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累進るいしん課税かぜい

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逆進ぎゃくしん課税かぜいから転送てんそう

累進るいしん課税かぜい(るいしんかぜい)とは、課税かぜい標準ひょうじゅん租税そぜい賦課ふかする課税かぜい対象たいしょう)がえるほど、よりたか税率ぜいりつする課税かぜい方式ほうしきのことをいう。また、この制度せいどにおける税率ぜいりつは「累進税るいしんぜいりつ」としょうされる。

方式ほうしき

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累進るいしん課税かぜいにはおおきく2つの方式ほうしきがある。

  1. 課税かぜい標準ひょうじゅん一定いっていがく以上いじょうとなったとき、その全体ぜんたいたいして、よりたか税率ぜいりつ適用てきようする単純たんじゅん累進税るいしんぜいりつ方式ほうしき(たんじゅんるいしんぜいりつほうしき)
  2. 一定いっていがく以上いじょうになった場合ばあいにその超過ちょうか金額きんがくたいしてのみ、よりたか税率ぜいりつ適用てきようする超過ちょうか累進税るいしんぜいりつ方式ほうしき(ちょうかるいしんぜいりつほうしき)がある。

単純たんじゅん累進税るいしんぜいりつ方式ほうしきでは税率ぜいりつ課税かぜい標準ひょうじゅん変化へんかおうじて連続れんぞくてき階段かいだんじょう変化へんかするため、課税かぜい標準ひょうじゅんえた以上いじょう税金ぜいきん賦課ふかがく増加ぞうかすることがありるが、超過ちょうか累進税るいしんぜいりつ場合ばあいはそのようなことはない。

累進るいしん課税かぜい特徴とくちょう評価ひょうか

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租税そぜい累進るいしんてき逆進ぎゃくしんてきかは個々ここぜいごとにことなり、通常つうじょうどの国家こっか逆進ぎゃくしんてきぜい累進るいしんてきぜいわせて租税そぜい徴収ちょうしゅうしている。政府せいふ課税かぜい制度せいど累進るいしんせいは、個々ここぜいではなく、かく所得しょとくしゃそう負担ふたんするぜん租税そぜい所得しょとくめる割合わりあい算定さんていされる。このようにして算定さんていされた累進るいしんせい度合どあいが適正てきせいかどうかについて、様々さまざま観点かんてんから評価ひょうかがなされている。

メリット

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  • 累進税るいしんぜい税制ぜいせい評価ひょうかするいくつかの基準きじゅんのうち、垂直すいちょくてき平等びょうどうおうのう原則げんそく)をたす税制ぜいせいである[1]
  • 近代きんだい以降いこう国家こっかとみさい分配ぶんぱい観点かんてんち、とみ一部いちぶ階層かいそう集中しゅうちゅうさせず国民こくみん全体ぜんたいひろ分配ぶんぱいすることで社会しゃかい福祉ふくし実現じつげんしてきた。こう所得しょとくしゃ所得しょとくたか税率ぜいりつし、てい所得しょとくしゃ税率ぜいりつひくくする累進るいしん課税かぜいは、とみさい分配ぶんぱい端的たんてき実現じつげんする税制ぜいせいといえる。
  • 所得しょとく格差かくさおおきいと社会しゃかい不安ふあん増大ぞうだいするのでその解決かいけつ方法ほうほうとして高額こうがく所得しょとく減殺げんさい格差かくさ是正ぜせいすることでそれをおさえられる。
  • 封建ほうけんせい本質ほんしつ政治せいじてき身分みぶん経済けいざいてき身分みぶん世襲せしゅうであるが、所得しょとくぜい累進るいしん課税かぜい相続そうぞくぜいとで相続そうぞくされる所得しょとくぎ、身分みぶん階級かいきゅう固定こてい封建ほうけんせい)の阻止そしはかることが出来できる。
  • 累進るいしん課税かぜい制度せいどは、消費しょうひ性向せいこう所得しょとくのうち消費しょうひにいく割合わりあい)のたかなかてい所得しょとくしゃには税率ぜいりつひく設定せっていされ消費しょうひうながし、消費しょうひ性向せいこう所得しょとくのうち消費しょうひにいく割合わりあい)のひくく、所得しょとくわりにはおかね使つかわない高額こうがく所得しょとくしゃたいしては税率ぜいりつたかい。本来ほんらいなら貯蓄ちょちくなどにいくおかねちゅう低額ていがく所得しょとくしゃ所得しょとく移転いてん消費しょうひ拡大かくだいはかることができる。すなわち、平均へいきん消費しょうひ性向せいこう国家こっか全体ぜんたいにおいての家計かけい所得しょとくのうち消費しょうひかう割合わりあい)がたかまる。そして、平均へいきん消費しょうひ性向せいこう乗数じょうすう効果こうか乗数じょうすうであるため、需要じゅよう全体ぜんたいげるはたらきがあるといわれている。
  • 好景気こうけいきさい増税ぞうぜいとして、きょうさいには減税げんぜいとして機能きのうするビルト・イン・スタビライザー効果こうか指摘してきされる。

