２２

つくしは鎌倉かまくら歴史れきし文化ぶんか博物館はくぶつかんを出でた後のち、近ちかくにある北条ほうじょう雅子まさこが祭まつられているという浄福寺じょうふくじへ向むかった。
小田原おだわら城じょうは北条ほうじょう家かの城しろだ。
という事ことは楓かえで弥わたると蒔乃も北条ほうじょう家かゆかりの墓はかに埋葬まいそうされていても不思議ふしぎではないと考かんがえたからだ。

そこは徒歩とほで行いける近ちかさだ。
そして墓はかを一ひとつ一ひとつ見みて回まわる。
かなりの年月としつきが経たっている為ため、お墓はかに苔こけが付ついている物ものばかり。
北条ほうじょう雅子まさこの墓はかは案内あんない板ばんのようなものが立たっているが、他たの墓はかには何一なにひとつ書かかれていない。
もちろん墓はかも朽くちかけ刻きざまれた文字もじが分わからない。
それでも蒔乃、楓かえで弥わたるという文字もじがないかじっくり見みながら歩あるいていた。


類るいは博物館はくぶつかんを出でると近ちかくにある浄福寺じょうふくじへ向むかった。
北条ほうじょう雅子まさこの墓はかが祭まつられていると書かいていたからだ。
小田原おだわら城じょうは北条ほうじょう家かの城しろだし、小田原おだわら城じょう攻ぜめの時ときに亡なくなった楓かえで弥わたるなら北条ほうじょう家かゆかりの寺てらに埋葬まいそうされたのではないかと思おもったからだ。

すると、やはりそこにあの女性じょせいの姿すがたがあった。
確たしかに北条ほうじょう雅子まさこという歴史れきしに名なを残のこす人物じんぶつの墓はかがあるし、先さきほどの博物館はくぶつかんから近ちかいとはいえ、彼女かのじょが見みているのは雅子まさこの墓はかではなく近ちかくにある名なもなき墓はかだ。
誰だれの墓はかを探さがしているんだろう？
そう思おもうと、おもわず声こえをかけていた。

「あのさぁ。　ちょっと聞ききたいんだけど。」



つくしは一ひとつ一ひとつの墓はかを慎重しんちょうに見みていた。
だがそれらしい文字もじは無ないし、墓石はかいしもところどころ崩くずれかけている。
何なん年ねんごろに作つくられた墓はかなのかすら分わからない。
これじゃあ墓はかを探さがすのは無理むりかもしれない、、、と思おもっていたところ、自分じぶんに向むかって声こえをかけれられた。

「あのさぁ。　ちょっと聞ききたいんだけど。」

その声こえに周まわりを見渡みわたす。
周囲しゅういにはあたししかいない。
しかも声こえの主あるじは昨日きのうから同おなじルートを散策さんさくしているイケメン大学生だいがくせい。
何なにか聞ききたいようだ。
もちろんあたしも尋たずねてみたい。
何故なぜ同おなじルートを回まわっているのかって。

「はい。　何なにでしょうか？」
「あんた、英徳ひでのりの中学生ちゅうがくせいだよな？」
「はい。　あなたは図書館としょかんで日本にっぽん史しコーナー付近ふきんの席せきに座すわっていた方ほうですよね？」

類るいはつくしの返事へんじに、あれ？と思おもう。
もしかして自分じぶんの事ことを知しらない？
英徳ひでのりに居いながら知しらない人ひとがいるとは、、、と思おもうと、自分じぶんがいかにも有名人ゆうめいじんと思おもい込こんでいた事ことが恥はずかしくなる。
もちろん一時いちじはストーカーなのでは？と思おもった事こともだ。

「俺おれの事ことを知しらない？」

つくしは小首こくびを傾かしげる。
イケメンだとは思おもうがテレビにでも出でている人ひとだろうか？と思おもうし、もしかしてこれがナンパという物ものだろうか？とも思おもう。

「すみません。　全然ぜんぜん知しりません。」
「そうなんだ。」

類るいは自分じぶんの口元くちもとを手てで覆おおい、笑わらいをかみ殺ころす。
女性じょせいの表情ひょうじょうを見みても嘘うそをついているとは思おもえないし、どちらかというと距離きょりを開あけ怪あやしんでいる。
こういう行動こうどうをとる女性じょせいは初はじめてで、確たしかにナンパしていると思おもっても不思議ふしぎではないかと思おもう。
それに今更いまさらだが声こえをかけた事ことも恥はずかしい。
相手あいても俺おれの事ことを知しっていて俺おれが声こえをかければ喜よろこんで答こたえてくれるとばかり思おもいこんでいた。
つまり自分じぶんが最もっとも嫌きらいな自意識じいしき過剰かじょうという人物じんぶつになっていた事ことが恥はずかしい。
気きを取とり直なおし、少すこし歩あゆみ寄よりながら話はなしかける。

