鰻うなぎ丼どんぶり

鰻うなぎ丼どんぶり

鰻うなぎ丼どんぶり（うなぎどんぶり、略称りゃくしょう:うなどん）は、日本にっぽんの丼どんぶり料理りょうり。丼どんぶり鉢はちに盛もった白しろ飯めしの上うえに鰻うなぎの蒲焼かばやきを載のせたもの。江戸えど・東京とうきょうの郷土きょうど料理りょうりとされる日本にっぽん料理りょうりの一ひとつである。鰻うなぎ飯めし（うなぎめし、まんめし）、まむしとも呼よばれる。また派生はせい料理りょうりとして鰻重うなじゅう（うなぎじゅう、略称りゃくしょう：うなじゅう）がある（後述こうじゅつ）。

概要がいよう

丼どんぶり鉢ばちに飯めしをよそってタレをかけ、鰻うなぎの蒲焼かばやきを載のせる。地域ちいきによっては上うえからさらに飯めしを盛もり、鰻うなぎを覆おおい隠かくすこともある。薬味やくみには粉こな山椒さんしょう、箸休はしやすめとして奈良漬ならづけなどの漬物つけもの、肝吸きもすいなどが添そえられる。「丼どんぶり」という名称めいしょうであるが、陶磁器とうじきではなく丸まる型がたの漆器しっきの椀わんが使用しようされることも多おおい。

タレは醤油じょうゆとみりんを主しゅとして作つくられ、多おおくの店みせでは少すこしずつ継つぎ足たしながら大切たいせつに使用しようされる。鰻うなぎから出でる脂あぶらや旨味うまみ、焦こげた皮かわや炭すみの香かおりが加くわわることでコクや深ふかみが生うまれ、老舗しにせならではの味あじへと熟成じゅくせいされていくという。

山椒さんしょうの粉こなは食たべる直前ちょくぜんに振ふりかける。山椒さんしょうは脂あぶらの多おおい鰻うなぎをさっぱりと食たべるための工夫くふうであり、消化しょうかを助たすけたり泥どろ臭くささを消けす効果こうかがあるとされる。

国産こくさんの鰻うなぎが高値たかねであるため、鰻うなぎ丼どんぶりの値段ねだんも高たかく設定せっていされている場合ばあいが多おおい。値段ねだんに幅はばはあるものの、安やすいものでも1000円えん台だい。高たかいものだと10000円えんを越こすものもある。これらの理由りゆうから、「高級こうきゅうな日本にっぽん食しょく=鰻うなぎ丼どんぶり」を思おもい浮うかべる人ひとも多おおい。

歴史れきし

丼どんぶり飯めしの歴史れきしの中なかで最もっとも古ふるく、文化ぶんか年間ねんかん（1804 - 1818年ねん）に誕生たんじょうしたとされる。

由来ゆらいには諸説しょせつあり、宮川みやがわ政まさし運うんの『俗事ぞくじ百ひゃく工こう起源きげん』（1885年ねん）には、堺さかい町まち（現在げんざいの東京とうきょう都と中央ちゅうおう区く日本橋にほんばし人形にんぎょう町まち3丁目ちょうめ）の芝居しばい小屋こや「中村なかむら座ざ」のスポンサー・大久保おおくぼ今こん助すけが、蒲焼かばやきが冷さめないように、丼どんぶり飯めしの間あいだに挟はさませて芝居しばい小屋こやに届とどけさせたのが、鰻うなぎ飯めしの起源きげんと書かかれている。この大久保おおくぼによる鰻うなぎ飯めしの起源きげんとなったのは、茨城いばらき県けん龍ケ崎りゅうがさき市しにある牛久沼うしくぬまである。

ただし、青葱あおねぎ堂どう冬ふゆ圃の『真ま佐さ真しんのかつら』（1857年ねん）には、著者ちょしゃの幼少ようしょう時じに葺屋町まち（堺さかい町まちの隣となり町まち）の裏長屋うらながやで鰻うなぎ丼どんぶりが売うられていたとの記述きじゅつもあり、大久保おおくぼ以前いぜんに同おなじような工夫くふうをしている人ひとがいたことが過去かこの文献ぶんけんからはわかっている。

