Tag Archives: 甲状腺こうじょうせんがん

[…] この日ひの裁判さいばんでは、弁護士べんごしらが訴状そじょうの要旨ようしを陳述ちんじゅつしたほか、原告げんこくの20代だい女性じょせいが法廷ほうていに立たち、意見いけん陳述ちんじゅつした。女性じょせいは、高校生こうこうせいの時ときにがんが発覚はっかく。手術しゅじゅつ後ご、大学だいがくに進学しんがくしたものの、再発さいはつと転移てんいにより、大学だいがくを中退ちゅうたい。以来いらい、治療ちりょう中心ちゅうしんの生活せいかつを送おくっている。放射ほうしゃ性せいヨウ素もとを服用ふくようする特殊とくしゅな治療ちりょう・アイソトープ治療ちりょうの過酷かこくさや、将来しょうらいの夢ゆめを描えがけない苦くるしさを綴つづった陳述ちんじゅつ書しょを、約やく１５分ふんかけて読よみ上あげた。 甲状腺こうじょうせんがんをめぐっては、インターネットを中心ちゅうしんに、被曝ひばく影響えいきょうを主張しゅちょうする言説げんせつに対たいしてバッシングが広ひろがっていることもあり、原告げんこくは、傍聴ぼうちょう席せきからは見みえないよう、四角しかくいパーテーションで囲かこわれた中なかで陳述ちんじゅつした。がんが分わかった時ときのことや、大学だいがくを断念だんねんしたことなど、苦くるしい経験けいけんを語かたるくだりでは、時折ときおり、声こえをつまらせたり、しゃくりあげるような泣なき声ごえとなったが、声こえを震ふるわせながらも最後さいごまで読よみ続つづけた。 ２回かい目め以降いこうの意見いけん陳述ちんじゅつは未定みてい この日ひは、意見いけん陳述ちんじゅつをした原告げんこく以外いがいに、３人にんの原告げんこくが出廷しゅってい。やはり傍聴ぼうちょう席せきから見みえないよう、パーテーションで仕切しきられた原告げんこく席せきで弁論べんろんに参加さんかした。同席どうせきした弁護士べんごしによると、原告げんこくの陳述ちんじゅつにき入きいりながら、３人にんとも涙なみだが止とまらなくなり、慟哭どうこくするようば場面ばめんもあったという。意見いけん陳述ちんじゅつの間あいだ中ちゅう、法廷ほうてい内ないは、鼻はなをすする声こえが終始しゅうし聞きこえていた。 原告げんこくの意見いけん陳述ちんじゅつをめぐっては、４月がつに行おこなわれた進行しんこう協議きょうぎで、東京電力とうきょうでんりょくが原告げんこくの意見いけん陳述ちんじゅつの実施じっしに反対はんたいを唱となえており、２回かい目め以降いこうの予定よていは決きまっていない。原告げんこく弁護べんご団だんは弁論べんろんの最後さいごに、原告げんこくの意見いけん陳述ちんじゅつを認みとめるよう改あらためて主張しゅちょう。被告ひこく側がわ代理人だいりにんは明確めいかくに反対はんたいはせず、裁判所さいばんしょに委ゆだねると述のべた。裁判所さいばんしょは１週間しゅうかん程度ていどで方針ほうしんを示しめす。 被曝ひばくとの因果いんが関係かんけいが争そう点てん この裁判さいばんの最大さいだいの争点そうてんは、事故じこに伴ともなう放射線ほうしゃせん被曝ひばくとがん発症はっしょうの因果いんが関係かんけいとなる見通みとおしだ。原告げんこく側がわは、年間ねんかんで100万まん人にんに1～2人にんしか発症はっしょうしない小児しょうに甲状腺こうじょうせんがんが、この10年間ねんかんに293人にんが発症はっしょうしたと指摘してき。また、子こどもの甲状腺こうじょうせんがんの最大さいだいの発症はっしょう因子いんしは放射線ほうしゃせん被曝ひばくであることから、疫学えきがく的てきな手法しゅほうで、因果いんが関係かんけいは証明しょうめいできると主張しゅちょうしている。 