マネジメント・バイアウト

マネジメント・バイアウト（英えい: management buyout、MBO）は経営けいえい陣じん（マネジメント）による自社じしゃの買収ばいしゅう（バイアウト）である。

MBOでは会社かいしゃが株主かぶぬしから自社じしゃ株式かぶしきを譲ゆずり受うけたり、事業じぎょう部門ぶもん統括とうかつ者しゃが当該とうがい事業じぎょう部門ぶもんを事業じぎょう譲渡じょうとされたりすることで、オーナー経営けいえい者しゃとして独立どくりつする。経営けいえい陣じんによる買収ばいしゅう、他者たしゃ買収ばいしゅうへの対抗たいこう策さく、「雇やとわれ社長しゃちょう」として経営けいえい参画さんかくした者ものが自己じこ所有しょゆう化かする場合ばあいなど多様たような場面ばめんで用もちいられ、会社かいしゃ商号しょうごうや屋号やごうなどを継承けいしょうする場合ばあいも多おおく、いわゆる「のれん分わけ」に用もちいられる場合ばあいもある。

経営けいえい陣じんではなく従業じゅうぎょう員いんが株式かぶしきを譲受ゆずりうける場合ばあいをエンプロイー・バイアウト（英えい: employee buyout）、経営けいえい陣じんと従業じゅうぎょう員いんが共同きょうどうで株式かぶしきを譲受ゆずりうける場合ばあいをMEBO（英えい: management and employee buyout）、買収ばいしゅう後ごに経営けいえい陣じんを外部がいぶから招聘しょうへいするレバレッジド・バイアウトをマネジメント・バイ・イン（英えい: management buy-in）と呼称こしょうする。

概説がいせつ

一般いっぱん的てきには経営けいえい陣じんによる企業きぎょう買収ばいしゅうをいうが、文脈ぶんみゃくや論者ろんしゃにより違ちがいがあると指摘してきされている。

レバレッジド・バイアウト（LBO）との関係かんけいについては、買収ばいしゅう側がわが自社じしゃ内ないであればMBO、第三者だいさんしゃであればLBOとする見方みかたもあるが、スキームが似にていることからMBOをLBOの一種いっしゅとすることもある。

マネジメント・バイアウト（MBO）の「バイアウト」とは株主かぶぬしとなって所有しょゆう権けんを取得しゅとくする買収ばいしゅう形態けいたいをいう。アメリカでは1975年ねんから1980年代ねんだいにかけてバイアウトとしてレバレッジド・バイアウト（LBO）がMBOに先行せんこうして行おこなわれた経緯けいいがある。その後ご、アメリカではMBOの概念がいねんがLBOの一種いっしゅとして扱あつかわれ、買収ばいしゅうグループに内部ないぶの経営けいえい陣じんが参加さんかしていればMBOに含ふくむ曖昧あいまいなものになっている。

一方いっぽう、マネジメント・バイアウト（MBO）という用語ようごそのものは1980年ねんにイギリスで作つくり出だされた。イギリスでは「バイアウト」に含ふくまれる買収ばいしゅう形態けいたいを、企業きぎょう内部ないぶ者しゃ主導しゅどうのMBO、MEBO（management and employee buyout）、EBO（employee buyout）と、企業きぎょう外部がいぶ者しゃ主導しゅどうのBIMBO（hybrid buy-in/management buyout）、MBI（management buy-in）、IBO（investor-led buyout）に区別くべつしており、イギリスの概念がいねんでは経営けいえい陣じんに主導しゅどう性せいがない場合ばあいや所有しょゆう権けん獲得かくとくへの意欲いよくがないものはMBOには含ふくまれないと考かんがえられている。

日本にっぽんでMBOが認識にんしきされ始はじめたのは1990年代ねんだい終盤しゅうばんで、アメリカとイギリスの両方りょうほうから影響えいきょうを受うけたが、MBOの概念がいねんに関かんしてはアメリカの影響えいきょうを強つよく受うけていると指摘してきされている。ただし実態じったいとしてはそれ以前いぜんから、MBOに相当そうとうするような形かたちでの企業きぎょう買収ばいしゅう・独立どくりつは度々たびたび行おこなわれていた（東洋水産とうようすいさん、ミロク情報サみろくじょうほうさービスびすなど）。

形態けいたい

以下いかのようなパターンがあるとされる。

• 親会社おやがいしゃの経営けいえい者しゃが株式かぶしき市場いちばで自社じしゃの株式かぶしきを取得しゅとくして非公開ひこうかい企業きぎょうとするパターン。
• 子会社こがいしゃの経営けいえい者しゃが自社じしゃの株式かぶしきを取得しゅとくして独立どくりつするパターン。
• 事業じぎょう部長ぶちょうなどが会社かいしゃの事業じぎょう部門ぶもんを買収ばいしゅうして独立どくりつするパターン。

ただし、事業じぎょう譲渡じょうとにより行おこなわれるものと株式かぶしき取得しゅとくにより行おこなわれるものとでは多おおくの点てんで違ちがいがある。

MBOに必要ひつような資金しきんは、本来ほんらいであれば会社かいしゃを買かい取とる側がわの経営けいえい陣じんの自己じこ資金しきんによるべきであるが、買収ばいしゅうする側がわ（経営けいえい陣じん）が買収ばいしゅうに十分じゅうぶんな資金しきんを持もっていない場合ばあい、実際じっさいにはいわゆるプライベート・エクイティ・ファンド（PE）などの協力きょうりょくを仰あおぐのが一般いっぱん的てきで、MBOの結果けっか、資本しほん的てきにはPE等とうが主宰しゅさいする投資とうし組合くみあいが大だい株主かぶぬしとなるケースが多おおく見みられる。