デメリット

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累進税るいしんぜいは、ぜいのない場合ばあい比例ひれいぜい定額ていがくぜいくらべて経済けいざい効率こうりつせい阻害そがいする。たとえば、累進るいしん所得しょとくぜい労働ろうどうしゃのモチベーションを低下ていかさせ、労働ろうどう供給きょうきゅう低下ていかさせる[2]。また、ぜい累進るいしんせい上昇じょうしょう経済けいざい効率こうりつせい阻害そがい要因よういんである[3]典型てんけいてきれいとして、おおくの日本にっぽんのパートタイマー主婦しゅふ年収ねんしゅうが103まんえんえると配偶はいぐうしゃ控除こうじょ対象たいしょうからはずみずからの所得しょとくたいして所得しょとくぜいはらわなければならなくなることをきらい、就労しゅうろう余力よりょくがあっても自分じぶん就労しゅうろう調整ちょうせいをしている。ベストセラー作家さっかアガサ・クリスティは、「税金ぜいきんはらうためにいちねんいちさつかねばならないが、それ以上いじょうけば国税庁こくぜいちょうふとらせるだけの愚行ぐこう」として執筆しっぴつペースをおさえていた[4]

地方ちほうしゅう)レベルの政府せいふ累進税るいしんぜい採用さいようしたがらない傾向けいこうがある。隣接りんせつするふたつの行政ぎょうせい税率ぜいりつことなれば、人々ひとびとはより税率ぜいりつひく地域ちいき移転いてんしたがるからである(あしによる投票とうひょう)。ただしこのような効果こうかは、国家こっかレベルの税制ぜいせいではほぼ無視むしできる[5](たとえばドイツがいちこくだけでつよ累進るいしん課税かぜい採用さいようすればオーストリアやスイスに移住いじゅうする富裕ふゆうそうえるであろうが、そういう条件じょうけんにあるくにはきわめてすくない)。

逆進ぎゃくしんぜい

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累進るいしん課税かぜいとはぎゃくに、所得しょとくすくないひとほどぜい負担ふたんりつたかくなる租税そぜい逆進ぎゃくしんぜいという。

あるぜい逆進ぎゃくしんてきかどうかは所得しょとくたいする税率ぜいりつ評価ひょうかされる。たとえばこう所得しょとくしゃそう支払しはらぜい総額そうがくてい所得しょとくしゃそう支払しはら総額そうがく上回うわまわっていたとしても、てい所得しょとくしゃ所得しょとくめるぜい負担ふたん割合わりあいこう所得しょとくしゃ負担ふたん割合わりあいよりおおきい場合ばあい、そのぜいは「逆進ぎゃくしんてき」であると評価ひょうかされる[1]。そのようなれいとしては、一般いっぱん消費しょうひぜい個別こべつ消費しょうひぜい(たばこぜい酒税しゅぜい)がある。

また、人頭じんとうぜいについても、所得しょとく多寡たかにかかわらず人間にんげん単位たんいおな税額ぜいがくすものであるため、家計かけい所得しょとくたいして逆進ぎゃくしんてき作用さようするとの説明せつめいがされることがある。

学者がくしゃ見解けんかい

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経済けいざい学者がくしゃ飯田いいだ泰之やすゆきは「1990年代ねんだいのアメリカが安定あんていてき成長せいちょうできた原因げんいんひとつは、ビル・クリントン政権せいけん累進るいしん課税かぜいつよめたことにある」と指摘してきしている[6]飯田いいだは「つよめの累進るいしん課税かぜいが、景気けいきらん高下こうげふせぐ」と指摘してきしている[6]

