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ヤヌスの選択 9 - eterna

ヤヌスの選択せんたく 9

血相けっそうえてんできた2人ふたり部下ぶかにぞんざいにしのけられたハインリヒは、「自分じぶんかれらの上司じょうしのはずなのだが」とかたすくめた。
だが、とがめるにならないのは、かれらとは単純たんじゅん主従しゅうじゅう関係かんけいむすばれているわけではないからで。
なによりも、普段ふだんおのれかげてっしているかれらのなりふりかまわない様子ようすはそれだけしんうごかされたということで。
かつてのかれらをっているからこそ、その変化へんか微笑ほほえましくもえる。
口先くちさきだけの心配しんぱいでも気遣きづかいでもなく、しんからたった1人ひとり青年せいねんあんじているのだ。
上司じょうしのパートナー”としてではなく、“おのれ大切たいせつ存在そんざい”として。

てつ仮面かめん」だの「感情かんじょうのない人形にんぎょう」だのとかげささやかれているこおりのようなかおをどこにわすれてきたのか。
だれてもかる感情かんじょうにじませて青年せいねんかこんでいるかれらの姿すがたに、ちいさく苦笑くしょうすりく。
あいするひと周囲しゅうい人間にんげん大切たいせつにされている、という事実じじつ素直すなおうれしいものだ。
ストーカー行為こうい加速かそくしてしまったおとこ感情かんじょうだって、途中とちゅう間違まちがえずにただしいかたちのままであればアルフレードという土壌どじょううるおやす純粋じゅんすい好意こういとして歓迎かんげいできた。
もちろん誰彼だれかれかまわずというわけではないが、最初さいしょからあたまごなしに拒絶きょぜつするつもりはないのだ。
おおくのひとからあいされるアルフレードをほこらしくおもっているのだから尚更なおさら

しかし、最初さいしょ動機どうきなにであれ理由りゆうがどうあれ、アルフレードにうれいをいだかせるのなら許容きょようすることはできない。
アルフレードの気高けだかまぶしいかたかれにとってひとあつめるひかりとなっているが、そのひかりにはまねかれざるもの近付ちかづいてくる。
それは街灯がいとう羽虫はむしむらがるのとおなじことでいたかたないとはいえ、どくむし見逃みのがすわけにはいかない。
これからはより冷静れいせいに、よりきびしく見極みきわめなければいけないなとおもいながら、ハインリヒは部下ぶかかこまれているアルフレードにふたた視線しせんけた。
怪我けがはないか、こわかっただろう、もう大丈夫だいじょうぶ、と口々くちぐちこえをかけているフルアとグラースのいきおいにアルフレードが気圧けおされているのがえる。
だが、こればかりはゆるしてやってくれとたすけをもとめてくる鳶色とびいろひとみ視線しせんかえす。
らせをけたかれらの心情しんじょうはそれこそはかれないのだ。
あせりや恐怖きょうふ支配しはいされ、おのれめただろう。
ストーカー行為こういをしていたおとことアルフレードを接触せっしょくさせてしまった、と。
かれらの不手際ふてぎわではなかったというのに、完全かんぜんふせぐことは困難こんなんだったと理解りかいしていながら、それでも。
ちょうえくりかえおときながらここまでのみちたにちがいない。

(フルアのスラックスのあのしわがその証拠しょうこだな)

グラースが運転うんてんするくるま助手じょしゅせきすわり、ももうえにぎりしめたこぶしんでできたとおもわれるしわがしっかりとのこっている。
無言むごんのまましずかないかりをやしていた姿すがた容易ようい想像そうぞうできる。
普段ふだん自分じぶんたちをたしなめる役割やくわりになっているグラースも平静へいせいさをうしなっており、こうぶる感情かんじょうのままにぎんだハンドルはたして無事ぶじだろうか、とハインリヒはくちはし苦笑くしょうかさねた。

そんな光景こうけいを1いて見守みまもっていたテオバルトは、ハインリヒがやれやれとわんばかりにかたすくめたタイミングでかれまえあゆた。
そして、しずかにあたまげる。

肝心かんじんなときにおやくてずもうわけありませんでした」

アルフレードの身辺しんぺん警護けいごとしてやとわれた
っても、24あいだうのではなく、あくまでハインリヒらがアルフレードと行動こうどうとも出来できないときのみという条件じょうけんきではあったが。
しかし、個人こじん警護けいごのプロというプライドがそれをいいわけ使つかうことをゆるさない。

犯人はんにんにアルフレードくんとの接触せっしょくゆるしてしまったのはわたし責任せきにんです」

叱責しっせきされてしかるべき。
そうわんばかりの声音こわねあたまげるテオバルトに、ハインリヒはゆるくびよこってこたえた。

だれでもない」
「しかし…」
重要じゅうよう情報じょうほうとどけてくれた。十分じゅうぶんだ、ありがとう」
「いえ…」
だれかがそのてアルをまもれたのだから、それ以上いじょうのぞまない」