調理ちょうり法ほうの変遷へんせんにもいわれは多おおく、一説いっせつには江戸えど時代じだいの蒲焼かばやきはタレを付つけて焼やき上あげた地ち焼やきだったが、明治めいじ時代じだいになると焼やく過程かていで蒸ふかす方法ほうほうが取とり入いれられ、大正たいしょう時代じだいには蒸ふかす技術ぎじゅつが確立かくりつされた。そうすると、飯めしの間あいだに蒲焼かばやきを挟はさむと二に重じゅうに蒸ふかすことになり、東京とうきょうでは中ちゅう入いれタイプの鰻うなぎ飯めしは姿すがたを消けし、現在げんざいのようにウナギはご飯はんの上うえに乗のるようになったという。

他方たほう、鰻うなぎ丼どんぶりのはじまりの頃ころは、焼やいた鰻うなぎが冷さめぬよう飯めしと飯めしの間あいだに挟はさみ、飯めしの上うえにも載のせるスタイルが一般いっぱん的てきであったが、江戸えどの鰻うなぎは蒸むして柔やわらかく仕上しあげるため身みが崩くずれやすく、しだいに飯めしの上うえに鰻うなぎを載のせるのみとなっていった。これに対たいし関西かんさいではあらかじめ鰻うなぎを蒸ふかすことがないため身みが崩くずれず、その結果けっか飯めしのあいだに挟はさむスタイルが現在げんざいに至いたるまで残のこったとする説せつもある。

明治めいじ時代じだいになると、鰻うなぎ飯めしは鰻うなぎ丼どんぶり（うなぎどんぶり）とも呼よばれ、まもなく鰻うなぎ丼どんぶり（うなどん）と略称りゃくしょうされ、名なが定着ていちゃくした。さらにウナギが重箱じゅうばこに盛もりつけられるようになると、鰻重うなじゅうと呼よばれ、鰻うなぎ丼どんぶりよりも見栄みばえが良よいことから鰻うなぎ丼どんぶりの人気にんきを凌しのぐようになった。

同種どうしゅ・類似るいじの料理りょうり

鰻うなぎ飯めし

鰻うなぎ丼どんぶりは、鰻うなぎ飯めし（うなぎめし、まんめし）とも呼よばれる。江戸えど時代じだい後期こうきの風俗ふうぞくを記しるした『守まもり貞さだ謾稿』には、京都きょうと大阪おおさかでは「まぶし」、江戸えどでは「鰻うなぎ丼どんぶり飯めし」の略りゃくとして単たんに「どんぶり」という呼称こしょうが一般いっぱん的てきであったと記しるされている。

まむし

近畿きんき地方ちほうでは鰻うなぎ丼どんぶりのことを「まむし」と呼よび、「真ま蒸ふけ」などの字じが当あてられることもある。語源ごげんは鰻うなぎ飯めし（まんめし）が訛なまったとする説せつや、飯めしに鰻うなぎやタレをまぶした「まぶし」から転てんじたという説せつ、鰻うなぎを飯めしの間あいだに挟はさんで蒸むらす意いの「ままむし（飯めし蒸むし）」もしくは「まむし（間あいだ蒸むし）」に由来ゆらいするなどの説せつがある。丼どんぶり鉢ばちや重箱じゅうばこでなく飯櫃めしびつに盛もり付つけたもののことを、近畿きんきではひつまむし、中京ちゅうきょう地方ちほうではひつまぶしと呼よんでいる。蛇へびのマムシ（蝮まむし）とは無関係むかんけいであるが、これに由来ゆらいするとする俗説ぞくせつが語かたられることもある。

鰻重うなじゅう

鰻重うなじゅう（川かわ豊ゆたか本店ほんてん）

食器しょっきとして重箱じゅうばこを用もちいる場合ばあいは鰻重うなじゅう（うなぎじゅう、略称りゃくしょう：うなじゅう）と呼よばれる。鰻うなぎ丼どんぶりとの違ちがいは器うつわのみであるが、鰻うなぎ丼どんぶりと鰻重うなじゅうの両方りょうほうを置おく飲食いんしょく店てんにおいては、一般いっぱんに鰻うなぎ丼どんぶりよりも鰻うなぎの量りょうが多おおく、肝吸きもすいや小鉢こばちなどの付つく上位じょういメニューとして位置付いちづけされている。

鰻うなぎ丼どんぶりや鰻重うなじゅうには「上うえ」や「特とく上じょう」といったランク付づけがあるが、これはうなぎの量りょうの違ちがいだけで、質しつは基本きほん的てきに変かわらない。これは鰻うなぎの仕入しいれ先さきが通常つうじょうは一いち箇所かしょからのみであるためで、産地さんちの異ことなる鰻うなぎを用もちいる場合ばあいはその旨むねが特記とっきされる。

