知ち財ざい経営けいえい

知ち財ざい経営けいえい（ちざいけいえい、英語えいご: Management of Intellectual Properties）とは、知的ちてき財産ざいさんを源泉げんせんとし、経営けいえい戦略せんりゃくの一環いっかんとして研究けんきゅう開発かいはつ戦略せんりゃくや事業じぎょう戦略せんりゃくと連動れんどうさせながら知ち財ざい戦略せんりゃくを構築こうちくし、企業きぎょうの競争きょうそう力りょくを高たかめる経営けいえいを指さす。

近年きんねんでは、知ち財ざい経営けいえいをIPランドスケープ（Intellectual Property Landscape ）と呼よばれる場合ばあいもあり、知ち財ざい経営けいえいを実践じっせんしたGAFA（Google、Amazon.com、Facebook、Apple Inc.）は、巨大きょだいな企業きぎょうに成長せいちょうすることに成功せいこうした。

概要がいよう

日本にっぽんでは、2002年ねん2月がつには小泉こいずみ内閣ないかくの下したで「知的ちてき財産ざいさん戦略せんりゃく会議かいぎ」が設置せっちされ、同どう7月がつには日本にっぽん初はつの「知的ちてき財産ざいさん戦略せんりゃく大綱たいこう」（以下いか、「知ち財ざい戦略せんりゃく大綱たいこう」と略称りゃくしょう）が決定けっていし発表はっぴょうされ、同どう12月がつには「知的ちてき財産ざいさん基本きほん法ほう」が公布こうふされた。そういう中なかで、知ち財ざい戦略せんりゃくや技術ぎじゅつ経営けいえいなどの重要じゅうよう性せいが一層いっそう認知にんちされて、知ち財ざい経営けいえいをめぐる議論ぎろんも見みられ始はじめた。たとえば、知ち財ざい経営けいえいとは、「知ち財ざいを中心ちゅうしんとした知ちの経営けいえい」（岡田おかだ依里えり 2003）、「知ち財ざいによって事業じぎょう競争きょうそう力りょくを強化きょうかする経営けいえい手法しゅほう」（鮫島さめしま正洋まさひろ 2009）、「知ち財ざいを創造そうぞうし、それを活用かつようすることにより事業じぎょうを強つよくする経営けいえい」（丸島まるしま儀ぎ一いち 2011）、「企業きぎょうの経営けいえい活動かつどうの中なかで、回収かいしゅうの得えられない知ち財ざい開発かいはつ論ろんや権利けんりの保護ほごに重点じゅうてんを置おく知ち財ざい法務ほうむ論ろんに偏かたよらず、競争きょうそう的てきな優位ゆうい性せいの構築こうちく、維持いじ、強化きょうかと商品しょうひんかサービスの事業じぎょう展開てんかいに資しする戦略せんりゃく的てきな知ち財ざいの創出そうしゅつ、保護ほご及および活用かつようを活いかした経営けいえい」（張ちょう輝あきら 2013、張ちょう輝あきら 2014）などがあげられる。

知ち財ざい経営けいえい理論りろん

知ち財ざい経営けいえい理論りろんについて考究こうきゅうているものは少すくないが、鮫島さめしま正洋まさひろ (2009)は次つぎのように解説かいせつしている（抜粋ばっすい）。

知ち財ざい経営けいえいによる事業じぎょう競争きょうそう力りょく向上こうじょうは、どのようなステップの連鎖れんさを経へて生しょうじるのであろうか。このステップの連鎖れんさを研究けんきゅうすることが知ち財ざい経営けいえい実現じつげんの道みちのりであり、組織そしきの知ち財力ざいりょくを考かんがえる際さいの基本きほん的てきセオリとなる。知ち財ざい経営けいえい理論りろん（知ち財ざいによる事業じぎょう競争きょうそう力りょくの向上こうじょう）を実現じつげんする際さいには、少すくなくとも以下いかのステップが必要ひつようと考かんがえられる。第だい一いち、技術ぎじゅつ開発かいはつテーマを決きめる際さいに、将来しょうらいの市場いちば規模きぼ及および必須ひっす特許とっきょ取得しゅとく可能かのう性せいという二ふたつの観点かんてんからマーケティング調査ちょうさを行おこない、開発かいはつテーマを決定けっていするステップ。第だい二に、技術ぎじゅつ開発かいはつの成果せいかを知ち財ざいとして保護ほごするステップ。第だい三さん、取得しゅとくした知ち財ざいを現実げんじつのビジネスに適用てきようし、事業じぎょう競争きょうそう力りょくを得えるステップ、という3つの要素ようそが最低限さいていげん必要ひつようである。