さい優先ゆうせん事項じこう犯人はんにん確保かくほすることではなく、アルフレードを脅威きょういからまもること。
結果けっかてき両方りょうほうとも同時どうじげられたのだからなに不服ふふくおもうことがあるというのか。

感謝かんしゃこそすれ、める理由りゆうはない」

不審ふしんなメールの発信はっしんもと解析かいせきし、犯人はんにんめたのはテオバルトなのだ。
防犯ぼうはんカメラの映像えいぞうれていた警察けいさつですらかお識別しきべつできないと捜査そうさつまずいていたが、かれげてくれた。
あのとき、かれがその情報じょうほうをいちはや自分じぶんつたえてくれたからこそ、アルフレードに近付ちかづおとこにすぐに対応たいおうできた。
犯人はんにんおとこはアルフレードが出入でいりしている木工もっこう工房こうぼうかかわりのある加工かこう機械きかいのエンジニアだ、とこまかい情報じょうほうをもたらしてくれたからこそ。

まえもアルをまもってくれたではないか、とつづけたハインリヒにかおげるようにうながされたテオバルトはおそおそ視線しせんもどした。
と、かぎりなくくろちかいブラックサファイアしょく双眸そうぼうう。
ながのそれはつめたさを際立きわだたせ、そのいだ冷静れいせいさに対峙たいじしたおおくのもの恐怖きょうふし、たじろぐ。
えらばれたものとしての威厳いげんうまでもなく、肩書かたがきのおもさに比例ひれいした覚悟かくご意思いしつよさは常人じょうじんには威圧いあつてきうつるのだ。
だが、その双眸そうぼうおくすこさぐれば、ハッとおどろくほどの情熱じょうねつ宿やどっていることに気付きづく。
いた声音こわねとは裏腹うらはらに、そのひとみなかえるほのお轟々ごうごうおとてている。
迂闊うかつ近付ちかづかせない威圧いあつかんたしかにあるが、ひとえるやさしさによく体温たいおんがある。

アルフレードに、そしてちかしい2人ふたり部下ぶかによくせているそれがおのれけられていることに気付きづき、テオバルトは反射はんしゃてき両足りょうあし肩幅かたはば程度ていどひらいて背筋せすじばし、あごいた。
それは、“待機たいき姿勢しせい”。
軍隊ぐんたい生活せいかつなかたたまれた直立ちょくりつ不動ふどう姿勢しせいであり、戦闘せんとう即時そくじ対応たいおう可能かのう状態じょうたいのこと。
命令めいれいくだれば0.1びょううごせる体勢たいせいであり、つまりは、その命令めいれいくだ上官じょうかん敬意けいい服従ふくじゅうしめしながら状態じょうたいだ。
ハインリヒは上司じょうしでも上官じょうかんでもない。
だが、無意識むいしきてき身体しんたいうごいていた。
部下ぶかではないおとこのその行動こうどうにハインリヒは一瞬いっしゅんだけおどろいた表情ひょうじょうせたが、苦笑くしょうすりいてらく姿勢しせいもどるようにやんわりとうながしてくる。
そのスマートな所作しょさひとうえつことにれたもののもので、これがとしわかくともかれが“おう”と敬意けいいってばれる所以ゆえんなのだろうとしみじみとおもう。

おれとも上司じょうしめぐえたのだな)

ぐんくさりきった現実げんじつ絶望ぜつぼうしていたグラースの姿すがたっているからこそ。
すうねんりに再会さいかいしたとき、かれ変化へんかには心底しんそこおどろいた。
正直しょうじきうと、かれきていたこと自体じたいおどろいたほどなのだ。
たった1にんのこってしまった事実じじつれきれず、つぶされそうになっていた姿すがたていたから。
どうして自分じぶんだけがきているのだ、とくようなくるこえかえなげいていた姿すがたていたから。
そんなかれきといま生活せいかつかた姿すがたに、救済きゅうさいはあるのだとかみ感謝かんしゃささげたほどだ。

つぐないきれないつみばち背負せおって。
場所ばしょさがしていたおとこが。
出会であいたかったひと出会であえた、とったのだ。
のこったから…かされたから、おのれすべてをそそいでもりないほどにしたわしくいとしく大切たいせつひとたちに出会であえた、と。
戦場せんじょう悪夢あくむから解放かいほうされたわけでもすべてをゆるせるわけでもないが、それでも。
自分じぶん自分じぶんにかけていたのろいをわらせることができた、となん度目どめかの再会さいかいのときにかたったグラースに視線しせんければ、ソファにこしかけている青年せいねん足元あしもとひざまずいて心底しんそこ安心あんしんしたかおをしている。