一方いっぽう、原告げんこく側がわによると、東電とうでん側がわは答弁とうべん書しょで、原告げんこくらは被曝ひばくしていないなどと反論はんろんしているという。次回じかいの裁判さいばんは、３ヶ月かげつ後ごの９月くがつ７日にちに開ひらかれる。 […] 原告げんこくの意見いけん陳述ちんじゅつ要旨ようし あの日ひは中学校ちゅうがっこうの卒業そつぎょう式しきでした。友ともだちと「これで最後さいごなんだねー」と何気なにげない会話かいわをして、部活ぶかつの後輩こうはいや友ともだちとデジカメで写真しゃしんをたくさん撮とりました。そのとき、少すこし雪ゆきが降ふっていたような気きがします。 地震じしんが来きた時とき、友ともだちとビデオ通話つうわで卒業そつぎょう式しきの話はなしをしていました。最初さいしょは、「地震じしんだ」と余裕よゆうがありましたが、ボールペンが頭あたまに落おちてきて、揺ゆれが一気いっきに強つよくなりました。「やばい！」という声こえが聞きこえて、ビデオ通話つうわが切きれました。 「家いえが潰つぶれる。」揺ゆれが収おさまるまで、長ながい地獄じごくのような時間じかんが続つづきました。 原発げんぱつ事故じこを意識いしきしたのは、原発げんぱつが爆発ばくはつした時ときです。「放射能ほうしゃのうで空そらがピンク色ぴんくいろになる」そんな噂うわさを耳みみにしましたが、そんなことは起おきず、危機きき感かんもなく過すごしていました。 ３月さんがつ１６日にちは高校こうこうの合格ごうかく発表はっぴょうでした。地震じしんの影響えいきょうで電車でんしゃが止とまっていたので中学校ちゅうがっこうで合格ごうかく発表はっぴょうを聞ききました。歩あるいて学校がっこうに行いき、発表はっぴょうを聞きいた後のち、友達ともだちと昇降しょうこう口こうの外そとでずっと立たち話ばなしをして、歩あるいて自宅じたくに戻もどりましたが、その日ひ、放射線ほうしゃせん量りょうがとても高たかかったことを私わたしは全まったく知しりませんでした。 甲状腺こうじょうせんがんは県民けんみん健康けんこう調査ちょうさで見みつかりました。この時ときの記憶きおくは今いまでも鮮明せんめいに覚おぼえています。その日ひは、新あたらしい服ふくとサンダルを履はいて、母ははの運転うんてんで、検査けんさ会場かいじょうに向むかいました。 検査けんさは複数ふくすうの医師いしが担当たんとうしていました。検査けんさ時間じかんは長ながかったのか。短みじかかったのか。首くびにエコーを当あてた医師いしの顔かおが一瞬いっしゅん曇くもったように見みえたのは気きのせいだったのか。検査けんさは念入ねんいりでした。 私わたしの後のちに呼よばれた人ひとは、すでに検査けんさが終おわっていました。母ははに「あなただけ時間じかんがかかったね。」と言いわれ、「もしかして、がんがあるかもね」と冗談じょうだんめかしながら会場かいじょうを後のちにしました。この時ときはまさか、精密せいみつ検査けんさが必要ひつようになるとは思おもいませんでした。 精密せいみつ検査けんさを受うけた病院びょういんにはたくさんの人ひとがいました。この時とき、少すこし嫌いやな予感よかんがしました。血液けつえき検査けんさを受うけ、エコーをしました。やっぱり何なにかおかしい。自分じぶんでも気きづいていました。そして、ついに穿刺せんし吸引きゅういん細胞さいぼう診みをすることになりました。この時ときには、確信かくしんがありました。私わたしは甲状腺こうじょうせんがんなんだと。 わたしの場合ばあい、吸引きゅういんする細胞さいぼうの組織そしきが硬かたくなっていたため、なかなか細胞さいぼうが取とれません。