賀茂川かもがわ（読よみ）カモガワ

淀川よどがわ水系すいけいの一ひとつで，京都きょうと市内しないを流ながれる河川かせん。源流げんりゅうは北きた区く雲くもヶ畑はたけで，鞍馬くらま川がわを合あわせて京都きょうと盆地ぼんちに入はいり，次ついで高野川こうのかわを合あわして市街地しがいちの中なかを南下なんかし，さらに南西なんせい方向ほうこうに転てんじて桂川かつらがわに合流ごうりゅうする。延長えんちょう31km，流域りゅういき面積めんせき209km²。高野たかの川がわとの合流ごうりゅう点てんまでを賀茂川かもがわ，それより下流かりゅうを鴨川かもがわと書かく。京都きょうと盆地ぼんちへの流出りゅうしゅつ口こうにあたる上賀茂かみがもの柊野くきの（ひいらぎの）から南みなみへ扇状地せんじょうちをつくり，河水こうすいの多おおくは伏流ふくりゅうして京都きょうと市街しがいの井戸いどの水源すいげんとなっている。鴨かも河原かわらはみそぎ祓はらい（はらい）の神事しんじや合戦かっせん場じょう，処刑しょけい場じょうとして著名ちょめいであるが，中世ちゅうせい末まつから近世きんせいにかけては庶民しょみんの集あつまる広場ひろばとなり，芝居しばい・見世物みせもの小屋こやが並ならぶ歓楽街かんらくがいが四よん条じょう河原かわはら，五条ごじょう河原かわらに形成けいせいされた。この河川かせんは古代こだいから木材もくざい，薪炭しんたんなどの輸送ゆそうに利用りようされていたが，平時へいじは水量すいりょうが少すくないため慶長けいちょう年間ねんかん（1596-1615）西岸せいがんの二に条じょう通どおり南みなみの一之船入いちのふないり以南いなんに高瀬川たかせがわが掘削くっさくされ，明治めいじ前期ぜんきまで水運すいうんに利用りようされた。河水こうすいは友禅染ゆうぜんぞめの水洗すいせんに最近さいきんまで利用りようされてきたため，高野たかの川がわ東岸とうがんの高野たかの付近ふきんには染色せんしょく工場こうじょうが立地りっちする。上賀茂かみがもから五条ごじょう大橋おおはしにかけての河原かわらは，鴨川かもがわ公園こうえん，グラウンド，散歩道さんぽみちなどが整備せいびされ景観けいかん保全ほぜんが図はかられているので，市民しみんや観光かんこう客きゃくのよきいこいの場ばである。夏なつには三条さんじょう大橋おおはしから五条ごじょう大橋おおはしにかけて並ならぶ飲食いんしょく店てんや旅館りょかん，料亭りょうていが川かわに向むかって床ゆかを出だし，鴨川かもがわや東山ひがしやまの情緒じょうちょを楽たのしむ趣向しゅこうがこらされ，支流しりゅう貴船川きふねがわの川床かわどことともに京都きょうとの夏なつの風物詩ふうぶつしとなっている。出町柳でまちやなぎから七なな条じょうまでの東岸とうがん堤防ていぼう上じょうを走はしる京阪けいはん電車でんしゃは現在げんざい地下鉄ちかてつとなっており，下流かりゅう沿ぞいには機械きかい・化学かがく関係かんけいの工場こうじょうが多おおい。また下流かりゅう部ぶの伏見ふしみ区く中島なかじまには名神めいしん高速こうそく道路どうろの京都きょうと南みなみインターチェンジが設置せっちされ，鳥羽とば大橋おおはしと鴨川かもがわ橋きょうが架設かせつされている。
執筆しっぴつ者しゃ：服部はっとり 昌之まさゆき

歴史れきし