知ち財ざい経営けいえい論ろんは、特許とっきょ権けんによる参入さんにゅう障壁しょうへき（特許とっきょポートフォリオ）を形成けいせいしつつ、事業じぎょうを進すすめる事業じぎょう方針ほうしん、すなわち、技術ぎじゅつ開発かいはつと同時どうじに将来しょうらいの参入さんにゅう障壁しょうへきの形成けいせいのために特許とっきょを積極せっきょく的てきに取得しゅとくすることを中核ちゅうかくとした考かんがえ方かたであり、この定量ていりょう的てき効果こうかとしては市場いちばの独占どくせんを前提ぜんていとして大おおきなリターンが期待きたいできる。このためには「必須ひっす特許とっきょポートフォリオ理論りろん」を理解りかいする必要ひつようがあるが、必須ひっす特許とっきょポートフォリオ論ろんは知ち財ざい経営けいえい論ろんの結果けっかとして得えられる組織そしきの知ち財力ざいりょくを、同業どうぎょう他社たしゃとの関係かんけいで評価ひょうかする際さいのセオリである。一いち製品せいひん一いち特許とっきょ型がた、一いち製品せいひん多た特許とっきょ型がたという指標しひょうにより、事業じぎょう分野ぶんやによって修正しゅうせいを加くわえる必要ひつようがある。そこで、大事だいじなことは、「必須ひっす特許とっきょ」という概念がいねんを要因よういん分解ぶんかいした要件ようけん論ろんを構築こうちくすることにより、より明快めいかいな管理かんり指標しひょう・管理かんりプロセスの構築こうちくが可能かのうになることである。

問題もんだい提起ていき

日本にっぽん企業きぎょうの知ち財ざい戦略せんりゃくについて考かんがえる際さいの問題もんだい点てんとして、張ちょう輝あきら (2013)、張ちょう輝あきら (2014)は経営けいえい学がく及および実学じつがく的てきなアプローチから次つぎのように指摘してきしている。

第だい一いちに、知ち財ざい戦略せんりゃくではなく特許とっきょ戦略せんりゃくに止とまっている点てんである。今日きょうでも、知ち財ざい戦略せんりゃくに関かんする議論ぎろん、書籍しょせき、セミナー、論文ろんぶん等とうの中なかで、知ち財ざい戦略せんりゃくを表現ひょうげんしながらも、実際じっさいは特許とっきょ権けんを中心ちゅうしんとした「特許とっきょ」戦略せんりゃく研究けんきゅうが非常ひじょうに多おおく、「知ち財ざい」戦略せんりゃく研究けんきゅうは少すくない。特許とっきょ権けん、著作ちょさく権けん、商標しょうひょう権けん、営業えいぎょう秘密ひみつなど、多様たような知的ちてき財産ざいさん権けんには共通きょうつう点てんもあるが、経営けいえい的てきに言いえば相違そうい点てんの方ほうが大事だいじである。

第だい二にに、経営けいえい論ろんをベースに置おく研究けんきゅうが少すくない点てんである。今日きょう、知ち財ざい戦略せんりゃく、とりわけ特許とっきょ戦略せんりゃくを題だいとする論考ろんこうの中なかでも、実質じっしつ的てきには知ち財ざい一般いっぱんや特許とっきょ法務ほうむ等とうを展開てんかいするものが多おおい。法的ほうてき側面そくめんを中心ちゅうしんに／ベースに展開てんかいされる「法律ほうりつ論ろん」または「法律ほうりつ論ろん＋αあるふぁ」も重要じゅうようで不可欠ふかけつだが、「死しの谷たに」を越こえるために、企業きぎょうの競争きょうそう力りょくの増強ぞうきょうに繋つなぐ戦略せんりゃく的てきな「創出そうしゅつ論ろん」や「活用かつよう論ろん」、い換いかえれば「知ち財ざい経営けいえい」論ろんが非常ひじょうに少すくない。

第だい三さんに、知ち財ざい戦略せんりゃくの担にない手てに対たいする深耕しんこうの不足ふそくである。知ち財ざい戦略せんりゃくの担にない手てと言いえば、企業きぎょうの知ち財ざい部門ぶもんや知ち財ざい関係かんけい者しゃが連想れんそうされる場合ばあいが多おおく、実質じっしつ的てきには知ち財ざい部門ぶもんや知ち財ざい関係かんけい者しゃが主導しゅどうした「法律ほうりつ論ろん」や「手続てつづき論ろん」が少すくなくない。経営けいえい戦略せんりゃくや事業じぎょう戦略せんりゃくに組くみ込こまれるような知ち財ざい戦略せんりゃくになるよう、事業じぎょう部門ぶもんのキーマンにも向むけるべきである。「隔靴掻痒かっかそうよう」のような知ち財ざい戦略せんりゃく？論ろんに終止符しゅうしふを打うたなければならない。

