留守居るすい

留守居るすい（るすい）は、江戸えど幕府ばくふおよび諸もろ藩はんに置おかれた職名しょくめいのひとつ。

御ご留守居るすい（おるすい）とも呼よばれる。

概要がいよう

諸しょ藩はんの江戸えど留守居るすい役やくは御ご城しろ使しとも言いわれ、江戸えど武鑑ぶかんでもほぼ「城しろ使し」と記しるされる。

ただし、後述こうじゅつのように徳川とくがわ御三家ごさんけの江戸えど留守居るすいは「城しろ附ふ」と記しるされる他ほか、江戸えど幕府ばくふの老中ろうじゅうや側用人そばようにんなどの要職ようしょく者しゃが藩主はんしゅである藩はんの場合ばあいは「公用こうよう人じん」と記しるされる例外れいがいはあった。

幕府ばくふ公認こうにんの留守居るすい組合くみあいを作つくって情報じょうほう交換こうかんをしており、いわば諸しょ藩はんの外交がいこう官かんであった。なお、少数しょうすうではあるが藩主はんしゅ不ふ在中ざいちゅうの江戸えど藩邸はんていの警備けいび責任せきにん者しゃたる留守居るすいと、連絡れんらく折衝せっしょう役やくたる御ご城しろ使しを分わけて設置せっちする藩はんも存在そんざいした。

留守居るすいの副官ふっかん・補佐ほさ役やくを留守居るすい添役と呼よぶことが多おおい。

幕府ばくふの留守居るすい

幕府ばくふにおける留守居るすいは、老中ろうじゅうの支配しはいに属ぞくし、大奥おおおくの取とり締しまりや通行つうこう手形てがたの管理かんり、将軍しょうぐん不在ふざい時じには江戸城えどじょうの留守るすを守まもる役割やくわりを果はたした。

役やく高だかは5000石せきで旗本はたもとから選任せんにんされ、定員ていいんは4名めいから8名めい、旗本はたもとで任にんじられる役職やくしょくでは側がわ衆しゅ（役やく高だか5000石せき）、大だい番頭ばんがしら（役やく高だか5000石せき）と並ならんで最高さいこうの役職やくしょくであった。万まん石せき以上いじょう・城主じょうしゅ格かくの待遇たいぐうを受うけ、特権とっけんとして次男じなんまで御ご目見まみが許ゆるされた他ほか、下屋敷しもやしきを与あたえられた。初期しょきはまとめ役やくである「大だい留守居るすい」が設置せっちされ、旗本はたもとでも側がわ衆しゅと共ともに最高さいこう位いの格式かくしきが与あたえられた。しかし、将軍しょうぐんが江戸城えどじょうから外出がいしゅつする機会きかいが減少げんしょうしたことと幕府ばくふ機構きこうの整備せいびによる権限けんげん委譲いじょうによって、その地位ちいは低下ていかし、元禄げんろく年間ねんかん前後ぜんこうには長年ながねん忠勤ちゅうきんを尽つくした旗本はたもとに対たいする名誉めいよ職しょくと化かした。

譜代ふだい大名だいみょうが就任しゅうにんした例れいもあり、寛文ひろふみ5年ねん（1665年ねん）に伊い予よ今治いまばり藩はん主あるじ松平まつだいら定房さだふさが大だい留守居るすいに任命にんめいされ、延のべ宝たから2年ねん（1674年ねん）まで務つとめた。元禄げんろく11年ねん（1698年ねん）に上野うえの前橋まえばし藩はん主あるじ酒井さかい忠ただし挙きょが選えらばれ、元禄げんろく13年ねん（1700年ねん）に辞任じにん、同年どうねんに越後えちご高田たかだ藩はん主あるじ稲葉いなば正ただし往が務つとめ、元禄げんろく14年ねん（1701年ねん）に辞任じにんしたのを最後さいごに、大名だいみょうが大だい留守居るすいになることはなかった。松平まつだいら定房さだふさは高齢こうれいだったが健康けんこうという理由りゆうから任命にんめいされたが、酒井さかい忠ただし挙きょの場合ばあいは高たかい家格かかくに合あわせた閑職かんしょくで、稲葉いなば正ただし往は辞任じにんした年としに老中ろうじゅうに就任しゅうにんしていることから昇進しょうしんを控ひかえた役職やくしょくではないかとされている。

本丸ほんまるの他ほかに西丸にしまる・二に丸まるにも配置はいちされ、西丸にしまる留守居るすいは若年寄わかどしよりの支配しはいを受うけ、役やく高だか2000石せきで諸しょ大夫たいふ役やく。二に丸まる留守居るすいは若年寄わかどしよりの支配しはいを受うけ、役やく高だか700石せきで布衣ふい役やく。両りょう役やくともに、長年ながねん勤つとむ仕つかまつを果はたした旗本はたもとに対たいする名誉めいよ職しょくであった反面はんめん、本丸ほんまる留守居るすいとは異ことなり左遷させんの意味合いみあいを含ふくむことも多おおかった。

なお、似にたような名前なまえの職しょくに留守居るすい番ばん（るすいばん）がある。これは留守居るすいと同様どうよう老中ろうじゅうに属ぞくし、宿直しゅくちょくにより大奥おおおくの警備けいび、奥おく向むきの用務ようむを取とり扱あつかった。おおむね1000石せきの旗本はたもとが任にんじられた。留守居るすいとは同僚どうりょうではあるが、直接ちょくせつ上下じょうげ関係かんけいはなかった。