「ごめん。　英徳ひでのりの女おんな生徒せいとは全員ぜんいん俺おれの事ことを知しっているとばかり思おもいこんでいた。」
「すみません。　実じつはアメリカに住すんでいて4月がつに英徳ひでのりに入はいったばかりなんです。」

類るいはここで自分じぶんを知しらなかった理由りゆうが分わかった。
確たしかに編入へんにゅうしたてだし中学ちゅうがくと高校こうこうでは校舎こうしゃも違ちがう。
知しらなくて当あたり前まえだと納得なっとくした。

「突然とつぜん話はなしかけてごめん。　俺おれは英徳ひでのり高校こうこう一いち年ねんの花沢はなざわ類るい。」
「えっ？　高校生こうこうせい？　えっ？　でも図書館としょかんで会あった時ときは私服しふくでしたよね？」
「あぁ。　制服せいふくは窮屈きゅうくつだから着きたくなくて。」

その言葉ことばにつくしの中なかのイメージが大おおきく下さがる。
つまり、、、自己じこ主張しゅちょうが激はげしく目立めだちたがり屋やと思おもった。
そんな人ひとだから、こうして話はなしかけてきたのか、、と類るいの性格せいかくを思おもい測はかる。

「てっきり大学生だいがくせいとばかり思おもっていました。」
「ん。　まあ私服しふくだったからね。
それでちょっと聞ききたいんだけど、どうしてこのお墓はかをジッと見みていたのか気きになってさ。
北条ほうじょう雅子まさこの墓はかはそこだろ？　ここの墓はかは無名むめいだろ？」
「あぁ、それは、、、」

ここでつくしは言葉ことばに詰つまる。
まさか夢ゆめで見みた蒔乃と楓かえで弥わたるのお墓はかを探さがしているとは言いえない。
それこそ蒔乃というお姫様ひめさまがリアルすぎて自分じぶんの前世ぜんせいかもしれないと言いえば変人へんじん扱あつかいだ。

「それは戦国せんごく時代じだいに興味きょうみを持もちまして、特とくに小田原おだわら攻ぜめが気きになって色々いろいろ調しらべていたんです。
小田原おだわら城じょうは北条ほうじょう家かが城主じょうしゅだったはずですし、北条ほうじょう雅子まさこのお墓はかがあるなら北条ほうじょう家か関係かんけいの人ひとのお墓はかもこの辺あたりにあるのかな？と思おもって。」

つくしの返事へんじに類るいは驚おどろく。
まさに自分じぶんが調しらべているのも小田原おだわら攻ぜめ付近ふきんだ。
そして楓かえで弥わたるとその正室せいしつになった蒔乃も北条ほうじょう系けいのお墓はかに入はいったと思おもっている。
まさに同おなじ事ごとを調しらべているからだ。

「俺おれも同おなじ。　何故なぜか小田原おだわら攻ぜめに関かんすることが知しりたくてさ。」
「えっ？　そんな偶然ぐうぜんが？」

つくしは目めを丸まるくする。
戦国せんごく時代じだいの中なかの一部分いちぶぶんである小田原おだわら攻ぜめに興味きょうみを持もつ人ひとがこんな身近みぢかにいたとは、、という感想かんそうだ。
もちろん自分じぶんは夢ゆめで見みたからであって、それがなければ興味きょうみを持もつことも無なかったとは言いえない。

「それで何なにか分わかった？」
「それが全然ぜんぜんです。
北条ほうじょう雅子まさこのようにプレートでも置おいてくれたらいいんですけど、この辺あたりのお墓はかには誰だれが眠ねむっているのか全まったく分わかりませんし文字もじも読よめません。」
「そうなんだ。　という事ことは誰だれかのお墓はかを探さがしているの？」
「えっと、、、」

つくしは再ふたたび言葉ことばに詰つまる。
蒔乃と楓かえで弥わたるのお墓はかだが、日本にっぽん史しに名前なまえが載のっていない為ため、その二人ふたりが実際じっさいに存在そんざいしていたかも怪あやしい。
そんな二人ふたりのお墓はかを探さがしていると言いえば、メルヘン脳のうだと思おもわれてもおかしくない。
GWが明あけたら図書館としょかんへ通かようつもりだし、そこで類るいに会あう可能かのう性せいも否定ひていできない今いま、変人へんじん扱あつかいは避さけたい。