テキサス大学だいがくのハマメッシュ教授きょうじゅとミシガン大学だいがくのスレムロッド教授きょうじゅは、こう所得しょとくしゃほどワーカホリックおちいりやすいのであれば、累進るいしん所得しょとくぜいをかけることが対策たいさくとして有効ゆうこうであると主張しゅちょうしている[7]経済けいざい学者がくしゃ大竹おおたけ文雄ふみおは「日本にっぽん所得しょとくぜい累進るいしんは1990年代ねんだい後半こうはんから低下ていかしてきたが、長時間ちょうじかん労働ろうどう問題もんだいになりだしたのも1990年代ねんだい後半こうはんからである」と指摘してきしている[7]

経済けいざい学者がくしゃ累進るいしん課税かぜい評価ひょうかしない理由りゆうについて、経済けいざい学者がくしゃハル・ヴァリアンは「現実げんじつ世界せかいでは、収入しゅうにゅう本人ほんにん生産せいさんせい税率ぜいりつだけでまるわけではない。たとえば、うんもある。うんがよかっただけでこう収入しゅうにゅうているひとは、累進るいしん課税かぜいたか税率ぜいりつせられてもはたらかたえるわけではない。たまたま収入しゅうにゅう課税かぜいをするのが当然とうぜんではないか。それなのに従来じゅうらいミクロ経済けいざい学者がくしゃは、うん大切たいせつ要因よういんであることを見過みすごしている。最適さいてき税率ぜいりつかんしても見込みこちがいをしている可能かのうせいたかい」と指摘してきしている[8]

自由じゆう主義しゅぎしゃとされるフリードリヒ・ハイエクミルトン・フリードマンは、所得しょとく貢献こうけんおうじて支払しはらわれるべきものであり、累進るいしん課税かぜいとうによる所得しょとくさい分配ぶんぱい政策せいさくみとめていない。しかし、その一方いっぽうでは、貧困ひんこん問題もんだい放置ほうちするべきではないという姿勢しせい一貫いっかんしてしめしている[9]

日本にっぽん

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日本にっぽん累進税るいしんぜいについてなされる議論ぎろんのひとつはおも税率ぜいりつ高低こうていかんするものであり、先進せんしん諸国しょこく比較ひかくして税率ぜいりつたかいかどうかということが論点ろんてんとなる。もうひとつには累進税るいしんぜいそのものの公平こうへいせいあらそ議論ぎろんもある。

経済けいざい学者がくしゃ土居どいたけろうは「日本にっぽん所得しょとくぜい制度せいどには、おおきなゆがみがある。国民こくみん所得しょとく総額そうがく年間ねんかんやく250ちょうえんあるが、実際じっさい所得しょとくぜいされる対象たいしょうとなる課税かぜい所得しょとくはそのうちやく110ちょうえんである。のこり140ちょうえんは、控除こうじょ控除こうじょで、課税かぜい対象たいしょうからはずされている。控除こうじょのやりかたおおきな問題もんだいがある。日本にっぽん所得しょとくぜい制度せいど世界せかいてきて、所得しょとく課税かぜいによる格差かくさ是正ぜせい効果こうかきわめてひくい。所得しょとくおおひとほど、ぜい負担ふたんかるくなる」と指摘してきしている[10]

小泉こいずみ内閣ないかく国務大臣こくむだいじんであった竹中たけなか平蔵へいぞうは、「(ひとが)おなじように責任せきにんたし、義務ぎむうのであれば、ぜい所得しょとくたいしてするのではなくて、人頭じんとうぜいのぞましいでしょう」として累進るいしん課税かぜい不公平ふこうへいであるから、人頭じんとうぜい導入どうにゅう理想りそうであると主張しゅちょうした[11]。また竹中たけなかは「一番いちばんよいぜい一人ひとりずつはらうという意味いみでシンプルな人頭じんとうぜいであるが、もっとえば税金ぜいきん社会しゃかい一番いちばんよい」と指摘してきしている[12]竹中たけなか平蔵へいぞうは「富裕ふゆうそう政府せいふ大金たいきん寄付きふする、油田ゆでん発掘はっくつによって国家こっか予算よさん全額ぜんがくまかなえるならそれにしたことはない」と指摘してきしている[13]

日本にっぽん累進るいしん課税かぜい

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日本にっぽんにおける累進るいしん課税かぜい方式ほうしき代表だいひょうれい政府せいふ税収ぜいしゅうおおくをめる所得しょとくぜいと、贈与ぞうよぜいである。かつては地方ちほう公共こうきょう団体だんたい住民じゅうみんぜい累進税るいしんぜいであったが、2007年度ねんどから一律いちりつ10%(道府県どうふけんぜい4%、市町村しちょうそんぜい6%)となった。

