奥から
芳香を
含んだ
生暖かく
湿った
風が、
規則正しくやってくる。
辺りは
暗く、
自分の
周りでさえ
視界が
覚束ない。
その
上、トランポリンの
上を
歩いているかのように、
足場に
弾力があって
不安定だ。
思いの
外、
歩くのに
筋力を
使う。
それに
女神の”キー”があるかもしれない
場所だ。これも
一種のダンジョンであるのには
違いないから、
油断は
出来ない。
しかも、
時間が
時間だ。
日が
暮れれば、
魔獣達の
動きも
活発になる。
博雅鬼と
合流するまでの
間、
不本意だが
魔獣を
数体、アイテムボックスから
呼び
出すことにした。
発光性のあるバタフライ、
鼻の
利くケンタロス、
怪力のオーク。
忘れもしない
敏也がはじめてテイムした「
名無し001」だ。
魔獣たちはみな、
久々に
娑婆(シャバ)の
空気を
吸ったことよりも、
愛しの
敏也に
会えたことを
喜ぶ。
バタフライが
鱗粉(リンプン)を
振りまきながら
敏也の
鼻頭にキスをしてくるぐらいは
可愛らしかった。
だが、ケンタロスには
指をベロベロと
舐められ、オークには
熱く
抱擁されて、
危うく
圧死するかと
思った。
呼び
出した
早々に
後悔した。
それでも
明かりができたことは
有難い。ケンタロスを
先頭にオークを
殿(シンガリ)に
置いて、
恐る
恐る
前へと
進み、カーブをくるりと
回り
降りたところで、
予測していた
合流地点へと
出た。
先に
到着していた
博雅鬼は
余程待ちくたびれたか、
顰めっ
面でイライラと
指の
関節を
鳴らしている。
直ぐに
敏也の
姿を
認めたようなのだが、わらわらと
敏也を
囲むテイム
魔獣たちの
存在に
気づき、
益々と
渋面になった。
「
待たせて、ごめんね。なるべく
早く
合流しなければと
思ったのだけど、また
道中でいろいろと
増えちゃって……」
敏也が
新入りたちを
指さす。
だが、
博雅鬼の
寒心にたえない
凄みに、
新入りたちは
震え
上がる。
「あっ、もう、
博雅鬼もいるし、
大丈夫かな? ほら、みんな
一旦ボックスに
入ってね。
名無し001たちも、ありがとう」
魔獣間の
板挟みに
耐えられずに、
明かりを
灯すバタフライ
以外を
早々にアイテムボックスにしまう。
出てくるのは
空笑いばかり。
とはいえ、この
博雅鬼の
怒った
顔は
嫌いではない。
それに、
魔獣たちを
帰還さたら、
博雅鬼は
先程とは
打って
変わり、
分かり
辛いながらにも
少し
嬉しそうな
表情になった。
(あれ、この
反応、”
茶マロ”みたい)
”
茶マロ”は
敏也が
前世飼っていた
愛犬だ。
警戒心は
強いものの、
飼い
主に
忠実な
柴犬の
雑種で、
敏也が
構ってあげると
大きな
尻尾をブンブンと
振って
喜々として
甘えてきた。
博雅鬼も
日頃が
大人びてクールだから、こういう
反応をされると、その
落差に
愛おしさを
感じる。
「
二手に
分かれたものの、
問題はなかったようだな。
形状といい、やはりここ
自体が
神獣の
領域みたいだな」
「うん」
「どうだ? この
先に
何か
感じるか?
匂いは
強くなってきているようだが」
「うん、
腕が
引っ
張られる
感覚が
増してきた。あの
時と
同じなら、
女神の”キー”があると
思う」
「そうか。ならば、
行こう」
博雅鬼は
足元に
風雲を
作ると、
連れていってやるから
乗れと
言わんばかりに
敏也に
向かって
手を
差し
出した。
敏也はその
手を
受け
取り
風雲に
登ると、
博雅鬼の
背中に
腕を
回して、しっかりとしがみつく。
獣人といえど
敏也と
同じように
血が
通っている。
密着したところから
博雅鬼の
体温が
伝わってきて
心強い。
そのままどんどんと
奥深く
下っていくと、だだっ
広い
空洞に
出た。
底部は
琥珀色の
水が
張り、
中からぐつぐつと
気泡が
湧き
起こっている。
甘い
香りを
伴っているから、
一見炭酸飲料のようで
美味しそうなのだが、ここに
落ちたらきっとタダでは
済まないだろう。
身が
溶けて、
敏也もこの
炭酸飲料の
一部になってしまうかもしれない。しがみつく
手にキュッと
力をこめる。
すると、
博雅鬼も
敏也を
慮ってか、
支える
腕の
力を
強くする。
「どうだ? どちらの
方向だ」
「
右の
奥」
敏也の
指示に
従い、
博雅鬼が
舵を
取る。
すると、
岩が
隆起してテラスになったところが
現れた。そこに
降り
立つと、
中央に
祭壇があり、
厳重に
結界を
張り
巡らされ
中に”キー”があった。
「さすが
使徒だな。こう
容易く”キー”のあるところまで、
侵入できるとは」
「こんなものじゃないの?」
「
違うな。
普通は
門番の
神獣が
目覚めて、
荒れ
狂う」
確かに
敏也が
初めて”キー”を
手にした
時も、
使徒である
自分はダンジョンの
最下層まで
容易く
行くことができた。
一方、
博雅鬼は”キー”を
護る
神獣と
交戦していた。
鍵場にも
神獣にも、
使徒か
否かを
識別する
力があるようだ。”キー”は
各地に
散らばっているとはいえ、やはり
敏也が
集めること
自体はそう
困難ではないようだ。
「じゃ、いくよ」
敏也は
初めて
鍵を
取り
込んだ
時と
同じく、
流れるガイダンスに
従い、”キー”に
手を
翳す。
すると、”キー”は
発光しながら、
敏也の
指先から
伸びた
蔦を
辿り、この
鍵の
定位置と
思われる
鍵穴へとしっぽりと
納まった。
皮膚には
鍵印と
共に「Ⅱ」の
数字が
刻まれた。
「
神獣、ありがとう。
確かに”キー”を
受け
取ったよ。だけど、
引き
続きこの
村のこともよろしくね」
岩肌に
触れると、「
任せておけ」とばかりにそこがポコポコと
波打った。
――これで
二つ
目の”キー”が
集まった。
敏也たちは
一、
二日、この
村で
羽根を
伸ばした
後に、
再びブキ・パントランへと
戻っていった。
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