かれう「出会であいたかったひと」とはハインリヒのことだけではない。
かされたいのち使つかみちわれたら、グラースはまよわずにこううだろう。
かれらのためにきたい、と。
んでいった仲間なかまたちにも堂々どうどうとそうえるのだとしたら、それはかされたものとしての責任せきにんたしたことにならないだろうか。
のこってしまったとおのれめて、罪悪ざいあくかんつぶされそうになっていたおとこが、のこることのできなかった仲間なかまたちのぶんまできようとしているのだから。

ハインリヒとアルフレードはグラースのうで無理矢理むりやりいて戦場せんじょうからかえったのではなく、そこがどんな地獄じごくだろうとおそれずにおもむいて、グラースの背中せなかささえながらここまであるいてかえってたのだろう。
かれらの単純たんじゅん名称めいしょうくくることのできない関係かんけいせいに…そのふかきずなにあえて名前なまえけるならば、“戦友せんゆう”。
そう、それが一番いちばんしっくりくる、とテオバルトはまぶしいものをつめるようにひとみほそめた。

ともひとたちと出会であえてかった)

ひと幸福こうふく純粋じゅんすいうれしいとおもう。
しあわせになることをこばみ、しあわせになってはいけないとおのれまじなつづけていたとも堂々どうどうしあわせを享受きょうじゅしているのだから。

(…おまえたすけることができてかった)

グラースが帰還きかん希望きぼうがない作戦さくせんめいじられて戦場せんじょうかったとったとき。
命令めいれい違反いはん懲罰ちょうばつけようと、そののキャリアがどうなろうと、かれたすけることにまよいはなかった。
未来みらいしんじてかたったともひとみ現実げんじつ裏切うらぎられつづけてにごっていくのをていたから、かれをそんなさびしい場所ばしょなせてはいけない、おもったのだ。
だからギリギリのところでかれすくせた瞬間しゅんかんたしかな安堵あんどひろがった。
きていてくれた、と。
だが、グラースの昏いひとみたとき、らいだ。
びたことを後悔こうかいし、おのれまじなつづけるとも姿すがたまえに、まよった。
かれにとってきることが「ただしさ」ではないのなら、たすけるべきではなかった。
おのれのエゴで、かれ罪悪ざいあくかん背負しょわせてしまった。
仲間なかまうしなくるしみも、おのれのこることのつらさもっていたというのに。
硝煙しょうえんにおいのする悪夢あくむむしばまれるだけのせい強制きょうせいしてしまった。
そう後悔こうかいして。
後悔こうかいつづけていた。

しかし、グラースはわった。
絶望ぜつぼうすることにさえつかてていた昏いひとみることは、きっともうない。
あぁ、たすけてかった。
たすけることができてかった。
しんからそうおもう。
なんまよい、やみ、おのれめたこともあったけれど。
あのときばした選択せんたく間違まちがいではなかった。

おれ戦争せんそうもこれでおわりいだ」

そのつぶやきに、ハインリヒは一瞬いっしゅん瞠目どうもくした。
おそらくテオバルトはくちからまろびたことに気付きづいていない。
こえなかったりをするべきか、とわずかに逡巡しゅんじゅんする。
しかし、ひとつ呼吸こきゅういてからハインリヒはそっとかれかたれた。

正気しょうきではいられない地獄じごくなかってびたかれらがてきた景色けしき壮絶そうぜつで、悲惨ひさんで。
銃弾じゅうだんうことのない安全あんぜん場所ばしょきている自分じぶんには想像そうぞうもできないきずかかえている。
そんなかれらをなぐさめる言葉ことばはげます言葉ことばおもいつかない。
いや、どんな言葉ことばならべたとしても、かれらのしんむしば業火ごうかすことはできない。
だが、精一杯せいいっぱいねぎらいをめて。
かれらが自分じぶん自身じしんほこれる“いま”をむくいるように。
敬意けいいめてかたかるはたけば、内心ないしんつぶやいたはずの言葉ことばこえていたことに気付きづいたテオバルトが戸惑とまどったように視線しせんおよがせる。

「グラースはともった」
「……」
「そして、おれたちは戦友せんゆうた」
「エアハルトさん…」
あらためてれいわせてくれ。ありがとう」
「いいえ、それはわたしこそわなければいけない言葉ことばです。本当ほんとうに、ありがとうございました」
当初とうしょ予定よていよりはや解決かいけつしたわけだが、」
「はい。ですので、明日あしたにはしゃもどろうかと。報告ほうこくしょ後日ごじつおくりいたします」
「いや、契約けいやく期間きかん満了まんりょうするまではこちらでごしてくれないか。まだいくつか相談そうだんしたいこともある」
「え?」
「ホテルもそのつもりでリザーブしてある。いた時間じかん休暇きゅうかとして使つかってくれ」
「そ、それでは無駄むだ経費けいひ発生はっせいしてしまいますので…」
問題もんだいない。社長しゃちょうにはおれからつたえておく」

