肴さかな

枝豆えだまめとビール

イタリア料理りょうりのオードブル、カルパッチョ

肴さかな（さかな）とは、酒さけを飲のむ際さいに添そえる食品しょくひんを意味いみする語かたり。派生はせいして、酒さけを飲のむ際さいに共ともに楽たのしむ様々さまざまな対象たいしょう（歌舞かぶや面白おもしろい話題わだいなど）も肴さかなと呼よばれる。酒肴さけさかな（しゅこう）、酒さけにあてがうことからアテと呼よぶ事こともある。つまみ（おつまみ）ともいう。

語源ごげん

「肴さかな」という語かたりは、奈良なら時代じだいの「常陸ひたち国こく風土記ふどき」に「酒さけと肴さかなを準備じゅんびし、遠とおくの村むらから男女だんじょが集あつまって宴うたげを楽たのしんだ」との記録きろくがある。もともと日本にっぽんでは、酒さけを飲のみながら食たべるものを「酒さけ菜さい（さかな）」(「さか＝さけ（酒さけ）」+「な（菜さい）＝おかず」)と呼よんでいた。その後ご、中国ちゅうごくから「酒さけを飲のむときに添そえる料理りょうり」との意味いみを持もつ「肴さかな（こう）」という漢字かんじが伝つたわり、「肴さかな（さかな）」という字じが当あてられるようになったとされる。

「さかな」という音おとからは魚介ぎょかい類るいが想像そうぞうされるかもしれないが、酒席しゅせきで食しょくされる食品しょくひんであれば、肴さかなとなる。室町むろまち時代ときよ頃ころまでは、こうした魚肉ぎょにくに限かぎらない用法ようほうが一般いっぱん的てきだった。酒さけを飲のむときに添そえて食たべるもの、または酒席しゅせきの踊おどりや歌うたのことを「さかな」といっていた。

なお、魚類ぎょるいのことを「さかな」と呼よぶのは、肴さかなから転てんじた言葉ことばであり、酒さけの肴さかなには魚介ぎょかい類るい料理りょうりが多おおく使用しようされたためである。

古ふるくは「魚さかな」を「な」と呼よび、古事記こじきや、日本書紀にほんしょき、万葉集まんようしゅうなどに多用たようされている。「うを」（戦後せんごの国語こくご国字こくじ改革かいかく以降いこう、「うお」）と呼よんでいたが、江戸えど時代じだい頃ころから「さかな」と呼よぶようになった。

「アテ」と「つまみ」

アテ

「アテ」は関西かんさいの方言ほうげんであり、現在げんざいも近畿きんき地方ちほうを中心ちゅうしんに使つかわれている。語かたりの発生はっせい時期じきは不明ふめいだが、1814年ねんの「大坂おおさか繁しげる花はな風土記ふどき」に、肴さかなを「アテ」と呼よぶ旨むねが記載きさいされている。「アテ」はひらがなやカタカナで表あらわされるのが一般いっぱん的てきで、語源ごげんの「酒さけに『あてがう』料理りょうり」から、漢字かんじでは「宛あて」を使つかうのが妥当だとうだと思おもわれる。「肴さかな」や「つまみ」のように、酒さけと一緒いっしょに食たべるものを意味いみしており、特とくにお通とおしのような小鉢こばち・小皿こざら料理りょうり・珍味ちんみなどの軽かるい料理りょうりを指さす傾向けいこうがある。

つまみ

「つまみ」は、ひらがなを使用しようするのが一般いっぱん的てきだが、漢字かんじでは、何なにかをつまむ際さいに使用しようされる「摘」と書かく。

手てでつまんで食たべる「肴さかな」である塩しお、貝かいの干物ひもの、果物くだもの、木この実みなどを「つまみもの」と区別くべつして呼よぶようになり、平安へいあん時代じだいに「つまみ」という呼よび名なができたとされる。現在げんざいでは枝豆えだまめ、スルメ（乾かわきもの）などの、手てでつまんで簡単かんたんに食たべられるものを「つまみ」と呼よぶのが一般いっぱん的てきである。