首くびに長ながい針はりを刺さす恐怖きょうふ心しんと早はやく終おわってほしいと言いう気持きもちが増ますなか、3回かい目めでようやく細胞さいぼうを取とることができました。 １０日にち後ご、検査けんさ結果けっかを知しる日ひがやってきました。あの細胞さいぼう診みの結果けっかです。病院びょういんには、また、たくさんの人ひとがいました。結果けっかは甲状腺こうじょうせんがんでした。 ただ、医師いしは甲状腺こうじょうせんがんとは言いわず、遠回とおまわしに「手術しゅじゅつが必要ひつよう」と説明せつめいしました。その時とき、「手術しゅじゅつしないと23歳さいまでしか生いきられない」と言いわれたことがショックで今いまでも忘わすれられません。 手術しゅじゅつの前日ぜんじつの夜よるは、全まったく眠ねむることができませんでした。不安ふあんでいっぱいで、泣なきたくても涙なみだも出でませんでした。でも、これで治なおるならと思おもい、手術しゅじゅつを受うけました。 手術しゅじゅつの前まえより手術しゅじゅつの後のちが大変たいへんでした。目めを覚さますと、だるさがあり、発熱はつねつもありました。麻酔ますいが合あわず、夜中よなかに吐はいたり、気持きもちが悪わるく、今いまになっても鮮明せんめいに思おもい出だせるほど、苦くるしい経験けいけんでした。今いまも時折ときおり、夢ゆめで手術しゅじゅつや、入院にゅういん、治療ちりょうの悪夢あくむを見みることがあります。 手術しゅじゅつの後のちは、声こえが枯かれ、3ヶ月かげつくらいは声こえが出でにくくなってしまいました。 病気びょうきを心配しんぱいした家族かぞくの反対はんたいもあり、大学だいがくは第だい一いち志望しぼうの東京とうきょうの大学だいがくではなく、近県きんけんの大学だいがくに入学にゅうがくしました。でも、その大学だいがくも長ながくは通かよえませんでした。甲状腺こうじょうせんがんが再発さいはつしたためです。 大学だいがくに入はいった後のち、初はじめての定期ていき健診けんしんで再発さいはつが見みつかって、大学だいがくを辞やめざるをえませんでした。「治なおっていなかったんだ」「しかも肺はいにも転移てんいしているんだ」とてもやりきれない気持きもちでした。「治なおらなかった、悔くやしい。」この気持きもちをどこにぶつけていいかわかりませんでした。「今度こんどこそ、あまり長ながくは生いきられないかもしれない」そう思おもい詰つめました。 １回かい目めで手術しゅじゅつの辛つらさがわかっていたので、また同おなじ苦くるしみを味あじわうのかと憂鬱ゆううつになりました。手術しゅじゅつは予定よていした時間じかんより長引ながびき、リンパ節ぶしへの転移てんいが多おおかったので傷きずも大おおきくなりました。 １回かい目めと同様どうよう、麻酔ますいが合あわず夜中よなかに吐はき、痰たんを吸引きゅういんするのがすごく苦くるしかった。２回かい目めの手術しゅじゅつをしてから、鎖骨さこつ付近ふきんの感覚かんかくがなくなり、今いまでも触さわると違和感いわかんが残のこったままです。 手術しゅじゅつ跡あとについて、自殺じさつ未遂みすいでもしたのかと心無こころない言葉ことばを言いわれたことがあります。自分じぶんでも思おもってもみなかったことを言いわれてとてもショックを受うけました。手術しゅじゅつ跡あとは一生いっしょう消きえません。それからは常つねに、傷きずが隠かくれる服ふくを選えらぶようようになりました。 手術しゅじゅつの後のち、肺はい転移てんいの病巣びょうそうを治療ちりょうするため、アイソトープ治療ちりょうも受うけることになりました。高こう濃度のうどの放射ほうしゃ性せいヨウ素もとの入はいったカプセルを飲のんで、がん細胞さいぼうを内部ないぶ被曝ひばくさせる治療ちりょうです。 １回かい目めと2回かい目めは外来がいらいで治療ちりょうを行おこないました。この治療ちりょうは、放射ほうしゃ性せいヨウ素もとが体内たいないに入はいるため、まわりの人ひとを被ひばくさせてしまいます。病院びょういんで投薬とうやく後ご、自宅じたくで隔離かくり生活せいかつをしましたが、家族かぞくを被ひばくさせてしまうのではないかと不安ふあんでした。２回かいもヨウ素もとを飲のみましたが、がんは消きえませんでした。 ３回かい目めはもっと大量たいりょうのヨウ素もとを服用ふくようするため入院にゅういんすることになりました。病室びょうしつは長ながい白しろい廊下ろうかを通とおり、何なん回かいも扉とびらをくぐらないといけない所ところでした。至いたる所ところに黄色おうしょくと赤あかの放射線ほうしゃせんマークが貼はってあり、ここは病院びょういんだけど、危険きけん区域くいきなんだと感かんじました。病室びょうしつには、指定していされたもの、指定していされた数かずしか持もち込こめません。汚染おせんするものが増ふえるからです。 病室びょうしつに、看護かんご師しは入はいって来きません。医師いしが１日にち１回かい、検診けんしんに入はいってくるだけです。その医師いしも被ひばくを覚悟かくごで検診けんしんしてくれると思おもうととても申もうし訳わけない気持きもちになりました。私わたしのせいで誰だれかを犠牲ぎせいにできないと感かんじました。 薬くすりを持もって医師いしが2、3人にん、病室びょうしつに来きました。薬くすりは円柱えんちゅう型がたのプラスチックケースのような入いれ物ものに入はいっていました。 薬くすりを飲のむのは、時間じかんとの勝負しょうぶです。医師いしはピンセットで白しろっぽいカプセルの薬くすりを取とり出だし、空そらの紙かみコップに入いれ、私わたしに手渡てわたします。 医師いしは即座そくざに病室びょうしつを出でていき、鉛なまりの扉とびらを閉しめると、スピーカーを通とおして扉とびら越ごしに飲のむ合図あいずを出だします。私わたしは薬くすりを手てに持もっていた水みずと一緒いっしょにいっきに飲のみ込こみました。 飲のんだ後のちは、扉とびら越ごしに口くちの中なかを確認かくにんされ、放射線ほうしゃせんを測はかる機械きかいをお腹なか付近ふきんにかざされて、お腹なかに入はいったことを確認かくにんすると、ベッドに横よこになるように指示しじされます。 すると、スピーカー越ごしに医師いしから、15分ふんおきに体からだの向むきを変かえるように指示しじする声こえが聞きこえてきました。 … Continue reading →

《あの日ひは中学校ちゅうがっこうの卒業そつぎょう式しきでした。 友ともだちと「これで最後さいごなんだねー」と何気なにげない会話かいわをして、部活ぶかつの後輩こうはいや友ともだちとデジカメで写真しゃしんをたくさん撮とりました。そのとき、少すこし雪ゆきが降ふっていたような気きがします。》 　記者きしゃは人ひとの話はなしを聞きくのが仕事しごとだけれど、こんなに必死ひっしになって人ひとの話はなしに耳みみを傾かたむけたのは、久ひさしぶりかもしれない。プライバシー保護ほごのため、東京とうきょう地裁ちさい１０３号ごう法廷ほうていの中央ちゅうおうはパーテーションで仕切しきられている。その仕切しきりの奥おくから、原告げんこくの方ほうの声こえが聞きこえてくる。 […] 午後ごご２時じの開廷かいていから約やく１時じ間あいだ後ご、原告げんこくの１人にんによる意見いけん陳述ちんじゅつは始はじまった。その声こえが聞きこえてきた瞬間しゅんかん、法廷ほうていの空気くうきは一変いっぺんした。