SMV

SMV（selectable mode vocoder）は CDMA2000 ネットワークで利用りようされる可変かへんビットレートの音声おんせい符号ふごう化か方式ほうしきである。それ以前いぜんから CDMA ネットワークで使つかわれている符号ふごう化か方式ほうしきの EVRC のように通話つうわ中ちゅうに音声おんせいの内容ないようによりビットレートを変かえることができることに加くわえ、モード指定していにより基地きち局きょく側がわから音質おんしつと平均へいきんビットレートの制御せいぎょを行おこなうことができる特徴とくちょうがある。

この特徴とくちょうはその後ごに規格きかく化かされた CDMA2000 ネットワーク用ようの音声おんせい符号ふごう化か方式ほうしきである VMR-WB や EVRC-B 以降いこうの仕様しようなどにも引ひき継つがれている。

概要がいよう

SMV は CDMA ネットワークのために提案ていあんされた音声おんせい符号ふごう化か方式ほうしきで、1999年ねんに CDMA 方式ほうしきの業界ぎょうかい団体だんたいである CDG（CDMA Development Group）が要求ようきゅう仕様しようを作成さくせいし 、 その後ご様々さまざまな評価ひょうかを経へて 2001年ねん6月がつに 3GPP2 の標準ひょうじゅん規格きかく C.S0030-0 として採用さいようされた 。

ビットレートは入力にゅうりょくとなる音声おんせい信号しんごうの種類しゅるい（有声音ゆうせいおん/無声音むせいおん/無音むおん状態じょうたいなど）と指定していされているモードとの組くみ合あわせにより動的どうてきに変かわる。音声おんせい信号しんごうの内容ないように応おうじて8.55 kbps（フルレート）、4.0 kbps（ハーフレート）、2.0 kbps（1/4レート）0.8 kbps（1/8レート）のいずれかのビットレートに符号ふごう化かする。1/8レートは無音むおん状態じょうたい（しゃべっていない状態じょうたい）のみで使つかわれる。

これらの符号ふごう化かデータはそれぞれ CDMA2000 ネットワークのレートセット1（9.6 Kbps を基準きじゅんとする通信つうしんレート）でのフレームレート 9600 bps、4800 bps、2400 bps、1200 bps を使つかい送受信そうじゅしんされる。CDMA2000 ネットワークで使つかわれている CDMA 方式ほうしきは、各かく利用りよう者しゃのビットレートが下さがるほど多おおくの利用りよう者しゃが同時どうじ接続せつぞくできる特性とくせいがあり、コーデックのビットレートを可変かへんにして平均へいきんビットレートを下さげることは1基地きち局きょくあたりの収容しゅうよう数すう（同時どうじに通話つうわ可能かのうな利用りよう者しゃ数すう）の向上こうじょうに役立やくだっている。

平均へいきんビットレートは基地きち局きょく側がわが指示しじする「符号ふごう化かモード」（パラメータ名めい "RATE_REDUC"）で制御せいぎょする。符号ふごう化かモードは、基地きち局きょく当あたりの収容しゅうよう数すうや携帯けいたい電話でんわと基地きち局きょくとの間あいだの無線むせん状態じょうたいなど通信つうしんネットワーク側がわの状態じょうたいと、要求ようきゅうされる通信つうしん品質ひんしつ（QoS）により決きめられる。平均へいきんビットレートは符号ふごう化かモード 0 が最もっとも高たかく 1、2 と順次じゅんじ低ひくくなり、また音声おんせいの品質ひんしつも同様どうように低下ていかする。

符号ふごう化かモードは 0 から 3 までの4モードがあり、それぞれプレミアムモード、スタンダードモード、エコノミーモード、キャパシティセービングモードとも呼よばれる。加くわえて、最大さいだいビットレートをハーフレート（4.0 kbps）に抑おさえるハーフレートマックスモード（half-rate max mode）があり、モード 0 とモード 1 に適用てきようできる。

平均へいきんビットレートは音声おんせいの内容ないようにより変かわるが、符号ふごう化かモードと平均へいきん的てきな会話かいわでの想定そうてい平均へいきんビットレート（符号ふごう化かのレート）との関係かんけいは以下いかのようになる 。

