秦はた豊吉とよきち

秦はた豊吉とよきち（1954年ねん、『毎日まいにちグラフ』より）

秦はた 豊吉とよきち（はた とよきち、1892年ねん（明治めいじ25年ねん）1月がつ14日にち - 1956年ねん（昭和しょうわ31年ねん）7月がつ5日にち）は、日本にっぽんの実業じつぎょう家か、演出えんしゅつ家か、ドイツ文学ぶんがく者しゃ、翻訳ほんやく家いえ、随筆ずいひつ家か、興行こうぎょう師し、コント作家さっか。帝みかど大だい出だしの商社しょうしゃマンから興行こうぎょう界かいに転身てんしんし、日本にっぽん初はつのヌードショー「額縁がくぶちショー」の生うみの親おやとして知しられる。

生涯しょうがい

東京とうきょう府ふ東京とうきょう市し牛込うしごめ余丁よちょう町まち（現在げんざいの東京とうきょう都と新宿しんじゅく区く余丁よちょう町まち）の裕福ゆうふくな薬くすり商しょうの家いえに生うまれる。東京とうきょう府立ふりつ一いち中なかを経へて、一いち高だかでは文芸ぶんげい部ぶに在籍ざいせきした。山本やまもと有三ゆうぞうとは同期どうきであった。1917年ねん（大正たいしょう6年ねん）に東京とうきょう帝国ていこく大学だいがく法科ほうか大学だいがく独どく法科ほうか卒業そつぎょう後ご、三菱みつびし合資ごうし会社かいしゃを経へて三菱商事みつびししょうじに勤務きんむするが、文学ぶんがく趣味しゅみが強つよく、ドイツ文学ぶんがくを翻訳ほんやくした。同年どうねんから1926年ねん（大正たいしょう15年ねん）まで社命しゃめいでベルリンに滞在たいざいし、1923年ねん（大正たいしょう12年ねん）に妻つま・八代子やよことの結婚けっこんのためにいったん帰国きこく、その際さいに関西かんさいに移住いじゅうしていた谷崎たにざき潤一郎じゅんいちろうを訪たずね、谷崎たにざきは様子ようすが変かわった秦はたを見みて『友田ともだと松永まつながの話はなし』のモデルにしたと言いわれる。ベルリン滞在たいざい中ちゅうには劇場げきじょう通がよいをし、ゲアハルト・ハウプトマンやアルトゥル・シュニッツラー、アルフレッド・ケル、ルドルフ・オイケンらに手紙てがみを送おくって面会めんかいにこぎつけるなど1920年代ねんだいのベルリン文化ぶんかを楽たのしんだ。

帰国きこく後ごは、マルキ・ド・サドをもじった筆名ひつめい「丸木まるき砂すな土ど」で小説しょうせつ『半はん処女しょじょ』（1932年ねん）やエロティック随筆ずいひつを書かき、ゲーテ『ファウスト』など表現ひょうげん主義しゅぎ戯曲ぎきょくの翻訳ほんやくも行おこなった。三菱みつびし合資ごうし会社かいしゃ勤務きんむ中ちゅうにレマルクの『西部せいぶ戦線せんせん異状いじょうなし』を翻訳ほんやく、中央公論社ちゅうおうこうろんしゃから単行本たんこうぼんとして刊行かんこうし、ベストセラーとなった。1932年ねん（昭和しょうわ7年ねん）に三菱みつびし商事しょうじを退社たいしゃ。