契約けいやくじょう警護けいご期間きかんはあと2週間しゅうかんのこっている。
アルフレードの身辺しんぺん警護けいご情報じょうほう解析かいせき専念せんねんできるように、とあたえられた時間じかんであって、犯人はんにんつかまって解決かいけつしたのなら任務にんむ終了しゅうりょうとなるのが普通ふつうだ。
滞在たいざいさきあたえられているホテルの宿泊しゅくはくくわえて出向しゅっこう手当てあても依頼人いらいにん負担ふたんするものであって、無駄むだ出費しゅっぴおさえたいとおもうのも普通ふつうだろう。
そしてハインリヒからは滞在たいざいちゅう食事しょくじにち用品ようひんなどまわりに必要ひつようなものを購入こうにゅうするためのカードがわたされており、自分じぶん滞在たいざいすればするほど経費けいひはかさむ。
だというのに、いた時間じかん休暇きゅうかとして自由じゆう使つかえばいいとうハインリヒにテオバルトはまるくした。
しかし、それがかれなりの最大限さいだいげん敬意けいいでありねぎらいだと気付きづき、ちいさく会釈えしゃくかえすことでその気持きもちをる。

権力けんりょくやさしい使つかかたっているひと、とかれらがくちそろえる理由りゆうがよくかる。
すべてのひと平等びょうどうあたえられるものではないが、だからこそそれは本物ほんものだ。
たとえ犯人はんにんおとこ病院びょういんおくりにしてしまったとしても。
その苛烈かれつさはアルフレードにける愛情あいじょう比例ひれいするのだから、よくころさずにとどまったとうべきだろう。

「このままミュンヘンにもどれるのですか?」
「あぁ、調書ちょうしょわっている」
「そうですか。ところで…」
なんだ?」
大丈夫だいじょうぶですか?」
「……」
犯人はんにん前歯まえばが2ほんれていたときました。エアハルトさんは怪我けがをされていませんか?」

ひとなぐるという行為こういじつ一方いっぽうてきなものではない。
ほねほねがぶつかるのだ。
素人しろうとこぶしひとなぐれば自分じぶん自身じしんゆびくだく。
皮膚ひふけ、関節かんせつがることも、ほねれることだってある。

だが、ひらりとせられたハインリヒの右手みぎて無傷むきずで。
テオバルトはちいさく感嘆かんたんした。

適当てきとう訓練くんれんではこうはいきませんね。ですが、表面ひょうめんじょうにはえないダメージをっている可能かのうせいもあります。違和感いわかんがあればはやめに医師いしせてください」
「あぁ」
様子ようすくに犯人はんにん肋骨あばらぼねれているでしょうね」
「……」
見事みごとりだったとか。一度いちど手合てあわせをねがいたいものです」
素人しろうとえた程度ていどだ。おまえたちプロにてきうものか」
「ご謙遜けんそんを。たった2はつ病院びょういんおくりにするとは正直しょうじきおどろきました」
「…アルにこえるからやめてくれ」

ふいっとがおらせたハインリヒのバツがわるそうな表情ひょうじょうは、悪戯いたずらつかった子供こどものようで。
とし相応そうおう反応はんのうせるハインリヒにテオバルトはおもわず苦笑くしょうする。

弁護士べんごしは?」
「うちの顧問こもん弁護士べんごし顛末てんまつつたえてある」
「では心配しんぱいありませんね。正当せいとう防衛ぼうえいへんがつくでしょう」
「…アルには」
わたしわずともおそらく気付きづいておられますよ。ほら、こちらをていらっしゃいます」
「……」

視線しせんをそちらにければ、アルフレードの鳶色とびいろひとみう。
どもの悪戯あくぎたしなめるような表情ひょうじょうで、「やりぎ」としかられる。

「いま、弁護士べんごしってこえた」
「……」
「ここの警察官けいさつかんさんにもおこられていたの気付きづいているんだからね」

工房こうぼうけてくれた警察官けいさつかんからその簡単かんたん聴取ちょうしゅけて。
警察けいさつとしてもハインリヒの肩書かたがじょう、ただの一般いっぱん市民しみんとして処理しょりするわけにもいかず。
ミュンヘン警察けいさつ連携れんけいする必要ひつようせいもあり、警察けいさつしょかうことになって。
そのころにはすでに連絡れんらくけてミュンヘンをていたフルアたちをっている状況じょうきょうで。
だい企業きぎょう実質じっしつてきなトップであるハインリヒを廊下ろうかのベンチでたせるわけにはいかないとおもったのか、応接おうせつしつ使つかっていいと案内あんないされた。
そのとき、署長しょちょうだと名乗なのった警察官けいさつかんがハインリヒをめたのだ。
ハインリヒからさき部屋へやはいっているようにうながされて内容ないようをききとることはできなかったが、その警察官けいさつかんこまったようなとがめるような表情ひょうじょうえた。

