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7月がつ、連日れんじつの猛暑もうしょがひと段落だんらくしたその日ひ、李り鐘かね根ね（イ・ジョングン）さんは娘むすめさんの押おす車くるまいすに乗のってやってきた。柔やわらかな笑顔えがお。しかし、ここには「本当ほんとうは余あまり来きたくない」と言いう。そこは77年ねん前まえ、李りさんがまだ16歳さいだったとき、大変たいへんな光景こうけいを目まの当あたりにした場所ばしょ。広島ひろしま市しを流ながれる猿猴えんこう川かわにかかる、荒神こうじん橋きょうのたもとだった。 執筆しっぴつ：「TBSテレビ　つなぐ、つながるＳＰ　戦争せんそうと嘘うそ＝フェイク」プロデューサー・山岡やまおか陽よう輔 （略りゃく） 「『生いきていたか』と私わたしを抱だきしめてわいわい泣なくんですけども、韓国かんこく語ごで『アイゴー』という言葉ことばがあるんですね。喜怒哀楽きどあいらくを表あらわすときにいろいろ使つかうんですが、そういうときの『アイゴー』というのが、ものすごく胸むねにしみるんですね。その時ときを考かんがえると…すみません…この歳としになってもあの言葉ことばが、まだ頭あたまに残のこって…もう悲壮ひそうなあの言葉ことばで私わたしを抱だきしめて泣なくんですけど、私わたしも一緒いっしょにつられて良よく泣なきました」。 その後ご、李りさんは4か月げつ、ほとんど家かにこもりきりに。やけどにはウジがわき、原爆げんばくの放射線ほうしゃせんによる下痢げりや嘔吐おうとにも襲おそわた。毎日まいにち毎日まいにち…もだえ苦くるしみ続つづける李りさんの姿すがたを見みるに堪こたえず、母親ははおやの口くちから、こんな言葉ことばもこぼれたと言いう。 李りさん：「寝ねようとしても痛いたくて眠ねむれないんですよ。朝あさになって私わたしの顔かおを見みながら母ははが『このまま生いきてもどうしよもないじゃないか。人間にんげんじゃないよ』と。『チュゴ』という韓国かんこく語ごの言葉ことばがあるんですが、『早はやく楽らくに死しねよ、楽らくになれよ』と。『チュゴ』という言葉ことばが私わたしのこの胸むねにどきっと刺ささるような状態じょうたいでしたけども、本当ほんとうに死しねという意味いみじゃなくて『苦くるしいだろう、出来できれば早はやく楽らくになれよ』という、母ははの気持きもちだったと思おもうんですよね」。 「首くびの後うしろのやけどしたところがだんだん腐くさってきます。物凄ものすごい膿うみがでてきてウジ虫ちゅうがわきました。私わたしは被爆ひばく体験たいけんを話はなすのが嫌いやだった一番いちばんの理由りゆうは、このウジ虫ちゅうの話はなしです。生いきた人間にんげんの身体しんたいにウジ虫ちゅうがわく。そういうことは人ひとには言いえません、恥はずかしくて。それと在日ざいにちという、2つの自分じぶんの気持きもちの中なかでの差別さべつ、人ひとにこんなことを言いえるわけがない。私わたしが被爆ひばく体験たいけんをお話はなしすることはずっとなかったんです」。 （略りゃく） 李りさん：「毎日まいにちです。私わたしも出でましたね。必かならず下痢げり嘔吐おうとがあるんです、原子げんし爆ばく弾だんの場合ばあいは。その当時とうじ、髪かみが抜ぬけると死しぬと言いわれていたんですね。そういう風評ふうひょうがあった。実際じっさいに亡なくなった方ほうもいた。私わたしは毎朝まいあさ髪かみを引ひっ張ぱってみるんですけど、抜ぬけないや。きょうは大丈夫だいじょうぶだと確認かくにんしていました。4か月げつくらい後のちに職場しょくばに復帰ふっきするんですけども、好すきで入はいったところなのでやはり一生懸命いっしょうけんめい仕事しごとをしていましたけれども、ケロイドが白しろく浮うき出でているところがあった。同期生どうきせいなんかが『江川えがわ（当時とうじ、李りさんが名乗なのっていた苗字みょうじ）のところ行いくなよ。あれ原爆げんばくで、うつるぞ』と。友達ともだちがだんだんだんだん離はなれていくんですね。原爆げんばくがうつると」。 「ピカがうつる」。そんな根拠こんきょのない噂うわさがたち、差別さべつされたと言いう。 原爆げんばくは、爆発ばくはつに伴ともない、熱線ねっせんや爆風ばくふうに加くわえ、大量たいりょうの放射線ほうしゃせんを出だす。