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不換紙幣(ふかんしへい)とは、本位貨幣(正貨たる金貨や銀貨)との兌換が保障されていない法定紙幣(英: fiat money)のことをいう。政府の信用で流通するお金であることから、信用紙幣(英: faith money)とも呼ばれる。
先進国が発行する紙幣は、ほぼ全て不換紙幣である。政府が、政策金利の調整や、徴税などによって通貨の流通量(マネーサプライ)を管理し、インフレーションを制御することにより、不換紙幣は安定して流通することができる。
不換紙幣には次のような特質があるとされる[1]。
- 政府の信用を基礎としており、これがない限り本質的には役には立たない
- 兌換紙幣とは異なり一定量の貴金属と兌換できるわけではなく何ら裏付けを持たない
- 紙幣を生産するのに費用がかからない
世界初の紙幣は宋代に鉄銭の預り証として発行された交子だが、濫発されるに従って兌換は停止されて事実上の不換紙幣となっていった(中国の貨幣制度史を参照のこと)。19世紀から20世紀中盤における紙幣は金貨や銀貨との交換が前提とされていた兌換紙幣であったので、それに対して不換紙幣という名称がつけられた。ところが1929年の世界恐慌を機に金本位制の廃止が相次ぎ、特に日本では(関東大震災により遅れたものの)1931年に犬養毅内閣が金輸出を再禁止したことにより金本位制ではなくなったため、事実上日本銀行券は兌換紙幣ではなくなり、1942年の日本銀行法制定で兌換義務のない不換紙幣を発行できるようになった(いわゆる管理通貨制度)。
1945年にブレトン・ウッズ体制で1オンス=35米国ドルの金本位制が取る兌換紙幣であり、先進国の通貨もアメリカの通貨米ドルとの固定為替相場制を介するという形で、間接的に金本位制となっていた。しかし、1971年8月のいわゆるニクソン・ショック以降は金と米ドルの兌換が停止される。同年12月にスミソニアン協定で1オンス=38米国ドルの価値を下げつつも兌換紙幣の性格を維持しようとしていたが、1973年までに変動相場制に移行する形で1米国ドルの先進国の兌換紙幣としての性格は有名無実化することになった。1976年1月にIMFで変動相場制と米国ドルの金本位制廃止が正式に確認され、1978年4月に協定発効に伴って先進国の流通通貨における兌換紙幣は無くなった。
日本銀行券では、題号が単に「日本銀行券」であり、兌換文言がないものが不換紙幣となる。具体的には、い号券のうち「日本銀行兌換券」であるい五圓券以外の5種・ろ号券・A号券・B号券・C号券・D号券及びE号券である。ただしそのうちい壹圓券以外のい号券・ろ号券及びA拾錢券・A五銭券は現在通用停止となっている。
ただし、題号が「日本銀行兌換銀券」「日本銀行兌換券」となっているものでも、次のような歴史的経緯で通用期間の途中から(場合によっては有効だった全期間にわたって)事実上の不換紙幣となっている。
また、日本銀行券以外の日本で流通していた円・銭単位の紙幣では、明治通宝・国立銀行紙幣新券(旧券は金兌換券)・改造紙幣・小額政府紙幣が不換紙幣として発行されていたが、これらも現在では全て通用停止となっている。
- ^ 酒井良清著 『金融システム 第3版』 有斐閣アルマ、2006年、87-88頁