聴取ちょうしゅけているときも警察官けいさつかんから犯人はんにんにどんな危害きがいくわえられそうになったのかなんわれた。
凶器きょうきっていたか、攻撃こうげきてきだったか、なに恐怖きょうふかんじたか、など。
それがハインリヒの暴力ぼうりょく正当せいとうせいをはかるための質問しつもんだとどんなに無知むちでも気付きづくだろう。
成人せいじんしたおとこ軽々かるがるぶようないきおいでげられ、気絶きぜつするようなちからなぐられたのだから、それにあたいするだけの犯人はんにんにあったのか見極みきわめることも警察けいさつ仕事しごと
担当たんとうしてくれた警察官けいさつかん署長しょちょうも、「かれ社会しゃかいてき立場たちばじょう悪意あくいけられればいのち脅威きょういかんじることは当然とうぜん防衛ぼうえい優先ゆうせんするのは妥当だとう」とくちそろえたが。
その防衛ぼうえいのために使つかった暴力ぼうりょく妥当だとうなものだったかは言及げんきゅうしなかった。
いや、出来できなかったとったほうただしいだろう。
被害ひがいしゃであるアルフレードからしても、「やりぎ」だとかんじたのだから。

「メールだけじゃなくてまち直接ちょくせつからまれている事実じじつもあって、凶器きょうきっていた可能かのうせい十分じゅうぶんあったから過剰かじょう反応はんのうしてしまったのも仕方しかたないって警察けいさつひとっていたけどね」
「…すまない、自制じせいかなかった」

素直すなおしかられているハインリヒにアルフレードはちいさくかたらした。
あのとき、かれ本当ほんとう理性りせいうしなっていたのならにぎめていた角材かくざいろしていただろう。
むしろ冷静れいせいだったからこそ、かれゆるされるギリギリのラインまでんだ。
正当せいとう理由りゆう範疇はんちゅうえるすんでのところまで。
警察官けいさつかんたちがこまったかおをしていたのも、おそらくそれがかったからだろう。
このおとこえてはいけない一線いっせん理解りかいしているから仕方しかたなくとどまったにぎない、と。
それゆえに、いささかきびしい口調くちょうくぎしたのだろう。

理由りゆうがあればその一線いっせんえることに躊躇ちゅうちょしないひとだって気付きづいたから…)

どんな理由りゆうがあったとしても、たとえそれが肯定こうていされるものであっても、暴力ぼうりょく正当せいとうされてはいけない。
相手あいて傷付きずつけることで問題もんだい解決かいけつできるわけではなく、道徳どうとくてきにもゆるされない。
それは法律ほうりつ明確めいかくさだめており、たとえ正当せいとう理由りゆうがあったとしても暴力ぼうりょく容認ようにんされない。
もし「ちからこそ正義まさよし」だと肯定こうていされてしまったら、弱者じゃくしゃまもられずに差別さべつ虐待ぎゃくたい戦争せんそうさえも正当せいとうされてしまいかねないからだ。
だから人間にんげん社会しゃかいは、どんなにただしい理由りゆう動機どうきがあったとしても暴力ぼうりょくみとめない。

しかし、それでも。
暴力ぼうりょくひとばっする権利けんりだれにもないことを理解りかいしていながら、それでも。
つみばち背負せお覚悟かくごうえこぶしにぎ理由りゆうがあったとして。
それがおのれ自身じしんのためではなくだれかのためで、愛情あいじょうゆえのものだったとして。
ひとひとおも気持きもちを、だれ否定ひていできるだろうか。

(だから、警察官けいさつかんさんたちはみんなこまったかおをしたんだろう。ハインがオレをおも気持きもちをて、ってしまったから)

事情じじょうった警察官けいさつかんおおくがかれ行動こうどう否定ひてい肯定こうていもできなかったのはきっとそういうことだ。
あまりにも過激かげき過剰かじょうなその愛情あいじょう気圧けおされつつも、かれらの言葉ことば端々はしばしにはたしかな敬意けいいもあった。

たすけてくれてありがとう」
「…いや、無事ぶじかった」
「うん」
本当ほんとうに…って、かった…」

たまたま凶器きょうきっていなかっただけで。
ぎた好意こういあましていたあのおとこ自分じぶん気持きもちをこばまれたと激高げっこうし、アルフレードに明確めいかく悪意あくいけていた可能かのうせいもある。
もし、あのにナイフがにぎられていたら。
もし、それがアルフレードを傷付きずつけていたら。
かんがせばキリがない「もし」に血液けつえき沸騰ふっとうし、だがあたまみょう冷静れいせいで、指先ゆびさきこごえた。
アルフレードからはなさなければ、と咄嗟とっさげたときも。
作業さぎょうだいうえにあった角材かくざいにぎったときも。
それをろそうとしたときも、自分じぶんでもぞっとするほど理性りせいてきだった。
憎悪ぞうおわすれることはあるだろうが、そのぎゃくだったのだ。
思考しこうえとまされ、しんいでいた。
感情かんじょうてき暴力ぼうりょくではなく、明確めいかく殺意さついだった。