放射線ほうしゃせんは、人体じんたいの奥深おくふかくまで入はいり込こみ、やけどの傷きずが癒いえても深刻しんこくな障害しょうがいを引ひき起おこすことがある。 多おおくの被爆ひばく者しゃが被曝ひばく7～8年ねん後ごをピークに白血病はっけつびょうを発症はっしょう。その頻度ひんどは、被爆ひばくしていない人ひとの約やく20倍ばいだった。今いまも、原爆げんばく症しょうと認定にんていされた人ひとだけでおよそ7000人にんが、がんなどと闘たたかっている。 原爆げんばく症しょうを60年ねん以上いじょう研究けんきゅうする第一人者だいいちにんしゃ、広島大学ひろしまだいがくの鎌田かまた七なな男なん名誉めいよ教授きょうじゅは次つぎのように指摘してきする。 「20年ねん30年ねんたって、ある時ときには肺はいがんが出でてきたり、さらにそれから10年ねんたったら大腸だいちょうがんが出でてきたり、というふうにして一人ひとりの身体しんたいに2つも3つもがんが出でてくるという状況じょうきょうが稀まれではありません。生涯しょうがいにわたっていくつものがんを発症はっしょうする」。 16歳さいで被爆ひばくし、その後ご長ながく被爆ひばく体験たいけんを語かたってこなかった李りさんだが、80歳さいを過すぎてから語かたりはじめた。チョルノービリ原発げんぱつ事故じこの被害ひがいがあったウクライナやベラルーシも訪問ほうもん。 また、在日ざいにち韓国かんこく人じんをめぐる被爆ひばくの実態じったいについて訴うったえる活動かつどうも行おこなってきた。 （略りゃく） 李りさん：「最終さいしゅう的てきに、ガンですと。放射能ほうしゃのうによるガン。77年ねんたってもこうして出でるということは、いかに放射能ほうしゃのうが人間にんげんの体からだを食くいつぶすかという。だからその事実じじつを、なんとか元気げんきなうちに。今いまちょうど証言しょうげん活動かつどうを中止ちゅうししているんだけれど、何なん校こうか証言しょうげん活動かつどうをしてほしいというのが入はいってきているんですよ。それを何なにとか、放射能ほうしゃのうの恐おそろしさというものを子こどもたちに話はなしをしながら、『核かく反対はんたいしようよ。恐おそろしいよ』と伝つたえていきたい」。 7月30日にち、李りさんは亡なくなった。93歳さい。盲腸もうちょうがん…原爆げんばく症しょうによる死し。インタビューを終おえ、ほっとしたような笑顔えがおを浮うかべた。そして…「お願ねがいしますよ」。私わたしたちスタッフや小川おがわキャスターの目めを見みて、李りさんはそう言いった。 全文ぜんぶんは「いかに放射能ほうしゃのうが人間にんげんの体からだを食くいつぶすか」…原爆げんばくから77年ねんでがんを発症はっしょう、先月せんげつ亡なくなった被爆ひばく者しゃ・李り鐘かね根ねさんが、最後さいごに小川おがわ彩佳あやかキャスターに話はなしたこと。 当とうサイト既出きしゅつ関連かんれん記事きじ：原稿げんこうから削けずられた6文字もじ 原爆げんばくの日ひ1週間しゅうかん前まえに急逝きゅうせいした韓国かんこく人じん被爆ひばく者しゃの”遺言ゆいごん”とは　via Buzzfeed

広島ひろしまの原爆げんばくの日ひの1週間しゅうかん前まえ、ある被爆ひばく者しゃの男性だんせいが亡なくなった。男性だんせいのメッセージを収録しゅうろくした映像えいぞうが平和へいわ記念きねん式典しきてんの会場かいじょうで流ながされたが、広島ひろしま市しの手てで6文字もじ削けずられていた。なぜか。男性だんせいが死しの淵ふちでい残いのこしたかったことは。 原爆げんばくドームがある選挙せんきょ区くが地盤じばんの岸田きしだ文雄ふみお首相しゅしょうが参列さんれつした広島ひろしまの平和へいわ記念きねん式典しきてん。 その会場かいじょうで流ながれた動画どうがメッセージに登場とうじょうした被爆ひばく者しゃの中なかに、原稿げんこうの一部いちぶを広島ひろしま市しの手てで削けずられ、その無念むねんを訴うったえて式典しきてんの1週間しゅうかん前まえに亡なくなった男性だんせいがいた。 一連いちれんの経緯けいいを見みつめてきた広島ひろしま在住ざいじゅうのフリーランス記者きしゃ、宮崎みやざき園子そのこさんが報告ほうこくする。 