OpenAIの生成AI「ChatGPT」に新たな画像生成機能が実装されたことを受け、SNSは現在、AIが生成したスタジオジブリ作品風の画像で溢れかえっている。これをきっかけに激しい議論が巻き起こり、宮崎駿が過去に行ったAIに反発する発言が再び注目されることとなった。
OpenAIのCEOを務めるサム・アルトマンが率いるChatGPTとSoraの新しい画像生成機能のデモでは、自撮り写真がスタジオジブリ風の画像に変換されている。
アルトマンはXにて、「OpenAIは新しい技術を紹介する際に最初に示す例については多くのことを考慮しました」と述べており、ジブリの画風は意図的な選択であることが示唆されている。
そして、デモが公開された翌日、アルトマンは次のようにXに記している。
>自分らしく
>人工超知能でガンなどを治療できるようにしようと10年間仕事に打ち込んできた
>最初の7年半はほとんど誰も気にかけなかったが、あとの2年半は何においても皆から嫌われた
>ある日目覚めると無数のメッセージが届いていた:「見て。君をジブリ風の爽やか男子にしてみたよw」
アルトマンはXのプロフィール写真もジブリ風の画像に変えており、これは、SNSユーザーがジブリ風画像を生成したり、既存の画像にジブリ風のフィルターを加えたりするトレンドのきっかけのひとつにもなった。また、ホワイトハウスまでもがこの流れに加わって物議を醸すポストを投稿し、ネットで大きな反発を招いた。
そして今、スタジオジブリの宮崎駿が過去に行った、オートメーション化されたアニメーションに対する嫌悪感を表す発言が再び注目されている。
スタジオジブリは、隅々までこだわった手描きのアニメーションやその職人技で有名だ。『千と千尋の神隠し』や『となりのトトロ』、『もののけ姫』といったジブリの傑作たちは、ストーリーやキャラクターと同じくらい、質の高いアニメーションが海外でも根強く愛されてきた。
ジブリの画風を摸倣するために生成AIを使うことは、宮崎の持つ芸術の創造に対する精神を真っ向から否定する行為だと指摘する人もいる。2016年、当時放送されたNHKスペシャルのドキュメンタリー『終わらない人 宮崎駿』の映像が、ネットで広く拡散された。そのなかで宮崎は、ゾンビゲームで活用できそうな、AIが生成した「気持ち悪い」動きをするモンスターの映像を紹介された。このプロジェクトを率いる人物は、AIを使うと「人間が想像できない気持ち悪い動きができるのではないか」と説明している。
これを見た宮崎は、「毎朝会う、このごろ会わないけど身体障害の友人がいるんですよ」と答えた。「ハイタッチするだけでも大変なんです。彼の筋肉がこわばってる手と僕の手でハイタッチするの。その彼のことを思い出してね、僕はこれをおもしろいと思って見ることはできないですよ。これを作る人たちは痛みとかそういうものについて何も考えないでやってるでしょう」
「僕はこれを自分たちの仕事とつなげたいとは全然思いません」と宮崎は付け加えた。「極めてなにか生命に対する侮辱を感じます」
海外でも広く拡散されたこの映像で、プロジェクトメンバーの1人は「人間が描くのと同じように絵を描く機械」を作ることを目指していると述べていた。これを受けて宮崎は、「地球最後の日が近いって感じですね。人間のほうが自信がなくなっているからだよ」と語っている。
たしかに宮崎の発言は、今日知られている生成AI技術が注目されるずっと前のものだが、現在SNSで起きていることに対し、宮崎が同じような意見を持っていたとしても不思議ではない。
これを受けて、女優で監督のゼルダ・ウィリアムズもSNSで意見を述べている。
「まるで彼が技術的な著作権侵害や環境への悪影響をひどく嫌悪しないかのように、人々は楽しそうに“ジブリ風”AIミームや画像を投稿してる」
「とにかく、今夜は映画館で『もののけ姫』を観る。AIなんかクソ」
その後の投稿で、ウィリアムズは次のように語っている。「私の反AIの気持ちを綴った投稿に対する『慣れろ』、『楽しいじゃん』、『ごちゃごちゃ言うな』っていうコメントの多さは異常」
「皆がこんなにバカで無駄でクソな複製マシンを使うことを私には止められないように、皆も私が自分の意見を語ることを止められない。芸術のスキルであろうと学校の宿題であろうと、学ぶための努力が面倒だからという理由で芸術や知識への探求を機械に任せていたら、人生はとても空虚なものになってしまう」
「怠惰は体に影響を及ぼすだけでなく、心までもを腐らせてしまうもの」
一方のアルトマンはより最近のポストで、「ある人にとってのクソは、別の人にとっての宝」と述べている。
ここで、AIモデルが宮崎やスタジオジブリの作品を学習したのか、もしそうであればOpenAIはその学習のためのライセンスを取得していたのか、という疑問が浮かび上がる。
すでにChatGPTをめぐって著作権に関わる訴訟で係争中のOpenAIは、この新たな機能が個々のアーティストの美的感覚を模倣する方法において「保守的なアプローチ」をとると述べている。
「ユーザーが現存するアーティストの画風で画像を生成しようとした際に発動する拒否機能を追加しました」という。しかし、「幅広いスタジオの画風を可能にしており、ユーザーがそれを使用して、非常に楽しく、インスピレーションに富んだオリジナルのファンアートを作って共有してきました」と付け加えている。
生成AIは、近年大規模な人員削減に苦しんでいるビデオゲーム業界やエンターテインメント業界で特に注目されている話題だ。これまでのところ、倫理的問題や権利問題、そしてファンが実際に楽しめるコンテンツをAIが生み出すことは難しい点など、さまざまな理由で、プレイヤーやクリエイターからの批判を集めている。例えば、Keywords Studiosは内々に、AIのみを使って実験的なゲームを作ろうとした。だが、このゲームは失敗に終わり、同スタジオは投資家に対し、AIは「人間に取って代わることはできない」と述べていた。