SMV の符号ふごう化かレート

RATE_REDUC (binary)	符号ふごう化かモード	想定そうてい平均へいきんビットレート	説明せつめい
‘000’	0	7.95 kbps	プレミアムモード
‘001’	1	5.82 kbps	スタンダードモード
‘010’	2	4.50 kbps	エコノミーモード
‘011’	3	3.95 kbps	キャパシティセービングモード
‘100’	4	4.00 kbps	モード0 ＋ ハーフレートマックスモード
‘101’	5	3.67 kbps	モード1 ＋ ハーフレートマックスモード
‘110’			将来しょうらいのために予約よやく
‘111’			将来しょうらいのために予約よやく

SMV で使つかうアルゴリズムは、CELPの一種いっしゅである eX-CELP（eXtended CELP）を用もちいる。これは1つの技術ぎじゅつではなく、EVRC で使用しようされている RCELP アルゴリズムなど様々さまざまなアイデアを組くみ合あわせ選択せんたくして使つかうものである 。

また、それ以前いぜんに開発かいはつされた EVRC と同様どうようの雑音ざつおん抑制よくせいの機能きのうが仕様しように組くみ込こまれており、フロントエンドとして使つかわれる。

SMV の特徴とくちょうは以下いかの通とおりである。

• 入出力にゅうしゅつりょくのサンプリング周波数しゅうはすうは 8 kHzきろへるつ/ 16 bit
• 入力にゅうりょくとなる音声おんせい信号しんごうの種類しゅるいによる可変かへんビットレート、8.55 kbps/4.0 kbps/0.8 kbps
• CELPの一種いっしゅである eX-CELP を使用しよう
• 20 msのフレーム長なが
• モード指定していにより音質おんしつと平均へいきんビットレートを制御せいぎょ
• 雑音ざつおん抑制よくせいの機能きのうが規格きかく自体じたいに組くみ込こまれている

CDMA2000 ネットワークでのサービス種別しゅべつを表あらわすサービスオプションとしては SO56（Service Option 56）が割わり当あてられている。

SMV の符号ふごう化かデータを RTP を用もちいインターネット上じょうで送おくるためのデータ形式けいしきは、IETF標準ひょうじゅんの RFC 3558 で定義ていぎされている 。

SMV は 3GPP2 でのマルチメディア用ようファイルフォーマットである 3G2 でも使つかうことができる。携帯けいたい電話でんわでの音声おんせい通信つうしん用よう以外いがいに、マルチメディアメッセージングサービスやマルチメディアストリーミングサービスなどの 3GPP2 で定義ていぎされた各種かくしゅマルチメディアサービスで使用しようすることができる。

eX-CELP

SMV では CELP の一種いっしゅである eX-CELP（eXtended CELP）と呼よばれる技術ぎじゅつを用もちいる。

一般いっぱん的てきな CELP は人間にんげんの音声おんせいを声こえ道どうに相当そうとうする線形せんけい予測よそくフィルターと声帯せいたいに相当そうとうする適応てきおう型がたと固定こてい型がたのコードブックとでモデル化かし、「合成ごうせいによる分析ぶんせき」（analysis-by-synthesis）の手法しゅほうを用もちいてコードブックから誤差ごさが最小さいしょうになるものを探索たんさくする。

eX-CELP の基本きほん的てきとなる考かんがえ方かたは、通常つうじょうの CELP が固定こてい的てきなアルゴリズムを使つかい入力にゅうりょく信号しんごうとできるだけ同おなじ波形はけいになるように符号ふごう化かしようとするのに対たいし、様々さまざまなアルゴリズムを組くみ合あわせて知覚ちかく上じょう重要じゅうような部分ぶぶんを強化きょうかした符号ふごう化かを行おこなうことである 。

具体ぐたい的てきには、 CELP をベースとしながら、以下いかのような方法ほうほうで聴感上じょうの音質おんしつを落おとすことなくビットレートの低減ていげんを行おこなっている 。

• オープンループとクローズドループの組くみ合あわせ（closed-loop-open-loop-analysis、COLA）

合成ごうせいによる分析ぶんせきでのクローズドループだけでなく、完全かんぜんな一致いっちが必要ひつようないパラメータはオープンループで符号ふごう化かするなど、柔軟じゅうなんに切きり替かえる

• 入力にゅうりょく信号しんごうの細こまかい分類ぶんるいとアルゴリズムの切きり替かえ（variant algorithm structures、VAS）

入力にゅうりょく信号しんごうを細こまかくカテゴリー分わけして処理しょりを切きり替かえ

（定常ていじょう的てきな有声音ゆうせいおん、非ひ定常ていじょう的てきな有声音ゆうせいおん、発声はっせいの開始かいし、定常ていじょう的てきな無声音むせいおん、非ひ定常ていじょう的てきな無声音むせいおん、背景はいけい雑音ざつおんのみ、など）

