）ランダムな他ほかの出来事できごとのために成功せいこうを見出みいだすことができない多おおくの人々ひとびとに焦点しょうてんが当あてられることは、それよりもかなり少すくない。これは、能力のうりょくを持もち努力どりょくをすれば誰だれでも素晴すばらしいことを達成たっせいできるという誤あやまった認識にんしきを生うみ出だす。世間せけんの目めには、圧倒的あっとうてき多数たすうの失敗しっぱいは見みえず、競争きょうそう環境かんきょうの選択せんたく的てき圧力あつりょくを乗のり切きった人々ひとびとだけが定期ていき的てきに見みられる。

軍事ぐんじ

帰還きかんした飛行機ひこうきの損傷そんしょう部分ぶぶんは、命中めいちゅうしても安全あんぜんに帰還きかんできる箇所かしょを示しめしている。他たの箇所かしょに命中めいちゅうしたものは生還せいかんできない。（画像がぞうは仮説かせつデータ）

第だい二に次じ世界せかい大戦たいせん中ちゅう、統計とうけい学者がくしゃエイブラハム・ウォールドは、敵てきの射撃しゃげきによる爆撃ばくげき機きの損失そんしつを最小限さいしょうげんに抑おさえる方法ほうほうを検討けんとうする際さいに、生存せいぞん者しゃバイアスを考慮こうりょした。海軍かいぐん分析ぶんせきセンターの研究けんきゅう者しゃは、任務にんむから戻もどった航空機こうくうきが受うけた損傷そんしょうの研究けんきゅうを行おこない、最もっとも損傷そんしょうが多おおかった部位ぶいに装甲そうこうを施ほどこすよう推奨すいしょうした。ウォールドはこれに対たいし、分析ぶんせきセンターによる研究けんきゅうは任務にんむから「生還せいかんした」航空機こうくうきしか考慮こうりょしていない、撃墜げきついされた爆ばく撃げき機きが損害そんがい評価ひょうかに入はいっていないと述のべた。ウォールドは海軍かいぐんに対たいし、帰還きかんした航空機こうくうきが損傷そんしょうを受うけていない部位ぶいを補強ほきょうすることを提案ていあんした。というのは、帰還きかんした航空機こうくうきに空あいた穴あなは、爆ばく撃げき機きが損傷そんしょうを受うけても安全あんぜんに帰還きかんできる場所ばしょを表あらわしているからである。彼かれの研究けんきゅうは、当時とうじのオペレーションズ・リサーチの分野ぶんやでは画期的かっきてきなものと考かんがえられている。

落下らっかする猫ねこの死亡しぼう率りつ

1987年ねんに実施じっしされた研究けんきゅうでは、6階かい以下いかの高たかさから落おちて生存せいぞんした猫ねこは、6階かい以上いじょうの高たかさから落おちた猫ねこよりも怪我けがが大おおきいことが報告ほうこくされた。これは、猫ねこがおおむね5階かい分ぶんの高たかさで体勢たいせいを立たて直なおして終端しゅうたん速度そくどに達たっするため、6階かい以上いじょうから落おちた場合ばあいに重傷じゅうしょうを負おうことが少すくなくなるために起おこる可能かのう性せいがあると提案ていあんされている。

2008年ねん、新聞しんぶんコラム"The Straight Dope"は、この現象げんしょうに対たいする他たの考かんがえられる説明せつめいとして、生存せいぞん者しゃバイアスがあると提言ていげんした。落下らっかの時点じてんで死亡しぼうした猫ねこは負傷ふしょうで済すんだ猫ねこよりも獣医じゅういに連つれて行いかれる可能かのう性せいが低ひくいため、高層こうそうビルからの落下らっかで死亡しぼうした猫ねこの多おおくはこの研究けんきゅうでは報告ほうこくされていない。

熱帯ねったいの蔓づる性せい植物しょくぶつ

熱帯ねったいにおける蔓づる性せい植物しょくぶつは、多おおくの場合ばあい、宿主しゅくしゅの木きの生存せいぞん率りつを低下ていかさせるものと見みなされている。蔓づる性せい植物しょくぶつが蔓延まんえんしている樹木じゅもくの割合わりあいは、耐たい陰性いんせいがあり密生みっせいする成長せいちょうが遅おそい樹き種しゅでははるかに大おおきい一方いっぽう、耐たい陰性いんせいが低ひくく疎うと生なまする早生わせ樹じゅ種しゅでは低ひくいことが観察かんさつされた。そこから、蔓づる性せい植物しょくぶつが耐たい陰性いんせい樹じゅ種しゅに対たいしてより強つよい悪影響あくえいきょうを及およぼすという予想よそうが導みちびかれた。しかし、さらなる調査ちょうさにより、生いき残のこって蔓延まんえんしていないものに観察かんさつ可能かのうなサンプルが偏かたよっていただけであり、耐たい陰性いんせいの低ひくい早生わせ樹じゅ種しゅの方ほうが蔓延まんえんがはるかに有害ゆうがいであることが明あきらかとなった。

関連かんれん項目こうもく

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