「
華恵ちゃん!ダメだよ!」
華恵ちゃんはオットマンチェアを
頭の
上まで
振り
上げた。
客席に
放り
投げられた
総也くんは
咄嗟に
頭を
庇う。
俺は
華恵ちゃんと
総也くんの
間に
滑り
込み、
華恵ちゃんの
腕を
掴んだ。
「
放しなさいよ!
私はね、こんな
奴を
弟だなんて
思っちゃいないんだからっ!
私はこいつの
母親に
追い
出されたのよっ!」
「
華恵ちゃん!」
「あんただって
知ってるでしょっ!ここまでくるのに
私がどれだけ
苦労したか!」
華恵ちゃんは
本気で
怒っている。
振り
上げられたオットマンは
俺が
真ん
中にいるから
辛うじて
宙に
浮かんでいるだけだ。
「
私はね、あんたの
顔すら
覚えちゃいなかったわよ!
図々しいったらありゃしない!
母親にそっくりだからわかったのよ!」
「
華恵ちゃん、
落ち
着けって!」
「アキが
預かるなんて
言うからよ!こんな
奴、さっさと
追い
出せばよかったのよ!」
俺を
振り
解こうと
華恵ちゃんは
腕を
左右に
振った。その
反動で
俺の
身体は
左右に
振られる。
「それ、
下ろせ!
落ち
着きなよ、
危ないから」
「これが
落ち
着いていられっか!」
熊並みに
獰猛になった
華恵ちゃんに
振り
回される。
辛うじて
華恵ちゃんの
腕を
掴んでいた
俺は、ただただ
左右に
揺さぶられていた。
俺が
掴んでいるから
華恵ちゃんは
自分を
抑えていられるのだ。
「
華恵ちゃん!」
「ふざけんなって
言ってんの!」
「わかったから!」
「アキを
信用して
預けたのよ!」
「ごめん!
俺が
軽率だった!」
「
何がマンションよ!
何が
新人アルバイトよ!《SUZAKU》は
私のオアシスだったのに!」
華恵ちゃんはオットマンをブンッと
放り
投げた。
俺の
頭上をオットマンが
飛んでいく。
「わっ」
だが
怒っていても
華恵ちゃんは
優しい
人だ。
勢いで
持ち
上げたオットマンチェアを
放り
投げた
先は
総也くんではなかった。
数メートル
先に
転がったオットマン。
華恵ちゃんは
大きく
肩で
息をしながら
俺を
見た。
興奮しているが
華恵ちゃんの
心はすでに
落ち
着いている。
「
危ないよ、
華恵ちゃん」
華恵ちゃんはフンッと
鼻を
鳴らすと、
肩で
息をしながら
歩いて
行きひっくり
返ったオットマンチェアを
元に
戻した。
自分の
店の
大切な
備品だ。
華恵ちゃんも
順風満帆でここまできたわけじゃない。それは
俺もよくわかっている。
頼る
者もなくたった
一人で
荒波を
乗り
越えて
来たのだ。
擦り
切れたドレスを
着ていても、
笑顔を
絶やさない
華恵ちゃんは
街の
人気者だった。いつも
優しくて、
厳しい
事を
言ってもすぐに
甘やかしてくれる
華恵ちゃんは、
俺にとっては
大切な
家族のような
人だ。
ドレスは
先輩のおさがりではなくなり、ハイヒールもブランド
物に
代わった。だが、
今の
華恵ちゃんの
背中は
寂しそうだ。
後ろ
向きのまま、
華恵ちゃんがボソッと
言った。
「
私はね、
後悔してるの。こんな
奴に
同情した
事を。
私が
同情して
可哀相だなんて
言ったから、アキが
引き
受けるって
言ったんだわ」
「ごめん、
華恵ちゃん。
圭介くんに
任せたらこうなる
事は
予見出来たはずだった。
俺が
悪かったよ・・・
今更だけど」
華恵ちゃんは
自分が
投げたオットマンチェアをそっと
擦っている。まるで
粗末に
扱ってごめんねと
謝っているかのように。
「・・・アキは
悪くないわ」
「ごめん」
「
悪いのはこいつよ!」
立ち
上がった
華恵ちゃんの
指は
総也くんを
指していた。
「
総也くんが
悪いわけじゃないだろう」
「あんた、
何が
目的なの!?」
「
目的なんて、ありません」
「あるはずよ!さっさと
言いなさい!
明日の
朝一で
超ド
派手なドレスを
着てあんたを
家まで
送り
届けてやるわ!あの
女が
恥ずかしくて
当分外を
歩けないくらい
派手なドレスで
帰ってやるわよ!