まんいちにもアルフレードが傷付きずつけられていたら、とどまる理由りゆうはなく。
まようことなく角材かくざいろしていたにちがいない。
冷静れいせいなまま、悪意あくいって、相手あいて傷付きずつけていた。
だが、そうなっていたとしても後悔こうかい一片いっぺんもなかっただろう。
むしろ清々すがすがしささえいていたかもしれない、とおもう。

「ハイン、またこわいことかんがえているでしょ。もー、ほら。こっちおいで」
「……」
「ハインがまもってくれたからオレは無事ぶじだし、みんなのおかげで犯人はんにんつかまった。ありがとう」
「アル…」
動機どうきはこれから調しらべるってっていたでしょう?そうしたら、今後こんご対策たいさくれる」
「……」
つぎなんてないほうがいいにまっているけど、今回こんかいのことはリスクをらすいい機会きかいになったね」

まといの可能かのうせい濃厚のうこうになってすぐ、テオバルトはまず普段ふだん行動こうどう範囲はんい徹底的てっていてき調しらべた。
観光かんこうきゃくおお大通おおどおりや広場ひろば人目ひとめもあるが、同時どうじ群衆ぐんしゅうまぎみやすい。
マーケットがならぶエリアにはよりもたかまれたばこだんボールでおおくの死角しかくがあった。
きつけのパンちかくには人通ひとどおりのすくないせま路地ろじがあり、きずりまれて前後ぜんごはさまれたらうしなう。
おとずれることのおお本屋ほんや店内てんないも、あめ重宝ちょうほうしている地下ちか通路つうろも、マンションの周辺しゅうへんにも、悪意あくいった人間にんげんひそめられる場所ばしょがいくつもあった。

外出がいしゅつかなら護衛ごえいえばいいだけのはなしかもしれないが、今後こんごそのリスクのために行動こうどう制限せいげんされるというのは精神せいしん衛生えいせいじょうよくはない。
そもそもそれをのぞんでいないのはハインリヒなのだ。
不自由ふじゆう世界せかいきているからこそ、アルフレードだけは自由じゆうばたいてしい、とう。
そんなかれ外出がいしゅつ制限せいげんすることなどあるはずもなく、だからとって、危険きけんせい無視むしはできない。
矛盾むじゅん葛藤かっとう結果けっか、テオバルトをまじえてなん生活せいかつけんひそむリスクについてはなった。
もしこの場所ばしょ不審ふしん視線しせんかんじたらどこへげるのがただしいか。
もしこのとおりで不審ふしん接触せっしょくがあったらだれたすけをもとめるのがいいか。
キリのない「もし」をなんなん地図ちずんで、シミュレーションをした。

万全ばんぜんす、というのは一種いっしゅ安全あんぜん材料ざいりょうだ。
大袈裟おおげさなほどの対策たいさくだったが、それがあったからこそ、不審ふしんなメールが毎日まいにちなんつうとどいたとしてもいていられた。
あれほどかんがえたのだから大丈夫だいじょうぶ、という自信じしんにもなった。
結果けっかオーライとはうには乱暴らんぼうかもしれないが、自分じぶんにとってはいい経験けいけんになったとれる。

「ハインはよく知識ちしき武器ぶきだってうけど、そのとおりだね」
「……」
っているのとらないのとでは、もしものときにおおきなちがいがるよ。だから、それもふくめてありがとう」
「アル…おまえ本当ほんとうに…」

こまったように、しかし、どこかうれしそうに苦笑くしょうするハインリヒのにぎれば、体温たいおんもどってきていることに内心ないしんでほっといきく。
通報つうほうしてすぐにけてくれた警察官けいさつかん犯人はんにんたくして、かれ運転うんてんするくるまでこの警察けいさつしょかったのだが。
えてかじかんだせいで上手うまうごかなかったのか、シートベルトをつけるのにすこ手間取てまどっていた。
信号しんごうまったときにそれとなくれた氷水こおりみずひたしていたかのようにっており、つめしろくなっていた。
それがすこしずつ平熱へいねつもどしている。
完全かんぜんにはかたからちからいていないが、それでも犯人はんにん逮捕たいほされたことの意味いみおおきい。