先さきほどまで余裕よゆうぶった表情ひょうじょうで裁判さいばんに臨のぞんでいた東電とうでん側がわの弁護士べんごしたちが、悄然しょうぜんとして原告げんこくの声こえに耳みみを傾かたむけている。 《甲状腺こうじょうせんがんは県民けんみん健康けんこう調査ちょうさで見みつかりました。この時ときの記憶きおくは今いまでも鮮明せんめいに覚おぼえています。その日ひは、新あたらしい服ふくとサンダルを履はいて、母ははの運転うんてんで、検査けんさ会場かいじょうに向むかいました。》 《私わたしの後のちに呼よばれた人ひとは、すでに検査けんさが終おわっていました。母ははに「あなただけ時間じかんがかかったね。」と言いわれ、「もしかして、がんがあるかもね」と冗談じょうだんめかしながら会場かいじょうを後のちにしました。この時ときはまさか、精密せいみつ検査けんさが必要ひつようになるとは思おもいませんでした。》 　この原稿げんこうを書かいている今いまでも、原告げんこくの声音こわねをはっきり思おもい出だせる。やわらかくて、丁寧ていねいで。私わたしは福島ふくしまに住すんで２年ねん余あまり。数かずは少すくないが、同おなじ年ねんごろの人ひとたちと話はなしたことがある。その人ひとたちと同おなじ声ごえをしている。 《医師いしは甲状腺こうじょうせんがんとは言いわず、遠回とおまわしに「手術しゅじゅつが必要ひつよう」と説明せつめいしました。その時とき、「手術しゅじゅつしないと２３歳さいまでしか生いきられない」と言いわれたことがショックで今いまでも忘わすれられません。》 《大学だいがくに入はいった後のち、初はじめての定期ていき検診けんしんで再発さいはつが見みつかって、大学だいがくを辞やめざるをえませんでした。「治なおっていなかったんだ」「しかも肺はいにも転移てんいしているんだ」とてもやりきれない気持きもちでした。「治なおらなかった、悔くやしい」この気持きもちをどこにぶつけていいかわかりませんでした。「今度こんどこそ、あまり長ながくは生いきられないかもしれない」そう思おもい詰つめました。》 　「治なおらなかった、悔くやしい」。そう言いったところで、原告げんこくの方ほうは少すこし声ごえをつまらせた。鼻はなをすするような声こえも聞きこえる。それでも、陳述ちんじゅつが止とまることはなかった。声こえがかすれてき取きとれなくなることもなかった。この人ひとは強つよい、と思おもった。傍聴ぼうちょう席せきではもう、みんなボロボロ涙なみだを流ながしていた。 《手術しゅじゅつ跡あとについて、自殺じさつ未遂みすいでもしたのかと心無こころない言葉ことばを言いわれたことがあります。自分じぶんでも思おもってもみなかったことを言いわれてとてもショックを受うけました。手術しゅじゅつ跡あとは一生いっしょう消きえません。それからは常つねに、傷きずが隠かくれる服ふくを選えらぶようになりました。》 […] 《一緒いっしょに中学ちゅうがくや高校こうこうを卒業そつぎょうした友ともだちは、もう大学だいがくを卒業そつぎょうし、就職しゅうしょくをして、安定あんていした生活せいかつを送おくっています。そんな友ともだちをどうしても羨望せんぼうの眼差まなざしでみてしまう。友ともだちを妬ねたんだりはしたくないのに、そういう感情かんじょうが生うまれてしまうのが辛つらい》　 　ここのところで、原告げんこくの方ほうはもう一度いちど、声こえを詰つまらせた。私わたしは心しんの中なかで声援せいえんを送おくることしかできなかった。 《もとの身体しんたいに戻もどりたい。そう、どんなに願ねがっても、もう戻もどることはできません。この裁判さいばんを通つうじて、甲状腺こうじょうせんがん患者かんじゃに対たいする補償ほしょうが実現じつげんすることを願ねがいます。》 […] 原告げんこく側がわの井戸いど謙一けんいち弁護士べんごしが立たち上あがる。 「裁判さいばん長ちょう、原告げんこく側がわは６人にん全員ぜんいんの意見いけん陳述ちんじゅつの機会きかいを求もとめます。きょう陳述ちんじゅつを行おこなった原告げんこくは６人にんの代表だいひょうではありません。皆みなさん、ひとり一人ひとり置おかれた状況じょうきょうはちがいます。そのことを裁判官さいばんかんには早期そうきに分わかっていただきたい」 　裁判さいばん長ちょうは被告ひこく側がわ代理人だいりにんに意見いけんを求もとめた。東電とうでん側がわの弁護士べんごしが慎重しんちょうに意見いけんを述のべる。 「（原告げんこく本人ほんにんの意見いけん陳述ちんじゅつよりも）争点そうてんの整理せいりが今後こんご必要ひつようです。それを優先ゆうせんしてほしいという考かんがえではありますが……、意見いけん陳述ちんじゅつについては裁判さいばん長ちょうのご判断はんだんにお任まかせします」 　閉廷へいてい後ごの記者きしゃ会見かいけんで、井戸いど氏しはこう話はなした。 「裁判所さいばんしょは毎回まいかい原告げんこくの意見いけん陳述ちんじゅつをすることには当初とうしょから消極しょうきょく的てきでした。被告ひこく代理人だいりにんも反対はんたいでした。今日きょうも明確めいかくに『反対はんたい』と言いうかと思おもったら、原告げんこくの意見いけん陳述ちんじゅつを聞きいた直後ちょくごでしたから、その迫力はくりょく、うったえる力ちからが大おおきかったので、被告ひこく代理人だいりにんは『反対はんたい』とまでは言いえなかったんだと私わたしは受うけ止とめました」 　原告げんこくの声こえが、東電とうでん側がわ弁護士べんごしの耳みみにも届とどいたのか？ 　私わたしはそう信しんじたい。東電とうでん側がわの弁護士べんごしも結局けっきょくは一人ひとりの人間にんげんである。一人ひとりの人間にんげんとしてこの日ひの意見いけん陳述ちんじゅつを聞きけば、心しんを動うごかさない者ものはいないはずだ。そして、この声こえがもっと多おおくの人ひとに届とどけば、裁判さいばんを始はじめてから原告げんこくたちが浴あびているという全まったく正当せいとう化かできない誹謗ひぼう中傷ちゅうしょうなど生うまれる余地よちがない。私わたしはそう信しんじている。 […] 全文ぜんぶん

シンプルな因果いんが関係かんけい なお120ページの訴状そじょう（公開こうかい版ばん）が、311甲状腺こうじょうせんがんこども支援しえんネットワークのホームページに掲載けいさいされている。 311甲状腺こうじょうせんがんこども支援しえんネットワーク訴状そじょう（公開こうかい版ばん） 下したに紹介しょうかいする弁護べんご団長だんちょうの話はなしにも出でてくる問題もんだいの「福島ふくしま県けん県民けんみん健康けんこう調査ちょうさ」批判ひはんに多おおくのページが割さかれているのでぜひ一読いちどくいただければと思おもう。 また、裁判さいばん開始かいしに合あわせるように岩波書店いわなみしょてん発行はっこうの雑誌ざっし「科学かがく」2022年ねん４月がつ号ごうが【特集とくしゅう】原発げんぱつ事故じこと小児しょうに甲状腺こうじょうせんがんを掲載けいさいしている。その巻頭かんとうエッセイ 提訴ていそにあたって因果いんが関係かんけいの立証りっしょうの困難こんなんさも指摘してきされているが、因果いんが関係かんけいや環境かんきょう保健ほけんが専せん門もんの者ものにとっては、科学かがく的てき因果いんが関係かんけいの立証りっしょうがこれほどシンプルな事例じれいは珍めずらしい。 