原爆げんばくドームがある選挙せんきょ区くが地盤じばんの岸田きしだ文雄ふみお首相しゅしょうが参列さんれつした広島ひろしまの平和へいわ記念きねん式典しきてん。 その会場かいじょうで流ながれた動画どうがメッセージに登場とうじょうした被爆ひばく者しゃの中なかに、原稿げんこうの一部いちぶを広島ひろしま市しの手てで削けずられ、その無念むねんを訴うったえて式典しきてんの1週間しゅうかん前まえに亡なくなった男性だんせいがいた。 一連いちれんの経緯けいいを見みつめてきた広島ひろしま在住ざいじゅうのフリーランス記者きしゃ、宮崎みやざき園子そのこさんが報告ほうこくする。 自みずからの被爆ひばく体験たいけんを国内外こくないがいで精力せいりょく的てきに証言しょうげんしてきた広島ひろしまの被爆ひばく者しゃが、原爆げんばくの日ひ（8月がつ6日にち）の1週間しゅうかん前まえに、93歳さいで息いきを引ひき取とった。盲腸もうちょうがんのため亡なくなった韓国かんこく原爆げんばく被害ひがい者しゃ対策たいさく特別とくべつ委員いいん会かい委員いいん長ちょうの李り鍾根（イ・ジョングン）さんだ。 広島ひろしま市しの求もとめに応おうじ、被爆ひばく者しゃとしての思おもいを述のべたメッセージ映像えいぞうを収録しゅうろくしたが、用意よういしていた原稿げんこうの一部いちぶを削けずるよう市しの担当たんとう者しゃに求もとめられた。「なんで言いいたいことを言いわせないの」。亡なくなる直前ちょくぜん、悔くやしさを語かたった。 死しの淵ふちで、彼かれが伝つたえ残のこしたかったことは何なにだったのか。 会場かいじょうに流ながれた映像えいぞう 戦後せんご3人にん目めとなる広島ひろしま県けん選出せんしゅつの首相しゅしょう、岸田きしだ文雄ふみお氏しら多おおくの来賓らいひんを招まねき、6日にちに平和へいわ記念きねん公園こうえんで開ひらかれた広島ひろしま市しの平和へいわ記念きねん式典しきてん。 午前ごぜん8時じの開ひらき式しきに先立さきだち、会場かいじょうに設置せっちされた大型おおがたディスプレイで、被爆ひばく者しゃ19人にんがそれぞれの思おもいを語かたるメッセージ映像えいぞうが流ながされた。年齢ねんれい順じゅんで最後さいごとなった李りさんのメッセージは、こうだった。 「あの日ひ被爆ひばくした朝鮮半島ちょうせんはんとう出身しゅっしん者しゃたちは、同おなじ被爆ひばく者しゃでありながら、終戦しゅうせんを境さかいに『外国がいこく人じん』として援護えんごを受うけられないまま多おおくの人ひとが死しんでいきました」 51秒びょうの短みじかいメッセージは、李りさんが7月がつ30日にちに逝去せいきょしたことや、動画どうがは6月がつ30日にちに撮影さつえいされたものだというおことわりつきで流ながされた。 しかし削けずられていた6文字もじ 式典しきてんに参列さんれつしていた私わたしは、この映像えいぞうがこの内容ないようで流ながれるのを、悔くやしい思おもいで眺ながめていた。 「一番いちばん言いいたかった部分ぶぶんを削けずるように、広島ひろしま市しの担当たんとう者しゃに言いわれたのよ」。生前せいぜんの李りさんから、そう聞きいていたからだ。 李りさんの手元てもとにあった原稿げんこうの文言もんごんは、こうなっていた。 「あの日ひ被爆ひばくした朝鮮半島ちょうせんはんとう出身しゅっしん者しゃたちは、同おなじ被爆ひばく者しゃでありながら、終戦しゅうせんを境さかいに外国がいこく人じんとして切きり捨すてられ、援護えんごを受うけられないまま多おおくの人ひとが死しんでいきました」 しかし映像えいぞうでは、「切きり捨すてられ」の6文字もじが削けずられていたのだ。 […] 全文ぜんぶん

