３・１１から12年ねん　つながりが生いきる力ちからに　via 東京とうきょう新聞しんぶん

　福島ふくしまから娘むすめたちを避難ひなんさせた選択せんたくは間違まちがいではなかったと、無事ぶじに成人せいじんして安堵あんど（あんど）している。その一方いっぽう、自分じぶんたちだけが逃にげ出だしたような負おい目めから逃のがれられない−。

東京電力とうきょうでんりょく福島ふくしま第だい一いち原発げんぱつ事故じこからの十じゅう二に年ねんは、今いまは京都きょうと市しに住すむ団体だんたい職員しょくいんの高木たかぎ久美子くみこさん（５６）＝写真しゃしん＝にとって、葛藤かっとうの渦うずの中なかで過すごした時間じかんでもありました。

[…]

◆自主じしゅ避難ひなんの葛藤かっとうの中なかで

　京都きょうとでは放射線ほうしゃせんの心配しんぱいから解放かいほうされましたが、夫おっととの別わかれが待まっていました。

　「一緒いっしょに避難ひなんを」と説得せっとくしましたが、夫おっとは「そこには四よん十じゅう歳さいすぎの男おとこに仕事しごとはない」。夫婦ふうふの溝みぞは埋うずまらず、避難ひなんの翌年よくねん、離婚りこんに至いたります。父親ちちおやと会あえないことは娘むすめたちを不安定ふあんていにし、不ふ登校とうこうになった次女じじょは「お父とうさんに会あいたい」と言いって泣なきました。

　いわきの家いえは夫婦ふうふで働はたらいて建たてた家いえでした。家いえを出でるときに持もってきた家族かぞく写真しゃしんには、娘むすめたちと若わかい母親ははおやの自分じぶんが写うつっています。撮とったのは夫おっと…。家族かぞくと離はなれる夫おっとのつらさも、今いまなら分わかりますが、原発げんぱつ事故じこは思おもいやりも正気しょうきも奪うばい、多おおくの家族かぞくに苦悩くのうと離散りさんをもたらしました。

　「事故じこさえなかったら、今いまも家族かぞくは一緒いっしょだった」。高木たかぎさんの胸むねには、抜ぬけない悔恨かいこんのとげが刺ささったままです。

　国くにと東電とうでんは原発げんぱつ事故じこの痛いたみや犠牲ぎせいの多おおくを被災ひさい者しゃ個人こじんに押おしつけてきました。「反省はんせい」を口くちにはしますが、責任せきにん逃のがれの言葉ことばの陰かげに隠かくれてしまっています。

　原発げんぱつ事故じこ避難ひなん者しゃの取材しゅざいをしていると、区域くいき外がい避難ひなん者しゃの離婚りこんをよく耳みみにします。しかし、国くにと東電とうでんは自己じこ責任せきにんで避難ひなんした人ひとたちを「自主じしゅ避難ひなん者しゃ」と呼よび、まともな賠償ばいしょうをしてきませんでした。あちらこちらで発はっせられる家族かぞくの痛いたみなど聞きこえないかのようです。

　京都きょうとに来きてからの高木たかぎさんは行動こうどうする人ひとに変かわりました。

　一いち三さん年ねん、京都きょうと府ふに自主じしゅ避難ひなんした人ひとたち五ご十じゅう七なな世帯せたい百ひゃく七なな十じゅう四よん人にんが国くにと東電とうでんに計けい八はち億おく四よん千せん万まん円えん余あまりの損害そんがい賠償ばいしょうを求もとめた集団しゅうだん訴訟そしょうの原告げんこくに加くわわりました。一いち八はち年ねん春はる、京都きょうと地裁ちさいは国くにと東電とうでんの責任せきにんを認みとめ、一部いちぶ原告げんこくを除のぞいた百ひゃく十じゅう人にんに計けい約やく一いち億おく一いち千せん万まん円えんの賠償ばいしょうを命めいじました。国くにの賠償ばいしょう基準きじゅんを超こえる内容ないようで、審理しんりは大阪おおさか高裁こうさいで続つづいています。

　原発げんぱつ賠償ばいしょう裁判さいばんで勝かち取とった判決はんけつは、国くにが昨年さくねん、九きゅう年ねんぶりに着手ちゃくしゅした原発げんぱつ賠償ばいしょう基準きじゅん（中間なかま指針ししん）の見直みなおしにつながりました。

　ただ、避難ひなん指示しじ区域くいき外がいの避難ひなん者しゃも賠償ばいしょうの増額ぞうがく対象たいしょうですが、その額がくはごくわずかです。区域くいき内ない賠償ばいしょうの増額ぞうがくに主眼しゅがんが置おかれ、「区域くいき内外ないがいで格差かくさが広ひろがる恐おそれ」を指摘してきする専門せんもん家かもいます。

　国くには被災ひさい者しゃを分断ぶんだんするような政策せいさくはやめ、区域くいき外がいの人々ひとびとにもまともな賠償ばいしょうをすべきでしょう。

◆寄より添そい合あう仲間なかま得えて

　高木たかぎさんは「風評ふうひょう被害ひがいをまき散ちらすな」と非難ひなんされ、福島ふくしまでは放射線ほうしゃせん被害ひがいを語かたれませんでした。避難ひなん先さきでの生活せいかつ費ひが続つづかず福島ふくしまに戻もどった母子ぼしも見みてきました。

　原発げんぱつ事故じこで失うしなった多おおくのものを私わたしたちは忘わすれてはなりません。だからこそ、原発げんぱつ事故じこの問題もんだいを福島ふくしまに閉とじ込こめず、広ひろく問といかける必要ひつようがあるのです。そのためには人ひとと人ひととのつながりを太ふとく、強つよくしたい。それが、原発げんぱつ事故じこの被災ひさい者しゃにとって未み曽そ有ゆうの核かく災害さいがいを乗のり越こえ、生いきる力ちからになるはずです。

　寄より添そい合あえる仲間なかまを得えて、京都きょうとに根ねを下おろして生いきると決きめた高木たかぎさん。表情ひょうじょうに明あかるさが戻もどり、力ちからを込こめてこう語かたるのです。「次世代じせだいに対たいする責任せきにんとして福島ふくしまの人ひとの分ぶんまで京都きょうとで声こえを上あげたい」と。