「特とくに誰だれという訳わけでは無ないんですけど、昔むかしはどういうお墓はかのつくりをしていたのかとか、作つくられた年代ねんだいとか名前なまえが書かかれていたら、その人ひとを調しらべてみたいな～～と思おもって。」
「なるほど。　確たしかにそう言いうものを調しらべても良よいかもしれないな。」

類るいはフムフムと納得なっとくする。
そしてもしどこかで楓かえで弥わたると蒔乃という名前なまえのお墓はかを見みつけたら教おしえて欲ほしいと思おもう。

「あのさ。　もし何なにか名前なまえが書かかれているお墓はかを見みつけたら教おしえてくれないかな？」
「えっ？」

「俺おれも小田原おだわら攻ぜめで亡なくなった人ひとを調しらべているんだ。
あの戦たたかいは北条ほうじょうが白旗はっきをあげて負まけている。
でも豊臣とよとみ軍ぐんに向むかって行いった人ひともいると思おもうんだ。
その人ひとがどういう人物じんぶつだったのか知しりたくてさ。」
「という事ことは花沢はなざわさんもお墓はかを調しらべているんですか？」
「そう。　お墓はかとか小田原おだわら藩はんと同盟どうめいを結むすんでいた城しろとかさ。」

それはつくしも調しらべていた事ことだ。
蒔乃と楓かえで弥わたるのお墓はかと城しろを探さがしている。

「偶然ぐうぜんですね。　あっ、だから昨日きのうも同おなじルートを回まわっていたんですかね？」
「あれは親友しんゆうが行いきたいと言いってついていっただけ。
ただ一条いちじょう恵めぐみ観かん山荘さんそうも報国ほうこく寺てらも足あしを踏ふみ入いれた時ときにタイムスリップした感覚かんかくがしてさ。
戦国せんごく時代じだいもこんな感かんじだったんだろうなと思おもったら、ゆっくり見みて回まわりたくてさ。
特とくに竹林ちくりんはそこに侍さむらいがたたずんでいるような感かんじがしてさ。」

「同おなじです！　別世界べっせかいでしたよね。」
「ん。」

二人ふたりはあの時ときのなんともいえない感覚かんかくを共通きょうつうしていたことが嬉うれしい。

「それでこの後のちどこへいくの？」
「えっと、東慶寺とうけいじと円覚寺えんかくじです。」

「じゃあ一緒いっしょに行いこうか？」
「えっ？」

「今日きょうは俺おれ一人ひとりなんだ。
親友しんゆうは逗子ずしでウインドサーフィンをしているんだけど、俺おれはせっかくここまで来きたんだから寺てらを回まわりたくてさ。
今日きょう一いち日にちは自由じゆう行動こうどうにしてもらったんだ。
あんたは？　昨日きのうは祖父そふらしき人ひとと来きていただろ？」
「はい。　おじいちゃんは今日きょうはゴルフなんです。　なのであたし一いち人にんです。」

「だったら一緒いっしょに回めぐろうか？」
「はい。　よろしくお願ねがいします。」

類るいは自分じぶんの口くちから出でる言葉ことばが信しんじられない。
だが同おなじ事ごとを調しらべているし何なにか見みつかればその場ばで共有きょうゆうできる。
それにこうして話はなしをしていても嫌いやな感かんじはしない。

つくしは少すこし心強こころづよく感かんじた。
祖父そふの手前てまえ一人ひとりで行動こうどうすることはどうって事ことないと言いってはいたものの、やはり知しらない土地とちだし電車でんしゃに乗のる時ときもこっち方面ほうめんで良よいのかとハラハラしていた。
それに同おなじ事ごとを調しらべているのなら自分じぶんが気きづかない事ことを発見はっけんしてくれるかもしれない。

「ところであんたの名前なまえは？」
「牧野まきのつくしです。　中学ちゅうがく三さん年ねんです。」

まきの？

「漢字かんじで書かくと？」
「牧場ぼくじょうの牧まきに野原のはらの野のです。」

だよな、、、まさか蒔乃だったらと思おもったけど、まあ牧野まきのという響ひびきだけでドキッとするんだけど。
それにやっぱり目元めもとが似にているような気きがする。

つくしは返事へんじをしながら類るいの目めを見みる。
これだけ近ちかくで顔かおを見みるのは初はじめてだが、やはり楓かえで弥わたるの目元めもとに似にていると思おもう。

「じゃあ牧野ぼくや。　俺おれの事ことは類るいと呼よんでくれていいから。」
「類るいさんですね。」

「ん。　じゃあ行いこうか。　車くるまで来きているんだ。　だから駐車ちゅうしゃ場じょうまで来きてくれる？」
「はい。」

こうして二に人にんは行動こうどうを共ともにすることにし、車くるまで東慶寺とうけいじへ向むかった。

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