田井中たいなか雅人まさと 長崎ながさき県けん被爆ひばく二に世せいの会かいは、長崎ながさき市内しないで「被爆ひばく二に世せいの体験たいけんを聞きく会かい」を開ひらき、全国ぜんこく被爆ひばく二に世せい団体だんたい連絡れんらく協議きょうぎ会かい元もと会長かいちょう、開ひらけ（ひらき）彰あきら人じんさん（72）=諫早いさはや市し=が証言しょうげんした。開ひらくさんは「（原爆げんばくの）遺伝いでん的てき影響えいきょうを明あきらかにしてほしい気持きもちと、してほしくない気持きもちが同居どうきょしている」と複雑ふくざつな胸むねの内うちを語かたった。 　聞きく会かいは15日にちにあり、約やく20人にんが聞きいた。開ひらくさんの祖母そぼ、母はは、2人ふたりの兄あには爆ばく心地ごこちから約やく4キロ離はなれた長与ながよ町まちの自宅じたくで被爆ひばく。家具かぐや窓まどが壊こわれてめちゃくちゃになり、母ははは翌日よくじつから行方ゆくえ不明ふめい者しゃを捜さがして爆ばく心地ごこち近ちかくに入はいったという。 　戦後せんご生うまれの2歳さい年上としうえの兄あには45歳さいの時ときに職場しょくばで会議かいぎ中ちゅうに突然とつぜん倒たおれ、のちに死亡しぼう。自身じしんも結核けっかくや心臓しんぞう病びょう、大腸だいちょうがんなどの病気びょうきを患わずらった。長女ちょうじょの左腕さわんにも障害しょうがいがあるが、医師いしは「原爆げんばくによる遺伝いでん的てき影響えいきょうについては、わからない」としている。 続つづきは原爆げんばくの遺伝いでん的てき影響えいきょう「将来しょうらい世代せだいまで、許ゆるせない」　被爆ひばく2世せいの開ひらくさん

田井中たいなか雅人まさと 「広島ひろしま・長崎ながさきへの原爆げんばく投下とうかは戦争せんそう犯罪はんざいにあたる可能かのう性せいがある」。戦後せんご間あいだもない1945年ねん10月がつ、当時とうじのローマ教皇きょうこうピウス12世せい（在位ざいい1939～58年ねん）が、後のちに米国べいこく大統領だいとうりょうになるアイゼンハワー欧州おうしゅう戦線せんせん最高さいこう司令しれい官かんにそう伝つたえていたと、バチカンが最近さいきん公開こうかいした文書ぶんしょでわかった。核兵器かくへいき禁止きんし条約じょうやく（核かく禁きん条約じょうやく）を推進すいしんするバチカンの姿勢しせいの源流げんりゅうともいえそうだ。 　松本まつもと佐保さほ・日本にっぽん大だい教授きょうじゅ（国際こくさい政治せいじ史し）が、ピウス12世せいファイルと呼よばれるこれまで非公開ひこうかいだった文書ぶんしょで確認かくにんし、長崎ながさき市しで10日とおかに開ひらかれたシンポジウム「バチカンに眠ねむる日本にっぽんの記憶きおく」で発表はっぴょうした。 　原爆げんばく投下とうかについてピウス12世せいは、人類じんるいの最大さいだいの悲劇ひげきという内容ないようの発言はつげんをしており、バチカンはそれ以来いらい、核かく問題もんだいに関かんして国際こくさい社会しゃかいに対たいして深ふかく関与かんよしてきたことは知しられている。だが、教皇きょうこうが「戦争せんそう犯罪はんざい」という強つよい言葉ことばを使つかって米べい側がわに苦言くげんを呈ていしていたことが今回こんかい、明あきらかになった。 日本にっぽんでの信徒しんと拡大かくだい狙ねらう？ 　松本まつもと教授きょうじゅが確認かくにんした文書ぶんしょによれば、ピウス12世せいは謁見えっけん（えっけん）したアイゼンハワー氏しらに対たいして、米べい軍ぐんを主軸しゅじくとした連合れんごう国軍こくぐんによる日本にっぽん占領せんりょう政策せいさくについて、かつての敵てきであった日本にっぽんに対たいする慈悲じひを説とき、米国べいこくと日本にっぽんのより良よい関係かんけいを築きずくことによって平和へいわを構築こうちくすること、特とくに日本にっぽんの市民しみんへの配慮はいりょを求もとめたという。 全文ぜんぶんは「原爆げんばく投下とうかは戦争せんそう犯罪はんざいの可能かのう性せい」　アイゼンハワー氏しに教皇きょうこうが苦言くげん

　「ヒロシマ原人げんじん」という言葉ことばは死語しごだろうか。全ぜん人生じんせいを懸かけて原水爆げんすいばくを告発こくはつした市井しせいの人ひとたち。２０年ねん前まえ、亡なき先輩せんぱい記者きしゃが用もちいていた。広島ひろしま折鶴おりづるの会かい世話人せわにん、河本かわもと一郎いちろうさんの追悼ついとう記事きじだった▲いつも荷台にだいに箱はこをくくり付づけた自転車じてんしゃを押おし、帽子ぼうしに作業さぎょう服ふく。被爆ひばく者しゃで「原爆げんばくの子この像ぞう」の生うみの親おやだった。もっと古ふるい記事きじだと、住すまい兼けん事務所じむしょは足あしの踏ふみ場じょうもない６畳じょう一いち間あいだ。