GAFA（Google、Amazon.com、Facebook、Apple Inc.）にみる知ち財ざい経営けいえい

知ち財ざい経営けいえいを実践じっせんしたGAFA（Google、Amazon.com、Facebook、Apple Inc.）は、巨大きょだいな企業きぎょうに成長せいちょうすることに成功せいこうした。GAFAは、知ち財ざい経営けいえいによって、企業きぎょう価値かちを上あげることを目的もくてきに、企業きぎょうの競争きょうそう力りょくを高たかめる手段しゅだんを講こうじた。知ち財ざい経営けいえいは、GAFAに多おおくの富とみをもたらした。

参考さんこう文献ぶんけん

岡田おかだ依里えり『知ち財ざい戦略せんりゃく経営けいえいイノベーションが生うみ出だす企業きぎょう価値かち』日本経済新聞社にほんけいざいしんぶんしゃ、2003年ねん10月がつ。ISBN 978-4-532-31079-0。
鮫島さめしま正洋まさひろ「知ち財ざい経営けいえいの基礎きそ理論りろんとそのプロセス―「組織そしきの知ち財力ざいりょく」を測定そくていするための指標しひょう」『日本にっぽん知ち財ざい学会がっかい誌し』第だい6巻かん第だい1号ごう、日本にっぽん知ち財ざい学会がっかい、2009年ねん、56-66頁ぺーじ。
丸島まるしま儀一ぎいち『知的ちてき財産ざいさん戦略せんりゃく』ダイヤモンド社だいやもんどしゃ、2011年ねん10月がつ。ISBN 978-4-478-01237-6。
張ちょう輝あきら「知ち財ざい経営けいえい教育きょういくの在あり方かたに関かんする一いち考察こうさつ」『立教りっきょうDBAジャーナル』第だい3巻かん、立教大学りっきょうだいがく大学院だいがくいんビジネスデザイン研究けんきゅう科か、2013年ねん、15-26頁ぺーじ、doi:10.14992/00005314。
張ちょう輝あきら著ちょ「日本にっぽん企業きぎょうにおける知ち財ざい戦略せんりゃくの在あり方かたについて〜経営けいえい学がく及および実学じつがく的てきなアプローチから」、日本にっぽん知ち財ざい学会がっかい知ち財ざい学がくゼミナール編集へんしゅう委員いいん会かい（編へん）編へん『知的ちてき財産ざいさんイノベーション研究けんきゅうの諸相しょそう一般社団法人日本知財学会創立10周年しゅうねん記念きねん事業じぎょう』コンテンツ・シティ出版してぃしゅっぱん、2014年ねん7月がつ。ISBN 978-4-906865-02-4。
乾いぬい智彦ともひこ「IP ランドスケープの基礎きそと現状げんじょう」『パテント』第だい71巻かん第だい9号ごう、日本にっぽん弁理べんり士し会かい、2018年ねん、89-98頁ぺーじ。
杉すぎ光ひかり一成いっせい、小林こばやし誠まこと、山内やまうち明あきら、長澤ながさわ健一けんいち、戸田とだ裕二ゆうじ、菊地きくち修おさむ、奥田おくだ武夫たけお、本間ほんま悟さとる司し、田辺たなべ千夏ちなつ、石島いしじま尚しょう、谷口たにぐち将仁まさひと、桐山きりやま勉つとむ、正せい林はやし真之まさゆき、石井いしい琢也たくや、崎さき間あいだ伸洋のぶひろ、鳥海とりうみ博ひろし、井上いのうえ貴夫たかお、佐藤さとう貢みつぐ司し、内田うちだ直樹なおき、梶間かじま幹弘みきひろ、川邊かわべ光則みつのり『ＩＰランドスケープの実践じっせん事例じれい集しゅう』技術ぎじゅつ情報じょうほう協会きょうかい、2019年ねん（日本にっぽん初はつの知ち財ざい経営けいえい（IPランドスケープ）の実践じっせん事例じれい集しゅう）。

外部がいぶリンク

日本にっぽん知ち財ざい学会がっかい　知ち財ざい会計かいけい・経営けいえい分科ぶんか会かい
日本にっぽん知的ちてき資産しさん経営けいえい学会がっかい
東京商工会議所とうきょうしょうこうかいぎしょ　知的ちてき財産ざいさん経営けいえい
中小ちゅうしょう企業きぎょう支援しえん知的ちてき財産ざいさん経営けいえいプランニングブック（日本にっぽん特許庁とっきょちょう）
立教大学りっきょうだいがく大学院だいがくいんビジネスデザイン研究けんきゅう科か（2004年度ねんどより、日本にっぽんで数少かずすくない「知ち財ざい経営けいえい論ろん」を開講かいこう）