賀茂川かもがわの流りゅう路ろについては，現在げんざいの堀川ほりかわが本流ほんりゅうで，これに出町でまちから南西なんせい方向ほうこうへ流ながれる高野たかの川がわが合流ごうりゅうしていたのを，平安京へいあんきょう造づくり都と時じ，両川りょうかわを出町でまち付近ふきんで合流ごうりゅうさせ，京きょう域いきの東側ひがしがわを南みなみ流りゅうするように流ながれ路ろの新設しんせつと変更へんこうがなされたとするのが通説つうせつであるが，近時きんじの地質ちしつ調査ちょうさの結果けっか，賀茂川かもがわ（鴨川かもがわ）は平安へいあん遷都せんと時じにはほぼ現在げんざいの流りゅう路ろをとっており，変更へんこうはなかったことが明あきらかとなった。その位置いち関係かんけいから東ひがし河かわ（とうが）ともいい，ここで大嘗祭だいじょうさいに先立さきだち天皇てんのうの御ご禊みそぎが行おこなわれ，また斎とき王おうの祓はらいも行おこなわれ，東ひがし河かわの祓はらいと称しょうされる一方いっぽう，死体したいの遺棄いきや罪人ざいにんの処断しょだんが行おこなわれる場所ばしょでもあった。中世ちゅうせい以前いぜんでは架橋かきょうされることはなく，徒歩とほ渡わたり（かちわたり）であった。市街地しがいちに接せっしていたため，大雨おおあめにははんらんしてしばしば市中しちゅうを水没すいぼつさせることがあり，824年ねん（天てん長ちょう1）には防ぼう鴨かも河かわ使し（ぼうかし）を設置せっちして修おさむ堤つつみに当あたらせるとともに，崇たかし親おや院いん田たを除のぞき堤防ていぼう一帯いったいに田畠たばたを耕作こうさくすることを禁きんじているが，効果こうかはなかった。いま四よん条じょう通どおりにある目め疾やまし（めやみ）地蔵じぞうは，雨あめ止どめ（あめやみ）地蔵じぞうの転訛てんかしたものと伝つたえる。平安へいあん末期まっき白河しらかわ院いんは，鴨川かもがわのはんらんを，すごろくのさいや山法師やまほうしとともに，朕ちんの意いのごとくにならないもの，いわゆる天下てんか三さん不如意ふにょいの一ひとつにあげたことは有名ゆうめい。平安京へいあんきょうの右京うきょうが早はやくから衰微すいびし，左京さきょうに人口じんこうが集中しゅうちゅう，さらに鴨川かもがわの東ひがしにも市街地しがいちがひらけた結果けっか，平安へいあん後期こうきには鴨川かもがわは東ひがし河かわではなくなり，市街地しがいちの中央ちゅうおうを流ながれるとの意いから朱雀すざく川がわの名なで呼よばれるようにもなった。
執筆しっぴつ者しゃ：村井むらい 康彦やすひこ　流りゅう路ろは近世きんせいに入はいり数すう度どの改変かいへんをうけている。1591年ねん（天正てんしょう19）豊臣とよとみ秀吉ひでよしは御ご土居といの築造ちくぞうに当あたり，その東ひがし端はしを鴨川かもがわ西岸せいがんとし，古代こだい・中世ちゅうせい以来いらいの洪水こうずいの防止ぼうしをはかった。1610年ねん（慶長けいちょう15）には，方広寺ほうこうじ大仏殿だいぶつでん造営ぞうえいの材木ざいもく運搬うんぱんのため角すみ倉くら了りょう以が鴨川かもがわの開削かいさく（水路すいろ化か）に着手ちゃくしゅした。洛らく東ひがしと伏見ふしみ（淀よどみ・鳥羽とば一帯いったい）の高低こうてい差さ約やく6尺しゃくを土木どぼく工事こうじによって水平すいへい化かすることに成功せいこう，〈淀よどみ・鳥羽とば之これ船せん直じかに三条さんじょう橋きょう下かに至いたる〉ようになり（《駿府すんぷ記き》），物資ぶっしの輸送ゆそうが格段かくだんに円滑えんかつ化かされた。のちの高瀬川たかせがわ開削かいさくまでの間あいだ，短期間たんきかんではあるが，この水路すいろが利用りようされている。次ついで70年ねん（寛文ひろふみ10）には，上賀茂かみがもから五条ごじょう間あいだに新しん堤つつみが築きずかれ，とくに三条さんじょう～五ご条じょう間あいだは石堤いしづつみで，洪水こうずいの防止ぼうしに役立やくだった。これ以後いご河畔かはんの町まち地ち化かが進すすみ，難波なんば町まち，清水しみず町まちなどの九きゅうヵ町まち（のち十じゅうヵ町まちとなる）が，西岸せいがんの四条しじょう～五ご条じょう間あいだに出現しゅつげんした。