今日きょうはもうかえれるんだよね?」
「あぁ」
連絡れんらくはしたけど、ダイト先生せんせいのところにろうね」
「そうだな」
「そのまえに、みんなでごはんこうよ。ひと段落だんらくして安心あんしんしたらおなかいちゃった」

ランチの時間じかんはとうにぎ、ミュンヘンにもどころにはかたむはじめる時間じかん
あまりにも中途半端ちゅうとはんぱ時間じかんだが、自覚じかくしてしまった空腹くうふくさきほどからくぅくぅとせつなげにいている。

「あ、でもフルアさんたちはまだお仕事しごとちゅうだから一緒いっしょにはダメ?」
「いや、かまわないが…はぁ、本当ほんとうにアルにはてきわないな」
「このちかくにアイスバインが美味おいしいレストランがあるんだよ」
「そうか、それじゃぁそのみせにしようか」
「うん。フルアさんたちもいいですか?」

シュペッツレも美味おいしくてっている、と笑顔えがおかたるアルフレードにフルアとグラースはかお見合みあわせたのちちいさくした。
心配しんぱいで、心配しんぱいで、むねけそうなほど心配しんぱいで。
この青年せいねんまもられることをしとしないことも、臆病おくびょうだがよわいわけではないことも、だれかのためにならば先陣せんじんっていく勇敢ゆうかんさをっていることもっているが、それでも心配しんぱいで。
かぎりなくえんちかたましい傷付きずつけられていたら、そのひとみなみだれていたら、しんながしてしまっていたら、と。
かれ犯人はんにん接触せっしょくしたとらせをけたとき、冷静れいせいよそおうこともわすれてみだした。
グラースとくるまみ、途中とちゅうでテオバルトとい、かれらがかったという警察けいさつしょいそ道中どうちゅう会話かいわはなかった。
まさしくうなら会話かいわをできる心理しんり状態じょうたいではなかった。
上司じょうししのけてアルフレードにり、その無事ぶじ自分じぶん自身じしんたしかめたのちも。
無理むりをしようとしているのではないだろうか、つよがっているのではないだろうか、といきくことはできなかった。

だが、アルフレードはまるでそれを見通みとおしていたかのようにわらう。
食事しょくじこう、と日常にちじょうごそうとしている。
こんなに心配しんぱいしたというのに、と呆気あっけられてしまうと同時どうじに、これなのだとむね高鳴たかなる。
このしたたかさに、このまぶしいほどの勇敢ゆうかんさに、どうしようもなくしんけられる。

「これでこそおれたちのひかりですね」
「えぇ、まったくです」
「?」
「あなたはもう大丈夫だいじょうぶなのだと実感じっかんしたのですよ」

ぱっとはなくように笑顔えがおかべたアルフレードに、フルアとグラースはいままでにない高揚こうようかんげてくるのがかった。
この青年せいねんはどんどん前進ぜんしんしていく。
そのあゆみはけっして悠々ゆうゆうとしたものでも揚々ようようとしたものでもないが、それでもひるまずにすすんでいく。
華奢きゃしゃ背中せなかおおきくえたことはいちではないが、いまもまたそのほそ身体しんたいからは想像そうぞうもできない生命せいめいりょくつよさをかんじる。

本当ほんとう無事ぶじかった。あなたにもしものことがあったら、わたしたちはひとではいられない」
おれたちもなぐりたかったですよ。アルフレードくんぶんはきっちりとかえさないと」
「え、え…」
「ボスがあと2はつなぐってくださればよかったのに」
「えー…フルアさんとグラースさんまでこわいことう…」
わたしたちはまだおこっているんですよ、アルくん怪我けがさせたことにわりはないのですから」
「どんな理由りゆうがあれ、ストーカー行為こういゆるすことはできませんからね」

しばらくベッドからがれない程度ていど制裁せいさいくだしたところで溜飲りゅういんがるわけではないが、とうフルアとグラースの冗談じょうだんっているときのそれではない。
言葉ことば端々はしばしにはとげもあり、つめたい。
本当ほんとうかれらよりさきにパトカーが到着とうちゃくしてかったとしみじみとおもってしまう。

過激かげきなんだもんなぁ」

本気ほんきだからこそ。
妥協だきょうがないからこそ。
かれらの感情かんじょうはいつだってしで、純度じゅんどたかく、はげしい。

「ふ、ふふ…っ」
「アル?」
「もうね、あまりにも容赦ようしゃがなくて…ここまですごいとちょっと面白おもしろくなってきた」

冗談じょうだんでも誇張こちょうしているのでもなく、かれらはやってしまう。
なににでもなれる、と。
なにだってできる、と。
そう言葉ことばにするだけではなく、行動こうどう証明しょうめいしてしまう。
これほどに誠実せいじつあいはない、とアルフレードはくすくすとわらいながらまなじりかんだなみだをそれとなくゆびさきぬぐった。
それはむねおくからげてきたなみだで。
誤魔化ごまかせたとおもったがハインリヒをあざむくことはできずに、すかさずおおきなてのひらりょうほおつつまれる。