私を
死んだ
事にしてるのは
知ってるわ。
剣持家の
長男はオカマになりました~、
死んだって
言うのは
嘘ですよ~!
生きてますよ~って
歌いながら
町中を
練り
歩いてやるからっ!
覚悟しなさいっ!」
「それでも
僕は、
帰りません」
総也くんの
目には
迷いのようなものはない。
彼も
相当な
決意をして
出て
来たのだ。
「
総也くん。
君は
華恵ちゃんを
害するつもりはないんだよね?」
「ありません。ありませんけど」
「けど!」
華恵ちゃんは「けどってなによ、けど、って!」と
声を
荒げた。
「
何か
魂胆があるのね!?
白状しなさいっ!」
「
華恵ちゃんは
黙ってて」
「はあ!?
私は
置き
去りなの!?
除け
者なの!?アキッ!
私が
一番の
被害者なのよ!」
「
彼の
話しを
聞こうよ。
何か
事情があるんだよ。
総也くん、
今の
華恵ちゃんは
興奮してるけど、ちゃんと
話せばわかる
人だ。
君が
上京した
本当の
目的を
話してくれないか?
印鑑だけの
問題じゃないんだろう?」
総也くんは
華恵ちゃんと
俺を
見比べて
俯いた。
「すみません。その・・・
好きな
人がいます」
「はあ!?
好きな
人がいる!?どーいう
事!?」
「その
人と
一緒になりたいんです」
「
一緒になる!?はあ!?」
華恵ちゃんは
呆れたように
口をポカンと
開けた。
「バカ
言ってんじゃないわよ!あんたはあの
小さな
町で
市会議員やってりゃいいのよ!
支援者の
娘でも
嫁にもらって、
一日中作り
笑いで
握手してりゃいいのよ!」
華恵ちゃんは
自分が
放り
投げたオットマンに
座った。いつもなら
膝を
揃えて
上品に
座るのに、ドカッと
乱暴な
仕草で
股を
開いて
座っている。
「ふざけんな。あんたがこっちに
来て
戻らない。その
上、オトコと
駆け
落ち?それ
全部、
私の
所為になっちゃうじゃないの!」
「
助けてください」
総也くんが
立ち
上がって
華恵ちゃんに
頭を
下げた。
「なんで
私があんたを
助けなきゃなんないのよ!アホかっ!」
華恵ちゃんはいつもの
冷静さをかなぐり
捨てて「キーーーッ!」と
叫んだ。
華恵ちゃんは
事務所に
入って
出て
来ない。
総也くんは
俯いたままで
顔を
上げなかった。
「
君の
好きな
人という
方は、
仕事は
何をなさっているの?」
「その・・・
役者です」
「へえ。
有名な
方なのかい?」
「いいえ」
「じゃあ、
舞台とか?」
「はい。
小さな
劇団を
主宰しています」
ふと
目を
上げた
総也くんの
眼差しが
小さく
揺れた。そりゃ、
金が
掛かるな。
「
君は
彼を
経済的に
支援をしているのかい?」
「
支援とか、その・・・そこまでの
事はしていません」
「
多少、か?」
「ええ、まあ・・・その、
多少」
「そうか。それで
華恵ちゃんを
頼ってきたのはなぜ?」
「
母は
兄に
印鑑を
押させたいだけです。
僕は・・・その。
兄に
家を
継いで
欲しいです」
「ふうん・・・。
華恵ちゃんに
全てを
捨てろって
事?」
「その・・・。
自分勝手だと
思います。でも」
「でも?
華恵ちゃんは
不幸になっても
良いって
事?」
「
違います」
「そういう
事じゃないか?」
「
違います。でも、そういう
事になるんですね」
「
華恵ちゃんの
汗と
涙の
結晶なんだよ、この
店は。
君もご
両親の
期待が
強すぎて
辛かったかもしれない。だが、まだまだ
親の
庇護が
必要な
時期に
家出して
一人で
頑張ってきた
華恵ちゃんの
苦労は
君の
辛さの
比じゃないんだよ」
「ですよね」
「
君には
華恵ちゃんを
害しようとするような
気持ちはない。それは
俺にもわかるよ。でもね、
華恵ちゃんの
居場所はご
実家じゃないと
思う。
華恵ちゃんはここで
必要不可欠な
人なんだ。
俺らから
華恵ちゃんを
奪わないでくれ」
総也くんの
大きな
溜息が
聞こえた。
*****
ご
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すみません。あつ
森ばかりやってます。いつもなら
更新の
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求めてビューンとお
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遊んでます。
本当にすみません。switchから
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今は
自分の
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