日本にっぽん所得しょとくぜい制度せいどにおける基礎きそ控除こうじょ配偶はいぐうしゃ控除こうじょ制度せいどは、一定いってい金額きんがく以下いか所得しょとくには課税かぜいしないため累進るいしん所得しょとくぜいおな効果こうかをもたらす。このため生計せいけいしゅたる部分ぶぶんおっと所得しょとくたよっている家庭かていでは、つま所得しょとく年間ねんかん103まんえんえると配偶はいぐうしゃ控除こうじょけられなくなることをきらって、パートタイムはたらおおくの主婦しゅふ年間ねんかん103まんえん以上いじょう仕事しごとができる能力のうりょく時間じかんがあるにもかかわらず年間ねんかん103まんえん以下いかになるように「調整ちょうせい」している[14]

脚注きゃくちゅう

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  1. ^ a b ジョセフ・E・スティグリッツ『ミクロ経済けいざいがく だい2はん東洋経済新報社とうようけいざいしんぽうしゃ、2002ねん。pp.648-649
  2. ^ 貝塚かいづか啓明ひろあき財政ざいせいがく[だい2はん]』東京大学とうきょうだいがく出版しゅっぱんかい、1996ねん。p.140
  3. ^ ポール・クルーグマン ロビン・ウェルス『クルーグマン ミクロ経済けいざいがく東洋経済新報社とうようけいざいしんぽうしゃ、2007ねん。pp.602-604
  4. ^ 山田やまだかぜ太郎たろう人間にんげん臨終りんじゅうまき下巻げかん徳間書店とくましょてん、1987ねん、p.361
  5. ^ ポール・クルーグマン ロビン・ウェルス『クルーグマン ミクロ経済けいざいがく東洋経済新報社とうようけいざいしんぽうしゃ、2007ねん。p.606
  6. ^ a b 飯田いいだ泰之やすゆき, 雨宮あまみやしょりんだつ貧困ひんこん経済けいざいがく筑摩書房ちくましょぼう〈ちくま文庫ぶんこ <い76-1>〉、2012ねん、192ぺーじISBN 9784480429780NCID BB10270068全国ぜんこく書誌しょし番号ばんごう:22155251 
  7. ^ a b 大竹おおたけ文雄ふみお競争きょうそう公平こうへいかん-市場いちば経済けいざい本当ほんとうのメリット』 中央公論ちゅうおうこうろんしんしゃ中公新書ちゅうこうしんしょ〉、2010ねん、183ぺーじ
  8. ^ トーマス・カリアー 『ノーベル経済けいざいがくしょうの40ねんうえ〉-20世紀せいき経済けいざい思想しそう入門にゅうもん筑摩書房ちくましょぼう筑摩ちくま選書せんしょ〉、2012ねん、162ぺーじ
  9. ^ 2010ねん9がつ 日本にっぽんにおける貧困ひんこん議論ぎろん現状げんじょう展望てんぼう 山上やまかみ俊彦としひこ
  10. ^ 視点してん格差かくさ是正ぜせい所得しょとくぜい改革かいかく急務きゅうむ=土居どいたけあきらReuters 2014ねん12月30にち
  11. ^ Voice』2001ねん5がつごう 竹中たけなか平蔵へいぞう櫻井さくらいよしこ連載れんさい対談たいだん ませ、日本人にっぽんじん だい5かい佐藤さとう雅彦まさひことの共著きょうちょ経済けいざいってそういうことだったのか会議かいぎ』(日本経済新聞社にほんけいざいしんぶんしゃ)77ページなど
  12. ^ 佐藤さとう雅彦まさひこ竹中たけなか平蔵へいぞう経済けいざいってそういうことだったのか会議かいぎ日本経済新聞社にほんけいざいしんぶんしゃがく日経にっけいビジネス人文じんぶん〉、2002ねん、402ぺーじ
  13. ^ 竹中たけなか平蔵へいぞう竹中たけなか平蔵へいぞう特別とくべつ授業じゅぎょう-きょうからあなたは「経済けいざい担当たんとう補佐ほさかん」』 集英社しゅうえいしゃインターナショナル、2005ねん、77ぺーじ
  14. ^ パート収入しゅうにゅうはいくらまで所得しょとくぜいがかからないか

参考さんこう文献ぶんけん

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関連かんれん項目こうもく

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