諸しょ藩はんの留守居るすい

多おおくの諸しょ藩はん留守居るすいは物もの頭あたま級きゅう（小しょう藩はんにあっては番頭ばんがしら級きゅう）の有能ゆうのうな家臣かしんから選えらばれた。また、一部いちぶの藩はんでは家老がろう、用人ようにん、側用人そばようにんが兼務けんむする場合ばあいもあった。なお、武鑑ぶかん上じょうでは全すべての藩はんで用人ようにんより下座しもざ扱あつかいである。

留守居るすいは藩主はんしゅが江戸えど藩邸はんていにいない場合ばあいに藩邸はんていの守護しゅごにあたったほか、藩主はんしゅが江戸えど在府ざいふ中ちゅうであっても御ご城しろ使しとして江戸城えどじょう中ちゅうの蘇鉄そてつの間あいだに詰つめ、幕まく閣かくの動静どうせい把握はあく、幕府ばくふから示しめされる様々さまざまな法令ほうれいの入手にゅうしゅや解釈かいしゃく、幕府ばくふに提出ていしゅつする上書うわがきの作成さくせいを行おこなっていた。江戸えど時代じだいは「礼儀れいぎ三さん百ひゃく威儀いぎ三さん千せん」ともいわれるほどで、前例ぜんれいに従したがって落おち度どのないことが第だい一いちと考かんがえられており、それに資しする先例せんれいを捜査そうさするために留守居るすい組合くみあいにて他た藩はんの留守居るすいと情報じょうほう交換こうかんを行おこなった。また自じ藩はんの本家ほんけ（本ほん藩はん）・分家ぶんけ（支ささえ藩はん）との連絡れんらく・調整ちょうせいに当あたるのも留守居るすいの役目やくめであった。

幕府ばくふが諸しょ藩はんの留守居るすい役やくによる暗躍あんやく・工作こうさく活動かつどうを嫌きらい、江戸城えどじょう登城とじょうを禁止きんしした時期じきも数次すうじに及およぶが、不便ふべんであるためまたすぐに解禁かいきんされるなどしていたことは、その微妙びみょうな立場たちばを物語ものがたっている。また、正式せいしきルートを通つうじる以前いぜんの内証ないしょうを得えるための調整ちょうせいが諸しょ藩はん留守居るすい役やくと取次とりつぎの老中ろうじゅうの間あいだでなされ、スムーズな幕まく藩はん関係かんけいを築きずく努力どりょくがなされた。

留守居るすいの情報じょうほう交換こうかんは、藩はんの財政ざいせいを無視むしして遊郭ゆうかくや料亭りょうていなどで頻繁ひんぱんに行おこなわれたため、財政難ざいせいなんに苦くるしむ各かく藩はんの国許くにもとや勘定かんじょう方かたからは怨嗟えんさの眼差まなざしで見みられた。

なお、京都きょうと・大坂おおさか・長崎ながさきに屋敷やしきを持もつ諸しょ藩はんでは、それぞれに留守居るすいが置おかれることが多おおかった（京都きょうと留守居るすい役やくなど）。

公用こうよう人じん

藩主はんしゅが幕府ばくふの老中ろうじゅうや側用人そばようにんといった要職ようしょくにあるときに城しろ使し及および江戸えど留守居るすい添役は、対たい幕府ばくふ・諸しょ藩はん等とうとの外交がいこう専せん門もんの用人ようにんである公用こうよう人じんとなる（寺社じしゃ奉行ぶぎょうなどでは改称かいしょうされない）。御ご城しろ使したる江戸えど留守居るすいと添役は、藩主はんしゅが幕府ばくふの役職やくしょくにあるときは将軍家しょうぐんけの陪臣ばいしんとして、また藩主はんしゅの身内みうち人じんとして、公儀こうぎの御用ごように携たずさわることになる。よって江戸えど時代じだい後期こうきから、公用こうよう人じんの名なが用もちいられるようになった。諸しょ藩はんの藩主はんしゅが幕府ばくふの役職やくしょくに就任しゅうにんすると、参勤交代さんきんこうたいは行おこなわれなくなり、藩主はんしゅは江戸えど定府じょうふとなり、留守居るすいと添役の職名しょくめいは公用こうよう人じんに変更へんこうされ、致仕ちしするとまた元もとの職名しょくめいに戻もどることが、各種かくしゅ武鑑ぶかんから証明しょうめいできる。

また、京都きょうと所司代しょしだいに就任しゅうにんした場合ばあいも公用こうよう人じんが置おかれるが、この場合ばあいは藩主はんしゅは当然とうぜん、江戸えどに定府じょうふせず京きょうに赴任ふにんして同地どうちに詰つめた。臨時りんじに江戸えど屋敷やしきから派遣はけんされた留守居るすい・添役及および江戸えど屋敷やしきに残のこった留守居るすい・添役も、揃そろって公用こうよう人じんを称しょうした。また、藩主はんしゅの所司代しょしだい就任しゅうにんに当あたり、別個べっこに家臣かしん団だんを編成へんせいしたが（その武鑑ぶかんが現存げんそんする）、内実ないじつは江戸えど表ひょうや国許くにもととの役職やくしょくとの兼職けんしょくや臨時りんじの派遣はけんに頼たよった。

参考さんこう文献ぶんけん

• 福留ふくとめ真紀まき『名門めいもん譜代ふだい大名だいみょう・酒井さかい忠ただし挙きょの奮闘ふんとう』角川かどかわ学芸がくげい出版しゅっぱん、2009年ねん

関連かんれん項目こうもく

• 通話つうわ表ひょう - 和文わぶん通話つうわ表ひょうにおいて、「ル」は「留守居るすいのル」と送おくられる。

外部がいぶリンク

• 『留守居るすい』 - コトバンク