妻つまが内職ないしょくのミシンを踏ふむ傍かたわらで少年しょうねん少女しょうじょは鶴づるを折おる。「子こどもを利用りようしている」と中傷ちゅうしょうされたことも▲旅立たびだって３５年ねんになる「原爆げんばく一いち号ごう」吉川よしかわ（きっかわ）清きよしさんも、「原人げんじん」か。広島大ひろしまだい本部ほんぶ跡地あとちのクリップ・ヒロシマに、きょうまで吉川よしかわさんの土産物みやげもの店てんが再現さいげんされている▲自みずからのケロイドを内外ないがいの観光かんこう客きゃくにさらし、原爆げんばくドーム近ちかくで商あきないをした。「平和へいわ屋や」とたたかれても屈こごめせず、晩年ばんねんは米べい空母くうぼの核持かくもち込こみに怒いかり心頭しんとうだったという。変かわり者ものとされた人ひとこそ、熱ねつを帯おびていた時代じだいだった▲この夏なつ「原爆げんばくスラムと呼よばれたまち」と題だいした一いち冊さつが世よに出でた。やむなく爆ばく心地ごこち近ちかくの川かわ土手どてに住すみ着ついた人ひとたちの詳細しょうさいな記録きろく。５０年ねん前まえに訪たずね歩あるいた著者ちょしゃたちもきっと、ヒロシマの「地熱じねつ」に触ふれている。あの季き節ぶしに学まなぶ夏なつでもある。 原文げんぶん

２２日にち発効はっこうした核兵器かくへいき禁止きんし条約じょうやくに、唯一ゆいいつの被爆ひばく国こくである日本にっぽんは参加さんかしていない。５歳さいの頃ころ、長崎ながさきで被爆ひばくし、父ちちを亡なくした南みなみさつま市し加世田かせだ川畑かわはたの木原きはら幹雄みきおさん（８０）は、最近さいきんの政治せいじが「戦中せんちゅう回帰かいき」に映うつり心配しんぱいでならない。批准ひじゅん国こくに感謝かんしゃし「悲劇ひげきが二度にどと繰くり返かえされないよう、語かたり継ついでいかなければ」と覚悟かくごを新あらたにした。 […] 　家族かぞくによると、造船ぞうせん工場こうじょうで働はたらいていた父ちちは全身ぜんしんにやけどを負おい、裸はだか同然どうぜんの姿すがたで帰宅きたくした。近所きんじょの安否あんぴ確認かくにんのため駆かけ回まわり、１０日にち後ごに息いきを引ひき取とった。最後さいごはつじつまの合あわない話はなしをした。遺体いたいは田たんぼで焼やき、みそつぼに遺骨いこつを納おさめた。幼おさなかった幹雄みきおさんに父ちちの記憶きおくはなく、家いえが焼やけたため、残のこる写真しゃしんも遺影いえい１枚まい。「頑張がんばり屋やで優やさしい人ひとだったのだろう」と想像そうぞうする。 　故郷こきょう加世田かせだに戻もどった母ははは、４人にんの子こを育そだてるため、農家のうかの手伝てつだいや行商ぎょうしょうで働はたらきづめ。貧まずしく、生活せいかつ保護ほごも受うけた。昔話むかしばなしは嫌いやがり、真まっ赤かなケチャップ料理りょうりを見みて「これだけはやめて」と血相けっそうを変かえたことも。「思おもい出だすのもつらかったのだろう」と察さっする。 　妻つまの民子たみこさん（７５）は、親おやの反対はんたいを押おし切きって幹雄みきおさんと結婚けっこんした。「被爆ひばく者しゃだから、早死はやじににするかも」と不安ふあんもあったと明あかす。 　幹雄みきおさんは戦争せんそうを知しる世代せだいが減へり、異論いろんを封ふうじ込こめるような最近さいきんの政治せいじに不安ふあんを覚おぼえる。条約じょうやく発効はっこうを機きに、核かく廃絶はいぜつに向むけた世論せろんが高たかまり、政府せいふを突とっき動うごかすことを期待きたいする。「孫まごたちに同おなじ思おもいはさせたくない」。被爆ひばく者しゃの願ねがいだ。 […] 全文ぜんぶん

　原爆げんばくと原発げんぱつは、いずれも核分裂かくぶんれつで発生はっせいする巨大きょだいなエネルギーを使つかう。米国べいこくでは広島ひろしま、長崎ながさきへの原爆げんばく投下とうかを正当せいとう化かする世論せろんが根強ねづよいが、原爆げんばくは絶対ぜったい悪あくではないのか。被爆ひばく国こく・日本にっぽんでは戦後せんご、原発げんぱつが国策こくさくとして推進すいしんされ、東京電力とうきょうでんりょく福島ふくしま第だい１原発げんぱつ事故じこ後ごも原発げんぱつを手放てばなさない。原発げんぱつは必要ひつようなのか。２６日にちは「原子力げんしりょくの日ひ」。道内どうないで核かくのごみ（高こうレベル放射ほうしゃ性せい廃棄はいき物ぶつ）の処分しょぶん問題もんだいが注目ちゅうもくされる中なか、日米にちべいの「核かく」への意識いしきについて識者しきしゃに聞きいた。（編集へんしゅう委員いいん　関口せきぐち裕士ひろし） 全文ぜんぶん