鰻重うなじゅうとは、御飯ごはんと鰻うなぎの蒲焼かばやきを下したから「飯めし」「鰻うなぎ」「飯めし」「鰻うなぎ」と交互こうごに重かさねる「鰻重うなじゅうね」を意味いみしたという説せつもある。

うなぎめし・うなぎ弁当べんとう（駅弁えきべん）

鰻うなぎ丼どんぶりは駅弁えきべんとしても定番ていばんであり、特とくに一大いちだい産地さんちである浜名湖はまなこに近ちかい浜松はままつ駅えきの名物めいぶつとして知しられる。駅弁えきべんとして売うられる際さいには折箱おりばこに入いれられるため、鰻うなぎ丼どんぶりや鰻重うなじゅうではなく「うなぎめし」「うなぎ弁当べんとう」と表記ひょうきされる例れいが多おおい。

逸話いつわ

「鰻うなぎ香が内閣ないかく」の逸話いつわの元もととなった鰻うなぎ割烹かっぽう大和田おおわだの鰻重うなじゅう（2011年ねん）

• 鰻うなぎ丼どんぶりは香かおりが特徴とくちょう的てきで鰻うなぎ屋やの店先みせさきまで漂ただようことから、「鰻うなぎ屋やの前まえで毎日まいにち香かおりをおかずに飯めしを食くう男性だんせいが居いて、腹はらを立たてた鰻うなぎ屋やが香かおりの嗅かぎ代だいを請求せいきゅうすると、銭ぜにをジャラジャラ鳴ならして『嗅かぎ代だいだから音おとだけで十分じゅうぶんだろう』とやり返かえした」という小咄こばなしがある。
• 1914年ねんに次期じき首相しゅしょうに指名しめいされながら組閣そかくに失敗しっぱいして大命たいめいを拝辞はいじした清浦きようら奎吾は、組閣そかく難航なんこう中ちゅうに「大和田おおわだ（当時とうじ人気にんきの鰻うなぎ屋や）の前まえを通とおっているようなもので匂においはするが御膳ごぜんはなかなか出でて来こない」とぼやいたことがあり、この時ときのいきさつは「鰻うなぎ香が内閣ないかく」と呼よばれている（なお清浦きようらは10年ねん後ごの1924年ねんに首相しゅしょうに就任しゅうにん、「御膳ごぜん」にありついた）。
• 老舗しにせの鰻うなぎ屋やでは、たれだけで飯めしを食たべられるとの声こえも多おおい。東京とうきょう都と千代田ちよだ区くの「ふな亀かめ」（2008年ねん閉店へいてん）のメニューには、飯めしにたれをかけただけの「うなだれ丼どんぶり」があった。注文ちゅうもんは月つきにわずか一いち度どか二に度どほどであったが、洒落しゃれのわかる客きゃくは非常ひじょうに面白おもしろがったという。一部いちぶの江戸えどっ子この間あいだでは「鰻重うなじゅうを頼たのみ、あえて鰻うなぎを捨すてて茶漬ちゃづけにして食たべる」のが粋いきな食たべ方かたであるとされ、有名人ゆうめいじんでは将棋しょうぎ棋士きしの木村きむら義雄よしお（十じゅう四よん世せい名人めいじん）などがそのような食たべ方かたを好このんだという。
• 鰻うなぎと丼どんぶりの情報じょうほう発信はっしんサイト『うなぎ STYLE』編集へんしゅう部ぶ主催しゅさいの日本にっぽん流行りゅうこう丼どんぶり大賞たいしょう選考せんこう委員いいん会かいが選考せんこうを行おこない、2020年ねんの『日本にっぽん流行りゅうこう丼どんぶり大賞たいしょう』金賞きんしょうに「名古屋なごや系けいうな丼どん」（炭焼すみやきうな富士ふじ）と「うな牛うし」（すき家か）が選えらばれている。
• 1985年ねん7月がつ12日にち、昭和しょうわ天皇てんのうが後水尾天皇ごみずのおてんのうを抜ぬき歴代れきだい最さい高齢こうれいの天皇てんのうとなった際さい、祝賀しゅくが行事ぎょうじなどは行おこなわれなかったが、側近そっきんらと鰻重うなじゅうを食たべたという。

関連かんれん項目こうもく

• 深川ふかがわめし
• 柳川やながわ鍋なべ
• どぜう鍋なべ
• ナマズ料理りょうり
• うなぎ弁当べんとう（新幹線しんかんせん）