雑誌ざっし「科学かがく」2022年ねん４月がつ号ごう その答こたえは「被ひばく」－井戸いど謙一けんいち弁護べんご団長だんちょう（2022/1/27記者きしゃ会見かいけん） そもそも小児しょうに甲状腺こうじょうせんがんというのは100万まん人にんに１人にんか２人にんという極きわめてまれな病気びょうきです。福島ふくしま県けんの子こどもの数かずは三さん十じゅう数すう万まん人にんですから、福島ふくしま県けんでは２、３年ねんに一人ひとりでるかでないか、です。 ところが、原発げんぱつ事故じこ後ごの福島ふくしまでは、福島ふくしま県けん県民けんみん健康けんこう調査ちょうさで266名めい、それ以外いがいで27名めい、あわせて293名めいの小児しょうに甲状腺こうじょうせん患者かんじゃがすでに発生はっせいしています。 原告げんこくたちはそのひとりになってしまい、思おもい描えがいていた人生じんせいを狂くるわされ、なぜ自分じぶんが十じゅう代だいでがんにならなければならなかったのか、考かんがえ続つづけてきました。 しかし、いくら考かんがえてもその答こたえは「被ひばく」しか考かんがえられないのです。 あの2011年ねん３月がつ中旬ちゅうじゅん以降いこう、被ひばくをきびしく注意ちゅういしてくれるおとなはいなかったし、被ひばくなんて気きにしないで今いままでどおりの生活せいかつをしていました。それぞれが相当そうとう量りょうの被ひばくをしたと考かんがえられます。 しかし、今いまの福島ふくしまでは、自分じぶんのがんの原因げんいんが被ひばくではないか？などとは言いえません。医者いしゃに質問しつもんすれば頭あたまから否定ひていされます。質問しつもんしないのに、きみのがんの原因げんいんは被ひばくが原因げんいんではないからね、と言いう、そういう医者いしゃもいます。 周まわりの人ひとたちにそういう疑問ぎもんを口くちにすれば、福島ふくしまの復興ふっこうに水みずを差さす、風評ふうひょう加害かがい者しゃとしてバッシングされます。彼かれらは甲状腺こうじょうせんがんに罹患りかんしたことさえ隠かくして生活せいかつしてきたのです。 しかし、将来しょうらいの不安ふあんは高たかまるばかりです。 六ろく人にんとも甲状腺こうじょうせんの半分はんぶんを手術しゅじゅつで摘出てきしゅつしましたが、そのうち四よん人にんは再発さいはつし、甲状腺こうじょうせん全部ぜんぶを摘出てきしゅつしました。甲状腺こうじょうせんを全部ぜんぶ摘出てきしゅつすると、残のこった甲状腺こうじょうせん組織そしきをやっつけるために放射ほうしゃ性せいヨウ素もとの入はいったカプセルを内服ないふくするＲＡＩ治療ちりょうという過酷かこくな治療ちりょうを受うけなければなりません。そのカプセルに入はいっている放射ほうしゃ性せいヨウ素もとはなんと、すくなくとも10億おくベクレル。さらに甲状腺こうじょうせんがありませんから、生涯しょうがい、ホルモン剤ざいを飲のみ続つづけなければなりません。再発さいはつを繰くり返かえし、四よん回かいも手術しゅじゅつを受うけた若者わかものがいます。再さい手術しゅじゅつの可能かのう性せいを医師いしから指摘してきされている若者わかものもいます。肺はい転移てんいの可能かのう性せいを指摘してきされている若者わかものもいます。全員ぜんいんが再発さいはつを恐おそれています。進学しんがくにも就職しゅうしょくにも支障ししょうが出でています。将来しょうらいの結婚けっこん、出産しゅっさんなども不安ふあんです。 このまま泣なき寝入ねいりするのではなく、加害かがい者しゃである東京電力とうきょうでんりょくに自分じぶんたちの甲状腺こうじょうせんがんの原因げんいんが被ひばくであることを認みとめさせ、きっちりと償つぐないをさせたい、思おもい悩なやんだ末すえ、彼かれらはそう決意けついし、提訴ていそするという重おもい決断けつだんをしました。 