　安倍晋三あべしんぞう首相しゅしょうは９日にち、長崎ながさき市し平和へいわ祈念きねん式典しきてんでのあいさつや被爆ひばく者しゃ代表だいひょうとの面会めんかいで、核兵器かくへいき禁止きんし条約じょうやくに批判ひはん的てきな姿勢しせいを取とり続つづけた。３年ねん前まえの同おなじ面会めんかいの場ばで、一人ひとりの男性だんせい被爆ひばく者しゃが「あなたはどこの国くにの総理そうりですか」と、核かく禁きん条約じょうやく参加さんかを直接ちょくせつ求もとめた。今年ことしの面会めんかいにも出席しゅっせきしたが「今回こんかいも同おなじことの繰くり返かえしだった。私わたしたちにはもう後ごがないんだ」と、参加さんかを拒こばみ続つづける首相しゅしょうの姿勢しせいに憤いきどおりを隠かくさない。（柚木ゆずきまり）　 男性だんせいは、長崎ながさき県けん平和へいわ運動うんどうセンター被爆ひばく者しゃ連絡れんらく協議きょうぎ会かいの川野かわの浩一こういち議長ぎちょう（８０）。　 ２０１７年ねん８月がつ９日にちの首相しゅしょうと被爆ひばく者しゃ代表だいひょうの面会めんかいで、核かく禁きん条約じょうやくへの署名しょめいなどを求もとめる要望ようぼう書しょを手渡てわたす際さい、首相しゅしょうに「あなたはどこの国くにの総理そうりですか。今いまこそ、あなたが世界せかいの核兵器かくへいき廃絶はいぜつの先頭せんとうに立たつべきです」と、強つよい口調くちょうで迫せまった。例年れいねんなら書面しょめんを渡わたすだけの役割やくわりだが、前月ぜんげつに国連こくれんで採択さいたくされた核かく禁きん条約じょうやくに、唯一ゆいいつの戦争せんそう被爆ひばく国こくである日本にっぽんが賛同さんどうしないことが納得なっとくできなかったからだ。 「どうして私わたしたちの気持きもちが分わからないのか。何なにとかひと言こと言いわなければと怒いかりを禁きんじ得えなかった」。川野かわのさんは面会めんかい当日とうじつの朝あさ、「あなたはどこの国くにの総理そうりですか」などの言葉ことばをメモし、要望ようぼうの際さいに手てにしていた。要望ようぼう書しょを手渡てわたそうとしたが、その手てを引ひっ込こめて、思おもいを首相しゅしょうにぶつけた。　 ５歳さいの時とき、爆ばく心地ごこちから３．１キロの自宅じたく前まえで被爆ひばくした川野かわのさん。５年ねん前まえに食道しょくどうがんを発症はっしょうし、原爆げんばく症しょうに認定にんていされた。ともに活動かつどうを続つづける協議きょうぎ会かいのメンバーも、高齢こうれい化かで施設しせつに入所にゅうしょしたり亡なくなったりして、これまでのような活動かつどうができなくなりつつある。　 核かく禁きん条約じょうやくへの日本にっぽんの参加さんかを願ねがって迎むかえた被爆ひばく７５年ねんの「原爆げんばくの日ひ」。首相しゅしょうに会あえる１年ねんに一いち度どの機会きかいに、少すこしでも被爆ひばく者しゃの思おもいを分わかってもらいたい。そんな気持きもちを抱いだき、今回こんかいも被爆ひばく者しゃ代表だいひょうの一人ひとりとして出席しゅっせきした。被爆ひばく者しゃ側がわは「長崎ながさきを最後さいごの被爆ひばく地ちに」と条約じょうやく批准ひじゅんを改あらためて求もとめたが、首相しゅしょうはまたも賛意さんいを示しめさなかった。面会めんかいは首相しゅしょうの日程にっていを理由りゆうに予定よてい時間じかんの３０分ふんで終おわり、質問しつもんもできなかった。　 川野かわのさんはつぶやいた。「首相しゅしょうから、ちっとも中身なかみのある答こたえが返かえってこない。８０歳さいを超こえ、ぎりぎりだと思おもって活動かつどうしているのに、挫折ざせつ感かんばかりが大おおきくなっている」 原文げんぶん