• 信号しんごうの修正しゅうせい

EVRC で使つかわれる RCELP アルゴリズムのように、入力にゅうりょく信号しんごうを知覚ちかく上じょう影響えいきょうが無ない範囲はんいで効率こうりつ的てきに符号ふごう化かできるよう修正しゅうせいする

• 柔軟じゅうなん性せいのある固定こていコードブック

CELP での固定こていコードブックを入力にゅうりょく信号しんごうの分類ぶんるいに合あわせた複数ふくすうのサブコードブックに分わけ、それぞれの信号しんごうを適切てきせつに表現ひょうげんできるようにする

• マルチモード

定常ていじょう的てきな有声音ゆうせいおん（ほぼ同おなじ波形はけいの繰くり返かえし）とそれ以外いがいとで符号ふごう化か処理しょりの全体ぜんたい構成こうせいを変かえる（Type 1/0 の2種類しゅるいの構成こうせいが存在そんざい）

SMV と CDMA2000 ネットワークで長ながく使つかわれている EVRC（EVRC revision 0）の、MOS 値ねは以下いかのようになる。 MOS 値ねは、総合そうごう的てきな音質おんしつを表あらわす主観しゅかん評価ひょうか値ちで1から5の値ねをとり、5が最もっとも音質おんしつが高たかく1が最もっとも低ひくい。

コーデック	MOS (Clean)	MOS (Noisy)	説明せつめい
EVRC	3.581	3.346	EVRC revision 0 での値ね
SMV (モード0)	3.900	3.569	EVRC と同おなじ平均へいきんビットレート
SMV (モード1)	3.636	3.528
SMV (モード2)	3.464	3.526

ここで "MOS (Clean)" は背景はいけい雑音ざつおんが無ない時ときの、"MOS (Noisy)" は背景はいけい雑音ざつおんがある時ときの MOS 値ねである。同おなじ平均へいきんビットレートでの総合そうごう的てきな音質おんしつは EVRC より高たかく、7 割わり程度ていどの平均へいきんビットレート（モード1）でも EVRC とさほど変かわらない。

参考さんこう文献ぶんけん

• Jacob Benesty, M. M. Sondhi, Yiteng Huang (ed). Springer Handbook of Speech Processing. Springer, 2007. ISBN 978-3540491255.
• “3GPP2 C.S0030-0 v1.0 Selectable Mode Vocoder (SMV) Service Option for Wideband Spread Spectrum Communication Systems” (PDF). 3rd Generation Partnership Project 2 (2001年ねん6月がつ). 2010年ねん7月がつ14日にち閲覧えつらん。
• “3GPP2 C.S0030-0 v3.0 Selectable Mode Vocoder (SMV) Service Option for Wideband Spread Spectrum Communication Systems” (PDF). 3rd Generation Partnership Project 2 (2004年ねん1月がつ). 2010年ねん7月がつ14日にち閲覧えつらん。
• S. Craig Greer, Andrew DeJaco. “Standardization of the Selectable Mode Vocoder”. 2010年ねん7月がつ14日にち閲覧えつらん。
• Y. Gao, A. Benyassine, J. Thyssen, H. Su, E. Shlomot. Ex-Celp : A Speech Coding Paradigm, IEEE Int. Conf. Acoust. Speech Signal Process, pp.689-692, 2001.
• Y. Gao, E. Shlomot, A. Benyassine, J. Thyssen, H. Su, C. Murgia. The Smv Algorithm Selected By Tia And 3gpp2 For Cdma, IEEE Int. Conf. Acoust. Speech Signal Process, pp.709-712, 2001.
• J. Makinen, P. Ojala, H. Toukomaa. “Performance Comparison of Source Controlled GSM AMR and SMV Vocoders” (PDF). Nokia Research Center, Multimedia Technologies Laboratory. 2010年ねん7月がつ14日にち閲覧えつらん。

関連かんれん項目こうもく

• 音声おんせい符号ふごう化か
• 3GPP2
• AMR
• AMR-WB
• EVRC
• VMR-WB

外部がいぶリンク

• 3GPP2 Specifications 3GPP2 仕様しようのウェブページ
• RFC 3558 - RTP Payload Format for Enhanced Variable Rate Codecs (EVRC) and Selectable Mode Vocoders (SMV)