しかし彼等かれらが提訴ていその決断けつだんをしたのはそれだけが原因げんいんではありません。 同おなじ境遇きょうぐうの300人にん近ちかい若者わかもの達たちが同おなじように苦くるしんでいるだろう、だれかが声こえをあげればその人達ひとたちの希望きぼうになる、そしてできればその人達ひとたちともいっしょに闘たたかいたい。さらに、原爆げんばくの被爆ひばく者しゃの方々かたがたが、被爆ひばく者しゃ健康けんこう手帳てちょうをもらって生涯しょうがいにわたって医療いりょう費ひや手当てあての支給しきゅうを受うけているように原発げんぱつ事故じこによる被ひばく者しゃにも支援しえんの枠組わくぐみをつくってほしい。そこまでつなげたい、と彼かれらは願ねがっています。 国くにや福島ふくしま県けんが小児しょうに甲状腺こうじょうせんがんと被ひばくとの因果いんが関係かんけいを認みとめていないなかで、裁判所さいばんしょにこれを認みとめさせるのはむずかしいのではないかと考かんがえられる方ほうがおられるかもしれません。 しかし、100万まん人にんに一いち人にんか二に人にんのはずだった病気びょうきが数すう十じゅう倍ばいも多発たはつしているのです。そして、甲状腺こうじょうせんがんの最大さいだいの危険きけん因子いんしが、被ひばくであることは誰だれもが認みとめることです。教科書きょうかしょにいの一番いちばんに書かいてあります。 そして原告げんこくらは確たしかに被ひばくをしました。 最近さいきん、福島ふくしま県けん県民けんみん健康けんこう調査ちょうさでは必要ひつようの無ない手術しゅじゅつをしているという過剰かじょう診断しんだん論ろんが流布るふされていますが、原告げんこくらのがんは進行しんこうしており過剰かじょう診断しんだんでは有あり得えません。 したがって、原告げんこくらのがんの原因げんいんが被ひばく以外いがいにあるんだということを（被告ひこくが）証明しょうめいしない限かぎり、原告げんこくらの甲状腺こうじょうせんがんの原因げんいんは被ひばくであると認定にんていされるべきであると我々われわれは考かんがえておりますし、その考かんがえは裁判所さいばんしょにも十分じゅうぶんご理解りかいしていただけるものと考かんがえています。 ６名めいの若者わかものは本日ほんじつ闘たたかいの第一歩だいいっぽを踏ふみ出だしました請求せいきゅう金額きんがくは全ぜん摘の若者わかもの４名めいが１億おく円えんに弁護士べんごし費用ひよう1000万まん円えん、片かた葉は切除せつじょの若者わかもの２名めいは8000万まん円えんに弁護士べんごし費用ひよう800万まん円えん。 長ながい闘たたかいになります。本当ほんとうはひとりひとりが皆みなさんの前まえで顔かおと名前なまえを出だして、その気持きもちを訴うったえたいのですが、いまの福島ふくしま、いまの日本にっぽんに現状げんじょうではそれをすることはできません。 今後こんごも匿名とくめいで訴うったえることとなりますが、その点てんはぜひご理解りかいをお願ねがいしたいと思おもいます。最後さいごにメディアの皆みなさまには、福島ふくしまの事故じこは終おわった、福島ふくしま事故じこによる健康けんこう被害ひがい者しゃはゼロだなどという政府せいふにウソのプロパガンダに惑まどわされることなく、この現実げんじつを日本にっぽん中ちゅう、世界中せかいじゅうの人々ひとびとに幅広はばひろく伝つたえて頂いただきたくお願ねがい申もうし上あげる次第しだいです。ありがとうございました。 311子こども甲状腺こうじょうせんがん裁判さいばん提訴ていそ会見かいけん（ノーカット版ばん）より 全文ぜんぶん