煮詰につめたやみのように昏くにごっていたひとみにはひかりもどり、うつくしいブラックサファイアしょくをしている。
存外ぞんがいなが睫毛まつげえんられたそれにはしっとりと慈愛じあいみ、くすぐったくなるほどやさしい。
近寄ちかよることもこえをかけることもはばかられるほどのすさまじい殺気さっきはなっていたひとがする表情ひょうじょうとはおもえないほどやわらかく。
しかし、これがかれなのだとしみじみとおもう。

おおかみ本質ほんしつ
まもるべき仲間なかま家族かぞくにはあいしまず、大切たいせつなものにがいてきには容赦ようしゃをしない。
相手あいて自分じぶんよりなんばいおおきなからだししでもきばしにして勇敢ゆうかんかう。
けっして孤高ここうものではなく、れのためにこそたたか意味いみっている。
えとした月夜つきよそら見上みあげる精悍せいかんおおかみ横顔よこがおうつくしさは、総意そういのぞむ“おう”でろうとおのれりっしてかれのそれにている。

「…ハイン、もう一度いちど手帳てちょうして」
手帳てちょう?」
「うん、オレのデッサンちょうくるまなかだから」
「あぁ、いいぞ。鉛筆えんぴつりてこようか?」
「ううん、大丈夫だいじょうぶだよ」

えがきたい、としんからおもう。
った手帳てちょうけば思考しこうよりもさきうごき、白紙はくしのページのうえせんはしっていく。
あたまなかにあるイメージがそのままうえうつされていく感覚かんかく
普段ふだん全体ぜんたいのバランスや構造こうぞういろ質感しつかんなどを想像そうぞうしながらえがいているが、いま直感ちょっかんうごかす。

あたらしい木工もっこうほうのサンプルとしてブナの使用しようした椅子いす十分じゅうぶん作品さくひん通用つうようする完成かんせいだったが、なにかがりなかった。
そのなにかがいまならえがけるがする、とアルフレードはハインリヒらが見守みまもっていることもわすれて万年筆まんねんひつはしらせつづけた。
木工もっこうほうかすには木材もくざいの含水りつ重要じゅうようで、繊維せんい方向ほうこうふしすくなさも出来栄できばえをおおきく左右さゆうする。
サンプルで使用しようしたブナはそのさいたるもので、オークやカエデ、ウォルナット、ヒッコリー、チェリーもてきしている。
そして、強度きょうど弾力だんりょくせいのバランスや加工かこうせいさとはっきりとしたうつくしい木目もくめ特徴とくちょうのアッシュはおおくの曲木まがき家具かぐ使つかわれている。
木材もくざいとしては比較的ひかくてきかるく、あつかいしやすいが衝撃しょうげきつよく、繊維せんい直線ちょくせんてき均一きんいつなので加工かこうれにくいという特徴とくちょうつ。
自然しぜん環境かんきょうではウォルナットなどとくらべて耐久たいきゅうせいおとるものの、あかるいトーンの色調しきちょうやわらかく、しな高級こうきゅうかんがあることでも人気にんき木材もくざいだ。
よし、素材そざいはアッシュにしよう、とめて。
そのうつくしい木目もくめかす椅子いすにしたい、と曲線きょくせん直線ちょくせんまじわらせていく。

普段ふだんはクライアントと綿密めんみつなミーティングをかさね、クライアントのための椅子いすえがいている。
だが、いま自分じぶんのためにえがく。
純粋じゅんすいに。
だれかの、なにかのためではなく、ただただおのれ自身じしんのために。

(ハインはオレのために世界せかいうしなったとしても、世界せかいのためにオレをうしないたくないってう。かれらは、そうってくれる)

あい献身けんしんふかさにおぼれてしまいそうになることもある。
そのおもたさにいきができなくなることもある。
けれど、それがなければ自分じぶんはこの場所ばしょにはない。
っていることも、ましてやすすむことなどできずに、うずくまったまま世界せかいうらんでいた。
なにもかもを理不尽りふじんうばっていくばかりのこんな世界せかいなどなくなってしまえばいいのに、と。
しかし、いまちがう。
かれらときるこの世界せかいしんからうつくしいとおもえる。
純粋じゅんすいあいせるようになった。

確固かっこたる自信じしんって、成長せいちょうできたとれるいまだからこそ。
この作品さくひん相応ふさわしい場所ばしょきたい、とめ、アルフレードはハインリヒをた。

「マンションにかえまえみちをしたいんだけど、一緒いっしょてくれる?」

もちろんだ、とすかさずかえって言葉ことばにアルフレードはれとするほどあざやかにんだ。


Prossimo.

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