翌よく1933年ねん（昭和しょうわ8年ねん）、東京とうきょう宝塚劇場たからづかげきじょうに転職てんしょくして日本にっぽん劇場げきじょう（日にち劇げき）の運営うんえいに関かかわり、日にち劇げきダンシングチームを育そだて上あげた。1934年ねん（昭和しょうわ9年ねん）8月がつには支配人しはいにんとして東宝とうほう名人めいじん会かいを創設そうせつ。1935年ねん（昭和しょうわ10年ねん）9月12日にちに同社どうしゃの取締役とりしまりやくに就任しゅうにん。1937年ねん（昭和しょうわ12年ねん）2月がつ27日にちに江東こうとう楽天らくてん地ちが開業かいぎょうするとその取締役とりしまりやくに就任しゅうにん。同年どうねん5月8日にちに東京とうきょう宝塚劇場たからづかげきじょう専務せんむ取締役とりしまりやくを経へて、1940年ねん（昭和しょうわ15年ねん）11月20日にちに同社どうしゃ代表だいひょう取締役とりしまりやく社長しゃちょうに就任しゅうにん。同年どうねん12月がつに株式会社かぶしきがいしゃ後楽園こうらくえんスタヂアムの代表だいひょう取締役とりしまりやく社長しゃちょうに就任しゅうにん。1941年ねん（昭和しょうわ16年ねん）2月がつ27日にちに東宝とうほう映画えいがの取締役とりしまりやくに就任しゅうにん。1942年ねん（昭和しょうわ17年ねん）12月に後楽園こうらくえんスタヂアムの代表だいひょう取締役とりしまりやく会長かいちょうに就任しゅうにん（1953年ねんまで務つとめた）。1943年ねん（昭和しょうわ18年ねん）12月10日にちに東宝とうほうの代表だいひょう取締役とりしまりやく副ふく社長しゃちょうに就任しゅうにん。1946年ねん（昭和しょうわ21年ねん）2月がつ17日にちに現業げんぎょう重役じゅうやく制せいを廃止はいしして新あらたに経営けいえい担当たんとう者しゃ制せいを布しくために社長しゃちょう補佐ほさに就任しゅうにん。同年どうねん3月13日にちに敗戦はいせんにより戦争せんそう協力きょうりょく者しゃとみなされて公職こうしょく追放ついほうに追おい込こまれ、東宝とうほうの経営けいえいから離はなれるが、1947年ねん（昭和しょうわ22年ねん）1月がつ15日にちより東京とうきょう新宿しんじゅくの帝都ていと座ざで『ヴィナスの誕生たんじょう』と題だいした日本にっぽん初はつのストリップ・ショーを上演じょうえんし成功せいこうを収おさめた。1950年ねん（昭和しょうわ25年ねん）11月16日にちに帝国ていこく劇場げきじょう社長しゃちょうになり、1951年ねん（昭和しょうわ26年ねん）には第だい一いち回かい帝劇ていげきコミックオペラ『モルガンお雪ゆき』を、第だい二に回かい帝劇ていげきミュージックオペラ「マダム貞奴さだやっこ」、第だい三さん回かい帝劇ていげきミュージカルコメデー「お軽けい勘平かんぺい」を、宝塚たからづかスター越路こしじ吹雪ふぶきの出演しゅつえんで企画きかくし、第だい四よん回かいから六ろく回かいまでは「帝劇ていげきミュージカルス」と角書つのがきした（『帝劇ていげきの五ご十じゅう年ねん』参照さんしょう）。1952年ねん（昭和しょうわ27年ねん）9月がつ20日はつかに東宝とうほう取締役とりしまりやくに復帰ふっき。晩年ばんねんは日本テレビ放送網にほんてれびほうそうもうの経営けいえいにも関かかわった。64歳さいで死去しきょするまで50冊さつ以上いじょうの著書ちょしょ・訳書やくしょを上梓じょうしした。

親族しんぞく

元々もともとは三重みえ県けん員弁いなべ郡ぐん東員とういん町まち長深ながふけで土建どけん業ぎょうをしていた一家いっかで、四日市よっかいち北町きたまちで「寿ことぶき福ぶく座ざ」という芝居しばい小屋こやを経営けいえいしていた。1878年ねん（明治めいじ11年ねん）に祖父そふの専せん治ちが上京じょうきょうし、饅頭屋まんじゅうやを経へて日本橋にほんばしで生薬きぐすり問屋とんや「専せん治ち堂どう」を開業かいぎょうした。

専治せんじとその妻つまやすの間あいだには女おんな6人にん、男おとこ8人にんの計けい14人にんの子こがいた。長男ちょうなんの鐐次郎ろうは豊吉とよきちの父ちちであり、家業かぎょうと「専治せんじ」の名なを継ついで西洋せいよう雑貨ざっかなども扱あつかった。その弟おとうと（叔父おじ、祖父そふ専せん治ちの三男さんなん）で同名どうめいの豊吉とよきちは藤間とうま家かに養子ようしに出でて歌舞伎かぶき役者やくしゃ・七なな代目だいめ松本まつもと幸四郎こうしろうになった。 十じゅう一いち代目だいめ市川いちかわ團だん十郎じゅうろう、初代しょだい松本まつもと白鸚はくおう、二に代目だいめ尾上おがみ松緑しょうろくはいずれも従弟じゅうていにあたる。豊吉とよきちの妹いもうとの治子はるこは三菱商事みつびししょうじ社長しゃちょうであった槙原まきはら覚さとしの妻つまとなり、その長男ちょうなんの槙原まきはら稔みのるは同社どうしゃの社長しゃちょうと会長かいちょうを務つとめた。