１９４５年ねん８月がつ６日にちに米べい軍ぐんが広島ひろしまに原爆げんばくを投下とうかしてから75年ねん。あの日ひ、放射ほうしゃ性せい物質ぶっしつを含ふくむ「黒くろい雨あめ」に遭あったものの、今いまも国くにの援護えんごを受うけられない人ひとがいる。記録きろく報道ほうどう「２０２０ヒバクシャ」の３回かい目めは、病やまいに侵おかされながら、国くにに被爆ひばく者しゃと認みとめさせるため闘たたかい続つづける元もと高校こうこう教諭きょうゆの姿すがたを通とおして、黒くろい雨あめを巡めぐる運動うんどうの歴史れきしをたどりたい。 ４月しがつ９日にち。４歳さいで黒くろい雨あめを体験たいけんした広島ひろしま市し佐伯さいき区くの高こう東征とうせい二にさん（79）は市立しりつ大だい大学院だいがくいんで黒くろい雨あめの運動うんどう史しを研究けんきゅうする向井むかい均ひとしさん（77）を市内しないの自宅じたくに訪たずねた。 （略りゃく） ＜子こどもを連つれて行いく途中とちゅうピカ、顔かおが熱あつかった。帰かえりに夕立ゆうだちのような雨あめに遭あった。髪かみが抜ぬけ薄うすくなった＞　詳細しょうさいな様子ようすが鉛筆えんぴつで数すう十じゅう枚まいにわたってつづられていた。１９７０年代ねんだいから国くにに黒くろい雨あめの被害ひがいを訴うったえた被爆ひばく者しゃの市民しみん運動うんどう家か、村上むらかみ経けい行ぎょう（つねゆき）さん（２０１１年ねんに93歳さいで死去しきょ）が、県境けんきょうの集落しゅうらくまで訪たずね歩あるいて集あつめた証言しょうげんの一部いちぶだ 先駆せんく者しゃ・村上むらかみさんに誓ちかう 国くにが76年ねんに指定していした援護えんご対象たいしょう区域くいきの外そとで黒くろい雨あめに遭あった高こう東ひがしさんは、高校こうこう教諭きょうゆを退職たいしょく後ご、02年ねんに「佐伯さいき区く黒くろい雨あめの会かい」を設立せつりつし、援護えんご対象たいしょうを広ひろげる運動うんどうに加くわわった。87人にんの仲間なかまと被爆ひばく者しゃ健康けんこう手帳てちょうの交付こうふを求もとめる訴訟そしょうをして４年ねん。７月しちがつ29日にちにい渡いわたされる判決はんけつを待まつ。 全すべての『黒くろい雨あめ被爆ひばく者しゃ』が報むくわれる判決はんけつを勝かち取とる」。先駆せんく者しゃの村上むらかみさんが残のこした約やく２８００点てんの資料しりょうを前まえに高こう東ひがしさんは誓ちかった。【文ぶん・小山こやま美砂みさ、写真しゃしん・山田やまだ尚弘なおひろ】 （略りゃく） 「黒くろい雨あめはもっと広ひろい地域ちいきで降おり、多おおくの人ひとが内部ないぶ被ひばくした」。高こう東征とうせい二にさん（79）は国くにが44年ねん前まえに定さだめた援護えんご対象たいしょう区域くいきに異ことを唱となえ、被爆ひばく者しゃと認みとめさせるため、黒くろい雨あめ訴訟そしょうの先頭せんとうに立たってきた。  ４月がつ９日にち。広島ひろしま市立しりつ大だい大学院だいがくいんで黒くろい雨あめの運動うんどう史しを研究けんきゅうする向井むかい均ひとしさん（77）の広島ひろしま市内しないにある自宅じたくで、「黒くろい雨あめ降雨こうう域いき図ず」と墨書ぼくしょされた１畳じょうほどもある地図ちずと向むき合あった。赤あかい丸まる印しるしの爆ばく心地ごこちから北西ほくせい側がわに描えがかれた二ふたつの楕円だえん（だえん）。大おおきな方ほうは、気象台きしょうだいの技師ぎしらが終戦しゅうせん直後ちょくごに実施じっしした住民じゅうみん百ひゃく数すう十じゅう人にんへのき取きとりなどの調査ちょうさで黒くろい雨あめが降ふったとした地域ちいき、小ちいさな方ほうは大雨おおあめだったとした地域ちいきだ。二ふたつの楕円だえんが収おさまる、青あおい線せんで囲かこわれた複雑ふくざつな形かたちの「新あたらしい小雨こさめ域いき」は、高東こうとうさんらが黒くろい雨あめが降ふったと主張しゅちょうしている地域ちいきを示しめす。 （略りゃく） 黒くろい雨あめが流ながれ込こんだ川かわの水みずを飲のんだからか。小学しょうがく３年ねんまで体からだが弱よわく、腫はれたリンパ節ぶしを３回かい手術しゅじゅつした。だがその後ごは大病たいびょうをせず、父ちちの後のちを追おって63年ねん、広島大ひろしまだいを出でて県立けんりつ高校こうこうの生物せいぶつの教諭きょうゆになった。 