これらは新屋敷しんやしきと呼よばれ，草分くさわけの町まちとして下した古京ふるきょう巽たつみ組ぐみの新あたらシ町まちとして高瀬たかせ組ぐみを組織そしきしている（《久板ひさいた家か文書ぶんしょ》ほか）。ちなみにこれらの町まちには，高瀬川たかせがわによって運はこばれる薪炭しんたん，材木ざいもくを商あきなう商家しょうかが多おおく含ふくまれていた。ただ町まち化かしたとはいえ，洛中らくちゅうのような地子じし免除めんじょ地ちではなく，一定いっていの年貢ねんぐが賦課ふかされている。また，川筋かわすじ一帯いったいの西賀茂にしがも村むら，上賀茂かみがも村むら，小山おやま村むらなどのうちで高こう295石せき1斗と8升しょう7合ごうは，賀茂川かもがわ御ご修復しゅうふく料りょうとして，小堀こぼり仁ひとし右みぎ衛門えもん，〈賀茂川かもがわ筋すじ両りょう組くみ川方かわかた〉の支配しはいをうけていたが，1710年ねん（宝永ほうえい7）鴨川かもがわ疎通そつうとの関係かんけいか角倉すみくら家かの支配しはいとなっている（京都きょうと御ご役所やくしょ向こう大概たいがい覚書おぼえがき，山城やましろ国高くにたか八郡やこおり村むら名めい帳ちょう）。

　鴨川かもがわには北きたの糺ただす（ただす）河原かわはらをはじめ，荒神こうじん，二に条じょう，三条さんじょうなど多おおくの河原かわはらが開あけ，前代ぜんだいより広場ひろばとして人々ひとびとを集あつめ，刑場けいじょうとしても利用りようされていたが，また芝居しばい興行こうぎょうの地ちとしても知しられた。かぶき踊おどりで著名ちょめいな江戸えど時代じだい初期しょきの出雲いずものお国くにの興行こうぎょう場所ばしょは，最初さいしょ五条ごじょう河原かわらで，のち北野きたの社しゃなどへ移うつり，最後さいごは四条しじょう河原かわらに舞台ぶたいを建たてたとの伝つたえもある（《東海道とうかいどう名所めいしょ記き》）。一方いっぽう，五条ごじょう河原かわらの芝居しばいは，豊臣とよとみ秀吉ひでよしの強権きょうけんにより四条しじょう河原かわらへ移転いてんしたとの伝つたえもあり（《京きょう雀すずめ》ほか），いずれにせよ，このころ以後いご，四条しじょう河原かわらが芝居しばいの興行こうぎょうでにぎわったことがうかがえ，のち17世紀せいきから18世紀せいき初頭しょとうにかけては，京都きょうと随一ずいいちの歓楽街かんらくがいとなったのである。そのありさまは各種かくしゅの洛中らくちゅう洛外らくがい図ず屛風や都と名所めいしょ図会ずえなどに描えがかれている。こういったにぎわいの一方いっぽうで，京都きょうとの都市とし化かが進すすんだ元禄げんろく年間ねんかん（1688-1704）ころには，塵芥じんかいの投棄とうき所しょとなり，鞍馬口くらまぐち，今出いまで川口かわぐちなどの河畔かはんに幕府ばくふの塵芥じんかい投棄とうき禁止きんしの高札こうさつが建たてられており，さらに同おなじころ，死体したいが数多かずおおく埋うめられてもいたという。また江戸えど時代じだい中ちゅうごろには，上京かみぎょう室町頭むろまちかしらの夷えびす屋や平蔵ひらぞうが大坂おおさかの道頓堀どうとんぼりで鴨川かもがわの水みずを桶おけに入いれて販売はんばいしたが，その効能こうのうとして，鴨川かもがわの水みずは美味びみで，〈手水ちょうずの湯ゆに用もちいれバ，はだへを濃こかにし，色いろを白しろくし，一切いっさいの瘡かさ腫しゅを生しょうぜず……〉としており，鴨川かもがわの水みずの良質りょうしつなことが広ひろく知しられていたことがうかがえる。
執筆しっぴつ者しゃ：樋爪ひづめ 修おさむ