経営けいえい陣じんの自己じこ資金しきんの提供ていきょうが小ちいさく、投資とうしファンドの提供ていきょう資金しきんの比率ひりつが相対そうたい的てきに大おおきい場合ばあい、実質じっしつ的てきには投資とうしファンドによる上場じょうじょう会社かいしゃの買収ばいしゅうになっていて経営けいえい陣じんは「雇やとわれ経営けいえい者しゃ」として残のこっているにすぎない場合ばあいがあり「擬似ぎじMBO」として一般いっぱん的てきな意味いみのMBO「真性しんせいMBO」と分わけて議論ぎろんする見方みかたがある。

特とくに疑似ぎじMBOにおいて、MBOから一定いってい期間きかん経過けいか後ごも経営けいえい状じょう況きょうが好転こうてんしない場合ばあい、大だい株主かぶぬしであるPEが経営けいえい陣じんを解任かいにんし、PEの意向いこうに沿そう新あらたな経営けいえい者しゃを招聘しょうへいする例れいも有ある（すかいらーくが代表だいひょう例れい）。これはMBOと言いいつつも、実際じっさいには経営けいえい陣じんが当該とうがい企業きぎょうのオーナーたり得えていないために起おこる事象じしょうであり、一部いちぶにはこのような「実態じったいはPEが経営けいえい権けんを握にぎるMBO」を「名なばかりMBO」として批判ひはんする意見いけん や、「創業そうぎょう者しゃが自みずから保有ほゆうする株式かぶしきを現金げんきん化かする手段しゅだんとしてMBOが隠かくれ蓑みの的てきに使つかわれている」という意見いけん も出でてきている。

動機どうき

MBOなどのバイアウトによって企業きぎょう価値かちが上昇じょうしょうする源泉げんせんに関かんしては、節税せつぜい仮説かせつ、富とみの移転いてん仮説かせつ、フリー・キャッシュ・フロー仮説かせつ、エージェンシー・コスト仮説かせつ、企業きぎょう組織そしき形態けいたい仮説かせつ、株式かぶしき過小かしょう評価ひょうか仮説かせつ、経営けいえい者しゃインセンティブ強化きょうか仮説かせつなどがある。

アメリカでは借入かりいれ利子りしに対たいする課税かぜい控除こうじょの節税せつぜいの恩恵おんけいを受うけたり、株価かぶかの株式かぶしき市場いちばでの過小かしょう評価ひょうかされていることが結むすび付つき、MBOが促進そくしんされているとみられている。

また、敵対てきたい的てき買収ばいしゅうの対抗たいこう策さくとして閉鎖へいさ会社かいしゃ化かしたり、コングロマリットの分割ぶんかつ（日本にっぽんではのれん分わけ）に用もちいられる場合ばあいもある。

会社かいしゃが上場じょうじょうを維持いじする必要ひつようがない場合ばあいもあり、特とくに非ひ上場じょうじょう会社かいしゃに投資とうしするプライベート・エクイティ・ファンドが増ふえ、非ひ上場じょうじょう会社かいしゃの資金しきん調達ちょうたつの手法しゅほうが多様たよう化かしており、資金しきん調達ちょうたつにおいて上場じょうじょう会社かいしゃであることの相対そうたい的てき優位ゆうい性せいが薄うすれてきていることも背景はいけいにある。

事業じぎょう承継しょうけいで後継こうけい者しゃがオーナー株主かぶぬし（主おもに現げん経営けいえい者しゃ）から株式かぶしきを買かい取とる手法しゅほうを用もちいる事業じぎょう承継しょうけい型がたMBOもある。

メリット・デメリット

メリット

• 経営けいえい陣じんのメリット
  • 短期たんき的てきな業績ぎょうせきに左右さゆうされることなく、中長期ちゅうちょうき的てきな迅速じんそくかつ機動きどう的てきな経営けいえいができる。
  • 上場じょうじょうを廃止はいしすることで、敵対てきたい的てき買収ばいしゅうのリスクを回避かいひできる。
• 会社かいしゃ側がわのメリット
  • 上場じょうじょうを廃止はいしすることで、株主かぶぬし総会そうかいの開催かいさいや有価ゆうか証券しょうけん報告ほうこく書しょの作成さくせいなどのコストを削減さくげんできる。
  • 上場じょうじょう会社かいしゃで要求ようきゅうされる情報じょうほう開示かいじの必要ひつよう性せいがなくなり、企業きぎょう秘密ひみつなど経営けいえい上じょう重要じゅうような情報じょうほうが公開こうかいされるのを防ふせぐことができる。
• 市場いちばのメリット
  • 会社かいしゃが株式かぶしき市場いちばからの資金しきんを効率こうりつ的てきに活用かつようできていないとみられる場合ばあい、上場じょうじょうを維持いじされるよりも、その資金しきんが新あらたな投資とうし先さきに振ふり向むけられるようにしてもらったほうが望のぞましいという考かんがえ方かた。

デメリット

• 非ひ上場じょうじょう化かすることで、経営けいえいに対たいする監視かんし機能きのうが低下ていかする懸念けねんがある。
• 非ひ上場じょうじょう化かの過程かていで取締役とりしまりやくの利益りえき相反あいはんなどの問題もんだいが生しょうじる。