豊吉とよきちの妻つまの八代子やよこは日本郵船にっぽんゆうせん副ふく社長しゃちょうであった永富ながとみ雄吉ゆうきちの三さん女じょ。ドイツ駐在ちゅうざい中ちゅうに心臓しんぞうを悪わるくし、長ながく療養りょうようした。豊吉とよきちと八代子やよこの間あいだに子供こどもはいなかった。豊吉とよきちの弟おとうとの専せん三さんは母方ははかた（林はやしすみ）の養子ようしとなり、後のちに小岩井こいわい農みのり牧まき(株かぶ)の代表だいひょう取締役とりしまりやく社長しゃちょうを務つとめた。

著書ちょしょ

• 『好色こうしょく独逸どいつ女おんな』（文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう出版しゅっぱん部ぶ）1928年ねん
• 『独逸どいつ文芸ぶんげい生活せいかつ』（聚英閣かく）1928年ねん
• 『世界せかい艶笑えんしょう藝術げいじゅつ』（武たけ侠社）1930年ねん
• 『伯はく林りん・東京とうきょう』（岡倉おかくら書房しょぼう）1933年ねん
• 『僕ぼくの弥次喜多やじきた』（三笠みかさ書房しょぼう）1934年ねん
• 『丸まるの内うち夜話やわ』（秋あき豊ゆたか園えん）1937年ねん
• 『宝塚たからづかと日にち劇げき 私わたしのレビュウ十じゅう年ねん』（いとう書房しょぼう）1948年ねん
• 『夫婦ふうふ愛いとし方かた読本とくほん』（東南とうなん書房しょぼう）1952年ねん
• 『ぐっど・ないと』（出版しゅっぱん東京とうきょう）1952年ねん
• 『三菱みつびし物語ものがたり』（要よう書房しょぼう）1952年ねん
• 『新しん丸まるの内うち夜話やわ』（小説しょうせつ朝日あさひ社しゃ）1953年ねん
• 『離はなれ座敷ざしき』（要よう書房しょぼう）1953年ねん
• 『芸人げいにん』（鱒ます書房しょぼう）1953年ねん
• 『菜なの花はな漬づけ』（要よう書房しょぼう）1953年ねん
• 『私わたしの演劇えんげき資料しりょう』第だい1-4 1950年ねん - 1953年ねん
• 『演劇えんげきスポットライト』（朋とも文ぶん堂どう）1955年ねん
• 『わが粋いき筆ひつ』（美和みわ書院しょいん）1955年ねん
• 『劇場げきじょう二に十じゅう年ねん』（朝日新聞社あさひしんぶんしゃ）1955年ねん
• 『女おんなの絵えはがき』（住吉すみよし書店しょてん）1956年ねん
• 『偉人いじん粋人すいじん』（学風がくふう書院しょいん）1956年ねん

丸木まるき砂すな土ど名義めいぎ

• 『青春せいしゅん独逸どいつ男おとこ』（文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう社しゃ）1929年ねん
• 『夜よるの話はなし 画がの話はなし』（明星みょうじょう書院しょいん）1930年ねん
• 『変へんな笑わらいひ顔がおで』（中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ）1930年ねん
• 『風変ふうがわりな人々ひとびと』（四よん六ろく書院しょいん）1931年ねん
• 『女性じょせい西部せいぶ戦線せんせん』（風俗ふうぞく資料しりょう刊行かんこう会かい）1931年ねん
• 『東京とうきょうの女王じょおう』（文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう社しゃ）1931年ねん
• 『処女しょじょ学がく講座こうざ』（文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう社しゃ）1932年ねん
• 『女おんなの学校がっこう』（いとう書房しょぼう）1947年ねん
• 『甘あまつたれの研究けんきゅう』（ハンドブック社しゃ）1952年ねん
• 『丸木まるき砂すな土ど随筆ずいひつ』（東京とうきょう文庫ぶんこ）1952年ねん
• 『殿方とのがた草紙ぞうし』（要よう書房しょぼう）1953年ねん
• 『秘密ひみつの文学ぶんがく』（住吉すみよし書店しょてん）1955年ねん