その２年ねん後ご、作家さっか・井伏いぶせ鱒二ますじが小説しょうせつ「黒くろい雨あめ」を発表はっぴょうする。各地かくちで四よん大だい公害こうがい病びょうを巡めぐる訴訟そしょうが相次あいつぎ、市民しみん運動うんどうへの関心かんしんが高たかまった。黒くろい雨あめを体験たいけんした人ひとの救済きゅうさいを求もとめる声こえも強つよまり、国くには76年ねん、終戦しゅうせん直後ちょくごの気象台きしょうだい調査ちょうさによる「大雨おおあめ雨う域いき」を援護えんご区域くいきとし、指定していする11障害しょうがいを伴ともなう病気びょうきと診断しんだんされれば被爆ひばく者しゃ健康けんこう手帳てちょうを交付こうふすることにした。 （略りゃく） 85年ねんの原水爆げんすいばく禁止きんし大会たいかいで「雨あめがあんなにきれいな卵たまご形がたに降ふるのか」と村上むらかみさんに問といただされた気象きしょう学者がくしゃの増田ますだ善信よしのぶさん（96）＝東京とうきょう都と狛江こまえ市し＝は、２０００人にん以上いじょうの証言しょうげんを基もとに４年ねん後ご、降雨こうう域いきは気象台きしょうだい調査ちょうさの４倍ばいだったとの見解けんかいを発表はっぴょうする。国くにを動うごかせる科学かがく的てき根拠こんきょだと周囲しゅういの期待きたいは高たかまった。１畳じょうもある「黒くろい雨あめ降雨こうう域いき図ず」は、村上むらかみさんが増田ますださんの見解けんかいを紹介しょうかいするために手作てづくりしたものだ。 （略りゃく） だが、県けんと市しの専門せんもん家か会議かいぎは、援護えんご区域くいき外がいでは「（黒くろい雨あめによる）人体じんたい影響えいきょうの存在そんざいを認みとめることはできない」と退しりぞける。証言しょうげんや行動こうどう記録きろくなど村上むらかみさんが残のこした約やく２８００点てんの資料しりょうの中なかにあったメモには、無力むりょく感かんが弱々よわよわしい筆致ひっちでつづられていた。　「『もうだめ』という気分きぶん」 　運動うんどうはしばらく停滞ていたいする。 （略りゃく） それでも、15年ねんに起おこした黒くろい雨あめ訴訟そしょうの原告げんこくに名なを連つらねた。この３年ねん前まえ、運動うんどうを受うけて３万まん人にん超ちょうにアンケートをした県けんや市しが、援護えんご区域くいきの６倍ばいの範囲はんいで雨あめが降ふったとして国くにに区域くいきを広ひろげるよう求もとめたが退しりぞけられていた。区域くいき外がいの体験たいけん者しゃを「被爆ひばく者しゃ」と認みとめさせるには司法しほうの判断はんだんを仰あおぐしかない、と考かんがえた。　　　　　　　　　　■　　　　■ 　19年ねん春はる、裁判所さいばんしょの要請ようせいに応おうじて受うけた健康けんこう診断しんだんで高血圧こうけつあつ性せい心こころ疾患しっかんと診断しんだんされ、脳のう梗塞こうそく（こうそく）で２週間しゅうかん入院にゅういんした。国くにが「放射線ほうしゃせんの影響えいきょうを否定ひていできない」と定さだめる11障害しょうがいの一部いちぶを伴ともなう病気びょうきだった。「わしも被爆ひばくしとる。一いち日にち一いち日にちを大事だいじにこの問題もんだいを追及ついきゅうせにゃあいけん」。病気びょうきになって芽生めばえた「被爆ひばく者しゃ」の自覚じかくが迷まよいを消けし去さった。 （略りゃく） 提訴ていそから４年ねんが過すぎ、88人にんだった原告げんこくのうち14人にんが鬼籍きせきに入はいった。昨年さくねん10月がつ、高東こうとうさんは法廷ほうていで訴うったえた。「病気びょうきだらけの人生じんせいでお金かねに困こまり、多おおくの人ひとが死しんだ。全すべての『黒くろい雨あめ』被爆ひばく者しゃの声こえを代弁だいべんするため、ここに立たっています」  75回かい目めの８月がつ６日にちを迎むかえる直前ちょくぜんに判決はんけつがい渡いわたされる。「原告げんこくになれんかった人ひとも、救済きゅうさいされる判決はんけつがほしい」。先駆せんく者しゃ、そして多おおくの仲間なかまたち……。半はん世紀せいきにわたる運動うんどうの歴史れきしに終止符しゅうしふを打うつ。その日ひが必かならず来くると信しんじている。【文ぶん・小山こやま美砂みさ、写真しゃしん・山田やまだ尚弘なおひろ】