食品しょくひんの肴さかな

おつまみ

おつまみ付つきの酎ハイ缶かん

おつまみ自販機じはんき

日本にっぽんにおけるビールに枝豆えだまめなどのように、酒類しゅるいに応おうじて組くみ合あわせの食品しょくひんが好このまれることが多おおい。例たとえば、ワインにチーズ、テキーラに食塩しょくえんなどが有名ゆうめいな組くみ合あわせである。また、日本酒にほんしゅを飲のむ際さいには、一いち合ごう枡ますの縁えんに塩しおを盛もり、肴さかなとすることもある。

さらに、つまみとして、肴さかな向むきに考案こうあんされた食品しょくひん・料理りょうりもある。スペインにはピンチョスやタパスといった酒さけとともに楽たのしむ料理りょうりがある。

日本にっぽんでは西洋せいよう風ふうのおつまみを指さして「オードブル」と呼よぶことがあるが、本来ほんらいは前菜ぜんさいを意味いみし、必かならずしも肴さかなとして食前しょくぜん酒しゅなどと共ともに供きょうされることを意図いとしない。

肴さかなは酒さけと一緒いっしょに出だすための料理りょうりであるが、決けっして安価あんかな料理りょうりというわけではなくカラスミやコノワタ、キャビアやフォアグラと言いった料理りょうりや、手間てまがかかる料理りょうりを出だすこともある。

医学いがく的てきには、食品しょくひんを酒さけとともに摂取せっしゅすることは、飲酒いんしゅの悪影響あくえいきょうを軽減けいげんするために効果こうかがある。空腹くうふくの状態じょうたいでの飲酒いんしゅは急激きゅうげきに酔よいが進すすむため健康けんこうによくないが、良質りょうしつのたんぱく質しつを同時どうじに摂取せっしゅすることで、アルコールの吸収きゅうしゅうが緩ゆるやかになるとされる。飲酒いんしゅのペースを緩ゆるやかにすることも利点りてんである。アサヒビール株式会社かぶしきがいしゃによれば、枝豆えだまめや豆腐とうふにはアルコールの分解ぶんかいを助たすける成分せいぶんが含ふくまれているという。他方たほうで、フライなどの油あぶらの多おおい食品しょくひんは、肴さかなとしてあまり好このましくないという。

つまみは、生物せいぶつ（なまもの）・焼やき物もの・煮物にもの・揚あげ物もの・乾物かんぶつ等ひとし、多種たしゅ多様たようであり、素材そざいも野菜やさい、魚介ぎょかい類るい、肉類にくるい、穀類こくるいなど多種たしゅ多様たようにわたる。おやつを使用しようする事こともある。

食品しょくひん以外いがいの肴さかな

食品しょくひんに限かぎらず、その酒席しゅせきに参加さんかしている者ものが楽たのしめる事柄ことがらであれば何なんでも肴さかなとなる。すなわち、酒席しゅせきで提供ていきょうされる娯楽ごらくとなるものが、食品しょくひん以外いがいの肴さかなである。

酒さけの余興よきょうとして演えんじられる出だしものを指さす言葉ことばとして、肴さかな謡うたい、肴さかな浄瑠璃じょうるり、肴さかな舞まいといった言葉ことばがある。

また、他人たにんの噂うわさ話はなしをして酒席しゅせきを盛もり上あげることを指さして「酒さけの肴さかなにする」ともいう。

玉村たまむら豊ゆたか男おとこは、外国がいこく人じんを料亭りょうていに連つれていくと最後さいごに「そろそろお食事しょくじにしましょうか」と聞きかれることで外国がいこく人じんはびっくりすると自著じちょで記しるしている（女将おかみにとってはご飯はんと香こうの物ものと味噌汁みそしるのセットの意味いみなのだが）。そこから「日本にっぽんの料理りょうりは、ごはんと味噌汁みそしるが出でてくるまではすべて酒さけの肴さかなである」としている。

参考さんこう資料しりょう

• 梅棹うめさお忠夫ただおほか（監修かんしゅう）『日本語にほんご大だい辞典じてん』（初版しょはん、講談社こうだんしゃ、1989年ねん）

関連かんれん資料しりょう

• 成瀬なるせ宇平『酒さけとつまみの科学かがく-天てんぷら・寿司すしには白しろワイン? チーズやキャビアに日本酒にほんしゅが合あう?』（ソフトバンククリエイティブ、サイエンス・アイ新書しんしょ、2009年ねん）

関連かんれん項目こうもく

• ワインと食品しょくひんのマッチング
• おかず
• おやつ