翻訳ほんやく

• 『馭者ぎょしゃヘンシエル』（ゲルハルト・ハウプトマン、植竹うえたけ書院しょいん）1914年ねん
• 『若わかきヱルテルの悲み』（ギヨオテ、新潮社しんちょうしゃ）1916年ねん
• 『欧おう洲しゅう戦争せんそうと民族みんぞく主義しゅぎ』（ルウドルフ・キエルレン、冨山とやま房ぼう）1917年ねん
• 『ストリンドベルクの最後さいごの恋こい』（フアンニイ・フアルクネル、新潮社しんちょうしゃ）1924年ねん
• 『太陽たいようの子こ』（ゴーリキイ、聚英閣かく）1924年ねん
• 『魂たましいの発展はってん史し』（ストリンドベルク、新潮社しんちょうしゃ、ストリンドベルク小説しょうせつ全集ぜんしゅう2）1925年ねん
• 『地獄じごく・伝説でんせつ』（ストリンドベルク、新潮社しんちょうしゃ、ストリンドベルク小説しょうせつ全集ぜんしゅう5）1925年ねん
• 『フアウスト』（ゲエテ、聚英閣かく）1926年ねん
• 『メトロポリス / 殿方とのがたは金髪きんぱつがお好すき』（テア・フオン・ハルボウ / アニタ・ルウス、改造かいぞう社しゃ、世界せかい大衆たいしゅう文学ぶんがく全集ぜんしゅう15）1928年ねん
• 『西部せいぶ戦線せんせん異状いじょうなし』（ルマルク、中央公論社ちゅうおうこうろんしゃ）1929年ねん

  のち新潮しんちょう文庫ぶんこ 1955年ねん、改版かいはん 1981年ねん、新版しんぱん 2007年ねん

• 『西洋せいよう十じゅう夜や』（アルツウル・シュニッツレル、文藝春秋ぶんげいしゅんじゅう社しゃ出版しゅっぱん部ぶ）1929年ねん
• 『トンネル』（ケッラアマン、新潮社しんちょうしゃ、世界せかい文学ぶんがく全集ぜんしゅう 第だい2期き12）1930年ねん

  のち新版しんぱん（国書刊行会こくしょかんこうかい） 2020年ねん

• 『獅子しし狩かりの人ひと』（ドオデエ、改造かいぞう社しゃ、世界せかい大衆たいしゅう文学ぶんがく全集ぜんしゅう）1931年ねん
• 『ウイルヘルム・テル』（シラー、春陽しゅんよう堂どう）1932年ねん
• 『ヘルマンとドロテア』（ゲーテ、春陽しゅんよう堂どう）1932年ねん
• 『恋愛れんあい三昧ざんまい・アナトオル』（シュニッツレル、新潮社しんちょうしゃ）1937年ねん
• 『群盗ぐんとう』（シルレル、新潮社しんちょうしゃ）1938年ねん
• 『輪舞りんぶ』（シュニッツレル、三笠みかさ書房しょぼう）1952年ねん

丸木まるき砂すな土ど名義めいぎ

• 『歓楽かんらくの二に夜や』（ミユツセ、平凡社へいぼんしゃ、世界せかい猟奇りょうき全集ぜんしゅう1）1931年ねん、ガミアニ（エロチカ）の訳わけ
• 『女おんなの迷宮めいきゅう』（ジヤビダン妃ひ殿下でんか（hanum Djavidan）、和田わだ顕太郎けんたろうと共とも訳やく、平凡社へいぼんしゃ、世界せかい猟奇りょうき全集ぜんしゅう11）1931年ねん

参考さんこう書籍しょせき

• 森もり彰英あきひで『行動こうどうする異端いたん - 秦はた豊吉とよきちと丸木まるき砂すな土ど』TBSブリタニカ、1998年ねん。 
• 『帝劇ていげきの五ご十じゅう年ねん』東寶とうほう株式会社かぶしきがいしゃ発行はっこう、1966年ねん。
• 小谷野こやの敦あつし『忘わすれられたベストセラー作家さっか』イースト・プレス。 
• 槙原まきはら稔みのる『私わたしの履歴りれき書しょ : さまざまな出会であい』日本経済新聞にほんけいざいしんぶん出版しゅっぱん社しゃ日経にっけい事業じぎょう出版しゅっぱんセンター、2010年ねん。 

外部がいぶリンク

• 好色こうしょく独逸どいつ女おんな秦はた豊吉とよきち (文芸春秋ぶんげいしゅんじゅう出版しゅっぱん部ぶ、1928年ねん)
• 東宝とうほう十じゅう年ねん記き　取締役とりしまりやく社長しゃちょう　秦はた豐吉とよきち 『東宝とうほう十じゅう年ねん史し』(東京とうきょう宝塚劇場たからづかげきじょう、1944年ねん)